吉祥寺バウスシアターの人気プログラムであった「爆音映画祭」が、9月27日(火)から10月1日(土)まで渋谷WWWとWWW Xで開催される。今回はタイ東北部のイサーン地方に焦点を当てた「爆音映画祭2016 特集タイ|イサーン」。独特のイサーン音楽に彩られる日本未公開タイ映画が6作品、アピチャッポン・ウィーラセタクンの3作品、そして第69回ロカルノ映画祭にて「若手審査員・最優秀作品賞」受賞した『バンコクナイツ』が東京プレミア上映される。さらに本場モーラム楽団やstillichimiyaなどのライブも開催。
「爆音映画祭2016 特集タイ|イサーン」予告篇
2014年の吉祥寺バウスシアター閉館により、開催が途絶えていた東京での爆音映画祭。2016年は4月に恵比寿ガーデンシネマでの坂本龍一セレクションによるスペシャル・ヴァージョンの爆音映画祭をお届けしましたが、さらに特別仕様にチューンナップした爆音映画祭2016の開催が決定しました。
今回はタイ。バンコクではなく、東北部のイサーン地方に焦点を当てた特集になります。タイの中でもイサーン地方は特別な風土と歴史を持ち、その土地と時間がはぐくんだ独特の文化を育てています。誰もがイメージするタイとはまた別のものでありつつ、しかしそれがあることによってタイの文化がさらに活性化する。タイへのアンチでもあり活力剤でもあるイサーンの音を是非今の日本に届けたいと思っています。
また、そんなイサーンの文化に『サウダーヂ』(2011年)で日本とタイとブラジルとの関係をリアルな視点から描いた映画製作集団「空族」が注目しないはずはありません。彼らが数年がかりでタイと日本を行き来しつつ完成させた『バンコクナイツ』もまた、イサーンという土地と音楽なしにはあり得ない映画になりました。今回の爆音映画祭では、東京でのお披露目を兼ねての『バンコクナイツ』東京プレミア上映を開催します。そして『バンコクナイツ』に出演しているタイの人間国宝のミュージシャンたちも招聘し、「モーラム」と呼ばれるイサーン独自の音楽を生で体感するひと時を作り上げます。
そしてイサーン地方を題材にしてイサーンの音楽がふんだんに流れる、日本ではめったに観られない貴重なタイ映画を6本。タイから取り寄せてこのために字幕をつけての上映となります。そのセレクションにあたったのは日本へのタイ音楽の紹介者として活動を続けるSoi48のふたり。彼らの目と耳がとらえたタイの歴史が、爆音とともに東京に溢れ出すことになります。
さらにそれらのイサーン文化を背景に生まれた国際的映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクンの3作品を。最新作『光りの墓』の東京初爆音上映を始め、これまでの監督特集でもなかなか上映されることのなかった長編『アイアン・プッシーの大冒険』と中・短編で構成される「アートプログラム」を。これらの作品を通し、タイの歴史と未来だけではなく、日本現在と未来とが同時に浮かびかがってきてくれたらと願っています。
─樋口泰人(boid、爆音上映&爆音映画祭プロデューサー)
「イサーンの人々は、日常生活に生きているだけでなく、スピリチュアルな世界にも生きています。そこでは、単純な事柄が魔法になるのです。」
─アピチャッポン・ウィーラセタクン(映画作家・美術作家)
※『光りの墓』公式インタビューからの抜粋
タイの約三分の一を占めるイサーン地方。その文化は、もはやバンコクとは全く別物。アピチャッポンはそこを感覚的な場所だという。イサーン人はすぐに踊り出す。農閑期、モーラム楽団はイサーン中を巡り、220Vの高電圧爆音スピーカーで朝まで8時間鳴らし続け、数千の客が踊り狂う。世界中の音楽を掘りまくってきたSoi48の二人と出会ったとき、もうイサーンしかありません、と彼らは大真面目に言った。更に、バンコクの人間には絶、対、に会わないというイサーン映画のキングの話もしてくれた。こうして、『バンコクナイツ』はイサーン映画になっていった。
爆音タイ、否、爆音イサーン映画祭”。ついに、楽園の全貌が明かされる!!
