(写真)竹藤佳世監督
『東京オリンピック』『日本万国博』などの演出家・山岸達児氏が脳梗塞で倒れ、半身不随なってからの闘病生活を映画化した、竹藤佳世長編第一作『半身反義』が7月5日(日)より池袋シネマ・ロサにて公開される。
河瀬直美監督『殯の森』の監督助手、若松孝二監督の最新作『実録・連合赤軍』のメイキング・ディレクターなど壮絶な現場を経験してきた竹藤氏。そんな彼女の源流を探るべく、アップリンクXでは『半身反義』公開にあわせ、6月28日(土)より竹藤佳世の特集上映を開催する。
── 竹藤さんは1998年の早い段階から、インディペンデント映画作家が個々に映像制作をし、発表する場を提供する集団「パウダールーム」を立ち上げましたが、立ち上げたきっかけと活動内容を教えてください。
私にとって、『骨肉思考』という作品が「イメージフォーラム・フェスティバル98」で賞をいただいたことが作品を多くの人に見ていただくきっかけになりました。また、そのとこによって、次の作品へと向かっていくエネルギーももらったと思います。しかし、実際学校などを離れると、なかなか作ることを続けていくのは難しい。だったら、人に見せる場も自分たちでつくっていこう、というのが始まりです。
イメージフォーラム附属研究所つながりの人たちを中心に、私自身が次の作品を見てみたい、と思う人に声をかけていきました。具体的な活動としては、東京都写真美術館のホールをお借りして上映会を開いたり、8mmワークショップをやったりしました。
「12の眼」という、インディペンデント支援の団体ともよく協力して、上映やウェブでの番組づくりもしましたね。現在は、私の作品の製作・配給が主になってますが、機会があれば、またイベントなどもやりたいと思ってます。
(写真)竹藤佳世監督『骨肉思考』(1997年/8mm)より
── 映画を作るのとはまた別の労力とエネルギーが、一般のお客さんに観てもらう劇場での上映には必要だと思いますが、竹藤さんは劇場公開をどのように捉えていますか?
作品を人に見てもらいたいという気持ちは、つくる人なら誰でももっているものだと思いますが、私は、自主の活動と、興行ということは全然別だという意識で、自分にはそういうことは無縁だと思っていました。自主の上映でも大変なんだから、少なくともちゃんとした組織なり資金なりがなければ、入っていくような世界ではないと。
ただ、若松(孝二)監督や河瀬(直美)監督の現場を経験したことによって、その認識が変わったところがあると思います。一緒に行動してみると、名の知れた監督でも自分で先頭切って車の運転もするし、制作的なことやプロモートもしている。逆にいえば、そういうことができるから生き残ってこれたんだな、とも思いました。好きな映画を作って、それをお客さんに届けるというのは、ある意味とても贅沢なことです。
それがやりたいなら、白馬の王子様が拾ってくれるのを待つのではなく、自分で動いていくしかない。『半身反義』は2004年からつくりはじめ、若松組と河瀬組を間に挟んで2007年に完成したのですが、自分でプロデューサーをやろうと決めて映画祭や劇場へのアプローチをしました。
興業と作品の良し悪しとは、また別のところもあるので、中身を作る監督がそこまでするべきか否か、一概にはいえないと思いますが、少なくとも『半身反義』は、ある一人の老人の人生を私が丸々借りて作品にしている訳だし、過去作品は私の人生を題材にしたようなものですから、自分が背負わなかったら誰が背負うのか、という思いがあります。だから、お客さんに届けるところまで全力でやりたいと思いました。そんな訳で、一番トップであり、一番下っ端として走り回っている訳です。
(写真)竹藤佳世監督『彼方此方』(2002年/16mm)より
── 河瀬直美さんの監督助手や、若松孝二さんの元での仕事はかなりハードな現場を想像しますが、同じ映画作家としていかがでしたか?
二人の監督は、作風やテンポは全く異なっていて、その両方と現場でつきあったという人はあまりいないんじゃないかと思います。二人ともワガママだといわれますが、それを何とか耐えられるのは私がそれ以上にワガママだからなんじゃないかと思います。最近、過去作品を見た、とある方に「究極的なエゴイスト」だといわれましたが、お互い相手が一筋縄でいかないことをわかった上で共闘するべき時には共闘する、というのが私の基本的なスタンスです。
もちろん、スタッフとして参加する訳ですから、そこにはヒエラルキーがありますが、ただコキ使われてブーブー文句いうだけでは、作家同士が組む意味はない。いいところも悪いところも含めて吸収して、その答えは作品にして返すというのが仁義かなと思ってます。
── 今回の個展上映作品の内容についてお聞きします。竹藤さんの作品はよく“ドキュメンタリー”と表現されますが、フィクショナルな要素もありますね。竹藤さんはドキュメンタリーとフィクションとの相違をどのように考えますか?
