ポン・ジュノ監督『オクジャ』予告編より、ティルダ・スウィントン
5月17日からフランスで開催されるカンヌ国際映画祭が、来年からコンペティション部門の出品規定を変更することを5月10日に発表した。
2018年よりコンペ部門に出品を希望する作品は、フランスの映画館で上映することを事前に約束しなければならなくなる。
仏映画業界のウインドウ期間の厳しい規制が背景
本年度のコンペティション部門に、Netflixが制作したポン・ジュノ監督の『オクジャ』とノア・バームバック監督の『The Meyerowitz Stories』の2本のオリジナル作品が出品されていることに対し、フランス映画館連盟(FNCF)が抗議していた。『オクジャ』は、日本を含む全世界で6月28日より配信されることが決まっている。
フランスでは、映画館を守るためにウインドウ期間の厳密な規制があり、Netflixのような定額制動画配信サービス(SVOD)は、劇場公開後36ヵ月=3年後でないと配信できない。Netflixが制作した2作はこの条件を満たしていないためだ。
同社がこの2作をフランスで限定的に劇場公開するのではないかとも報じられていたが、今回の発表で、映画祭側とNetflix側がその合意に達しなかったことが明らかになった。
今回の規定変更は2018年より実施されるため、この『オクジャ』と『The Meyerowitz Stories』が出品を取りやめになることはない。しかし来年からは、劇場公開よりも全世界配信を優先するNetflixの作品は、実質的にコンペに出品できなくなる。
ノア・バームバック監督『The Meyerowitz Stories』(カンヌ国際映画祭公式HPより)
Netflix CEO「既得権益者の閉鎖性」と非難
4月のコンペティション部門出品作品のアナウンス後、フランス映画界では様々な意見が飛び交った。フランスの映画配給会社ル・パクテのプロデューサー、ジーン・ラバディ氏は4月29日のSCREENDAILYの記事で「『オクジャ』はフランスでもそれ以外の国でも彼らのプラットフォームで6月28日に全世界で独占配信される。カンヌ国際映画祭は彼らにとって配信のためのパブリシティ・キャンペーンの一環で、フランス国内の規定に合わせてわざわざ彼らにとって足手まといになる劇場公開をする必要はない」とNetflixに好意的な発言をしている。「もし『オクジャ』が最高賞を獲っても、韓国以外では劇場ではなくNetflixでしか観られないことになったら、パルムドールの意義にとって劇的な瞬間になるだろう。だからアウト・オブ・コンペティション部門で上映されるのが、みんなにとっていいのではないか」。
映画配給会社ワイルド・バンチの副社長のヴィンセント・マラヴァル氏も「私だったらヴズール(東フランスの小さな地方都市)の単館映画館で上映するだろう。フランスの配給会社がよくカナル・プリュス(有料民間テレビ局)からの資金援助を得るためだけにするようにね」とNetflixの方針について言及。「問題は、この法律がインターネットと海賊行為が起こる前に制定されたということ。映画業界は新しい社会の状況に対応することを拒んでいる」と、今回のNetflixとカンヌと劇場公開の問題が、現在の社会の動きに対応できていないフランス映画界のシステム上の矛盾を露呈させたと発言した。
そして、NetflixのCEO、リード・ヘイスティングス氏は映画祭の声明に対し、5月10日、自らのFacebookで「既得権益者の閉鎖性が私たちに立ちはだかった。6月28日からNetflixで配信される『オクジャ』をぜひ観てください。映画館チェーンがカンヌのコンペ出品を妨害しようするほど素晴らしい映画です」とコメントしている。
さらに、Varietyの11日の報道でフランス映画庁は、Netflixが3年間のウインドウ規制免除のために、インディペンデント作品を配給するTHE JOKERS FILMSと交渉し、『オクジャ』を1週間に最大6回上映することを検討していたと明らかにした。しかしこれは実現しなかったため、現在NetflixとTHE JOKERS FILMSは、『オクジャ』の配信が開始される6月28日に、自主上映を行う劇場で同時公開することを計画しているという。こうした自主上映は、フランスのウインドウ規制の適用外となっている。
▼『オクジャ』予告編
【5月10日付けのカンヌ国際映画祭プレスリリース】
Netflixが出資しているノア・バームバックとポン・ジュノの作品について、今年の映画祭出品が中止されるという噂が広がっていますが、既に発表しているとおり、この2作はコンペティション部門に出品されることをあらためてお知らせします。
カンヌ映画祭は、この作品がフランスの映画館で公開されていないことによる反発を認識しています。サービスの加入者以外の人も観られるように、フランスでの劇場上映をNetflixに問い合わせていましたが、合意に至らなかったことが残念です。
映画祭は、映画に投資するあらたな経営者を歓迎しますが、フランスと世界の映画祭の伝統的な形式をサポートし続けたいと思っています。したがって、今後カンヌのコンペティション部門に出品を望む作品はフランスの映画館で上映することを約束しなければならない、という規則を設けました。この新しい規定は2018年度より適用されます。