骰子の眼

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東京都 渋谷区

2016-12-27 23:15


映画でイスラームを知る、『イスラーム映画祭2』1月より東京・名古屋・神戸で開催

多様なイスラームを旅する選りすぐりの10作品を映画祭スタッフが解説
映画でイスラームを知る、『イスラーム映画祭2』1月より東京・名古屋・神戸で開催
『私たちはどこに行くの?』より

イスラームをテーマにした映画祭・『イスラーム映画祭2』が、2015年の第1回開催に続き、2017年1月14日(土)より渋谷ユーロスペースを皮切りに、1月21日(土)からは名古屋シネマテーク、3月25日(土)からは神戸・元町映画館にて開催される。

2回目の開催となる今回は、エジプト、バングラデシュ、チュニジア、イラン、パキスタンのほか、レバノン、タイ、インドといったムスリムの割合が半数、あるいは少数の国で製作された映画も取り上げ、より深く、“異文化理解の場”を創出する目的で開催。また前回開催時のSNSでの多くの要望に応え、名古屋、神戸でも行われる。webDICEでは映画祭スタッフの藤本高之さんに上映全10作品を解説してもらった。

劇場初公開となる『私たちはどこに行くの?』は、“中東=イスラーム一色”というイメージとは異なり、アラブ諸国で唯一キリスト教徒が多く暮らすレバノンならではの作品です。平和を望み、宗教を超えて手を取りあうパワフルでチャーミングな女性たちのノー・モア戦争狂騒曲です!(イスラーム映画祭・藤本高之さん)


劇場初公開

『私たちはどこに行くの?』

『私たちはどこに行くの?』より

日本でも2009年にデビュー作の『キャラメル』が公開されヒットした、ナディーン・ラバキ監督の第2作です。戦争の傷痕深い、ムスリムとクリスチャンが半数ずつ暮らすレバノンの小さな村で、男たちが再び争いを始めないようにとあの手この手と策を練る女性たちを描いた、歌や音楽も満載の悲喜劇です。

“中東=イスラーム一色”というイメージとは異なり、アラブ諸国で唯一キリスト教徒が多く暮らすレバノンならではの作品ですが(ラバキ監督もクリスチャンです)、カタールやヨルダンなどでも大ヒットし、広く受け入れられました。またトロント国際映画祭では観客賞を受賞しています。平和を望み、宗教を超えて手を取りあうパワフルでチャーミングな女性たちのノー・モア戦争狂騒曲です!

監督:ナディーン・ラバキ
2011年/フランス=レバノン=エジプト=イタリア/102分/ブルーレイ


劇場初公開

『敷物と掛布』

『敷物と掛布』

チュニジアから始まった革命運動、いわゆる“アラブの春”はエジプトにも波及し、30年間つづいたムバーラク政権は2011年に崩壊しました。この映画は、大規模な反政府デモが起きた“1月25日革命”を背景に、その中心地だったタハリール広場周辺の貧困地区に光をあてています。

真実を映した動画を届けるため刑務所を脱走した主人公の彷徨が、緊張と詩情がない交ぜとなった美しい映像で描かれ、それをクルアーン詠みが即興で唱う民謡やアラブ歌謡などの多彩な音楽が彩ります。初日の上映では、本作を翻訳したおひとりで、現在東京外国語大学に通うエジプト人留学生のアハマド・カリームさんをお招きし、革命当時の様子をおうかがいする予定です。

監督:アフマド・アブダッラー
2013年/エジプト/87分/ブルーレイ


劇場初公開

『泥の鳥』

『泥の鳥』

バングラデシュがまだ東パキスタンと呼ばれていた独立戦争前夜の頃を舞台に、親元を離れてマドラサに学ぶ少年と、その家族を描いたドラマです。監督自らの幼少期体験をベースに、不穏な時代でも微笑ましい子供たちの姿や、緑豊かな風景、宗教とは何か?という深淵なテーマが叙情味豊かに綴られます。

ベンガル地方の伝承音楽“バウル音楽”も心に残る、カンヌ国際映画祭で批評家連盟賞を受賞した芸術性あふれる秀作です。15日の上映では、そのバウル音楽を求めてバングラデシュを旅された、元国連職員でノンフィクション作家の川内有緒さんをお迎えしてお話をうかがいます。その旅の様子をまとめた著書『バウルの歌を探しに』は必読の面白さです!

