骰子の眼

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東京都 渋谷区

2016-08-01 11:30


アウシュヴィッツの歴史授業が仏・生徒を変えた実話『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』

監督インタビュー「私達は歴史の遺産をどう扱い受け継ぐべきか」
アウシュヴィッツの歴史授業が仏・生徒を変えた実話『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO

実話をもとに、学校から見放された問題児たちの集まるクラスが、ベテラン歴史教師の情熱で変化していく過程を描く映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』が8月6日(土)より公開。webDICEでは、マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督のインタビューを掲載する。

貧困層が多く通うパリ郊外のレオン・ブルム高校を舞台に、問題児たちの集まるクラスを任された歴史教師アンヌ・ゲゲンは全国歴史コンクールへの参加を提案するが、生徒たちは「アウシュヴィッツ」という難しいテーマに反発。しかしアンヌは、強制収容所の生存者に彼らの経験を語ってもらうことを考える。他の先生から「29の異なる民族集団」と呼ばれる、イスラム教徒を含むこのクラス多様性は、そのまま難民問題が複雑化する現在のヨーロッパの状況の縮図と言っていいだろう。そんな教室でアンヌは、たとえ考えが異なっても他人の意見を聞くこと、そしてチームワークの大切さを辛抱強く説く。当時18歳だったアハメッド・ドゥラメは、高校時代のコンクールで優勝した自身の体験に基づきこの物語の原案を担当し、映画の世界を目指しながら歴史を伝える使命に開眼する少年マリック役で出演もしている。

アハメッドの体験したことをそのままの形で映画にしたいと思った

──脚本に参加し、出演者でもあり、映画の原案者でもあるアハメッド・ドゥラメにはどうやって出会ったのですか?

アハメッドはレオン・ブルム高校の最終学年にいて、2012年に公開された私の映画『MA PREMIERE FOIS』を映画館で見たんです。それから、彼が書いた60ページほどの脚本の下書きを読んで欲しいとメールで連絡をしてきました。ストーリーは、文科系のコンクールのこと、ある高校にやって来て、このコンクールに参加させることで生徒たちを成長させていこうとする教師の情熱の物語でした。最初にアハメッドに出会った時、このコンクール、コンペティションのアイディアがどこから来たのか知りたいと思いました。そして、アハメッドと彼の同級生たちの人生が、「レジスタンスと強制収容についての全国コンクール」に参加し、優勝をしたことに強く影響を受けたと知りました。このコンクールの存在は知りませんでした。アハメッドにこの出来事について語ってもらい、この集合的な経験が大きく彼を変化させたということを感じられました。すぐに、 この話についての映画を作りたいという欲望が湧いてきました。

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督
映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール監督

──彼には、どのように伝えたのでしょうか?

脚本に描かれていない話も、アハメッドが少しだけ触れたエピソードも、全てが感動的で驚きだと伝えました。世間一般が持つ敗北主義や、若者たちによく見られる無関心主義には流されないと決めた、この青年の道のりに心を動かされました。 私に何が出来るかを聞いたら、驚いた様子でした。次にアハメッドに会った時に、彼の担任だったアングレス先生に電話をしました。先生は、 自分と一緒に過ごした1年間が、こんなにも一人の生徒に影響を与えていたことに、とても驚いていました。

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO
映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より、アハメッド・ドゥラメ ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO

──本作をアハメッドと2人で考えることによって彼が一番学んだであろうこと、逆に監督が彼に触発されたことはありますか?

アハメッドとのコラボレーションは、まずアハメッドをよく知ることから始めました。なぜなら、私と彼は文化も宗教も性別も年齢も、何もかも違うからです。でも彼の体験したことをそのままの形で映画にしたいと思ったので、何度も話を聞き、何度も質問をし、彼の家で家族とも過ごし、一緒に考え、協力しあいました。1つのシーンを思いついたら、アハメッドに読んでもらい、このセリフでいいのか、こういう仕草をするのかなど色々聞いて作りあげました、彼自身は出演もしたがっていました、だから条件をつけたのです、高校を卒業してバカロレアに受かったらと。私としてはその時点で彼に出演してほしかったので、ドキドキしていましたが彼は無事にバカロレアに受かりました。

──アハメッドは今も映画の仕事をしていますか?

