骰子の眼

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東京都 渋谷区

2017-07-12 16:40


「僕の旅は始まったばかりなんだ」天才ダンサー、セルゲイ・ポルーニンが語る創作意欲

映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』7/15公開 写真集&展覧会も
「僕の旅は始まったばかりなんだ」天才ダンサー、セルゲイ・ポルーニンが語る創作意欲
セルゲイ・ポルーニン ©Koji Aramaki

天才バレエ・ダンサーの知られざる素顔に迫ったドキュメンタリー映画映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』が7月15日(土)よりBunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほかにて公開。webDICEではセルゲイ・ポルーニンのインタビューを掲載する。

セルゲイ・ポルーニンは、4月に5年ぶりに来日。日本テレビ朝の人気情報番組「スッキリ!!」への生出演や、瞬く間にチケットが完売したジャパンプレミアイベントのパフォーマンス披露など、大きな話題を呼んだ。今回のインタビューでは、映画で重要な役割を担い、彼の名前をバレエ以外の世界にも知らしめたMV『Take Me To Church』の撮影について、ダンサーを支援する組織“プロジェクト・ポルーニン”について、そして12月8日(金)公開の映画『オリエント急行殺人事件』への出演など、今後ダンサーだけでなく俳優としての活動もスタートする彼のアーティストとしての展望について語っている。

なお映画公開にあたり、3月にロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場で開催されたポルーニン自身のプロデュースによるダンス公演を写真家のハービー・山口が撮り下ろした、彼の“新たな旅の始まり”となる写真集『The Beginning of a Journey: Project Polunin』がパルコ出版より発売。GALLERY X BY PARCOにて展覧会も開催される。

「自分の心に正直になった時、出てきたのがアーティストになりたいってことだった。自分自身に『僕はダンサーじゃない。僕は俳優じゃない』と言った途端、自由になれて何でもできるようになったんだ。」(セルゲイ・ポルーニン)


生み出すことができるアーティストに

──ご自身のドキュメンタリー『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』をご覧になって、いかがでしたか?

正直に言えば、最初は見たくなかった。ロサンゼルスでデヴィッド・ラシャペルと一緒にいた時に、彼が「これからあの映画を観ることになっている」と言ったんだ。僕はビールを9本も飲んで、彼の隣に座った。本当に緊張して、彼の脚を蹴ってしまったよ。自分を客観的に見てみたかったんだけど、できないね。画面に映し出された自分を見るとそのときの感情が蘇るし、自分の素の部分を呼び覚ましてしまう。まるで感情のジェットコースターに乗ってるような気分だったよ。

――映画の中で『Take Me to Church』をダンスとの惜別と考えていると言っていました。なぜ続ける気になったのですか?

『Take Me To Church』をラストダンスのつもりで踊った。あの時はダンスが好きじゃなかったし、バレエ界に腹も立ててたから、とにかく終わらせたかった。これで何もかも終わりなんだという気持ち――臨終の感覚のような中で踊っていると、自分の中のもやもやとした霧のようなものが少しずつ晴れていくような気がしたんだ。空っぽになって、感情の赴くままに踊った。すると、僕が捨て去ろうとしているもののことばかりが頭に浮かんで、とても悲しかった。それで思ったんだ、僕は何かを見失っているのかもしれない、と。

撮影が終わって、すぐにイーゴリ・ゼレンスキーに話したんだ。「ギャラはいらない、ダンスが好きだから踊りたい」とね。“ダンスを愛しているから踊りたいんだ”ということを、僕はきちんと自覚しなくてはならなかったんだ。

映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 © British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 © British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

その後のYouTubeの反響を見て、すごく驚いたよ。子供が僕の真似をして踊ってくれたり……バッドボーイでも人々に受け入れてもらえるんだ、僕の踊りは人々になにかを与えることができるんだと改めて感じたんだ。

それに、このMVを監督した写真家のデヴィッド・ラシャペルは素晴らしいアーティストで、楽曲、振付、環境、ビジュアル……すべてが整った、これこそ新たなものを作り出す体験だと思ったよ。もちろんクラシックバレエ(古典)はとても大事なもので、伝統は保たなければならないと思っている。その一方で、創造性をもってただ踊る道具になるのではなく、生み出すことができるアーティストにならなければいけないと思ったんだ。

セルゲイ・ポルーニン ©Koji Aramaki
セルゲイ・ポルーニン ©Koji Aramaki

自分を閉じちゃダメだ

──“プロジェクト・ポルーニン”を始められたきっかけを教えてください。

ダンスを通して現状を変えたい、という思いが今の僕を動かしているんだ。自分のためだけなら、僕はもうバレエを続けていなかったと思う。だけどこのプロジェクトで、ダンサーたちに発言権を与え、踊りに集中できる環境を整えたい。スポーツ選手にはエージェントがついているけれど、バレエにはそれがない。やったことがないことを始めるのはとても怖いもの。一人きりでそんな思いをする必要はないと思う。みんなが助けてくれるようなチームを構築することで、若いダンサーが道を間違えることなく進めるシステム、チームをつくっていきたいんだ。

