映画『グッバイ、サマー』より、ダニエル役のアンジュ・ダルジャン(左)、テオ役のテオフィル・バケ(右) ©Partizan Films- Studiocanal 2015
『エターナル・サンシャイン』『僕らのミライへ逆回転』などを手がけたミシェル・ゴンドリー監督の新作『グッバイ、サマー』が9月10日(土)より公開。webDICEではゴンドリー監督のインタビューを掲載する。今回のインタビューでも語っているように、この作品はゴンドリー監督の自伝的作品で、その風貌で女の子と間違われる14歳の少年を主人公に、画家を志す彼と転校してきたクラスメートの友情、そしてふたりがスクラップと中古のエンジンから坂口恭平のモバイルハウスのような「動くログハウス」を作って旅に出る、という物語だ。これまでの作品でも、人の記憶を巡る問題をファンタジックに描いてきたゴンドリー監督は、絵本のようなカラフルな演出は控えめに、多感な少年のひと夏の出会いと別れをほろ苦く描いている。
この映画では私のいろんな思い出をごちゃ混ぜにしています
──どのような経緯で本作を作ることになったのですか?
『ムード・インディゴ うたかたの日々』(13)を撮り終えたとき、私は大きなプレッシャーを感じていました。その直後、ほぼ不可能なフィリップ・K・ディックの「ユービック」の映画化というカルトな仕事を始めなければならなかったのです。そんな時、もっとパーソナルで落ち着いた映画を作るよう私にアドバイスしてくれたのは、オドレイ・トトゥでした。そして、ゆっくりと記憶を辿るうちに、私は自分自身の特別な友情を思い出しました。私の家族はベルサイユのヒッピーでした。決して裕福ではありませんでしたが、両親は私を可愛がってくれました。しかし、私が友達になるのは常に学校のアウトサイダーたちでした。ベルサイユにあるオシュ高校はとても厳しく、当時の私のような人は一人もいませんでした。親友は皆、他の生徒たちから拒絶されているような人たちで、その両親たちも変人でした。その中には、父親が古物商でいつもスクラップを用いて工作をしていた友達がいました。彼とほかの記憶と組み合わせ、この友情の物語が生まれました。
映画『グッバイ、サマー』ミシェル・ゴンドリー監督
──ダニエルがあなたで、テオがその友達ですか?
はい。二人の関係は、私の青春時代にとても忠実です。先ほどの話に出た友達とは子どもの頃以来会っていませんが、彼を含む二、三人を合わせたキャラクターがテオ(ガソリン)です。私は絵を描くことやアイディアを考えることが得意な子供でした。そして、いつも女の子に間違えられていたのも事実です。私が『グッバイ、サマー』の主人公ダニエル(ミクロ)よりも少し小さなときでしたが、ある日、パン屋さんが母に“お嬢さんはかわいい髪形をしているね!”と言ったのです。そんなことは日常茶飯事でした。年度初めの英語のクラスで机を移動しなければならなかったとき、教師は私に「男の子に手伝ってもらいなさい」と言いました。それから一週間たっても教師は私を女の子だと思っていました。たった四人だけのクラスだったのに!私は恥ずかしくて先生の間違いを正すことができませんでした。
映画『グッバイ、サマー』より、ダニエル役のアンジュ・ダルジャン(右)、テオ役のテオフィル・バケ(左) ©Partizan Films- Studiocanal 2015
──“動くログハウス”も本当に友達と作ったのですか?
この映画では私のいろんな思い出をごちゃ混ぜにしています。友達と中古のゴーカートを買い、スーパーの駐車場でよく乗り回していました。夢中になってタイムを計り、時には時速40マイル近くもスピードを出したこともあります!主にテオ役の参考にしたある友達と、車を作るという計画を思いついたのですが、成功することはありませんでした。そういうわけで、二人の旅行はよりファンタジーの領域にあります。映画を作ることによって、子どもの頃の夢が現実になることだってあるのです!
映画『グッバイ、サマー』より、ダニエル役のアンジュ・ダルジャン(右)、テオ役のテオフィル・バケ(左) ©Partizan Films- Studiocanal 2015
私の家族はけっして順風満帆ではありませんでした
──ミクロの家族はあなたの家族に似ていますか?
