映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』 Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
色や光を駆使し、人間の視覚・知覚の仕組みに問いかける作品で知られる現代美術家オラファー・エリアソンの活動を描くドキュメンタリー映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』が8月5日(土)よりアップリンク渋谷にて公開される。webDICEではこの作品を配給するフィッカの笠原貞徳さんによる「オラファー・エリアソンについて知っておきたい5つのこと」をテーマにした寄稿を掲載する。
1.オラファー・エリアソンって誰?
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』 Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
オラファー・エリアソンは、世界が認める現代アートシーンの最重要人物。彼の作り出す作品は、光、空間、水、鏡、霧、影、といった自然現象や素材が多用される。シンプルでありながら、常に鑑賞者の知覚に問いかけ、「体験」を創出するインスタレーションが特徴である。
日本でも熱烈なアートファンも多く、2005年~2006年に原美術館の『影の光』展、2009年~2010年に金沢21世紀美術館の『あなたが出会うとき』展が開催され、その斬新で美しい作品に酔いしれたアートファンは、いまだに、この二つの展覧会の素晴らしさを熱く語る。
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』より、金沢21世紀美術館『Your atomospheric colour atlas / あなたが創り出す大気の色地図』(2009) Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
オラファー・エリアソンの名を世界に知らしめたのは、映画の中でも紹介されるロンドンのテート・モダンに巨大な人工太陽を出現させた2003年の作品『The weather project』だ。1995年ヴェネツィア・ビエンナーレに初参加以来、シドニー・ビエンナーレ、サンパウロ・ビエンナーレ、横浜トリエンナーレなど、世界的な国際展に招かれ、欧米の主要美術館で個展を多数開催し続けている。
「アートは世界を変える一手段であり、人は世界を変えることができる」
これは、オラファー・エリアソンの哲学であり、彼の作品と生き方に貫かれている。
2012年から取り組んでいる携帯用のソーラーLEDランプ『Little Sun』プロジェクトでは、アフリカや南米の人々の暮らしを豊かにするために様々な事業展開を行っており、2015年にパリで開かれたCOP21(気候変動に対する基準を定めたパリ協定を採択)に合わせてグリーンランドのフィヨルドからパリのパンテオン前へ運びこんだ80トンの氷塊の作品『Ice Watch』では、地球温暖化の問題に一石を投じた。
2.ザ・ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』より『ザ・ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ』 Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
制作費約17億円、経済効果は75億円以上。2008年6月から約3ヶ月限定でニューヨーク市のイースト川に現れた4つの滝『ザ・ニューヨーク・シティ・ウォーターフォールズ』。55ヶ国、140万人以上が目撃したと報告され、高さ最大36mより毎分13万リットルの水が流れるこの滝は、オラファー・エリアソンのパブリックアートの中でも最大規模。「ニューヨークという巨大な空間(物語)に見合う作品を作りたい」という彼の着想を、2年の歳月をかけて結実させた傑作である。
映画では、この滝のプロジェクトの制作過程の2年間に密着する。大都市ニューヨークに巨大な人工物を建設するプロジェクトは、様々な難題に直面するが、その時、アーティストは何を考え、何を思ったのか。オラファーが自らの言葉で語る。
3.スタジオ・オラファー・エリアソン
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』 Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
オラファー・エリアソンは、1995年にベルリンにスタジオを開設して以来、ベルリンを活動の拠点に据えている。現在では、総勢100名ほどのスタッフと膨大な数のプロジェクトを並行して進行させている。
映画の中で紹介されているのは、現在のスタジオに越す前の旧スタジオだが、工房でスタッフが実験に次ぐ実験を重ねている過程がカメラに収められ、それらの実験の内容や意図についてオラファー自らが解説していく。
彼のスタジオの制作現場にカメラが入ることは年々難しくなっており、映画に収められたスタジオ内の様子とオラファーの言葉は、大変貴重な映像である。
尚、現在のスタジオは元ビール工場を改装した巨大な建物で、2016年に刊行された「The Kitchen」という書籍で話題にもなったキッチンでは、ランチタイムに、全スタッフが一緒にテーブルを囲む。オラファーも例外ではなく、若いスタッフと全く同じように列に並んで、同じものを食べるのだそうだ。
4.アイスランド
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』 Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
オラファーは、デンマークのコペンハーゲン生まれのデンマーク人だが、アイスランド人の血を受け継いでおり、アイスランドに長期間暮らしていたそうだ。しかし、「望郷の想いはない」「悲しい記憶しかない」とアイスランドについては、映画の中でも多くを語らない。
一方で、アイスランドの厳しくも雄大な自然は、彼のアーティストの魂を揺さぶり、刺激する。彼の作品には、アイスランドで着想を得たであろうと思われるものが少なくない。『The New York City Walterfalls』のアイデアは、アイスランドの滝のイメージからもたらされている。
5.Green light─アーティスティック・ワークショップ
オラファー・エリアソン「Green light─アーティスティック・ワークショップ」 2016 Co-produced by Thyssen-Bornemisza Art Contemporary Photo: Sandro E.E. Zanzinger / TBA21, 2016 ©Olafur Eliasson
8月4日(金)から11月5日(日)まで、横浜美術館をはじめ横浜市の各所で開催される『ヨコハマトリエンナーレ2017』に、オラファー・エリアソンの新作『Green light─アーティスティック・ワークショップ』が出展される。単体の作品としてではなく、ワークショップの形態をとり、来場者が一緒に作品を作り上げていくスタイルで、ウィーン、ヒューストン、ヴェネチア、そして横浜へと世界を巡回している。
オラファーは、公式インタビューで「we-ness(私たち感)」がこの作品のテーマであると語っている。立場や境遇を越えてすべての人が「we」であるという感覚を共有することこそが、このアート作品を通じて実現したいことなのだと。
オラファー・エリアソンは、アートで世界を変えようとしている。
[文:笠原貞徳(フィッカ)]
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』 Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
映画『オラファー・エリアソン 視覚と知覚』
8月5日(土)よりアップリンク渋谷にてロードショー
監督:ヘンリク・ルンデ、ヤコブ・イェルゲンセン
出演:オラファー・エリアソン
2009年/デンマーク/英語、デンマーク語/16:9/ステレオ/カラー/77分
原題:Olafur Eliasson : Space is Process
配給:フィッカ
Copyright: Jacob Jørgensen, JJFilm, Denmark
【特製オリジナルポスターを劇場でプレゼント!】
8月5日(土)、6日(日)の2日間、アップリンク渋谷と横浜ジャック&ベティにご来場いただいたお客様に、抽選で各回5名様に特製オリジナルポスターをプレゼント。
各回上映終了後、受付カウンターにて、当選番号を発表します。
(アップリンクは座席番号、J&Bは整理券番号)■ アップリンク渋谷上映時間(両日共通)
13:40~ 15:15~ 19:35~
※全席指定席 UPLINKサイトで絶賛発売中
http://www.uplink.co.jp/movie/2017/48245■ 横浜ジャック&ベティ(両日共通)
21:40~ レイトショー
※全席自由席 整理番号順入場
http://www.jackandbetty.net/