骰子の眼

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東京都 渋谷区

2017-08-10 23:00


常識を覆すんだ!映画『エル ELLE』ヴァーホーヴェン監督が語る"解釈することは何もない"

「これほど道徳にとらわれない映画に出演してくれるアメリカ人の女優は一人もいなかった」
常識を覆すんだ!映画『エル ELLE』ヴァーホーヴェン監督が語る"解釈することは何もない"
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

これは、宣伝の枕詞“『氷の微笑』のポール・ヴァーホーヴェン監督”が、まず観客をミスリードする。そりゃ誰だって、ユペール様主演のレイプ犯罪サスペンスドラマだと思い込み映画を観に行くことになるでしょう。そのミスリードに拍車をかけるのが予告編だ。犯人探しで、最後はユペールが犯人と対決するサスペンスで彼女が勝つんだと思い込んでしまう作りだ。

さて、以下のヴァーホーヴェン監督のインタビューを映画を観てから読むのが正しいか、観る前に読むのが正しいかどちらをお勧めするかは迷うところだが、僕は、観てから読んだ。映画を観終わった正直な感想は本格サスペンスを期待していたのに、それが見事に肩透かしをくらって、これでいいのかと不満たらたらだったのだが、インタビューを読んで、完全に考えが変わった。ヴァーホーヴェン監督にひれ伏すしかない。『エル ELLE』は『ロボコップ』と『トータル・リコール』の監督が作った映画だったのだ。

「これは物語だよ。現実の生活でもないし、女性についての哲学的な映像でもない!」
「解釈することは何もない」

映画監督の言葉として、最高にしびれた。
くれぐれも宣伝のミスリードに騙されないようにとアドバイスしておきます。あなたが観る前に思い描くサスペンス以上の「物語」が展開します。湊かなえ原作映画に代表される、ほぼ全ての日本のサスペンス映画に見られる犯人は過去の出来事にトラウマを抱えていたというオチからは全く無縁の、ただそこに彼女( ELLE )の物語が展開するという怪作です。

(文/浅井隆)


「解釈することは何もない。解釈は観客が与えられた要素を元にするものさ。その解釈が正しいかどうかを確かめる必要はない。例えば、ミシェルがレイプに対してあのように反応したのは、小さいころに父親から受けた心の傷が原因だったなんてみんなが言えるようにはしたくなかったんだ」
(ポール・ヴァーホーヴェン監督)


解釈は観客が与えられた要素を元にするもの

──フィリップ・ディジャンの小説『エル ELLE』の映画化は、どこで思いついたのですか?

そもそものアイデアは僕のものじゃなかった。プロデューサーのサイード・ベン・サイードが提案してくれたんだ。彼はアメリカにいた僕に連絡してくれた。そしてフィリップ・ディジャンの小説を送ってくれた。僕は小説を読んで興味を引かれた。僕にはそれが映画の題材になるってわかっていたよ。だけど同時に、僕は十分に考え抜き、自分自身が出会ったことがないストーリーにふさわしい方法を見つけなければならなかったんだ。

映画『エル ELLE』ポール・ヴァーホーヴェン監督 Photo by YOSHIKO YODA
映画『エル ELLE』ポール・ヴァーホーヴェン監督 Photo by YOSHIKO YODA

──原作からの脚色はどのように行われましたか?

この物語を肯定的に読み変えていくことは、僕にとってとても重要だった。デヴィッド・バークと徹底的に議論したよ。ディヴィッドはアメリカ版の脚本を執筆していた。僕は脚本の初稿を手がけることはしない。本職の脚本家に任せる。その段階では、全てはまだ開かれているんだ-様々なことが徐々に形を帯びていく-まるで彫刻のように。監督という僕の個性は徐々に物語に染み込んでいったんだ。視覚的な解釈を作成する絵コンテというのはこの小説を自分のものにするために極めて重要な過程だった。

──一時期は『エル ELLE』をアメリカで撮る案もあったのですか?