─富田克也(映画監督)
タイ音楽ことにイサーン人の音楽の素晴らしさは<自分達の音楽>を気負わず綿々とやっていることだと思います。Soi48と組んで発表しているエム・レコードのタイ音楽アーカイブは、一個のアーティストの生(せい)を捉えたいと考え、同時に音楽のヤバさを示し、病み付きになる人を増やしています。しかし一方で、モーラムにルークトゥン、あのようなソウル音楽を生み出す彼らは何者なのか?という問いを我々は常に抱いています。音楽側から言えば、今回の爆音映画祭、そして空族『バンコクナイツ』で、その問いを解く手がかりが得られるはずです。ライブでは本物のモーラムが演じられます。これらの体験は、ただただ我々がこの先聴くタイ音楽をこの上なく豊かにしてくれると思います。
─江村幸紀(音楽プロデューサー/エム・レコード主宰)
東京プレミア爆音上映
『バンコクナイツ』
映画『バンコクナイツ』より (c)Bangkok Nites Partners 2016
監督:富田克也
(2016年/182分/Bangkok Nites)
前作『サウダーヂ』で、地方都市のリアルを「土方」「移民」「Hip Hop」をテーマに描き、話題となった映画制作集団、空族の最新作。構想10年、舞台を山梨からタイに移し、空族が問うアジア「娼婦」「楽園」「植民地」が、元自衛隊員とバンコクの日本人向け歓楽街・タニヤ通りでホステスとして働くタイ人女性の交流を軸に描かれる。
公式サイト
WWW X Opening Series『バンコクナイツ』東京プレミア爆音上映
ミニライブ:stillichimiya/トーク:空族、Soi48、樋口泰人、その他予定/DJ:Soi48
『バンコクナイツ』特報
『バンコクナイツ』特報2
<社会派映画特集>
『トーンパーン』
映画『トーンパーン』より (c)The Isan Film Group
監督:ユッタナー・ムクダーサニット
(1976年/63分/Tongpan)
1976年制作、イサーン人農夫の生活と苦悩を描いた社会派映画。75年に実際に問題となったルーイ県のダム建設問題を題材に白黒16mmで撮影。主人公のトーンパーンは妻と2人の息子がおり、生きるために農作業だけでなくムエタイの試合に出場したり、サムロー(人力三輪車)の運転手をしていたりする。ただでさえお金がないのにもかかわらずダム建設で人生が一変する。民主化運動が高まり、共産主義者が隠れることとなったイサーンが舞台のために当時タイ政府から上映が禁止になったという幻の問題作。しかし海外では、その心に迫る生々しい映像から高評価を得てアジアン・アメリカ・インターナショナル・フィルム・フェスティバルでオスカーを受賞。その後『蝶と花』、『メナムの残照』を残しタイ映画の巨匠となったユッタナー・ムクダーサニットの貴重な初期作でもある。
(宇都木景一)
※現存するマスター起因により上映素材の映像・音声の状態が悪くお見苦しいことを、予めご了承ください。
『タクシードライバー』
映画『タクシードライバー』より (c)Five Star Production Co., Ltd.
監督:チャトリ・チャラーム・ユーコン
(1977年/124分/THE CITIZEN)
プリンス・チャトリ監督は留学先のUCLAでフランシス・F・コッポラやロマン・ポランスキーらと共に映画を学んだタイ映画を代表する作家である。王族でもあった彼はそれまでのタイ映画にあまり見られなかった“社会派”の作品を次々に生み出した。本作『タクシードライバー』は、ベトナム戦争時に兵站としてイサーン各地に造られた米軍基地(そこからベトナム、ラオス、カンボジアに爆撃機が飛び立っていった)のGIに妻を奪われ、ひとりバンコクに出稼ぎに出たイサーンの若者が主人公だ。
中央タイ映画において初の試みといってよいイサーン語(ラオス語)を喋る主人公が登場したこの映画は公開時にはタイ語の字幕が付けられた。現在でも中央バンコクと地方イサーンでは厳然たる差別が存在する。スラムに響く故郷のケーンの音色の中で、人間の尊厳を奪われたひとりの男が立ち上がる。『ハーダー・ゼイ・カム』、スコセッシの『タクシードライバー』と時を同じくして。
(相澤虎之助)
『東北タイの子』
映画『東北タイの子』より (c)Five Star Production Co., Ltd.
