映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
パンク・ロックとケルト系民族の伝統音楽を融合させたジャンル「ラスティック」を鳴らす6人組バンドOLEDICKFOGGY(オールディックフォギー)の活動を追うドキュメンタリー映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』が8月11日(木)より公開。webDICEでは、『77BOADRUM』『kocorono』などで知られこの作品の監督を務める川口潤とOLEDICKFOGGYのメンバー伊藤雄和へのインタビューを掲載する。川口潤監督は、メンバーのバンド以外の仕事をしている様子を含む密着取材だけでなく、伊藤雄和が運転手に扮した「タクシー・シーン」などの演出を盛り込み、OLEDICKFOGGYが持つ攻撃的なサウンドやパンクな精神だけでなく、人懐っこさやどこか憎めないキャラクターを映像に収めることに成功している。今回のインタビューでふたりは、結成12年目となる2015年のOLEDICKFOGGYの音楽活動や日常に迫る本作制作の経緯、そしてバンドの活動スタンスについて語っている。
オールディックフォギーの第一印象は「ヘンな連中だなー」(川口)
──お二人は昨年6月に飲み屋で初めて会って今回の映画の話をしたそうですが、まずプロデューサーからドキュメンタリー映画の話をもらった時、伊藤さんはどう思いました?
伊藤雄和(以下、伊藤):映画か……と思って。ドキュメンタリーって密着されるんだろうし嫌だなと、ちょっと思って。でも最初に川口さんに会ってしゃべった時、普通のことはしたくないという話が出て、ちょっと面白いことやろうよみたいな話をしながら飲んでたんですけど、話がメチャクチャになっていって。あれやりたいこれやりたいとか出すぎちゃって、結局そこでは何も決まらず、とりあえず撮ってみようかっていうふうになったと思うんですけどね。
川口潤(以下、川口):ほんと、そこからなしくずしで完成に至るっていう感じですよね、ヘンな話。密着するしないとかっていう話も、お互いそういうものにしようと言ってたわけじゃなくて。ただ僕は知り合いじゃなかったんで、彼らのことを知りたいから、カメラを持ってレコーディングなりライヴなりに行くっていう。結局、そういうものが軸になった感じですね。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』川口潤監督[左]、伊藤雄和(OLEDICKFOGGY)[右]
──最初の飲みの席で面白いことをやろうとなった時、どんな話が出ました?
伊藤:僕がカンフー映画みたいなのをやりたいとか、スカイダイビングとか言って(笑)。
川口:要はヘンな連中だなーていうか、下品な感じも含めて、そこが逆に面白いなーと思って。やっぱりその時に、お互い何か普通じゃないものにしたいねっていうところがピンときて。絶対そうしたいわけではなかったんですけど、そういうものになる雰囲気があったから、面白くできるんじゃないかなって感じでしたね。それは間違いなく思いましたね。
──昨年8月6日の広島でのライヴに出向いたシーンが序盤に収められていますが、それは最初から行くと決めていたのですか?
川口:みんなから「広島は遠いんで絶対に行きましょうよ」と “連れていこう感”がちょっとあって。僕は“これは一発、苦楽を共にしないと……”って感じて。行ったら、着くや否や3人のメンバーがパチンコに行ったんですよ。“うわーこいつら馬鹿だー”と思って(笑)。大喜びですよ、僕的には。面白ぇーと思って。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
──パチンコはそうでもないですけど、酒とタバコのシーンが多いですね。それは意図的ですか? 意図しなくてもそうなるとか。
川口:普通にそういう感じだったんで。ただ、今逆にそういう人たちって僕からするとほとんど少なくなってる気はしてて。それがいいかどうかっていうのは置いておいてなんですけど、そういうのを化石みたいな感じで残しておきたい……まあそこまでは思ってないんですけど。ただお酒に関してはしょっちゅうだったんで。どこ行ってもまず出てくるんですよ、ライヴでも、レコーディングでも。ただアル中っていうんじゃなくて、ほんと好きで、たしなんでる感じがするのがいいなって。タバコは、なりふり構わずみんな車の中でもプカプカ吸うし、そういうのも珍しいなっていう感じで。タバコに関して言うと、タバコとロックを僕的には重ねて表現したかったなっていうのがちょっとあって。今どこでも吸えなくなってる感じと、こういうロックが減っていってる感じを、ちょっと掛けたかったっていうか。そういう意味で強調しているのはちょっとあるかもしれないですね。
──酒で乱れるシーンはないですが、普段も映画のように落ち着いて飲む感じですか?