そうだね。アメリカの脚本家を選んだことでもわかると思う。パリからシカゴかボストンに移動し、キャストは全員アメリカの俳優で撮影しようと思っていた。けれどそれは容易ではなかった、芸術的にも経済的にもね。これほど道徳にとらわれない映画に出演してくれるアメリカ人の女優は一人もいなかった。僕がよく知っている女優でさえ、この役を引き受けることを承諾するのは不可能だったんだ。だけどそんな中、面識のあったイザベル・ユペールがこの映画への出演を切望してくれていた。6ヵ月が経つころ、サイードが僕に言った。「どうして僕たちはアメリカで映画を撮ろうと奮闘しているんだろう?これはフランスの小説だ。イザベル・ユペールは出演を心から望んでいる。なのに僕らは愚かだよ!」彼は正しかった。今なら僕もわかる。これほどレベルの高い信憑性ある作品はアメリカで撮ることはできなかったな。

──あなたのこれまでの作品のヒロイン同様、ミシェルは強い女性です。しかし、彼女はこのレイプ事件に対し、私たちの心をかき乱すような対応をします。

これは物語だよ。現実の生活でもないし、女性についての哲学的な映像でもない!この物語の中の女性があのように行動している──それは全ての女性が彼女と同じように行動するだろうとかするべきだと言っているわけではないんだ。だけどミシェルはやった!僕の仕事は何よりも物語を、リアルで興味のそそられる、そして可能な限り信頼性の高い方法で監督することによって成り立っている。特に驚くべき演技をしてくれたイザベル・ユペールのおかげで、ミシェルの行動が完全に説得力のあるものになったよ。

──解釈を追い求めないあなたの演出のお陰でもありますね。

もちろん。解釈することは何もない。解釈は観客が与えられた要素を元にするものさ。その解釈が正しいかどうかを確かめる必要はない。例えば、ミシェルがレイプに対してあのように反応したのは、小さいころに父親から受けた心の傷が原因だったなんてみんなが言えるようにはしたくなかったんだ。彼女の性格や行動が、偏った視点によって捉えられることを避けたかった。全ては単なる可能性。それ以上のことはないよ。説明すべきはただ一つ、ミシェルの性格のあらゆる側面。それだけ。彼女のあの行動はいつも通りだったのか、それとも何かが原因だったのか……誰にも分からないよね。

映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

イザベル・ユペール「この映画の永遠の多義性にそそられる」

──あなたは多義的な芸術を提示することに卓越していますね。

イザベル・ユペールが映画を観たとき、まさしく僕にそう言ったよ。「この映画に一番興味をそそられる側面、それは永遠の多義性だわ」。彼女は正しい。この作品は常に多義的だ。ミシェルが何を考えているのかを完全に把握するのは困難だろう。すべての事が流動的で、絡み合っている……。僕は今までにも多くの作品でこの多義性を試みてきたよ。特に『トータル・リコール』では全くことなった様式で夢と現実を組み合わせた。お終いには観客が何を考えていいか分からなくなる……みたいにね。明瞭にはしない。僕は選択肢が開かれているままの状態が好きだ。ちょうど実生活と同じことさ。分からないだろう、笑顔の裏に何が潜んでいるのか、あるいは何も潜んでいないのか。

──映画の早い段階で、ミシェルがレイプ犯を殺めるというシーンを思い描きます。この空想シーンは境界線を曖昧にした雰囲気を創りだし、この女性の複雑な人格を表現していますね。

そうだね。ミシェルは自分をレイプした犯人を殺すことをたやすく想像できる。映画の最後では、実際にそれが現実となるが、犯人は死の前にマスクを脱ぐ。そのとき、ミシェルの顔に笑みが浮かぶんだ。とても重要な場面だった。だから僕たちはイザベルと時間をかけて話し合った。彼女がここでしているのは、ミニマルな演技だ。彼女は演技しない。余計なことはしない。彼女はただ考える、そして僕たちは考えている彼女を目撃する。「当然の報い。あなたはあなたが始めたことを償っている」。彼女の目には天罰が仄めかされている。そしてアイロニーが。「覚悟しとくべきだったわ。でも、もう手遅れ!」

──レイプ事件の後、ミシェルは何事もなかったかのように、日々の生活を再開します。レイプの場面そのものがまるでブラック・ホールのように存在しないものになっていますね。

僕はそういうことをするのが大好きなんだ。たとえば『ロボコップ』では、物語の随所にニュース映像や嘘のコマーシャルを散りばめた。モンドリアンの絵画、つまり青や赤の四角形が並べられている中、黒い線が割って描かれているような作品、そうした絵への僕の関心と関係しているかもしれない。レイプシーンは心をかき乱すシーンでなくてはならない。もし残りの物語と同じように撮影をしたとしたら、そのシーンは無意味だし不誠実だろう。それらの場面の暴力というものと僕たちは真正面から向き合う必要があったんだ。

