新作『エヴォリューション』が日本公開されるルシール・アザリロヴィック監督
ギャスパー・ノエのパートナーであり、2004年の映画『エコール』の監督も務めたルシール・アザリロヴィックの新作『エヴォリューション』が、11月26日から東京・アップリンク渋谷、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか全国で順次公開となる。
物語は、少年と女性だけが住む人里離れた島が舞台。奇妙な医療行為を施される少年たち、夜半に海辺に集まる女たち、エヴォリューション(進化)とは何なのか…?
秘密の園の少女たちの世界を描いた『エコール』に続き、『エヴォリューション』で倫理や道徳を超えた美しい“悪夢”を創り出したアザリロヴィック監督。幼少の頃から文学、アート、映画が好きだったという彼女が影響を受けたものや、創作のヒントになっているものなどの、ほんの一部をご紹介!
映画
◆『イレイザーヘッド』(1976年/アメリカ/原題:Eraserhead)監督:デヴィッド・リンチ
◆『ザ・チャイルド』(1976年/スペイン/原題:¿Quién puede matar a un niño?)監督:ナルシソ・イバネッツ・セラドール
◆ヤン・シュヴァンクマイエル(Jan Svankmajer, 1934年~)チェコスロバキアのシュルレアリストの芸術家、アニメーション作家・映像作家、映画監督。
◆『火葬人』(1968年/チェコスロバキア/原題:Spalovač mrtvol)監督:ユライ・ヘルツ
◆ブラザーズ・クエイ(Quay Brothers/Stephen and Timothy Quay, 1947年~)スティーブン・クエイとティモシー・クエイの一卵性双生児の兄弟からなるアメリカ生まれの映像作家。
「『エヴォリューション』への影響というと、太陽が燦々と照っている田舎の村で怖いことが起こるというイメージは『ザ・チャイルド』、あとは『イレイザーヘッド』の影響があるかもしれません。また、言葉の映画というよりはシュルレアリスティックな無意識を描いているという意味で、ヤン・シュヴァンクマイエルやブラザーズ・クエイの影響なども挙げられるかもしれません。あと、ユライ・ヘルツの『火葬人』は、ユーモアを扱えるようになりたいと思っている私にとって、とても真似のできない独特のブラックユーモアがあって好きです」
デヴィッド・リンチ『イレイザーヘッド』
ナルシソ・イバネッツ・セラドール『ザ・チャイルド』
ヤン・シュヴァンクマイエル『サヴァイヴィング ライフ』
ユライ・ヘルツ『火葬人』
ブラザーズ・クエイ『ストリート・オブ・クロコダイル』
◆『歓びの毒牙』(1969年/イタリア/原題:The Bird with the Crystal Plumage)監督:ダリオ・アルジェント
◆『狩人の夜』(1955年/アメリカ/原題:The Night of the Hunter)監督:チャールズ・ロートン
◆アンドレイ・タルコフスキー(Andrei Arsenyevich Tarkovsky, 1932~1986年)
◆デヴィッド・クローネンバーグ(David Paul Cronenberg, 1943年~)
「モロッコで映画館に通い始めた12歳の頃に、『歓びの毒牙』に出合いました。オペラ的、視覚的で詩的で悪夢のよう。濃いショックを受けました。美しいけれど裏に恐怖のある世界……私にとっては大人の世界でした。17歳でパリに移り住んでからは、マニア向けの映画をどんどん観るようになりました。そのなかでも、とりわけ印象に残っているのは『イレイザーヘッド』と『狩人の夜』。2作品とも言葉のいらない映画。映像と音によって合理的に説明ができない悪夢的なイメージが、どんどん展開していく様に魅了されました。あと、もちろんタルコフスキーやクローネンバーグも」
ダリオ・アルジェント『歓びの毒牙』
チャールズ・ロートン『狩人の夜』
アンドレイ・タルコフスキー『ストーカー』
デヴィッド・クローネンバーグ『ヴィデオドローム』
◆『地獄』(1960年/日本)監督:中川信夫
◆『犯された白衣』(1967年/日本)監督:若松孝二
「どちらも撮影監督に観せて、『エヴォリューション』の画面構成の参考にしています。『地獄』は最初観た時、その美しさにショックを受けました。若松監督の作品は特に60年代のものが好きです。ドラマツルギーがおもしろいし、画面構成が素晴らしい。映画学校で彼のカットを教えるべきだと思う」