伊藤:落ち着いてるけど、覚えてなかったりしますね。ツアー中はそんなにないですけど、普通の日とかは。
川口:昔とんでもない時期はあったと思いますよ。ただ彼らはもう三十代後半の人たちだから。
伊藤:次の日のライヴのことを考えるようになりましたね、やっぱり。
──そういうところも映画を象徴していると思います。ボンクラなようでビシッ!としているところはビシッ!としているというか。
川口:曲作りは、楽しみながらですけど、みんなそこに向かってやってるわって。やることはやってるんですよね。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
みんなと普段は一緒なんだっていうところを観てもらいたかった(伊藤)
──ライヴだけでなく、時間割いてリハーサルとかのスタジオのシーンを入れていますね。
川口:はい。特に最初の方は、わりとちょっと意識的に長めに入れた感じはありますね、バンド内での関係性含めてメンバー全員を知ってもらいたいと。
──そういうカメラ回しっぱなしの映像とは別に、随所で挿入される“タクシー・シーン”がいいアクセントになっていますね。
川口:ああいう意図的に演出されたシーンを入れたいなぁと、ちょっとずっと思ってて。なぜかというと、伊藤くんが絵画になるんで。あとメンバーの逸話みたいなのが、インタビューで話しちゃうとちょっと野暮なんですけど、そういう“ニュアンス”を演出して入れたら面白いんじゃないかなとずーっと思っててたところで、新作のアルバムの曲のビデオ・クリップの話がプロデューサーさんから来て(注:タクシーのシーンは「シラフのうちに」のビデオ・クリップにも使われている)。“タクシーに乗って歌ってる風景みたいなのをイメージできたんだよね”“伊藤くんが運転手をやって、ゲストとか入るのも面白いかも”ってなって。脚本みたいなのを真剣に書いて。今までメモったりとかもしてたんで、“こういうことできたら面白い”っいうのも入れた感じですね。
▼川口潤監督によるOLEDICKFOGGY「シラフのうちに」ミュージック・ビデオ
──あのシーンを観て伊藤さんは役者だと思いましたよ、いい意味で。ゲストごとに台本みたいなのが用意されていたのですか?
伊藤:全部あるんです。でもセリフないんですよ、僕はほとんど。だからわりと好きに。面白かったです。
川口:伊藤くんに関しては“受けの芝居”なんですよね。仲野茂さんとかのゲストの「おいっ! 運転手!」のセリフにノっていくわけですよ。もともと僕がセリフをちょこちょこ程度しか用意しなかったのを、伊藤くんがアドリブで広げていって、いいところを使ったっていうか。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
──アコーディオンの紅一点メンバーのyossuxiさんがタクシー内でちょっとエッチな忘れ物をしますが、あれも事実ではない?
伊藤:事実ではないですね。
川口:ドキュメント撮ってる時に伊藤くんに「よっちゃん(yossuxi)って普段何の仕事してるの?」みたいな話をして、伊藤くんが適当に「いや、わかんないですけど、もしかして風俗とかやってるんじゃないですかね」みたいなことを言ってたんですよ(笑)。
伊藤:実家が東京の大塚だからピンサロなんじゃないかなって話をしてて(笑)。
川口:そういうのを、いちいち、ネタにしている感じですよね。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より、タクシー・シーンの乗客役として登場する増子直純(怒髪天)[左]とNAOKI(SA)[右] ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
──そういう一人一人の“生活”の撮り方、見せ方も上手いですね。インタビューで表すシーンはほとんどないじゃないですか。
伊藤:それもライヴのMC無しと一緒で。
川口:そうかもしれない。結局、映画がバンドの佇まいに近くなっていくんですよね。インタビューやると“答え合わせ”みたいになっちゃうし、画と表情でわかれば。あとはやっぱり伊藤くんの、いわゆる食うためのビルの窓拭きの仕事が撮れてたんで、それで十分パンチはあるなと思って。そこは伊藤くんも「撮ってくださいよ」って感じだったんで、僕としてはすごい助かりましたね。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
──「撮ってくださいよ」っていう伊藤さんの気持ちはどんな感じだったんですか?
