サンダンス映画祭の行われたユタ州パーク・シティで行われたウィメンズ・マーチの様子
「インディペンデント映画の祭典」サンダンス映画祭が米国ユタ州パーク・シティで1月19日(木)から29(日)に開催。webDICEでは昨年に続き、移動式の映画館プロジェクトmoonbow cinemaを主催する維倉みづきさんによるレポートを掲載する。
開催期間中、1月20日の就任式を経てトランプ政権が発足し、映画祭の会場となるパーク・シティで女性の権利向上のためのデモ行進、ウィメンズ・マーチが行われ、日本の長久允監督が『そうして私たちはプールに金魚を、』で短編映画部門のグランプリを獲得するなど、話題の多かった今年の映画祭の会場の熱気をレポートしてもらった。
「今」のアメリカを体現する2017年のサンダンス映画祭
インディペンデント・スピリットを掲げ、真冬の雪山で毎年開催されるサンダンス映画祭ですが、会期中に尽く意見が異なるトランプ政権が誕生、「今」のアメリカを体現する興味深い年となりました。私にとって4年連続4度目のサンダンス映画祭。今年の滞在期間は20(金)、21(土)の2日間でしたが、その間にウィメンズ・マーチ参加、長久允監督『そうして私たちはプールに金魚を、』初上映鑑賞など、濃密な時間を過ごすことが出来ました。「反トランプ政権」が随所に感じられる映画祭の様子と、その中で埼玉の女子中学生の物語がグランプリを受賞した背景を、現地レポートとしてお伝え致します。※2016年の現地レポートはこちら。
サンダンス映画祭の横断幕
■「各自の視点を追求する」
初日19(木)に開催されたプレス・カンファレンスは、ロバート・レッドフォード(サンダンス・インスティテュート創設者兼会長)と、1981年に設立された映画製作者養成所「サンダンス・ラボ」卒業生であり、今年新作が上映される監督シドニー・フリーランドとデヴィッド・ロウリー(『セインツ -約束の果て-』『ピートと秘密の友達』)の会話で幕を開けました。サンダンスの原点として、「語られるべき物語を持つ人」を平等に支援し、「各自が伝えたい物語、各自の視点」を徹底的に追及することが強調されました。その上で、翌日20(金)に誕生するトランプ政権に対してレッドフォードは「政治とは距離を置き、あくまでも自分が俳優/芸術家として語るべき物語を伝えることに集中する」と述べました。
■反トランプ政権一色
とは言え、今年の映画祭は大統領就任式やウィメンズ・マーチが映画祭オープニングと時期が重なったこともあり「反トランプ政権」一色。元来、多様性を重視することに加え、今年は環境保全をテーマにした「New Climate」部門が新設された映画祭は、多くの点でトランプ政権の方針と対立する立場。100本以上の作品が世界初披露されるサンダンス映画祭において、各上映後に行われる質疑応答は製作側の思いに触れる映画祭の「宝」と言って過言ではない機会ですが、そこでも程度の差はあれトランプ政権に対するメッセージが多く述べられました。
映画祭初日の夜を飾ったのは今年新設されたNew Climate部門の代表格『An Inconvenient Sequel: Truth to Power』。2006年『不都合な真実』の続編に当たるります。上映後の質疑応答には主演アル・ゴアが登壇し、トランプの名前は出さなかったものの、「今こそ権力者に対して真実を告げることが重要だ」と指摘。「行動を起こす意志の力こそ、再生可能なエネルギーだ」と述べました。
映画『An Inconvenient Sequel: Truth to Power』
■「近年最もワイルドなサンダンス」
映画祭10日目、最終日前日28(土)に開催された授賞式で、映画祭ディレクターのジョン・クーパーは、「新政権誕生、ウィメンズ・マーチ、サイバー攻撃(※パーク・シティでのウィメンズ・マーチ開催直後、映画祭のシステムがサイバー攻撃を受け、オンラインでのチケットが一時発券できなくなった。40分後に復旧した)そして記録的な大雪と、近年最もワイルドで、且つ開催した甲斐のある年だった」「私たちが生み出す物語と、私たちが応援するアイディアのもと、深い絆で結ばれたコミュニティを形成したことを誇りに思います」と挨拶。
サンダンス映画祭が終わりを迎えるまでの10日間に、トランプ政権はイスラム教徒や移民・難民の入国審査見直しを発表。授賞式でエグゼクティブ・ディレクターのケリー・パトナムが映画祭に参加したイスラム教徒を称えると、会場からスタンディング・オベーションが起こるなど、最後まで反トランプ一色だった様子です。 ※今年の受賞作一覧はこちら。
