『私たち』より © 2015 CJ E&M CORPORATION. And ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
アジアを中心とした世界から独創的な作品を集める第17回東京フィルメックスが2016年11月19日(土)から11月27日(日)まで有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日劇にて開催される。
今年はコンペティションに10作品が出品され、トニー・レインズ氏(映画評論家・映画祭プログラマー)を審査委員長に、フィリピンの女優アンジェリ・バヤニ氏、韓国のパク・ジョンボム監督、アジア映画研究者の松岡環氏、フランスのプロデューサー、カトリーヌ・ドゥサール氏による国際審査員が「最優秀作品賞」と「審査員特別賞」を選ぶ。そのほか、2名の学生審査員による「学生審査員賞」、クロージング作品とクラシックを除く作品が対象で観客の投票により「観客賞」も選ばれる。期間中はコンペ作のほか、特別招待作品が5作品、特別招待作品「フィルメックス・クラシック」が2作品、「特集上映 イスラエル映画の現在」2作品の、計22作品が上映されることになっている。
webDICEでは、アップリンクが運営する「配給サポート・ワークショップ」に参加する鎌倉知紗さんと前野立帆さんによるセレクトにより、注目すべき6作品を紹介する。
特別招待作品 クロージング作品
『大樹は風を招く』
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この作品は、1997年中国返還前夜の香港を舞台に実在したギャング達の抗争を描く作品だという。香港ノワール映画で知られるジョニー・トーが見出したという若手監督3人が演出を手掛けているというが、3人の個性がどのように作用しあっているのだろうか。予告編に見られるアクションシーンも大画面で観たいし、実在したギャングをモデルにしたというドラマも興味深い。若手監督らしい衝動溢れる物語を期待したい。
(前野立帆)
中国返還前夜の香港を舞台に、暗黒街に広まった噂で運命が一変してゆく、実在した3人のギャングの人生にヒントを得た脚本を映画化。ジョニー・トーが自ら主宰する「鮮浪潮短編映画祭」の受賞監督3人を起用、それぞれのパートを演出させるという方法で製作された。
監督:フランク・ホイ、ジェヴォンズ・アウ、ヴィッキー・ウォン
Trivisa/香港/2016年/97分
コンペティション
『普通の家族』
男女が恋におち、結婚して生活を共にする。子どもが生まれればなおさらその生活は恋の激しさや新鮮さとはかけ離れたものになっていく。当たり前のように続く家族の営みを受け継いでいくことがこんなに難しいとは、子どもの頃は想像がつかなかった。大人の「自覚」とか「責任」とか、当たり前のように聞くフレーズだが、子どもの頃から人生は地続きなのでそう言われてもいまひとつイメージが湧いてこない。タイトルは「普通の家族」だが、「普通の家族」って一体どんなものなのだろうか。両親が揃っていること?衣食住に困らないこと?みながそれぞれに思い描き期待する「普通」は、きっとジェーンとアリエスの生活には存在しないだろう。このタイトルが意図することは一体どのようなものなのか。
(鎌倉知紗)
マニラの街頭でスリで生計を立てる未成年のカップル。やがて二人に子供が誕生するが……。ストリート・チルドレンを生き生きと描いたエドゥアルド・ロイ・Jrの長編第3作。フィリピン・インディペンデント映画界の登竜門であるシネマラヤ映画祭で最優秀作品賞を、ヴェネチア映画祭「ヴェニス・デイズ」部門で観客賞を受賞。
監督:エドゥアルド・ロイ・Jr
Ordinary People/フィリピン/2016年/107分
コンペティション
『よみがえりの樹』
チャン・ハンイ監督のデビュー作は、中国の山間の村を舞台にした少し不思議な物語のようだ。死んだ妻が息子に憑依してかつての夫に願いを伝えに来るというストーリーは怪談のようだが、見方を変えれば奇妙なラブストーリーのようでもある。公開されたビジュアルは幻想的で美しいが、どこか歪な印象もあり想像をかき立てられる。背景に広がる雄大な景色にも惹かれる。早く映画館で完成した映像を観てみたい。
(前野立帆)
中国陜西省の山間の村で、数年前に亡くなった女性の魂がその息子に憑依し、かつての自分の夫に対し、願いを伝えていく……。一種の幽霊譚とも言える新鋭チャン・ハンイの監督デビュー作は、ジャ・ジャンクーが若手監督作品をプロデュースする「添翼計画」の最新作。