映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

──暴行が激しいものであったにも関わらず、落ち込んだり「壊れたり」するミシェルは見られません。

そうだね。それだと型にはまり過ぎてしまう。そうしていたら僕たちはメロドラマや気怠いドラマに滑り落ちてしまっていただろう。他の監督や脚本家がしてきたことをそのまま繰り返すより、観客を驚かせるほうが面白いし愉快だ。僕はストラヴィンスキーを、そして彼の交響曲の型破りな作曲方法を崇拝している。常識を覆すんだ。つまりそういう芸術的な決定をミシェルのキャラクターや出来事に対する彼女の態度へのアプローチに下したんだ。「私はレイプされた。だけど私は今ここに存在している。レイプなんて関係ない。飲み物とディナーを注文しよう!」

──あなたの選択には道徳的な暗示もあります。つまりあなたはミシェルを被害者の立場に閉じ込めませんでした。彼女は驚くほどの快活さでアイロニーを展開します。

原作同様に、この映画の中でも道徳性は自由に描かれている。つまり僕らはできるだけ早く、常識を捨て去る覚悟を決める必要があったんだ。ディジャンはミシェルを被害者として描いていない。それと反対の道を進むことは、原作に忠実でなくなってしまう。

──ミシェルは暴行を受けたことがきっかけで、逆に自分自身の暴力的傾向の獲得を意識するようになりますね。

ミシェルはすでに暴力的傾向を見事に獲得していた!彼女はとてもアグレッシブな女性だ。彼女の母親は、ミシェルが何事も健康的で清潔にしたがる女性だと言って非難しているが、白状すると、僕は原作を読んでも、どうしてもそのセリフを理解できなかったんだ!ミシェルは、自分の母親や息子、息子の彼女に対して、とても厳しい態度を取るんだよ。彼女はほとんどの場合、家族や友人や知人たちに、かなりの敵意を持って接している。暴力は僕の映画のすべてに登場するけれど、それは当然のことだと思う。新聞の見出しを飾るのは、この世に存在する暴力のことばかりだよ。新聞の一面だけでなく、どのページにも載っている。悪いニュースが氾濫している。それに災難というのは、魅力的で美しいとさえ言える。僕たちは感覚が麻痺してくる。ターナーの絵のように、ある距離から見ると何も破綻しないんだ。もちろん近づいて見れば、これほど恐ろしい光景はないけどね。

映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

──あるシーンでは、観客に相反した感情を引き起こしていますね。ミシェルがパトリックに彼女の父親の殺人を告白する場面です。観ている者にとっては、恐怖でゾクゾクしたり、あるいは展開にワクワクしたり。疑い深くなる反面、心を打たれたり……。

そうだね。彼女は笑顔のままで身の毛がよだつような話をするからね。あのシーンは小説にはなかった。デヴィッド・バークが書いてくれて、イザベルはすぐに理解したんだ。そこでは、観客を困惑させるために軽やかに演じるべきだと。あの演技で僕らは動揺するんだ。主人公が感情的になっているのか、それともパトリックに嘘をついているのか、判別がつかない。こんな演技をできる女優は滅多にいない。あのシーンの背後ではミサ曲が鳴っているね。そしてついに同じようなトーンで映画音楽にとって変わる。それからミシェルのこんなセリフが待ち受ける。「まんざら悪くないわね」。その後でまたミサ曲に戻るんだが、その重々しい厳粛さが、イザベルの楽しげな声質に対して対極的で、この場面に情感の幅を持たせているよ。

初のフランス撮影「今こそ大冒険を楽しむ時だ」

──あなたがフランスで撮られたのは初めての映画ですね。

大いに楽しめたよ。オランダやアメリカに比べて、フランス人はこの映画や製作陣に対して敬意を持ってくれたから、撮影時に問題は起きなかった。だけど、僕の頭だけは別だった!映画製作のためにここへ来る前、ひどい頭痛に悩まされてね。医者も原因が分からなかったよ。それがパリに引っ越して撮影に取り掛かった途端、頭痛が消えた。実のところ、その痛みの原因は無知からくる恐れだった。異文化や異言語に飛び込むことへの恐れだ。パリで数週間過ごしたあとで、僕は映画製作を先延ばしにしすぎていたと悟った。そして今こそ大冒険を楽しむ時だってね。僕は25年のあいだオランダで映画を作ったし、それから約15年間はアメリカで撮ってきた。だから本当に、既存の領域から未知の領域へ足を踏み入れる感じだった。すべてが新しかった。俳優もクルーもロケーションも。素晴らしかったよ。人は未知のものに着手すると、極めてクリエイティブになれるし、インスパイアされるからね。オランダを離れて、『ロボコップ』を作りにアメリカへ渡ったときと同じ気分だった。

──小説ではフランス的だった物の見方が、あなたの演出によって刷新されました。ディナーのシーンでさえ新鮮に感じました!