監督:タレク・マスゥド
2002年/バングラデシュ=フランス/95分/ブルーレイ


『蝶と花』

『蝶と花』

仏教国タイの中でも、ムスリムが多く暮らすマレーシア国境に近い深南部を舞台にした青春ドラマです。貧しい一家を支える主人公が、闇仕事を通じて少しずつ大人の世界を知り、成長してゆく姿がみずみずしく描かれます。またほんの一瞬、仏教とイスラームが共存する姿も垣間見られるなど、我々が抱くイメージとは異なるタイの一面を知ることができます。

本作は第2回目の東京国際映画祭(1987)で上映され、“タイのヌーヴェル・ヴァーグ”と紹介されました。90年代にはビデオ化もされていますが、今はもう入手困難で今回は大変貴重な復刻上映となります。緑豊かな自然や列車からの風景も目に沁みる、タイ映画史上の名作と謳われる逸品です!

監督:ユッタナー・ムクダーサニット
1985年/タイ/127分/ブルーレイ


『改宗』

『改宗』

タイ映画をもう1本、こちらはタイ南部出身のムスリム男性との結婚を機にイスラームに改宗した、ある女性の新たな人生を描くロード・ドキュメンタリーです。イスラームの教えと慣習を学びながら、少しずつバンコクとは異なる南部の穏やかな暮らしになじんでゆく彼女の姿が描かれます。

また、彼女の迷いや歓びから結婚とは何かについても考えさせられ、やがてぎこちなくも素朴な夫婦の愛の旅路が見えてきます。2000年代以降、タイ南部~深南部にかけても政情不安がつづいていますが、本来は緑豊かな異国情緒あふれる地域です。このあたりを舞台にした映画も近年多く創られており、今回その先陣であるこれらの映画を取り上げたいと考えました。

監督:パーヌ・アーリー、コン・リッディー他
2008年/タイ/83分/ブルーレイ


『バーバ・アジーズ』

『バーバ・アジーズ』

アラブからペルシャ、そして中央アジアへ、盲目のイスラーム修道僧とその孫娘が旅をする砂漠のおとぎ話です。時代を特定しないいくつもの物語が入れ子式に描かれ、スーフィー音楽や様々な民族音楽に心が躍ります。撮影はほぼイランで行われており、地震で倒壊したバム遺跡が出てくるほか、『彼女が消えた浜辺』のゴルシフテ・ファラハニも出演しています。

14日はエキゾチック音楽にお詳しいサラーム海上さんをお迎えして、スーフィー音楽の解説をしていただき、19日は写真家としてイスラームの国々を数多く旅されている常見藤代さんをお迎えして、その魅力を語っていただきます。まさに“アラビアンナイト”さながらの世界をぜひご堪能ください!

監督:ナーセル・ヘミール
2004年/チュニジア=ドイツ=フランス=イギリス/96分/35mm


『十四夜の月』 ※東京のみの上映

『十四夜の月』

ある日、ナワブは街でニカーブから一瞬だけ顔を見せた女性にひと目惚れします。彼女を忘れられない彼は縁談を断り、親友のアスラムが代わりに結婚しますが、なんとその相手こそ、ナワブが恋焦がれる女性ジャミーラでした……。インド映画の巨匠グル・ダット主演の悲恋メロドラマです。

イスラーム文化が花開く北インドの町ラクナウを舞台に、とんだすれ違いから始まる三角関係の行方が歌や踊りも満載に描かれます。私生活でもダットを狂わせた、ワヒーダー・ラフマーン演じるヒロインの美しさを讃える主題歌も映画と共に当時大ヒットしました。17日は翻訳を手掛けられた麻田豊さんをお迎えして、今なお褪せぬ本作の魅力を熱く語っていただきます。