中川信夫『地獄』
若松孝二『犯された白衣』
◆『裸の島』(1960年/日本)監督:新藤兼人
◆『悦楽』(1965年/日本)監督:大島渚
◆『砂の女』(1964年/日本)監督:勅使河原宏
◆『野火』(2014年/日本)監督:塚本晋也
「ほかにも日本映画で好きな作品がたくさんあります。最近観た中だと、なんといっても『野火』です。とても感動しました。まず、塚本監督本人がカメラも編集も演技もすべてご自身でやっているところ、そして作品にある抒情性やリアリティに大変感銘を受けました。あくまでも舞台は第二次世界大戦ですが、この悲しいテーマは世界で戦争が続いている今現在にも通じると思います」
新藤兼人『裸の島』
大島渚『悦楽』
勅使河原宏『砂の女』
塚本晋也『野火』
◆『哀しみのベラドンナ』(1973年/日本)監督:山本暎一
◆『アスパラガス』 (1979年/アメリカ)監督:スザンヌ・ピット
◆『かぐや姫の物語』(2013/日本)監督:高畑勲
◆『パーフェクトブルー』(1997/日本)、『千年女優』(2001/日本)、『パプリカ』(2006/日本)監督:今敏
「『哀しみのべラドンナ』は昔DVDで観たのですが、とても素晴らしい作品で、最近になってフランスでも再び紹介されています。アニメーションというよりはまるで絵画を映しているような、あるいはコラージュのようでもある、美しい作品です。『アスパラガス』は一時、日本版しか手に入らなかったアニメーション。パーソナリティ障害の話ですが、とても面白いのでおすすめです。宮崎駿監督の作品はもちろん、最近観た同じジブリの『かぐや姫の物語』も好きですし、今敏監督のアニメーションも大々大好きです」
山本暎一『哀しみのベラドンナ』
スザンヌ・ピット『アスパラガス』
高畑勲『かぐや姫の物語』
今敏『パプリカ』
書籍
◆レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury, 1920~2012年)アメリカ合衆国の小説家(SF作家、幻想文学作家、怪奇小説作家)、詩人。代表作は『火星年代記』『刺青の男』等。『華氏451』はフランソワ・トリュフォーによって映画化もされた。
◆ シオドア・スタージョン(Theodore Sturgeon, 1918~1985年)アメリカ合衆国のSF作家。代表作は『人間以上』『時間のかかる彫刻』『ヴィーナス・プラス・X』等。
◆フィリップ・K・ディック(Philip Kindred Dick, 1928~1982年)アメリカのSF作家。代表作は『高い城の男』『流れよ我が涙、と警官は言った』等。映画化された作品は『ブレードランナー』『トータル・リコール』『スキャナー・ダークリー』『マイノリティ・リポート』等多数。
◆フレドリック・ブラウン(Fredric William Brown, 1906~1972年)アメリカ合衆国の小説家、SF作家、推理作家。代表作は『発狂した宇宙』『火星人ゴーホーム』等。『喜びの毒牙』はダリオ・アルジェントによって映画化された。
◆ H.P.ラヴクラフト(Howard Phillips Lovecraft, 1890~1937年)アメリカ合衆国の小説家、詩人。クトゥルフ神話の創始者とも言われる。代表作は『エーリッヒ・ツァンの音楽』『クトゥルフの呼び声』『宇宙からの色』等。
「子供のころに母がよく読み聞かせをしてくれていたのですが、その中でも一番最初に読み始めたのがブラッドベリの『火星年代記』。自然の詩的な世界観・宇宙観のなかに日常的な意味での人間がいる。身近でいながら遠い。まるで“海岸にぽつんと立っている子供”のようなイメージに惹かれました。そして、私にとって火星といえばモロッコ。私はモロッコに住んでいたので、火星の砂漠とモロッコの砂漠がどこかでつながったのだと思います。その後、自分でも色々読むようになり、ディックやスタージョン、フレドリック・ブラウン、ラヴクラフトなど、SFやホラー小説をむさぼるように読みました」
レイ・ブラッドベリ『火星年代記』
シオドア・スタージョン『時間のかかる彫刻』
フィリップ・K・ディック『高い城の男』
フレドリック・ブラウン『火星人ゴーホーム』
音楽