ええ!今、俳優として生活をしています。俳優になりたいと言っていましたが、その通りで今年の夏も撮影があります。きちんと自分で映画の仕事を沢山しているようです。書く方も続けていて、私のところにもシナリオを送られてくることがあります、またいつか何か一緒にできたらと思っています。書く方も続けてはいますが、彼の職業は、希望通り「俳優」と言って良いと思います。

反抗的な子供にも情熱を持たせることができる

──生徒たち役のキャストはどのように選ばれたのでしょうか?

2種類のオーディションをしました。ひとつはプロの俳優さん、もうひとつは現場に行って学校で声をかけたのです。学校は都市郊外のクレテイユ地域の学校で探しました。その結果、半分は演技経験のある若い俳優、半分は普通の高校生で夏のバカンス中に撮影に参加してくれました。

オーディションで全員に会いました、私は高校生のパーソナリティに興味がありました。というのもシナリオを書いている時に、何度も高校に行っては取材をしました、今の高校生、そこに流れる空気、多様性を出したかった。一人一人の人格というものがとても大事だったのです。

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO
映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より、メラニー役のノエミ・メルラン ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO

──映画の登場人物、アンヌ・ゲゲンのモデルとなった教師アンヌ・アングレスは、どのように生徒たちの心をつかむことができたのだと思いますか?

よく理解するためにレオン・ブルム高校でアンヌ・アングレス先生の授業に何度も出席しました。彼女の愛情に満ちながらも権威を保ち、それが生徒との間に相互的な敬意を生み出している様子に感心しました。生徒たちはアングレス先生が厳しいという噂を聞いているので、始めはビクビクしていますが、1年が終わる頃には先生から離れることを悲しむのです。先生は生徒たちを、彼らが想像するはるか上のレベルまで成長させてくれるのです。他にも、様々な高校の授業に出席しました。今の高校1年生というものがどういうものか理解したかったのです。たいていの教師は軽い口調で話し、生徒はポケットの中か膝の上にある携帯電話のバイブに気を取られながら、授業をチラチラ見ています。突然身をかがめてメールを送る。教師の声は切り離されていて、教師の話は生徒たちと結びつくことがありません。

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO
映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より、アンヌ・ゲゲン役のアリアンヌ・アスカリッド(右)、生徒ルディ役のアミネ・アンサリ(左) ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO

──本作が描くのは今の一般的な高校1年生の真逆です。思春期の子供たちが、遺跡くらいにしか考えてなかったひとつの歴史が、自分たちに密接に関係しているのだと発見するのです。

この話は反抗的な子供にも情熱を持たせることができる、と伝えています。生徒たちは能動的になって初めてコンクールに興味を持ち始めます。その重要なきっかけは、思春期に強制収容された、証言者、レオン・ズィゲルとの出会いです。レオンは学生を前に自らの体験を語ることに慣れていて、それは70年にわたる彼の使命でもあります。この、歴史が宿った目、視線との出会いは、このコンクールに参加したすべての生徒を大きく動かすきっかけになりました。私は、レオン・ブルム高校で、アハメッドがコンクールのための準備をしていた時に実際に高校にやって来たレオンの出演を強く希望しました。

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO
映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO

私達は何を受け継ぐのでしょう

──なぜ『LES HERITIERS(原題:相続者たち、後継者たち)』というタイトルを選んだのですか?

映画が出来上がってから思いつきました。この言葉を、今の多様なコミュニティーの出身で、多様な宗教背景を持つ若者たちに結びつけることに大きな喜びを感じます。さまざまな出自を持つ若者の顔とこのテーマをつなぐのは、珍しいかもしれませんが、この映画で重要なのは「heritage (遺産、継承)」についての問いだと思います。私達は何を受け継ぐのでしょう?それから私達は私達の「heritiers (後継者たち)」に何を残すのでしょう?歴史の遺産をどう扱うのか?文化的、社会的、歴史的遺産を無視すること、他者の遺産を理解することはできるでしょうか?何を守るのか?