この映画は実際の犯罪の物語より、すべての登場人物たちの社会的関わり合いを描くことに重点を置いている。フランス映画を観て予習はしていたが、一定のテンションを保つ作品とは違う何かを作りたかった。実際そういう作り方しか知らないんだよ。直線的なストーリーを繰り返し破綻させてしまうんだ。たとえばパーティーの後の、パトリックとミシェルの車のシーンとか。これも小説にはないんだ。

映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

──フランス人の俳優との仕事はいかがでしたか?

素晴らしかった。それにフランス人だからといって、他の国の役者たちと仕事をするときと、あまり違いはなかった。フランス人の役者たちが以前どんな作品に出演していたのか、僕はほとんど知らなかったし、直感で選んだだけなんだ。僕が望んだのは、美しくて、魅力的で、そしてフランス人的すぎない容姿であることだよ!僕が映像化すると、どうしてもアメリカ的なフィルターがかかるだろうからね。彼らと軽い打ち合わせをして、僕が指示を出したけど、それもかなり基礎的なものだ。動きは少なく、抑えたままで、とか。それにしても、たとえばシャルル・ベルリングのような素晴らしい俳優が、演技のスタイルを次から次に変えるのを見ているのは、とても魅力的な経験だよね。

──イザベル・ユペールはあなたの作品に精通していたのですか?

6~7年前、『危険な愛』がシネマテーク・フランセーズで上映されたとき、イザベルはそのプレゼンターをしてくれたんだ。彼女はあの作品をとても若い頃に初めて観たそうで、女優になったきっかけの一つだと言っていた。イザベルは恐れ知らずな女性だよ。彼女に関しては、問題なところは何もない。どんなことにも挑戦するし、並外れて勇敢な人だから。

──撮影監督にステファーヌ・フォンテーヌを起用したのは?

過度なフレーミングでなく、緩い感じが欲しかった。フランス人の撮影監督の仕事をいくつか勉強したけど、僕の求めていたものは『預言者』や『君と歩く世界』のなかにあった。これらはオーディアール監督の作品で、そこでステファーヌ・フォンテーヌの才能が光っていたんだ。僕は2台のカメラを使って撮ろうと提案した。この撮影法は、僕がインターネット上の寄稿者から脚本をもらって作ったオランダのテレビ映画『トリック』で用いたばかりだった。2台あるから、いつも互いのカメラ位置に気を配ったよ。なるべく映像に連続性を出すために、2台をとても近づけたりした。だから編集でのカットがあまり目立っていない。手持ちカメラを使って、いつもより長回しを撮ったりしたよ。思いがけなく誰かに観られている、というような感じを出したかった。まるで覗き見をしているみたいに、カメラはわずかにしか動かないんだ。

映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

──原作の中ではミシェルはお父さんの悲劇的な行動を知りません。でも、あなたの映画の中では知るどころかテレビのニュースに映るのをぼうっと見ている。それが妄想なのかホラー映画なのかというイメージで。

その通り、原作の中にはない。これも脚本のデヴィッド・バークのアイデアだ、でも彼は間違いなくディジャンが作ったミシェルのキャラクターから発想を得ている。それが小説の言葉を映像に起こしていく過程なんだ。

──犯罪捜査のゴールデンタイムドキュメンタリー番組を再構成したことについては?

僕は似たような番組のテープを沢山観た。それらの美学的アプローチを吸収して、フレーミングと編集方法を真似たんだ。それ以外の映像には優美さを持たせる一方で、ステファーヌ・フォンテーヌに犯罪捜査の映像をより細分化して撮って欲しいと頼み、編集でさらにタッチを入れた。それから僕たちはそのフィルム映像に画像の粗さと古さを足した。要は観客が実際に起こった出来事の本物の資料映像を観ているような感覚にさせたかったんだ。ディジャンの小説でも同様だったよ。彼はノルウェーの大量殺人犯アンネシュ・ベーリング・ブレイビクからインスピレーションを受けてこの物語を書くに至っているんだ。

映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

セックスや暴力と同じように、宗教はとても大切だ

──ミシェルとアナの会社で製作されたビデオゲームを構想したのはどなたですか?