監督:ウィチット・クナーウット
(1982年/130分/A Son Of The North east"LukE-Sarn")
乾いた大地に照りつける太陽。イサーン地方は豊かな自然を誇るタイにおいて旱魃と水害が交互にやってくる不毛の土地と名高い土地だ。(現代のイサーン地方の旱魃は高度経済成長期の日本をはじめとする海外ODAの製紙産業による森林伐採が弊害となっていることはあまり知られていない)
荒野を進む村人達のキャラバンは、新しい土地を求めて旅立ってゆく。80年代に撮られたとは思えない幻想的な村の人々の暮らしは、自然とともに生きその厳しさの中で培ってきた営みをおかしみを持ってわたしたちに訴えかける。83年にマニラ映画祭で審査員であった大島渚が本作『東北タイの子』を絶賛したのは、そこになによりも“生命の躍動”が描かれていたからであろう。
注目はやはり村に錦を飾るモーラムだ。登場するアンポンはこのたび来日するアンカナーン・クンチャイにも影響を与えたモーラムの詠い手である。進化を続けるイサーン音楽、モーラムにぜひ体を揺らしていただきたい。
(相澤虎之助)
<大衆映画特集>
『花草女王』
映画『花草女王』より (c)Suwat Thongrompo
監督:スラシー・パータッム
(1986年/125分/Rachinee Dok Ya)
モーラム楽団をコンテストで優勝させるためにバンコクの青年とイサーン人達が知恵を絞り伝統音楽を進化させる音楽映画。社会派映画と異なりバンコクとイサーンの格差、都会と田舎の文化の違いを面白く軽快に描いている。『モンラック・メーナム・ムーン』で監督をつとめたポンサック・チャンタルッカーが音楽を監修し、臨場感あふれる当時のライブの様子、スタジオ風景が映っている。そして伝説のモーラム楽団、ランシマン楽団のチャウィーワーン・ダムヌーンとトーンカム・ペンディーがコンビで出演。バンコク青年にモーラムの基礎を教え込むために様々なモーラムの型を披露するシーンはこの映画の見所だろう。製作された86年から現在に至るまでイサーンの野外映画やお祭りで上映され、娯楽を愛すイサーンの心をつかんだ人気作。単純で解りやすいストーリーは心地よさ200%。
(宇都木景一)
※現存するマスター起因により上映素材の映像・音声の状態が悪くお見苦しいことを、予めご了承ください。
『ルークトゥン・ミリオネア』
映画『ルークトゥン・ミリオネア』より (c)M Pictures
監督:ガン・ホンラッタナーポーン
(2013年/107分/Looktung Millionaire)
レコード・レーベルの枠を超えて現在大活躍しているルークトゥン、モーラム歌手が大集合した音楽コメディー。歌手軍団がお寺へお参り行く際に、寄付金が盗まれて、みんなで泥棒探すなんともタイらしいストーリー。インリー・シーヂュムポン、ブルーベリー、クラテーなどタイのTV、ラジオ、街角で流れている有名歌手がズラリ。そして今や大物になってしまったワールド・ミュージック世代のアイドル、チンタラー・プンラープ、スナーリー・ラーチャシーマーも出演し脇を固めている。時代が変化しても、その時代の流行を取り入れ発展し続けるルークトゥンの世界。その雑食性と娯楽性が見事に表現されている。堅苦しいこと言わないで観て笑う。タイという国に日本人が惹かれる理由がこの映画にあるのかもしれない。
(宇都木景一)
『モンラック・メーナム・ムーン』
映画『モンラック・メーナム・ムーン』より
監督:ポンサック・チャンタルッカー)
(1977年/149分/MON RAK MENAM MOON)
70年の伝説的音楽映画『モン・ラック・ルークトゥン』のヒットを受け制作された幻のイサーン映画。ウボンラチャタニーを流れるムー川を背景にイサーン人の生活を描く。ダオ・バンドン、テッポーン・ペットウボン、シープライ・チャイプラなどルークトゥン、モーラム歌手が大集合。イサーンのコメディー王ノパドン・ドゥアンポーン、電気ピンを発明したトーンサイ・タップタノンが所属するお笑い楽団ペットピントーンも映画に華を添える。イサーン音楽の重要人物であり作詞家でもあるポンサック・チャンタルッカーが監督となり、音楽プロデューサーのスリン・パクシリに「イサーン版『モン・ラック・ルークトゥン』を製作してくれ」と依頼。イサーン音楽界が総力をあげて製作した傑作音楽映画。
(宇都木景一)
※現存するマスター起因により上映素材の映像・音声の状態が悪くお見苦しいことを、予めご了承ください。
<アピチャッポン・ウィーラセタクン特集>