各登場人物それぞれ、とても良く似ています。私には兄と弟がいて、兄は最初、ハードコアに、そのあとパンクに夢中になっていました。彼はすでに私の短編作品『THE LETTER』(98)の中で悪役として描かれており、私はそれ以上悪いようにはしたくありませんでした。弟のほうは、スポーティーであると同時にとても繊細でした。あるとき彼が、親にお釣りの10サンチームを返さなかった罪悪感から何時間も泣いていたことを覚えています。私の家族はけっして順風満帆ではありませんでした。父はあまり誠実ではなく、母は鬱に苦しんでいました。私たちはとても自由でしたが、そこに骨組みは無く、中身も無く、ストレスの多いものでした。私は映画の中で私の両親と子どもを束縛するテオの両親とのコントラストを見せたいと思いました。私の家族はとても傷つきやすく繊細でした。ある意味、そのせいで関係性が崩れてしまったのです。
映画『グッバイ、サマー』より、ダニエル役のアンジュ・ダルジャン(左)、テオ役のテオフィル・バケ(右) ©Partizan Films- Studiocanal 2015
──オドレイ・トトゥのキャラクターはあなたの母親に似ていますか?
オドレイよりもっと年齢を重ねなければなりませんが、少し母に似ていると思います。オドレイは私の母の作った曲をピアノで弾いています。母はメランコリックな女性でしたが、一方で確かな意思を持った女性でもありました。彼女は私を“友愛会”という、ある宗派の集まりに連れて行きました。彼女は生まれ変わりを信じていて、私がベジタリアンになったのはその会に行ってからでした。ある日、母は私に“あなたは生まれ変われない。あなたは天使で、一つの人生しか持っていないから”と言ったのです。それが幼い私に与える影響を彼女はわかっていませんでした。さらに彼女は、私がしぶしぶ受け入れていた身体的接触を非常に必要としていました。私はその種の愛情は欲しくありませんでした。だから映画の中でも、母親はいつも息子の近くにいようとし、ダニエルは後ずさりしていたのです。
映画『グッバイ、サマー』より、ダニエルの母を演じるオドレイ・トトゥ ©Partizan Films- Studiocanal 2015
時代設定を昔にしたくありませんでした
──ダニエルは自分が他の人たちとは違うと感じて苦しみます。だからといって、みんなのようにはなりたくはない……この矛盾はあなたが経験したものですか?
はい。オシュ高校の多くの生徒は軍隊の家族出身でとても短い髪でしたが、私は長髪でいたかったのです。何故なら、他のみんなと同じにはなりたくなかった。ある日、生徒の間で頭じらみが流行し、髪をとても短くしなければならなくなりました。クラスメイトと自分が同じような髪形になるのを想像し、私は恐怖を感じました。ここだけの話、私は短髪になっても女の子に間違われるのが怖かったのだと思います。もう言い訳できませんからね。
映画『グッバイ、サマー』より ©Partizan Films- Studiocanal 2015
──あなたの学校にローラ(ミクロが恋する女の子)はいましたか?
彼女はエマニュエルといって、今でもとても仲のいい友達です。10年くらい前に会ったのですが、彼女は思っていたのとかなり違う人でした。この現象――記憶を現在のイメージに適合させることの困難さ、そして、どのようにして現在のイメージが過去を消し去るかについては、ノーム・チョムスキーに関する私の映画『背の高い男は幸せ?』(13)で話しています。私はまだ当時の写真を持っているし、4年間も恋していたのですが、結局彼女と付き合うことになったのは兄でした。この経験から、私の作品『THE LETTER』が生まれました。
映画『グッバイ、サマー』より、ローラ役のディアーヌ・ベニエ ©Partizan Films- Studiocanal 2015
──ティーンエイジャーをフィーチャーした映画は独自のジャンルとして確立しています。あなたが特に影響された映画はありますか?
いくらかの刺激になればと思い『Peppermint Soda』(77)を見ました。ジュブナイル映画の古典であり、とてもよくできた映画です。DVDに収録されていた、ディアーヌ・キュリス監督のインタビューとメイキングも素晴らしかったです。子供たちの感情を全面に押し出し、審美的にしようとする試みを捨て去ることが彼女の目的だったはずだと私は理解しました。しかしながら、やはり私は『グッバイ、サマー』の時代設定を昔にしたくありませんでした。そうしてしまうと、フレキシブルに動けずフレームに縛られることになったでしょうし、急に道路を70年代の車で埋め尽くすなんて不可能ですからね。私が想像するに、ダニエルとテオは、テクノロジーやファッションに敵意を持っていたのではないでしょうか。そして、私たちも同様でした。私は『サタデー・ナイト・フィーバー』(77)や『スター・ウォーズ』(77)は絶対観に行かなかったし、流行でない音楽が好きでした。私はそれを、作中の二人のiPhoneへの態度に置き換えました。
映画『グッバイ、サマー』より、ダニエル役のアンジュ・ダルジャン(右)、テオ役のテオフィル・バケ(左) ©Partizan Films- Studiocanal 2015
──二人の話し方はきちんとしていて、まるで大人の会話のようですね。
幸運なことに、登場人物たちが私の頭の中で話し始めると、すぐに彼らは自分たちだけで話をするようになりました。私にインスピレーションをもたらした友達はテオのように自信満々だったか?もう思い出せません。でも彼の話をとにかくたくさん聞いたことは確かです。私は女の子に間違われることに困り果てていたので、男っぽくなるための全てを取り入れていました。家庭内での孤立により、テオにはより大人の面がありました。そして私にはもう一人、いつもテレビばかり見ている友達がいました。その結果、彼は全ての分野において驚くべき量の知識を得ました。彼が、私を一晩のお泊まりに招待して、夜通しアームチェアーでおしゃべりした友達です。
──実際の会話はどのように書いたのですか?