監督:M・サーディク
1960年/インド/170分/35mm


『マリアの息子』 ※東京、名古屋のみの上映

『マリアの息子』

敬虔なムスリムの少年ラフマンは、ある日、村で唯一のカトリック教会に置かれてある聖母マリア像に、見知らぬ母親の面影を見ます。老神父と仲良くなったラフマンは、神父が事故で怪我をすると、盲目の友人と共に彼の弟を探す旅に出るのでした…。今年の7月4日に急逝したアッバス・キアロスタミ監督の作品も彷彿とさせる、子供を主人公にした懐かしいタイプのイラン映画です。

素朴なタッチで綴られる、ムスリムの少年とカトリックの老神父の交流に心が洗われ、子供たちの世界には大人たちの“境界”などなんの意味もないことを教えられます。アゼルバイジャンとの国境付近ののどかな風情も目に沁みる、小さくも大きな示唆に富んだ珠玉の逸品です!

監督:ハミド・ジェベリ
1999年/イラン/72分/35mm


『ミスター&ミセス・アイヤル』

『ミスター&ミセス・アイヤル』

突如、イスラーム教徒対ヒンドゥー教徒の暴動に巻き込まれた、タミルバラモンの女性とベンガル出身のムスリム男性が、危険を回避するため束の間偽りの夫婦を装って旅をする物語です。迫りくるヒンドゥーの暴徒を前に、彼女は彼を自分の夫だと咄嗟に嘘をつくのです。危険な旅路の中でしだいに惹かれあう2人の胸の内が、女性監督らしい繊細さで綴られ、その姿に宗教融和への祈りが込められています。

歌や踊りがないにもかかわらず本作はインドで大ヒットしました。深刻な題材を描きつつも胸をしめつける、切ない大人のラブストーリーです。 何を隠そう、これぞ今回のイスラーム映画祭とっておき、知る人ぞ知るインド映画の名作をぜひお見逃しなく!

監督:アパルナ・セン
2002年/インド/118分/ブルーレイ


『神に誓って』 ※名古屋、神戸のみの上映

『神に誓って』

そしてラストは昨年のイスラーム映画祭で最も好評を博したこの映画。こちらを今回は名古屋と神戸のみ特別上映いたします。留学先のアメリカで9.11に遭い、いわれなき差別を受ける兄と、パキスタンで過激な思想に染まる弟、そしてイギリスに育ちながら連れ戻され、強制結婚させられる従妹……。世界の不条理に呑み込まれる3人の若者を描いた、壮大な社会派ドラマです。

エンターテインメント性も備えており、本国では歴代興行記録を塗り替え、一大社会現象にまで発展しました。もはや本作を地方でも上映したいがためにシネマテークさんおよび、元町映画館さんに映画祭の話を持っていったと言っても過言ではないほどの作品です。ぜひご覧ください!

監督:ショエーブ・マンスール
2007年/パキスタン/168分/カラー/35mm




『イスラーム映画祭2』

『イスラーム映画祭2』

この映画祭は、アップリンクが行なう「配給サポート・ワークショップ」の参加者が2011年に立ち上げた北欧映画祭『トーキョーノーザンライツフェスティバル』のスタッフである藤本高之さんがスピンアウトして企画。

目まぐるしく変化する世界情勢の中で“イスラーム”がますます関心を集めるなか、昨年12月に開催された国内初の『イスラーム映画祭』は、映画を通じ、日頃なじみの薄いイスラームの世界を垣間見る絶好の機会として大きな反響を呼んだ。また、その様子は海外へも伝えられ、イスラームの国々のみならず、ヨーロッパやアメリカに暮らすムスリムの人々からも、イスラームを正しく知ろうとする我々日本人への共感と称賛の声が多数寄せられたという。

【東京】※全9作品
会期 : 2017年1月14日(土)~20日(金)
会場 : 渋谷ユーロスペース

【名古屋】※全9作品
会期 : 2017年1月21日(土)~27日(金)
会場 : 名古屋シネマテーク

【神戸】※全8作品
会期 : 2017年3月25日(土)~31日(金)
会場 : 神戸・元町映画館

主催:イスラーム映画祭実行委員会

公式サイト

キーワード:

イスラーム映画祭


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