バレエは常に誰かが誰かのポジションを狙っているような境遇にある。誰かが怪我をしたらデビューできる、というようなね。つねに競争なんだ。だから喜びや聴衆のためという大切なものが置き去りになってしまう。

若いダンサーの中には、紆余曲折してそのまま引退してしまう人もいっぱいいる。だからエージェントや広報や収入に関しても交渉してくれる人がいるチームがあれば、ダンサーは演技だけに集中できる。航空券やホテルのブッキングなど、雑務に邪魔されずにダンスだけに集中できる環境にしたい。

だから僕らはダンサーを支援する“プロジェクト・ポルーニン”という組織を作ったんだ。資金提供者や法律家が協力してくれたおかげで、取締役会を作って組織を拡大できた。これからファションや映画や音楽といった他の分野とダンサーをつなぐ役目もする。ダンサー全員に参加してほしいな。僕らの旅は始まったばかりなんだ。

映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 ©ハービー・山口
4月27日に行われた東京藝術大学・奏楽堂でのライブプレミアイベントより ©ハービー・山口

──『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』はあなたの人生のターニングポイントを描いていますね。ロンドンにバレエを学びに行って、ロイヤル・バレエを辞めて、ロシアに移り住んで……。そういった決断で後悔されていることはありますか?

だいたい僕は後悔をしない人間なんだ。良くても悪くても、あらゆることを楽しんでいる。ただ、もし可能だったのなら、あんな風に壊すんじゃなくて、作り上げられればよかったなって。誰かアドバイザーや良き指導者がいたら、違ったのかもしれない。あれは僕の僕だけの考えだったんだ。壊さずにやれたらよかったと思うよ。

映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 © British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 © British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

──映画で描かれているように、多くの練習をして、バレエに人生を捧げて、世界有数のダンサーになったわけですが、そこにたどり着いた先では「次は何をする?」ということになりますよね。今もそんな気持ちですか?

自分の心に正直になった時、出てきたのがアーティストになりたいってことだった。自分自身に「僕はダンサーじゃない。僕は俳優じゃない」と言った途端、自由になれて何でもできるようになったんだ。自分を駆り立てないで、何も怖がらないで、「時間がない」とか、「あれとかこれをやらない」なんて言わずにね。アーティストとして、選択権は自分にあるんだ。だからやりたいことをやる自由が生まれる。1日中踊ることもできるし、映画に出たり、振付をしたり、またいろんな写真家とファッションの写真を撮ったり、別のアーティストと仕事をしたりね。途方に暮れることはない。別のレベルに行くんだよ。何でも吸収するんだ。自分を閉じちゃダメさ。何でも試さないとね。僕はまた子供になったような気分なんだ。アーティストは子供なんだ。6才児の気分かな。




映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』 © British Broadcasting Corporation and Polunin Ltd. / 2016

映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』
2017年7月15日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

<ヌレエフの再来>と謳われる類まれなる才能と、それを持て余しさまよう心――。19歳で英ロイヤル・バレエ団の史上最年少プリンシパルとなるも、人気のピークで電撃退団。バレエ界きっての異端児の知られざる素顔に迫ったドキュメンタリー。

監督:スティーヴン・カンター
『Take Me To Church』演出・撮影:デヴィッド・ラシャペル
出演:セルゲイ・ポルーニン、イーゴリ・ゼレンスキー、モニカ・メイソン他
配給:アップリンク・パルコ
原題:DANCER
2016年/イギリス・アメリカ/85分/カラー、一部モノクロ/16:9/DCP

【公開記念イベント概要】

■日時:2017年7月17日(月・祝)
■時間:10:30の回上映後
■会場:Bunkamura ル・シネマ(東京都渋谷区道玄坂2-24-1)
チケット発売:7月14日(金)より劇場窓口、オンラインより
■ゲスト:草刈民代(女優)
[聞き手]:乗越たかお(舞踊評論家)

公式サイト




『The Beginning of a Journey: Project Polunin』 ©ハービー・山口
写真集『The Beginning of a Journey: Project Polunin』表紙 ©ハービー・山口

セルゲイ・ポルーニン写真集
The Beginning of a Journey: Project Polunin
写真/ハービー・山口

定価:3,500円(税別)
仕様:B5変型/上製/176頁
出版社:パルコ出版

先行発売:7月15日(土)Gallery X BY PARCO、劇場ほか
一般発売:7月22日(土)よりAmazon、全国書店ほか
Amazon


セルゲイ・ポルーニン写真展
The Beginning of a Journey: Project Polunin
写真/ハービー・山口

会場:GALLERY X BY PARCO(渋谷区宇田川町13-17)
会期:7月15日(土)~7月23日(日)11:00~20:00
入場料:無料
お問い合わせ:03-6712-7505(GALLERY X BY PARCO)
公式サイト





▼映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』予告編

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