映画『シスター・ジャップ―ラスタを生きる女』中村保夫監督(左)、iYUMi(右)
日本とジャマイカを股に掛け、ラスタとしてパワフルに生きる日本人女性のドキュメンタリー映画『シスター・ジャップ—ラスタを生きる女』が現在制作中。これにあたり現在、クラウドファンディング・サイトMotionGalleryにて支援プロジェクトを実施している。webDICEでは監督を務める中村保夫さんからのメッセージを掲載する。
急遽の撮影となった昨年11月は、スタッフの確保が出来ず、監督の中村保夫が自らカメラを手にジャマイカに3週間滞在した。その際の映像を観て、この企画に賛同した映像作家、高橋慎一(『Cu-Bop監督』)、有馬顕(馬車馬企画代表)も制作スタッフとして参加が決定した。
今年はエチオピア皇帝ハイレ・セラシエがジャマイカを訪れて50年という節目であり、7/23にボブ・マーリー所縁の地での重要なナイヤビンギ(ラスタの宗教的な儀式の集会)があるため、追加撮影に赴くことになった。追加撮影、映画の制作、上映、そして、困窮するジャマイカのラスタ・コミュニティへの支援のため、プロジェクトを立ち上げた。
1989年に「モモコクラブ」でデビューを果たしたアイドルがラスタに憧れ芸能界を捨ててジャマイカへ渡り、2度の結婚、4人の出産、最愛の旦那の突然の死……女手ひとつで4人の子を育て、日本とジャマイカを股にかけるパワフルなラスタ・ウーマンiYUMi(アユミ」を描く作品だ。2017年春~夏、渋谷アップリンクにて公開が予定されている。
今回のクラウドファンディング・プロジェクトは、2016年9月30日までの期間で、100万円を目標に資金を募る。集まった資金は、7月末に行われた追加撮影、編集、スタジオ代、宣材の印刷・デザイン、ナイヤビンギセンターへの食料支援などに使用される。詳しくは支援プロジェクトページまで。
中村保夫監督からのメッセージ
「時代によって形を変えていくラスタの思想、
ライフスタイルを映像に収めたい」
僕の本業は書籍の編集だが、なぜか、映像作品を撮らざるを得ない状況に追い込まれ、これまでに3つの作品に様々なカタチで携わり、監督や編集はもとより、今回は撮影まで自分でするようになってしまった。大概が急な話でスタッフを探す時間がないということもあるが、もっとも大きい理由はなんといっても金銭的な問題。売れもしないアンダーグラウンドな企画にスポンサーなどつくわけがないし、ついたとしてもカネを出すからには口も出す、なんてことになったら最悪だ。国家権力から助成金もらって表現するっていうのもカッコ悪いし、実現したかったら資金も労力もすべて手前で用意するしか方法はなかったというワケ。
映画『シスター・ジャップ―ラスタを生きる女』iYUMiと彼女の家族
そういった点では、今はクラウドファンドという手がある。当初の目的を逸脱して商業的に上手に利用する企業なんかは別として、純粋に表現をしたい人と純粋に支援する人が結びついて、後世に残る作品が産まれたとしたらそれは素晴らしいことだと思う。
東京キララ社をご存知の方はお分かりの通り、うちの著者陣は有名無名を問わず他の追随を許さない《大人物》ばかり。そんな人たちから時々、書籍だけでなく映像の企画を持ちかけられる。しかも、その瞬間は有無を言わさず良いも悪いも突然訪れる。そういったモンスター級の大物でなければ行くことさえできない場所、撮影できないシーンだったり、とても魅力的な内容に興味は湧くけど、そういった話は大抵が準備の時間がなく、なにか大きなリスクが伴うものだ。おカネの問題ならまだしも、命に関わる場合もあるし、行ってみなければ撮れるかどうか分からないことさえある。
さあ、それでもやるかどうするか、それを瞬時に決断しなくてはならないため小回りの利かない大きな会社では対応不可能で、結局は僕がやることになる。そうやって毎回、企画書らしきものの一枚もなく、すべてが始まっていく。
「チカーノになった日本人」ことKEI、「エメラルド・カウボーイ」こと早田英志、「日本一のジゴロ」こと伏見直樹。そういったモンスターと肩を並べる人物がiYUMiだと僕は前から思っていた。アメリカの刑務所に10年以上服役してチカーノギャングのファミリーになったり、コロンビアのエメラルド鉱山に単身乗り込み、ゲリラと銃撃戦をしながら世界のエメラルド王になったり、歌舞伎町でナンバー1ホストになって億単位のカネを貢がせマスコミを賑わせたわけでもない。だけど、iYUMiはそういった人たちに引けを取らない風格を醸し出している。共通する点は、どこかに所属したり依存したりしないで自分一人の力で生きていけること、相手によって態度を変えないこと、見ず知らずの他人のことも考えられること。一言で言うと器が大きいこと。