アメリカ大統領交代という「特殊」な状況下で行われた2017年サンダンス映画祭。以下、実際に参加した上映/イベントについてお伝え致します。
■アメリカ農業の真実に迫る
映画『Look and See: A Portrait of Wendell Berry』
今年1本目はケンタッキー州ヘンリー郡の農家が産業化の波に飲まれながらも生き延びてきた経緯を、その地で生業としながら教育・執筆活動を行うウェンデル・ベリーの作品を交えて伝えるドキュメンタリー『Look and See: A Portrait of Wendell Berry』。監督はテキサス州オースティンで6人の男の子を育てながら活動するローラ・ダン、ジェフ・スウェル夫妻。ダン監督の前作『Unforeseen』(2007年サンダンス映画祭で発表)にも参加したロバート・レッドフォード、テレンス・マリックがエグゼクティブ・プロデューサーに名を連ねている。
上映前に登壇したダン監督は、「今日、新政権が誕生することは無視できない事実です。(トランプ政権の支持層と言われる)中西部の農家が抱える葛藤・苦悩を代弁するに最も相応しい人物こそ、ウェンデル・ベリーです。トランプではありません」と述べ、やや緊張感が漂う中で上映が始まった。
物語は、農業が巨大産業となり、設備が大規模・高価格になるにつれ、「拡大」「廃業」の二者択一を常に迫られてきた農家の生々しい声を中心に構成されている。大規模化と機械化が進むに従って、「農家」と言いながら畑にいる時間は殆どなく、設備投資・ローン返済・不作に備えた保険などで日々追われ、農業に携わる喜びが減ってゆく現実。メキシコからの季節労働者を雇用しなければコストを抑えられない現実。農業によって生み出される作物が、自然の恵みからまるで工業製品へと変わってゆく現実。厳しい現実の中で、農家に「希望」となる考え方を示すのがウェンデル・ベリーの著作だ。
上映後の質疑応答の冒頭、ダン監督の「ロブに感謝します」という言葉で、おもむろに観客席からロバート・レッドフォードが立ち上がり壇上に登場。観客席から拍手が沸き起こった。本作品に関わった理由として「土地に根ざした農業が文化・人間性の発展を促すことを述べたウェンデル・ベリーの著作『The Unsettling of America: Culture & Agriculture』(1977年)を読み、その洗練された知性をもって彼は私のヒーローになった。広く彼を知ってもらうために私に出来ることとして、本作品をこのサンダンス映画祭で上映することにした」と語った。
『Look and See: A Portrait of Wendell Berry』Q&Aの様子 ※一番右がロバート・レッドフォード
続いてダン監督は、「当初、ウェンデル・ベリー自身を追ったドキュメンタリーを企画していたが、ベリー自身は主体となることを好まなかった。そのため、作品の構成をウェンデル・ベリーが愛したケンタッキーの美しい自然と、彼が世界に及ぼした影響を中心にした」と製作経緯を説明。観客席には作品にも登場するベリーの妻・ターニャもおり、時間が経つにつれて心温まる上映となった。
■VR展示「New Frontier」
最新のバーチャル・リアリティ技術を活用して物語を伝えようとする試み、「New Frontier」の展示を訪問。一展示あたり数個用意されたVRゴーグルが空くのを待ち、順番が来たら一人でVRを楽しむ経験は、正直、サンダンス映画祭の「製作者と観客の近さ」「真冬の雪山に映画好きが集まる一体感」といった醍醐味が欠けていた。また、作品によっては(椅子に座っているものの)浮遊感のある内容であり、VRゴーグルをかけているのは数分が限界、という印象。今後の技術の発展に期待。
VR展示「New Frontier」の会場
■『ハリー・ポッター』×『シング・ストリート』ドキュメンタリー
映画『In Loco Parentis』
2本目はインターナショナル・ドキュメンタリー部門『In Loco Parentis』。アイルランド唯一の全寮制小学校、ハートフォード校で45年以上教えるレイデン夫婦と生徒の1年を追ったドキュメンタリー。上映前、サンダンス映画祭の作品選定担当者が本作品を選んだ理由として「今年のドキュメンタリー作品は、現実そのままに世界の混乱を扱った内容が多かった。難民、政情不安、様々な不平等。正直、鑑賞しながら気分がどんどん塞いでゆき、殆ど鬱状態まで落ち込んだとも言っていい。そんな中、この『In Loco Parentis』に出会い、一緒に鑑賞した同僚と笑い、泣き、ハグをし、救われた思いがした」と紹介した。