一つだけ確かなことは、彼らは典型的なティーンのような話し方はしないということです。映画の中には〝スラングを使ったりハイタッチをしたりするのは低俗だからしないように”とテオがダニエルをたしなめる場面が何度もありますが、彼らは、風変りで少し時代遅れの話し方をします。それはロメールの映画に出てくるような、あえて現実的でない書き言葉を使うような登場人物たちに少し似ています。若い俳優たちの中に、うまくセリフを言えないかもしれないと指摘する人がいますが、私はこう説明します。「でも、君の作ったキャラクターは実生活の君とまるっきり一緒ではないだろう?」
夜中に思いついたアイディアは、夜が明けると、大抵そんなに素晴らしくありません
──二人の旅は、現実のものでありながら、時折、夢のような出来事にも感じます。
旅そのものは私が見た一連の夢から生まれたものです。歯医者、美容師、アメフト選手、逆向き飛行の飛行機……4つか5つの夢を現実の背景に照らしながらつなぎ合わせました。二人はある種の子どもっぽさがあり、それは恐らく、私が自分の子ども時代に浸りながら映画の最初の部分を書いたからでしょう。私には睡眠障害があり、よく夢を見ます。例えば、子どもの時に住んでいた家にまた住んでいるというような夢を毎週のように見ます。もし自分の夢にドラマティックな可能性があればメモに書き留めます。もちろん、夜中に飛び起きて、素晴らしい物語を思いついた!と感じることもありますが、夜が明けると、大抵そんなに素晴らしくありません(笑)。
──二人のニックネームもあなたの過去から来たものですか?
私はもう少し若かった頃、“筋肉シュリンプ”と呼ばれていました。ガソリンというのは、私の叔母が住む村の近くに住んでいた女の子に付けられた可哀そうな(今にして思えば褒められない)ニックネームです。彼女がガソリンスタンドの給油ポンプに似ていたため私たちはガソリンと呼んでいました。ですから、答えはノーです。
映画『グッバイ、サマー』より、ダニエル役のアンジュ・ダルジャン(右)、テオ役のテオフィル・バケ(左) ©Partizan Films- Studiocanal 2015
──“動くログハウス”というアイディアは誰が考えたのですか?
私です。私はひどいドライバーでありながら、車の絵を描くのが本当に好きでした。しかし、高級車やスポーツカーを買うなど、考えたこともありません。また、最近の車もあまり魅力的ではなくなっています。映画を観ると、いつの時代の話なのかが車でわかります。動くログハウスのアイディアは初期の段階で思いつきました。スケッチを描いて、馴染みのセットデザイナーであるステファヌ・ローゼンバウムに渡しました。それには、動力が不十分な芝刈り機のエンジンではなく、250エンジンを使っていました。私たちはいくつかのバージョンを作りました。車体のないバージョン、それから車体を足したバージョン、燃えるバージョン、そして最後に、川に突っ込むシーン用に重量の軽いバージョンなどを。多くの撮影はイル=ド=フランス地方で行われましたが、旅の撮影のためにモルヴァン地方自然公園までわざわざこの車を運びました。
──あの二人は本当にあの車を運転したのですか?
彼らはとても気に入っていました!車輪のうしろでは、ダニエルが一番熱狂していました。ただし、あの車が速く走れないことを忘れてはなりません。エンジンが付いているにもかかわらず、人が押さなければ進まない時もありました。まるで『マッドマックス』(79)と「チキチキマシン猛レース」(68-70)を足して2で割ったようなものです。もちろん、スローモーション版のね。
──音楽のジャン=クロード・ヴァニエと仕事をしたのは初めてですか?