最初に『骨肉思考』をつくった時、映画祭のパンフレットで「ドキュメンタリー」と紹介されていてびっくりした覚えがあります。イメージフォーラム附属研究所の卒業制作だったので、制作中に時々皆の前でプレビューしていたのですが、同級生たちに「お前、よくあんな嘘つくれるな」と言われてましたから。これを本当だと思う人がいたらどうするんだ!とか。私としては、それまでややウンザリして見ていた個人映画、自分探し映画のパロディのつもりでした。パロディがパロディとして受け入れられていなかった、ということで世の中には真面目な人が多いなぁ、と思いましたね。だから、つくるものは全てフィクションなのが当たり前だと基本的に思ってます。
ただ、今少し引いた目で見てみて、『骨肉思考』はドキュメンタリーとしてよくできてると思います。それは、私が狙っていなくても、映像にはその時の状況がドキュメントされているからです。一生懸命フィクショナルにやろうとして空回りしているところも含めて、ドキュメントされた状況が面白くみれればドキュメンタリーと呼んでいいんじゃないかと、今は思ってますね。
(写真)竹藤佳世監督『穀家 KARAYA』(2000年/16mm)より
── 6月28日(土)より、まずはアップリンクXにて個展作品の初公開、そして7月5日(土)からは池袋シネマ・ロサにて新作の公開となりますが、意気込みを教えてください。
過去作品は、DVD化などもしていないし、私が自主の活動から仕事として映像のことをやるようになるにつれ、表に出す機会も減っていたので、今回の上映は貴重な機会になると思います。賞をいただいてから、ちょうど10年という区切りの時でもありますし、私が映画スタッフやテレビディレクターなどを経験した上で、また自分の作家性に立ち戻って作品を公開する時でもありますので、自分が今までやってきたことを全部さらけ出してお客さんと勝負したいと思ってます。
映画をつくる手段が多様化して、技術的には簡単につくれるようになったり、人に見せるチャンスがDVDやウェブなどで増えていても、やはり人が集まる場で見せることが映画にとっての完成だと思ってます。目の前にいる人を、どこまで揺らすことができるか。そこが私の作品づくりの原動力でもあるので、たまたま二つの映画館が協力して下さったおかげで新作と旧作を同時に公開できることになったのは、盆と正月とカーニバルと祇園祭りが一遍にきたような感じです。楽しみです。
(写真)竹藤佳世監督『カラコワシ』(2001年/16mm)より
(インタビュー:鎌田英嗣/構成:牧智美)
■竹藤佳世PROFILE
東京都出身、東京都立大学人文学部卒。映像作家集団「パウダールーム」代表として、上映会、ワークショップ等を企画・開催。『骨肉思考』で「イメージフォーラム・フェスティバル98」大賞受賞。広告代理店勤務・専門学校教員を経て、若松孝二監督作品(『17歳の風景』『実録・連合赤軍』)、河瀬直美監督作品(『垂乳女Tarachime』『殯の森』)などに参加。フィクション・ドキュメンタリーの境界を越えた独特のスタイルで常に意欲的な作品づくりに挑んでいる。
竹藤佳世 映像個展『Flower of Life』
6月28日(土)~7月25日(金)
連日16:30より上映
上映作品:
■6月28日(土)~7月11日(金)
『骨肉思考』(1997年/8mm)
『彼方此方』(2002年/16mm)
■7月12日(土)~7月25日(金)
『穀家 KARAYA』(2000年/16mm)
『カラコワシ』(2001年/16mm)
会場:アップリンクX(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル2F)[地図を表示]
料金:特別鑑賞券1,000円/一般1,300円/学生1,100円/シニア1,000円
※竹藤佳世 映像個展『Flower of Life』の半券提示で当日650円にてご覧いただけます
※新作『半身反義』の半券提示で当日1,100円でご覧いただけます
★映画『半身反義』の音楽を手がけたサウンドデザイナーの阿尾茂毅氏(河瀬直美監督『殯の森』録音)によるスペシャルライブを開催。
日時:6月28日(土) 開場13:30/開演14:00
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル2F)[地図を表示]
料金:1,500円
新作『半身反義』は7月5日(土)より池袋シネマ・ロサにてレイトショー
『半身反義』公式ホームページ