『In Loco Parentis』の観客賞投票用紙
本作品は、学校の裏階段下にある物置きをスタジオにして行われるバンド活動や、運動会などの行事、ホームシックになって眠れない生徒を先生がなだめる様子など、1年間の寮生活を追ってゆく。緑豊かな敷地に佇む18世紀の建物や、ユニークな先生、制服をまとった生徒達はまるでハリー・ポッターが学ぶホグワーツ校のよう。そしてバンド活動は昨年のサンダンス映画祭で上映されたアイルランドはダブリンが舞台の『シング・ストリート』の登場人物を彷彿とさせ、まるでフィクションのような世界観。
上映後の質疑応答で、監督夫妻が自身の子供の学校探しの過程でハートフォードのことを知り、レイデン夫妻のキャラクターに惹かれ、2年間、住み込みで撮影した製作背景を披露。シナリオは一切なく、空気のような存在になりきって撮影したそう。どの生徒がどのようなドラマを生むのか全く予想もつかない中、ハッピーエンドで終わることだけは決めていたそうだ。興味深い事実として、監督夫妻はそれぞれ全寮制学校を経験したことがあるが、その経験は正反対で、奥様の方は毎週お父様がお菓子をもって会いに来てくれたが、旦那様の方はご両親がナイジェリアにおり年に一度しか会えず辛かったとのこと。
上映会場には映画にバンドのボーカルを務める様子が収められたアマンダさんがロンドンから来場。また、今年のサンダンス映画祭インターナショナル・ドキュメンタリー部門にアイルランドからもう1本選出された『It's Not Yet Dark』のチームも応援に駆け付けていた。ジョン・カーニー監督に続くアイルランド映画の盛り上がりが楽しみだ。
『In Loco Parentis』Q&Aの様子 ※一番左がアマンダさん
■シャーリーズ・セロンらと共に歩いたウィメンズ・マーチ
21(土)朝9時からワシントンを中心に全米300カ所で開催されたウィメンズ・マーチ「姉妹版」がパーク・シティでも開催された。滞在中の開催をオンラインで知った私は、日本でも連日ニュースのトップを賑わせている「トランプ政権」の影響を肌で感じたいと思い、友人と共に参加した。
サンダンス映画祭とは公式には関係なく独立して企画されたイベントであるが、映画祭ディレクター、ジョン・クーパーや、映画祭に合わせてパーク・シティを訪れたシャーリーズ・セロン、クリステン・スチュワート、ジョン・レジェンドら著名人も参加しメイン・ストリートを歩いた。
サンダンス映画祭本拠地、パーク・シティのメイン・ストリート
「ウィメンズ・マーチ」という表題がついているものの、パーク・シティ版では女性に留まらず全ての人の人権に焦点を当て、老若男女問わずパーク・シティの人口に相当する8,000人が参加。マーチの終着地点である駐車場で行われたスピーチでの代表的な人物としては、『ボーイズ・ドント・クライ』監督・共同脚本、キンバリー・ピアースが性的マイノリティーおよびユダヤ教徒の代表として性別・宗教による格差が強まることを防ぐよう語り、『不都合な真実』プロデューサー、ローリー・デイビッドが「科学的に証明されている地球温暖化を否定することは理に適わない」と指摘し、女優・コメディアン、ジェシカ・ウィリアムズが「私は祖先の夢を生きている」という言葉から始まり黒人差別が目の前で続きながらもアクションを起こさないことの罪深さをユーモアたっぷりに訴えた。
ウィメンズ・マーチの様子
パーク・シティ版のウィメンズ・マーチが他の姉妹版から一味違っていたであろう点は、参加者の「次のアクション」が明確だったこと。サンダンス映画祭という「物語の語り手」が集う場で開催されたことで、決して「歩いて終わり」ではないこと。映画祭に合わせて世界中から集合した物語の語り手たちは、次に何を世の中に伝えるべきか、各自が考え、動き始めている印象。会場の雰囲気は怒りでも、被害者意識でもなく、ユーモアと笑顔が生み出した「自分で考えて自分で行動を起こしても大丈夫」「おかしいと感じたら指摘しても大丈夫」と応援し合う温かさだった。
■L.A. 大人版『ゴシップ・ガール』
『L.A. Times』が上映された会場の「Prospector Theater」