映画『アートプログラム<中・短編集』より
『アートプログラム<中・短編集>』
2005-2010年/イギリス・韓国・日本・フランス/99分/デジタル
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
提供:トモ・スズキ・ジャパン
※台詞のある作品は日本語字幕付きで上映
『Worldly Desires』(2005年/42分32秒)韓国「チョンジュ映画祭」の企画『三人三色』で制作。
『エメラルド』Emerald(2007年/11分)閉館してしまったバンコクのエメラルド・ホテル。その場所の記録と記憶。
『My Mother’s Garden』(2007年/6分42秒)ディオールのデザイナーがもつ宝石コレクション。それに母の庭のイメージを重ねて撮影。
『ヴァンパイア』Vampire(2008年/19分)「旅」をテーマにした映像作品を依頼され、自ら出かけたタイとミャンマーの国境付近にはヴァンパイア鳥の伝承があり…。
『ナブアの亡霊』Phantoms of Nabua(2009年/10分43秒)映像インスタレーション「プリミティブ」プロジェクト(09)と同時制作。
『木を丸ごと飲み込んだ男』A Man Who Ate an Entire Tree(2010年/9分)タイの野生林で伐採を始めた男は、やがて、自然のドラッグ作用で自分をコントロールできない状態に…。
展示用に作られたインスタレーション作品や、韓国全州国際映画祭からの依頼で作られた『Worldly Desires』など、2005年から2010年の間に製作された中・短編集。ちょうどアピチャッポンの名前が世界的に周知し始められ、長編をコンスタントに発表していた時期。ここで行った実験が長編に反映され、そしてまた、長編での成果がここにフィードバックされる。それはアピチャッポンの映画の帰るべき場所でもあり、あらゆる場所への出発点とも言える場所でもある。そんなアピチャッポンの思考の広がりを、ここに見て取れる。試されているのは、大きく分けて、光と音と時間。映画を作り出す3大要素と言えるものだが、長編での「物語」の縛りから解放されているゆえ、映画はストレートにその3つに向き合う。まったく音のない作品もある。だがそこに描かれた光と時間からは、確実に音が聞こえてくる。映画を幻視し、幻聴し、未曾有の時間を体験する99分間。
(樋口泰人)
『光りの墓』
映画『光りの墓』より (c)Kick The Machine Films/ Illuminations Films (Past Lives) / Anna Sanders Films/ GeiBendorfer Film-und Fernsehproduktion /Match Factory Productions/Astro Shaw (2015)
監督:アピチャッポン・ウィーラセタクン
(2015年/122分/CEMETERY OF SPLENDOUR)
イサーン地方の森を舞台にした『ブンミおじさんの森』から約5年。アピチャッポンの今のところの最新長編は、自身の故郷であるイサーン地方のコーンケンを舞台にする。医者だった両親の思い出が、そこには込められている。しかし眠り病に冒されベッドに横たわる兵士たち、彼らが入院している病院の地下に眠るかつての王宮、そして見えない地下宮殿を案内する、男性が乗り移った女性など、思わぬ着想に誰もが驚くだろう。それはもちろん単に奇をてらったものではないことは、映画を見ればわかる。現在のタイの情勢、かつて起こったこと、これから起こるかもしれないこと。それらによって「必然的に」兵士たちや宮殿のエピソードが湧き出てきたのだ。イサーンという場所の土地に沈殿した時間が、この映画を作ったのだとも言える。「そこでは、単純な事柄が魔法になる」と監督が語るイサーン地方へ向けた言葉は、そのまま彼の映画作りにつながっていくだろう。
(樋口泰人)
『アイアン・プッシーの大冒険』
映画『アイアン・プッシーの大冒険』より
監督:マイケル・シャオワナーサイ、アピチャッポン・ウィーラセタクン
(2003年/90分/The Adventure of Iron Pussy)