ゼロからビデオゲームを創作すると高額な予算になっただろう。僕たちはゲームを捜索する時間的余裕もなかった。だから僕たちは既存のフランスのビデオゲームを基にして物語に合うよう微調整した。ビデオゲームはスタッフみんなのコンピューターなどに送られてくるポルノビデオと相まって暴力の空気が高まっている。小説の中でミシェルとアナは映画脚本のビジネスをしている。だけど映画にするにはつまらない職業だ。全く視覚的ではないからね!僕がそのことについて何ができるか思いめぐらしながら、家族とロサンゼルスにいた時、画家である娘が言ったんだ。「彼女たちがビデオゲーム会社で働いているというのはどうかしら?」

──パトリックの妻レベッカという役は小説よりも突出しています。映画の中で最後の台詞を担っていますし、重要な役割ですね!

僕はクリスチャンではないし、教会に行ったこともない。ノートルダムだけは建築に惹かれて行たけれどね。だけど僕は宗教に多少の興味はあるんだ。イエスの生涯を映画にしようと本を読んで研究した。セックスや暴力と同じように、宗教はとても大切だ。20年前、宗教の影響はほとんどなくなったとみんな思っていた。だけど今再び僕たちの社会を覆い始めている。それもいい意味ではなくね。だから信仰に完全に突き動かされている人物を登場させると面白くなるに違いないと思ったんだ。レベッカはナイーヴで信仰深い。彼女はサンティアゴ・コンポステーラへの巡礼に行く。やれるときはいつでも僕は宗教的な面を強調することを楽しむんだ。特に、夕食時彼女が今日の糧への感謝捧げたいと頼むところ。そしてその後、夜中のミサを観たいと頼むところなんかね。

──そして映画の題名は?

『Oh…』(原作原題)は「Oの物語」を思い出させるだろう。それはフランス人のプロデューサーピエール・ブラウンベルジェが『ルトガー・ハウアー・危険な愛』の直後に脚色しないかと持ち込んだ本だ。『ELLE(日本語意味:彼女)』はプロデューサーのアイデアで、僕はその題名によって映画の主題の根底にあるものが、一人の女性に絞られると思ったんだ。

──最後のシーンでミシェルとアナがともに歩き去っていきます。どれほど遠くへ二人が行ってしまうのかは私たちにはわかりません。

そのシーンを撮影した時、彼女たちは最後にキスをして終わったんだ。だけどそれは過剰で明確な表現を避けてきた映画のスタイルに全く合わなかった。彼女たちが一緒に寝たシーンでも同じ印象を受けた。僕は次に何が起こるかを撮影していた……二人が愛し合うシーンをね。だけどそれでは分かりやすすぎたんだ。僕は翌朝の場面にとばすことを望んだ。全てを想像したいなら想像してごらんと観客に委ねたんだ。アイロニーを展開するには微妙な綾(含みのある表現や微妙なニュアンス)と不確かさを演出しなくちゃならない。観客にこちらの解釈をストレートに突き付けちゃいけないんだよ。

(オフィシャル・インタビューより)



ポール・ヴァーホーヴェン(Paul Verhoeven) プロフィール

1938年、オランダ、アムステルダム生まれ。SFアクション大作『ロボコップ』(87)が大ヒットを記録し、一躍その名を知られる。続いて、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のSFエンターテインメント『トータルリコール』(90)が、まさに見たこともない映像でスーパーヒットを成し遂げると共に、アカデミー賞視覚効果賞を受賞する。1992年には、エロティック・サスペンス『氷の微笑』で一大ブームを巻き起こし、主演のシャロン・ストーンを大スターに押し上げる。その後も“過激”“衝撃”をキーワードに、常に新たなジャンル、映像、物語に挑戦、世界を挑発し続けている。その他の作品は、『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)、『インビジブル』(00)など。




映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
映画『エル ELLE』 © 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

映画『エル ELLE』
8月25日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー

新鋭ゲーム会社の社長を務めるミシェルは、一人暮らしの瀟洒な自宅で覆面の男に襲われる。その後も、送り主不明の嫌がらせのメールが届き、誰かが留守中に侵入した形跡が残される。自分の生活リズムを把握しているかのような犯行に、周囲を怪しむミシェル。父親にまつわる過去の衝撃的な事件から、警察に関わりたくない彼女は、自ら犯人を探し始める。だが、次第に明かされていくのは、事件の真相よりも恐ろしいミシェルの本性だった──。

監督:ポール・ヴァーホーヴェン
出演:イザベル・ユペール
脚本:デヴィッド・バーク
原作:「エル ELLE」(ハヤカワ文庫)フィリップ・ディジャン
原題: ELLE
2016年/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/131分/PG-12
配給:ギャガ

公式サイト

▼映画映画『エル ELLE』予告編

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