伊藤:隠さない方がいいかなと思って。メンバーもみんな、特別なことをやっているわけじゃないし、みんなと普段は一緒なんだっていうところをやっぱ観てもらいたかったというのが、実はあるんですけど。
川口:仕事をして好きなことをして、あ~こういう生き方があるんだなぁみたいなふうに僕は映ればいいなと思って。色々なバンドがあるんですけど、生き方として彼らが選んでいる道みたいなのを……僕は肯定も否定もしないですけど、まあでもどっちかって言うと肯定。自分もそれに近いし。教科書には出ないこういう生き方みたいなものが、やっぱ希望みたいなつもりで描いてますけどね。怖かったですけど、ほんと僕は高所恐怖症で、しかも雨でね、滑るんです。それなのに伊藤くんが下からニヤリとしていて。それまでほんと“こいつらダメな連中”と僕は思ってたんですけど、それだけで一気に尊敬の眼差しに上がっていって(笑)。たぶん観ている人も一気にここで尊敬に行くんじゃないかな。
──メンバーのプライベートや家族関係を多少見せる映像も挿入されますね。自室のシーン、お子さんが産まれる病院の外でタバコを吸いながら馬鹿話をするシーンもさることながら、母親にメッセージを贈るシーンも印象的です。あれは“リアル”な感じですか?
伊藤:いや、あれは“リアル”じゃないんですけど。フィクション部分も。まあリアルといえばリアルなんですけど、いちおう“役柄”の上での。(川口からセリフ等で)もらったのを、ちょっと書き換えてるんですけどね。だから完全ウソではないんですけど。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
川口:まあ叩き台を僕が書いて、伊藤くんが「自分だったらこう書きます」って。
伊藤:そこも、またちょっと古いタイプの演出ですよね、昭和の。70年代のテレビドラマの『前略おふくろ様』みたいな。
川口:そうだね。僕、そういうの好きなんですよ、70年代のドラマ/映画、洋邦問わず。だから、その感じですね。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
“パンク”の道を通ってきたっていうのを見せたかった(川口)
──そんな感じで色々な内容が盛り込まれていますが、政治関係の要素の入れ方も絶妙です。集会の外の光景やデモなど。そのへんを盛り込むことは話し合ったりしたのですか?
伊藤:してないですね。
──そういう集会やデモなどの映像の部分はメンバーがいない場ですか?
川口:そうですね。僕が勝手に行ってるだけで。ちょうどツアーの前の日だったりとか、彼らの練習スタジオに行く前に僕がちょっと寄ったりとか、まあ何かしらのついでではあるんですけど、時間的にその撮影の時期にあったままのことを入れてますよね。
──“広島原爆投下70周年”と“安保法案成立”が大見出しの新聞の一面の映像も挟み込んでいますね。
川口:広島の新聞は行った先の“現場”で配られていました。安保の方は僕、意図的に、買って、撮って映画の中に入れようかと思ったんですよ。そしたら楽器置き場のプロデューサーさんの実家にお父さんとかが読まれている新聞が置いてあったんです。使えるか使えないかはわからないけど、そういうのを撮っておいて、後から編集で考えて入れたんですよね。
──てっきり僕は伊藤さんのアイデアだと思っていました。どっちかといえば“そっちの方”から出てきたバンドなので。
伊藤:そうですね。
川口:まさにおっしゃるとおり、そういうところを通っているのは僕も聞いてたし、歌詞でもわかったんで、そういうのを“ニュアンス”で入れてもいいバンドだなと思ったし。ちょうど“そういう時期”だったんで、無理がないっていうか、自然に入れられるかなっていう感じで、考えてそこはやりましたね。そこだけが本質とは思わないですけど、そういう“パンク”の道を通ってきたっていうのを見せたいなぁって思って。
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』より ©2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
──バンドと政治との微妙な距離感がよく表われている挿入の仕方だと思いました。
伊藤:そういう場面でカンフーやっているおばさんがいますよね。あれにOLEDICKFOGGYを感じたらしいですよ、監督は。
川口:デモをやっている傍らの公園でカンフーを教えているシーンです。太極拳だと思うんですけど、そこにすごいバンドと同じものを感じたんです。政治的なところの近くなんだけど、あんまり関知してないであの人たちはやってるじゃないですか。でもわかるわけじゃないですか、何が起こっているか。あの感じが面白おかしくて。別のおばさんが“戦争反対”的なプラカード持って、その太極拳のところを横切ったりしてるのも面白くて。あれが撮れたから使えるかなって思いましたね。ほのぼのとした感じが撮れたんで。
──映画のタイトルは最新作で再録音した初期の曲のタイトルですが、込めた思いは?