2003年の東京国際映画祭他で上映されて以来、しばらく日本では見ることのできなかった本作。フィラデルフィア出身のマイケル・シャオワナーサイが1999年から制作を始めた「アイアン・プッシー」シリーズの1本として作られたもので、アポチャッポンとシャオワナーサイの共同監督作品となる。ミュージカル・アクション・コメディという説明がされてはいるが、とにかくアピチャッポン・ファンにとっては、その他の作品とは全く違うアピチャッポンの映画を観ることのできる貴重な作品。バンコクのセブンイレブンでバイトをしている男が実は女装スパイ(シャオワナーサイが演じている)であるという設定や、告知用の写真から想像されるえげつなさはもちろん、音楽でグイグイ攻めてあらゆる意味不明の唐突さを納得させてしまう力技など、見どころツッコミどころ満載。アピチャッポンの映画に見ることのできる惚けたカットや音楽の使い方のコアが、ここにある。
(樋口泰人)
イサーンとは
タイ東北部の名称。タイ王国の人口は約6718万人。イサーンの人口はタイ王国総人口の約三分の一を占める。ちなみにバンコクの人口は約825万人。都市圏の人口を合わせると約1456万人というから、いかにバンコクが東南アジア屈指の世界都市であるかがわかる。イサーンはラオスとカンボジアに隣接している。北部はイサーン語と呼ばれるラオス語に近い言葉が使われ、南部はクメール系住民が多い。食文化も異なりソムタム(パパイヤのサラダ)、ガイヤーン(焼き鳥)、カオニャオ(もち米)などが有名である。決して豊かとは言えない不安定な土壌での農業従事者が多いため、低所得者が多くバンコクに出稼ぎに行く者が多い。バンコクではタクシー運転手、土木現場の作業員、飲食店、水商売で労働する者が多く、中央のタイ人の差別対象として見られることも少なくない。このように都会と地方だけでなく人種問題も混じった格差が存在する。微笑みの国と呼ばれるタイだがこういった裏の面も存在するのだ。
そんなネガティブなイメージがつきまとうイサーンだが、非常に豊かな娯楽文化を持っている。60年代からイサーン人をターゲットにした映画、音楽が大量に作られていたのだ。TV、インターネットが普及していない娯楽の少ない時代、映画と音楽が制作されるのは当たり前と思うなかれ。近隣諸国のラオスや、ミャンマーは自国でレコードを制作する豊かさを持っていなかったのだ。カンボジアはポルポトの影響でポップス産業に空白期間が生まれている。そんな中イサーンは語り芸モーラム、イサーン語の歌謡曲のレコードやイサーン人用の大衆映画を制作していたというから驚きだ。何故豊かと言えないイサーン人にこのような文化が根付いているのか?その答えは簡単だった。
タイを代表する音楽プロデューサー、ドイ・インタノンはこう言っている。「イサーン人は娯楽のための金を惜しまない。たとえ1日働いた稼ぎが消えようとも欲しい音楽には金を払う」と。つまり単純に娯楽が好きな人々なのである。70年代〜90年代初頭にかけてレコードを大音量でかける移動式サウンドシステム・ジュークボックスや野外映画上映が農村を回っていた。特に農村部での映画の野外上映は大好評で、入場料は無料、かわりに興行主から薬を買うという富山の薬売り商法が成り立っていたのだ。
今回紹介する映画は中央の知識階級が映したイサーン、イサーン人を喜ばせるためにイサーン人自ら制作した大衆映画、イサーン人の境遇を生々しく描いた映画がラインナップされている。様々な角度から描かれたイサーンと素晴らしい音楽を味わってもらいたい。そこにはアピチャッポン・ウィーラセタクン、空族の映画『バンコクナイツ』に繋がる重要なヒントがあるかもしれない。
Soi48(宇都木景一&高木紳介)
・ルークトゥン:60年代から盛んになったタイ独自の大衆歌謡で、元々は農村や田舎を題材にした歌詞に基づいて命名され、特定の音楽形式はない。その後発展に従いタイの民謡、ラムウォン、欧米ポップス、ラテン、インド、日本、中国、ハワイ音楽などを吸収して巨大ジャンルとなった。
・モーラム:モーは達人、ラムは声調に抑揚をつけながら語る芸能。つまり”語りの達人”で、その歌手と芸能の両方をさす名称。モーラムは”歌”ではない。
「爆音映画祭2016 特集タイ|イサーン」
日程:2016年9月27日(火)〜10月1日(土)
会場:Shibuya WWW、WWWX(東京都渋谷区宇田川町13-17ライズビル地下&2F)
主催:boid、空族、Soi48
協力:WWW、Thai Film Archive、Donsaron Kovitvanitcha、Nonzee Nimibutr、ムヴィオラ、トモ・スズキ・ジャパン、オリエンタルブリーズ、コミュニティシネマセンター
助成:国際交流基金アジアセンター
協賛:MotionGallery
公式サイト
開催概要