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO
映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』より ©2014 LOMA NASHA FILMS - VENDREDI FILM - TF1 DROITS AUDIOVISUELS - UGC IMAGES -FRANCE 2 CINÉMA - ORANGE STUDIO

──これから公開される日本の観客にどこを見てほしいですか。

日本で本作が公開されることになり、とても嬉しいです。国も文化も言葉も歴史も違う日本で、どういう風に受け止められるのか、まったく未知数で、興味がありました。来日中にこの映画を観た16歳の高校生が感動し涙を流したと伺いました。日本はフランスと言葉もまったく違います。たとえば英語などフランス語と近い言葉でも、それぞれバックグラウンドが違えば、すべてを理解してもらえるわけではありません。ましてや言葉や歴史も違う、こんなに遠い国にある日本なのですから、16歳が16歳なりにわかる範囲でしかわからないわけです。それでも感動を届けることができた、つまり映画がひとつの言語になったのです!私の映画云々ではなく、これこそが映画が持つ力であり、これこそが奇跡と呼べるのではないでしょうか。

(オフィシャル・インタビューより)



マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール(Marie-Castille Mention-Schaar ) プロフィール

コロンビア・ピクチャーズのDevelopment Excutive、ハリウッド・リポーターの国際版編集長を務めたあと、制作会社Trinacaでエクセキューティブプロデューサーを務める。1998年に制作会社LOMA NASHAを共同で立ち上げ、着想、脚本執筆、公開時のマーケティングなどの、プロジェクトを通した展開戦略に力を尽くしている。2001年、さらにVENDREDI FILMを共同で立ち上げ、この2つの制作会社で12本の長編を制作している。2012年に第一回監督作「MA PREMIERE FOIS」が公開され、同年に監督第二作「BOWLING」も公開された。『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(14)は長編監督作品3作目となる。また、プロデューサー、配給、テレビの映画編成担当者、エージェント、ジャーナリストなど、映画業界の女性たちからなるCERCLE FEMININ DU CINEMA FRANCAIS (フランス映画の女性サークル)の設立者でもある。




映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』ポスター

映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
8月6日(土) YEBISU GARDEN CINEMA、ヒューマントラストシネマ有楽町、
角川シネマ新宿ほかにて全国順次公開

貧困層が暮らすパリ郊外のレオン・ブルム高校の新学期。様々な人種の生徒たちが集められた落ちこぼれクラスに、厳格な歴史教師アンヌ・ゲゲンが赴任してくる。「教員歴20年。教えることが大好きで退屈な授業はしないつもり」と言う情熱的な彼女は、歴史の裏に隠された真実、立場による物事の見え方の違い、学ぶことの楽しさについて教えようとする。だが生徒達は相変わらず問題ばかり起こしていた。ある日、アンヌ先生は、生徒たちを全国歴史コンクールに参加するように促すが、「アウシュヴィッツ」という難しいテーマに彼らは反発する。ある日、アンヌ先生は、強制収容所の生存者レオン・ズィゲルという人物を授業に招待する。大量虐殺が行われた強制収容所から逃げ出すことができた数少ない生き証人の悲惨な状況を知った生徒たちは、この日を境に変わっていく―。

監督:マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
脚本:アハメッド・ドゥラメ、マリー=カスティーユ・マンシオン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメ、ノエミ・メルラン、ジュヌヴィエーヴ・ムニシュ、ステファン・バック
配給:シンカ
提供:シンカ NHKエンタープライズ
後援:ユニフランス 在日フランス大使館/アンスティテュ・フランセ日本
2014年/原題:Les Heritiers/105分/フランス語/シネスコ

公式サイト:http://kisekinokyoshitsu.jp

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