伊藤:監督も俺たちにまどわされたっていう感じなので。川口さんよく俺たちに「だまされてるんじゃないか」って言ってたから(笑)。
──では伊藤さんが映画で自分のバンドを客観的に観て感じたのはどんなことでしょうか。
伊藤:客観的に観て、みんなちゃんとしっかりやってるなと思って(笑)。やっぱみんなバンドの人たちはステージに立っている人だから、タクシー内の撮影等での“芝居”とかもちゃんと。楽しいというか面白かったし、自分もいい経験になったし、良かったです。ただタクシー・シーンの時、ちょっと俺が太って映っているというのがちょっと……。あと毛を切ったばっかりで襟足の所が揃いすぎて気持ち悪いなというのはありました(苦笑)。
(オフィシャル・インタビューより、取材:行川和彦)
川口潤 プロフィール
SPACE SHOWER TV / SEPを経て2000年に独立。SPACE SHOWER TV 時代はブライアン・バートンルイスと共に「SUB STREAM」「MEGALOMANIACS」といった人気音楽番組を制作。独立後はミュージックビデオ、ライブDVD、音楽番組の演出等を多数手がける。08 年「77BOADRUM」をライブドキュメンタリー映画として発表。自主制作、自主配給で日本全国横断、海外上映を果たす。同年80年代パンクバンド「アナーキー」のドキュメンタリー映画にリミキサーとして参加。11年に劇場公開されたbloodthirsty butchersのドキュメンタリー映画「kocorono」は国産音楽ドキュメンタリーの真骨頂として音楽ファンだけでなく映画ファンにも支持された。13 年、東北の被災地に立つライブハウスツアーを敢行した HIP HOPグループTHA BLUE HERB の模様を追った DVD「PRAYERS」も話題となり、14 年にスマッシュヒットを記録したTEENGENERATEのドキュメンタリー「GET ACTION!!」に撮影・ 編集として参加。監督作品として「山口冨士夫 / 皆殺しのバラード」を発表。音楽ファンの間でいま最も信頼の置かれている映像作家である。
OLEDICKFOGGY プロフィール
2003年に東京にて結成。メンバーは伊藤雄和(vo,mand)、スージー(g,cho)、TAKE(wood bass)、 四條未来(banjo)、yossuxi(key,acd,cho)、大川順堂(ds,cho)の 6 名。カントリーやブルーグラスを基盤とした“ラスティック・ストンプ”を、エモーショナルでポリティカルな日本語詞と 60 年代後半~70 年代前半の日本のフォーク、ニューミュージック 風の温かいメロディやハードな音で鳴らすのが特色。2016年リリースのフルアルバム「グッド・バイ」(PX300/2016)ではより一層、ポップに、ハードコアに、エモーショナルに、ラスティックに進化を遂げ、ジャンルを超えた独自のスタイルを展開。そして、ライブの衝撃的な素晴らしさにより、様々なジャンルや様々な世代の支持者をクロスオーヴァーしながら増殖中。現在ライヴのオファーも非常に多く、年間ライブ数平均約100本。ヴォーカル伊藤雄和の強烈な存在感、佇まい、そして楽曲、歌詞の美しさが全ての観客を巻き込む。現代日本のロック・バンドの中で最も要注意すべき革命の音楽。奏でる音色は極悪フォーク、溢れる煮汁はパンクの魂、ダーティ・ラスティック・ストンプ!!!
映画『オールディックフォギー/歯車にまどわされて』
2016年8月11日(木・祝)よりシネマート新宿にて公開
8月27日(土)より第七藝術劇場、名古屋シネマテーク、
以降全国順次公開
監督・撮影・編集:川口潤
主演:OLEDICKFOGGY〈伊藤雄和、スージー、TAKE、四條未来、yossuxi、大川順堂〉
出演:渋川清彦、仲野茂(アナーキー)、増子直純(怒髪天)、NAOKI(SA)
Tezuka Takehito(LINK 13)、HAYATO(CROCODILE COX AND THE DISASTER)、中尊寺まい(ベッド・イン)他
製作:「OLEDICKFOGGY」映画製作委員会(ディスクユニオン+日本出版販売)
制作:アイランドフィルムズ
プロデューサー:廣畑雅彦、小松賢志
エグゼクティブプロデューサー:広中利彦、近藤順也
宣伝:VALERIA
配給:日本出版販売
2016 OLEDICKFOGGY Film Partners
ビスタ/ステレオ/カラー/デジタル/99分/2016年
公式サイト:http://oledickfoggy-movie.com/