監督:チャン・ハンイ
Life After Life 枝繁葉茂/中国/2016年/80分
コンペティション
『私たち』
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生まれ育った環境や、それぞれが頭の中に抱える悩み、そんなことは友人との付き合いの中では些細な問題に過ぎない。それは大人になった今だから思えることだ。振り返ってみればほんの些細な理由や、ともすれば理由もなく、ひどく残酷な事態に発展することは、かつて子どもだった私たちは誰しもが経験していることだろう。しかし広い世界へと飛び立つ前に、小さな世界で体いっぱいに感じた苦しさ、喜び、悔しさ……それらは決して消えることはなく心の中にたとえ小さくても存在し続ける。スンとジャのふたりの物語は、世界中のどこにだって転がっているありきたりな話かもしれない。だからこそ、彼女たちの瑞々しい感情の発露は、私たちの記憶の中に身をひそめていた小さな友達と再び出会うきっかけになるだろう。
(鎌倉知紗)
学校で仲間外れにされがちな10歳の少女スン。夏休みに引越してきた同い年の少女ジアと知り合い、友情を築いてゆくが……。新学期が近づくにつれ、家庭環境の格差が二人の友情に影を落とす。子供たちの生き生きとした表情が鮮烈な印象を残すユン・ガウンの監督デビュー作。
監督:ユン・ガウン
The World of Us/韓国/2015年/95分
コンペティション
『仁光の受難』
本作は主人公の僧侶・仁光が妖怪と行き逢うという怪談めいたストーリーだという。しかし異常なほど女性にモテる勤勉実直な僧侶というキャラクターはなんだかコミカルで、一体どのような物語が展開してゆくのか全く予想がつかない。浮世絵を織り交ぜたアニメーションと実写を融合させたという映像も非常に楽しみだ。自主制作映画でありながら、バンクーバーや釜山など海外の映画祭で高い評価を得たという庭月野議啓監督のデビュー作は、日本でも大いに話題になりそうだ。
(前野立帆)
なぜか女性に異常なまでに好かれる修行僧、仁光。自分を見つめ直す旅に出た彼は、寂れた村に辿り着き、村長から男の精気を吸い取る「山女」という妖怪の討伐を頼まれる。様々なジャンルの作品を発表してきた映像作家・庭月野議啓が4年をかけて製作した長編デビュー作。
監督:庭月野議啓
Suffering of Ninko/日本/2016年/70分
コンペティション
『ぼくらの亡命』
本気で思い詰めた人間は怖い。気味が悪かったり、傍から見ればあまりに愚かで少し滑稽ですらあったりする。けれど年功序列制度や学歴社会が崩壊し、いわゆる「普通」に暮らす人々の間に、運やタイミングで大きな格差が生まれてしまうサバイバルな現実の中で、誰が昇を笑うことができるだろうか。ぎゅうぎゅうに人間の詰め込まれた箱に揺られて会社へ行き、上司からの説教を右から左に聞き流し、何のためになるのかも分からない資料とパソコンの前で格闘して、昼はコンビニ、夜は牛丼チェーンかファストフード。そんな生活は、ホームレス同然の昇の生活よりも幸せだと言い切れるのだろうか。周囲の視線や世間体を気にせず感情のままに自分の世界に没入していく登場人物たち。低体温で乾いた毎日を送るあなたにこそ、常軌を逸した愛憎の行方を見届けてほしい。
(鎌倉知紗)
東京近郊の森の中で暮らす昇。彼は美人局をやらされている女性と出会い、その境遇から救おうと誘拐する。『ふゆの獣』で2010年東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞した内田伸輝の最新作は”他者への依存”という内田作品のテーマが極限に至るまで高められた。
監督:内田伸輝
Our Escape/日本/2016年/115分
配給:マコトヤ
【執筆者プロフィール】
鎌倉知紗
現在は広告会社に勤務。幼い頃から本を読むことが大好き。本から始まり、映画や音楽へと興味の幅を広げていく。もっと気楽に、もっと簡単に、もっと楽しく、老若男女が文学や映画・音楽に親しむ場と機会を広げることが将来の夢。
前野立帆
北海道出身。東京住在。派遣販売員/渋谷のHMV&BOOKS TOKYO勤務。子供映画・青春映画好き。
第17回 東京フィルメックス
2016年11月19日(土)~ 11月27日(日)
会場:有楽町朝日ホール[有楽町マリオン11階/メイン会場][地図を表示]
TOHOシネマズ 日劇[有楽町マリオン9F/オープニング・レイトショー会場][地図を表示]
※上映時間・料金などの詳細につきましては、
東京フィルメックス公式サイトをご覧ください。