ウィメンズ・マーチから一呼吸置いて鑑賞したのはNEXT部門『L.A. Times』。2013年サンダンス映画祭で短編『K.I.T.』が上映されたミシェル・モーガン脚本・監督・主演の恋愛コメディー。主人公が気の強い黒髪、その親友が流されがちな金髪、という設定は、「ゴシップ・ガール」のL.A.&大人版、といった趣。映画館というよりは家でのんびり笑いながら楽しむ作品という印象。
映画『L.A. Times』
『L.A. Times』の観客賞投票用紙
親友役を演じたドリー・ヘミングウェイ(作家アーネスト・ヘミングウェイのひ孫)の「隠し切れない幸せ感」や「哀しみ」の表情が印象的。ブレイク・ライブリーとレア・セドゥを足して二で割ったような美しさ。これまでパリコレのランウェイを歩き、フェラガモの香水「アッティモ」のビジュアルを務める等の活躍をしてきたモデルでもある。雪が降りしきるサンダンス映画祭は、温かさ重視でおしゃれは二の次、という人が殆どだが、ヘミングウェイはスマートなコートを纏い爽やかな笑顔を振りまき際立っていた。
『L.A. Times』Q&Aの様子 ※写真右からミシェル監督、ドリー
■「今」を切り取る多彩なトーク・イベント
サンダンス映画祭では、個別の上映会質疑応答のほかに、様々なトーク・イベントで映画製作者の声に触れることが出来る。パス・ホルダーだけが入場できる「Filmmaker Lodge」では、「分断されたアメリカ」「黒人社会を描く」「データの活用方法」など、今、課題となっているテーマについてのトークショーが連日開催されている。「分断されたアメリカ」というテーマでは、ネイティブ・アメリカンの血をひくパネリストが「まるで今日初めて分断が起こったかのように報道されていることに驚き・悲しみ・怒りを感じる」と静かに語るなど、様々な視点からの正直な声を聴くことができた。
「Filmmaker Lodge」
■アメリカの雪国で埼玉の夏を見る
21(土)最後の鑑賞作品は『そうして私たちは金魚にプールを、』(英題:And So We Put Goldfish in the Pool.)を含む短編7作品が上映される『Shorts Program 4』。映画祭前、鑑賞作品を決定する際に「アメリカの雪山で、埼玉の夏」の世界へ入り込むことに面白さを感じ、鑑賞を決めていた。今回のサンダンスでの初上映回とあって、メキシコ作品を除く6作品の監督が勢ぞろいした上映回だった。
「Redstone Cinema」
サンダンス映画祭短編部門は、翌年以降、今度は長編を携えてサンダンス映画祭に戻ってくる監督が多い「登竜門中の登竜門」。今年は応募作約9,000本の中から厳選された68本が上映された。そのうちの1本はクリステン・スチュワートの監督デビュー作『Come Swim』。短編部門から羽ばたいた才能は多く、最近の代表例は今年のゴールデン・グローブ賞やアカデミー賞を賑わせているデミアン・チャゼル監督。2013年に短編「セッション」で総合グランプリの次点となる米国部門グランプリを受賞、翌年の2014年には長編「セッション」が上映され、今度は審査員/観客両グランプリを受賞した。
『Come Swim』
今年の短編部門審査員はスタイリストのシャーリー・クラタ、初日のプレス・カンファレンスにも登壇した映画監督デヴィッド・ロウリー、そしてコメディアン、パットン・オズワルトの3名。私は会場後ろから2列目、偶然にも審査員の隣に座っていた。上映前に作品名と監督の名前が呼ばれ、各監督が立ち上がって軽く会釈する中、長久監督はガッツポーズを決め、隣に座っていた審査員から笑い声が聞こえた。
上映7作品はテーマも上映時間も様々。1作目『Cecile on the Phone』は元彼の相談を色々な人に電話で相談しながらも、本当の心配事は別にある女性の物語。2作目『The Diver』はメキシコシティで下水調査専門のダイバーを追ったドキュメンタリー。「まるで宇宙にいるようだ」という潜水中のコメントが印象的。3作目『Hold On』は痴呆症の祖母を孫が介護する物語。4作目『Laps』はニューヨークの地下鉄で痴漢にあった女性を追う緊張感あふれる作品。監督の実体験が基になっているそう。短編部門編集賞を受賞。5作目『American Paradise』は実際にあった事件をもとに完全犯罪を企んだ男の顛末を追うブラック・コメディー。6作目『Visions of an Island』はアラスカ、ベーリング海に浮かぶ島の伝説を追い、最後に『そうして私たちはプールに金魚を、』が上映された。