山梨に住むタイ人とブラジル人と日本人の現実を思いもよらぬ視線によって描き出した映画『サウダーヂ』から5年。その間タイの地に拠点を移していた製作集団「空族」が、ついに新作を作り上げた。そこにはイサーンと呼ばれるタイの東北部のミュージシャンたちが出演しているという。タイの歴史のさまざまな闇をくぐり抜けてきた彼らの音楽は、過去と現在と未来とをひとつの音のうねりの中に巻き込んで、時間と空間をなきものにする。西洋の基準としての時間と空間を台無しにすると言ったらいいか。そしてより親密でより過酷でより猥雑でより深い愛の物語を生み出していく。2016 年の爆音映画祭はそんな音と映画を特集する。渋谷の街をイサーンの森の深い闇が覆う。その闇の中でわたしたちはいったい何と出会うだろうか。
─樋口泰人(boid/爆音映画祭プロデューサー)
タイムテーブル
9月27日(火) モーラムユニット・ライヴ (会場:WWW)
18:30 OPEN/19:00 START
出演者:ポー・サラートノーイ、アンカナーン&プロイ・クンチャイ、ポンサポーン・ウパニ、井手健介、attc vs Koharu/DJ:Soi48
9月28日(水) 爆音上映 社会派映画特集 (会場:WWW)
14:20 OPEN/14:50 START 『トーンパーン』(〜15:53終映予定)
16:15 OPEN/16:45 START 『東北タイの子』(〜18:55終映予定)
19:15 OPEN/19:45 START 『タクシードライバー』(〜21:49終映予定)
9月29日(木) 爆音上映 大衆映画特集 (会場:WWW)
14:00 OPEN/14:30 START 『花草女王』(〜16:35終映予定)
17:00 OPEN/17:30 START 『ルークトゥン・ミリオネア』(〜19:17終映予定)
19:15 OPEN/19:45 START 『モンラック・メーナム・ムーン』(〜22:30終映予定)
9月30日(金) 爆音上映 アピチャッポン・ウィーラセタクン特集 (会場:WWW)
14:30 OPEN/15:00 START 『アートプログラム<中・短編集>』(〜16:39終映予定)
17:15 OPEN/17:45 START 『光りの墓』(〜19:47終映予定)
20:10 OPEN/20:40 START 『アイアン・プッシーの大冒険』(〜22:10終映予定)
10月1日(土) (会場:WWW X)
WWW X Opening Series『バンコクナイツ』東京プレミア爆音上映
ミニライブ:stillichimiya/トーク:空族、Soi48、樋口泰人、その他予定/DJ:Soi48
16:30 OPEN/17:00 START
※すべて着席(9/27モーラムユニット・ライヴを除く)
料金
◆9月27日 モーラムユニット・ライヴ券 前売り 3500円/当日 4000円
◆映画1回券 前売り 1500円/当日 1800円
◆映画3回券 前売り 3600円 (前売り券のみ)
◆10月1日 バンコクナイツ・イヴェント券 前売り 2500円/当日 3000円
※全ての回ドリンク代別(500円)/完全入替制
※映画1回券及び3回券は9/27「モーラムユニット・ライヴ」と10/1「バンコクナイツ・イヴェント」には使用できません。
前売り券発売:
イープラス、ファミリーマートにて発売中
出演者
樋口泰人
空族
井手健介
ポンサポーン・ウパニ PONGSAPON UPANI
ポー・サラートノーイ PO CHALATNOI
アンカナーン&プロイ・クンチャイ ANGKANANG KUNCHAI & PLOY KUNCHAI
stillichimiya
Soi48(宇都木景一&高木紳介)
attc vs Koharu
<山口情報芸術センター[YCAM]関連企画>
『バンコクナイツ』 ジャパンプレミア"爆音"上映
9月24日(土) 13:30上映開始(13:00開場/16:30終了予定)
sound tectonics #18
バンコクナイツ・トリビュート・ライブ
出演者:アンカナーン&プロイ・クンチャイ/ポー・サラートノーイ/ポンサポーン・ウパニ
9月24日(土) 19:00開演(18:30開場/21:00終演予定)
YCAM Film Factory vol.2
[空族+スタジオ石+YCAM ]
新作インスタレーション展
9月24日(土)- 11月6日(日) 10:00-19:00
スタジオB 火曜休館|入場無料
山口情報芸術センター[YCAM]公式サイト