◆オリヴィエ・メシアン(Olivier-Eugène-Prosper-Charles Messiaen, 1908~1992年)フランス、アヴィニョン生まれの現代音楽の作曲家、オルガン奏者、ピアニスト。
「『エヴォリューション』ではメシアンの“Oraison” (1937年) という曲の一部を使用したかったのですが、著作権的に難しかったので似たような曲を作りました。とても美しい曲です」
アート
◆ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico, 1888~1978年)イタリアの画家、彫刻家。形而上絵画派を興し、後のシュルレアリスムに大きな影響を与える。
◆サルバドール・ダリ(Salvador Dalí, 1904~1989年)スペインの画家。シュルレアリスムの代表的な作家として知られる。
◆マックス・エルンスト(Max Ernst, 1891~1976年)ドイツのブリュール生まれのドイツ人画家・彫刻家。
◆イヴ・タンギー(Raymond Georges Yves Tanguy, 1900~1955年)20世紀のフランス出身の画家。
◆ドロテア・タニング(Dorothea Tanning, 1910~2012年)シュルレアリスムの画家、版画家、彫刻家、作家。マックス・エルンストの元妻。
「映画の前は美術史を学んでいました。直接影響を受けたのはとくにシュルレアリスムの作家です。『エヴォリューション』に関していえば、海辺を描いた画家であるダリ、マックス・エルンスト、イヴ・タンギーには影響を受けていますが、一番はデ・キリコですね。人気の無い閑散とした場所に燦々と太陽の光があたっていて、不気味で謎めいた感じにはインスピレーションを得ています」
イジョルジョ・デ・キリコ『燃え尽きた太陽のあるイタリア広場、神秘的な広場』(1971年)
イヴ・タンギー『無限の可分性』(1942年)
イドロテア・タニング『小さな夜の曲』(1943年)
ルシール・アザリロヴィック Lucile Hadžihalilović
1961年5月7日生まれ、モロッコ・カサブランカで育つ。17歳のときフランスに移住。美術史を学んだ後、IDHEC(高等映画学院/現Fémis)で映画を学んだ。在学中、課題映画を作った際にギャスパー・ノエと出会い、プロダクションを設立。1996年制作、脚本、編集、監督を務めた52分の作品『ミミ』は、カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門で上映され、数々の賞を受賞。2004年に監督した長編映画『エコール』は、サン・セバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞したほか、多くの映画祭で受賞した。2015年、本作『エヴォリューション』がサン・セバスチャン国際映画祭をはじめ、数々の映画祭で上映、反響を呼んでいる。
映画『エヴォリューション』
2016年11月26日(土)より、アップリンク渋谷、新宿シネマカリテ(モーニング&レイト)ほか、全国順次ロードショー
とある島、少年だけに施される奇妙な医療行為。秘密の園の少女たちの世界を描いた『エコール』のルシール・アザリロヴィック監督による、まるで悪夢のような、禁断のダークファンタジー。
監督:ルシール・アザリロヴィック
プロデューサー:シルヴィー・ピアラ、ブノア・カノン、ジェローム・ヴィダル
共同プロデューサー:セバスチャン・アルバレス、ジュヌヴィエーヴ・ルマル、ジョン・エンゲル
脚本:ルシール・アザリロヴィック、アランテ・カヴァイテ
脚本協力:ジェフ・コックス
撮影監督:マニュエル・ダコッセ
美術監督:ライア・コレット
衣装デザイン:ジャッキー・フォコニエ
特殊メイク効果:ジャン=クリストフ・スパダッチーニ
編集:ナッシム・ゴーディジ・テハラニ
音声:ファビオラ・オルドヨ
音楽:ザカリアス・M・デ・ラ・リバ、ヘスス・ディアス
製作:レ・フィルムズ・デュ・ヴォルソ、ヌードルズ・プロダクション、ヴォルケーノ・フィルムズ、エヴォ・フィルムズ A.I.E、スコープ・ピクチャーズ、レフトフィールド・ヴェンチャーズ
出演:マックス・ブラバン、ロクサーヌ・デュラン、ジュリー=マリー・パルマンティエほか
(2015年/フランス、スペイン、ベルギー/ 81分/フランス語/カラー/スコープサイズ/DCP/原題:EVOLUTION)
配給・宣伝:アップリンク