『Shorts Program 4』のチケット
「2013年夏、 埼玉県狭山市で学校のプールに金魚400匹が発見された」「犯人は、 女子中学生4人。「『一緒に泳ぎたかった』と供述」という事実に着想を得て、女子中学生4人が事件に至るまでの物語を創作、映画化。驚くほど「ローカル」な物語にちりばめられたブラック・ジョークに対して会場からは随所で笑いが溢れ、とても好意的な上映回だった。
映画『そうして私たちは金魚にプールを、』
上映後の質疑応答で、着想を得た背景として「事件のことはツイッターで知り、140文字以上の物語が詰まっていると感じた」と長久監督。事件から2年ほど経っても映画化の声が聞こえてこなかったので、ならば自分で、と思い、会社員(大手広告代理店のコピーライター/CMプランナー)を続けながら製作開始。撮影は15日間かけて実際に事件が起こった埼玉県狭山市で行ったそうだ。
映画製作は2009年に渋谷アップリンクで上映された『ゼロ年代全景』の1作『FROG』以来2作目。今後の上映予定を聞かれた長久監督は、東京都内の映画館での上映を希望しているほか、『そうして私たちはプールに金魚を、』に関わったバンド3組と一緒にプールを貸し切ったイベントを企画していると語った。
『Shorts Program 4』Q&Aの様子
上映後、会場ロビーで長久監督とお話する機会があった。本作は決して海外の観客を想定して製作したのではなく、織り込んだブラック・ジョークは「本能的に入れてしまった」とのこと。後日、長久監督のツイッターでグランプリ受賞を知り、作品を鑑賞していたご縁に嬉しさを感じたとともに、サンダンス映画祭の人間味に安堵した思いがした。女子中学生4人の生々しい日常。奇妙な家族。日本の夏のじっとりとした湿度。梅雨のようなどんよりとした空。「空の狭さ」は日本独特かもしれないが、それ以外はアメリカの「普通」にも通じるのだと。
『そうして私たちは金魚にプールを、』制作チーム ※一番左が長久監督
田舎を抜け出して「アメリカン・ドリーム」を目指すのではなく、どこに行けばいいのかわからない、自分が行けるとも思わない、とにかく鬱々としている感情。銃乱射事件など、その鬱々さが爆発、痛ましい事件に通ずることもあるアメリカ。今日であれば、反トランプ政権運動にやや食傷気味、あるいはどこか「自分とはかけ離れている世界の出来事」に感じる郊外の「普通」な状況の人々が、自分が胸に抱えている不安を代弁し、カッコ悪さを笑い飛ばし、なんだか元気をくれる、そんな作品と捉えられたのではないだろうか。そして作品を覆う「笑い」が監督の「本能」を基にしているからこそ、「オリジナルな物語」を評価するサンダンス映画祭で国を、テーマを超えてのグランプリ受賞につながったのではないか。
上映後のロビーで、次々に観客から「Good Job!」等の声をかけられながら、同時上映されたほか作品の監督と談笑している長久監督の様子を拝見し、観客とは一味違う、映画の製作者同士のつながりが生まれてゆく様が、とても羨ましく感じた。長編のアイディアが既に数本あるとのこと。クエンティン・タランティーノを始めとする「Sundance Alum(サンダンスOB)」に輝かしい名を連ねた長久監督、英語に磨きをかけ、今後も本能の赴くままにのびのびと作品を製作・発表して行って欲しいと感じた。
『そうして私たちは金魚にプールを、』長久監督と観客
アメリカを、世界を、映画鑑賞と製作者の質疑応答を通じて様々な視点から感じることができるサンダンス映画祭。映画好きが遠路はるばる真冬の雪山に集合し、物語を共有する機会に、今後も状況が許す限り参加して行こうと思います。
文:維倉みづき(moonbow cinema)
【筆者紹介】
維倉みづき
神奈川県出身。日本の大学在学中にフランスへ1年間留学。その後、アメリカの大学院を卒業。現在は都内で会社員として勤める傍ら、移動式の上映プロジェクト『moonbow cinema』を主催。
『moonbow cinema』について
『moonbow cinema』は、映画のストーリーにあわせて上映場所を厳選する、移動式の映画館(個人の上映プロジェクト)です。英語の情報源を駆使し、海外の映画祭情報などもお届けします。映画に会いに行く機会と、映画鑑賞の時間、そして会話が続いてゆきますように。