『グッバイ、サマー』の作曲家を探していたある晩、私はシャルロット・ゲンズブールの夢を見ました。朝起きて、彼女の母親であるジェーン・バーキンの歌「ディ・ドゥ・ダー」のことを考えました。シンプルなベースと、かき鳴らされるギターを思いだし、『グッバイ、サマー』の音楽はジャン=クロード・ヴァニエでなければならないとわかったのです。彼は、アルバム「メロディ・ネルソンの物語」を筆頭にしたゲンズブールの数多くの名曲でアレンジを担当しています。また、ミシェル・ジョナスの「シュペール・ナナ」など、他にも傑作を手掛けています。彼にコンタクトを取り、映画を見せたところ、すぐに仕事を引き受けてくれました。この音楽が少しばかり古風な雰囲気をもたらし、そのおかげで映画がとても良い方向に進みました。
(オフィシャル・インタビューより)
ミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry) プロフィール
1963年、フランスのヴェルサイユに生まれる。1983年、友達とロックバンドOui Ouiを結成し、ドラムを担当。自らミュージック・ビデオを監督していたところ、それがビョークの目に留まり、「Human Behavior」の監督を依頼される。以降、彼女のミュージック・ビデオを数多く制作する。その他にも、ダフト・パンク、ザ・ホワイト・ストライプス、ケミカル・ブラザーズ、レディオヘッド、ベックなど数々の大物ミュージシャンのビデオを監督し、高い評価を受ける。同時に、リーバイス、コカ・コーラ、ナイキ、GAPなど多くのTVコマーシャルも手がけ、多くの賞を受賞。2001年、『ヒューマンネイチュア』で長編映画監督デビュー。監督第2作の『エターナル・サンシャイン』(04)では脚本を務めたチャーリー・カウフマンがアカデミー賞脚本賞を受賞する。アニメーションを多用したユニークな映像が注目を集めた『恋愛睡眠のすすめ』(06)は、ニューヨークのソーホーで関連展が開催された。その後もジャック・ブラック主演のコメディ『僕らのミライへ逆回転』(08)、ヒーローアクション『グリーン・ホーネット』、ブロンクスの若者たちと共同で作り上げたインディペンデント映画『ウィ・アンド・アイ』(12)、ボリス・ヴィアンの青春小説を映画化した『ムード・インディゴ うたかたの日々』(13)と次々に新作を発表する。音楽ドキュメンタリー『ブロック・パーティ』(06)や、自身の伯母に密着した『心の棘』(10)、言語学者ノーム・チョムスキーと自身の会話をアニメーションで綴る『背の高い男は幸せ?:ノーム・チョムスキーとのアニメーション会話』など、ドキュメンタリーも手がけている。また、東京を舞台にした短編を集めたオムニバス映画『TOKYO!』(08)ではその中の一つ「インテリア・デザイン」を監督。2014年には東京都現代美術館で「ミシェル・ゴンドリーの世界一周展」が開かれ、大盛況となった。
映画『グッバイ、サマー』
9月10日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテ他、全国ロードショー
14歳。子供でもない、大人でもない狭間の時期。画家を目指すダニエルは沢山の悩みを抱えていた。中学生になっても女の子のような容姿で、クラスメイトからミクロ(チビ)と呼ばれて馬鹿にされており、恋するローラにはまったく相手にされていない。おまけに母親は過干渉で、兄貴は暴力的なパンク野郎だ。誰も本当の自分を理解してくれる人はいない……。 そんなある日、ダニエルのクラスに変わり者の転校生がやってくる。名前はテオ。目立ちたがり屋で、自分で改造した奇妙な自転車を乗り回し、家の稼業のせいで身体からガソリンの匂いを漂わせている。周囲から浮いた存在のダニエルとテオは意気投合し、やがて親友同士になっていく。学校や家族、そして仲間達、みんなが二人を枠にはめて管理しようとしてくる。息苦しくて、うんざりするような毎日から脱出するため、彼らは“ある計画”を考え付く。それは、スクラップを集めて〝夢の車”を作り、夏休みに旅に出ることだった―。
監督&脚本:ミシェル・ゴンドリー
出演:アンジュ・ダルジャン、テオフィル・バケ、ディアーヌ・ベニエ、オドレイ・トトゥ、ヴァンサン・ラムルー、アガット・ペニー、ダグラス・ブロッセ
撮影:ロラン・ブリュネ
録音:ギヨーム・ル・ブラース、ジャン・ガロンヌ、ドミニク・ガボリオ
音楽:ジャン=クロード・ヴァニエ
セット・デザイン:ステファヌ・ローゼンバウム
衣装:フロランス・フォンテーヌ
キャスティング:レイラ・フルニエ、サラ・ティパー
脚本監修:キャロル・フェーブル
編集:エリーズ・フィエヴェ
製作統括:イニゴ・レッツィ
製作: ジョルジュ・ベルマン(パルチザン・フィルム)
2015年/フランス/104分/DCP
原題:Microbe et Gasoil
日本語字幕:星加久実
提供:シネマライズ+トランスフォーマー
配給:トランスフォーマー
宣伝:ミラクルヴォイス