映画『シスター・ジャップ―ラスタを生きる女』より
今の世の中、自分自身で精一杯の人が多いでしょう。自分しか見えてないというか、他人のことを見る余裕も筋合いもないといった感じの人ばかり。それはその人の器が自分一人で一杯になってしまうからで、その器の大きさによっては、自分だけではなく家族、親族、会社……最終的には人類や宇宙のことまで考えられるワケです。
KEIは問題を抱えた少年少女の更生ためにボランティア活動しているし、伏見直樹は日本全国へ旅に出かけた際、47都道府県の繁華街に活気があるかを心配して夜な夜なパトロールし続けた。まるで自分の育ってきた世界に対しての恩返しを実行しているかのようだが、iYUMiにとってそれはラスタであり、ジャマイカなのだ。iYUMiはラスタをもっと多くの人に知ってもらいたいと言う。
「バビロンシステム(資本主義社会で権力者が独占的に搾取する仕組み)の汚れた世の中で、 正義と平等 を基本とした一番古くて新しい生き延びる術がラスタなんだと思うんです。ラスタにはI&Iという思想があって、IとYOU、つまり僕と私といった隔たりはないという考え方です。それは人と人だけじゃなく、自然との共存もそうです。ラスタは宗教じゃないから、時代に合わせて進化していけます。時代時代に応じて、平等で正しい生き方を実践する。ラスタはこれからもずっと続いていきます。そういった存在がいることを皆さんに知ってほしいんです。それが世の中がなにか変わるきっかけになったら嬉しいんです」
ジャマイカの映像を撮りませんかと僕に勧めてきたのも、アイタルフードの教室を開いているのも、iYUMiにとっては同じ目的で、音楽やファッションから入ってくる日本人に、本当にラスタの生活、考え方、意識を知ってもらいたいからなのだ。
映画『シスター・ジャップ―ラスタを生きる女』より
今回、ラスタの人たちにとってジャー(神)の化身とされているエチオピア最後の皇帝ハイレ・セラシエ1世がジャマイカを訪れてからちょうど50年の節目を迎える。当時のことを知り、またラスタ思想を世界中に広めたボブ・マーリーの生前を知るラスタマンは少なくなってきた。ラスタに定義はなく、また明文化もされていない。時代によって形を変えていくラスタの思想、ライフスタイルをこの機会に映像に収めることは、これからも続いていく未来のラスタマンのためにも重要なことだと僕たちは考えている。
映画『シスター・ジャップ―ラスタを生きる女』より
いくらバビロンシステムを否定するラスタでも、最低限のお金はどうしても必要だ。お金自体が悪いわけじゃない。ナイフだって使い方によっては凶器にもなるし、美味しい料理を作ってみんなを幸せにすることもできるとiYUMiは言う。
前回の撮影の際に、ナイヤビンギ(ラスタの宗教的な儀式の集会)の司祭を務めた長老と、この映画の収益の一部を、ナイヤビンギセンターを継続させるための支援に充てる約束をした。だけど、そういった短期的なことだけじゃなく、iYUMiは貧困から抜け出せない環境で生まれた子供たちへの支援を見据えている。学校に通えない子供たちへの教材の寄付はもちろん、民芸品などの職業訓練をサポートする計画を立てている。その商品を日本でとフェアなトレードをし、ラスタに正当な収入が入るシステムを作るまでが、iYUMiの本当の目標だ。
映画『シスター・ジャップ―ラスタを生きる女』より
レゲエという音楽を通じて世界中にラスタのメッセージを伝えようとし続けたボブ・マーリーに影響を受けて、遠く離れた地球の裏側にある日本の芸能界からジャマイカに飛び込んだ彼女が、実際に起こしている行動を記録するのが、彼女30年来の知り合いとしての僕の使命なのかと思っている。そのために昔から知り合いだったのかと思うと、すごく合点がいく。
今回、ラスタを紹介するにあたり、様々な立場のラスタに接触してきた。著名なミュージシャンでお金も地位もある人もいれば、人里離れたナイヤビンギセンターで俗世とは無縁に敬虔なラスタファリアンとして過ごす人もいる。そして、キングストンという都会のゲットーで生まれ、代々ギャングとして生きるしか術のない人たちもいるのです。
ラスタの「ONE LOVE」や「I & I」という思想からすると、暴力は許されることではないが、現実として生まれながらにしてギャングとして生きるしかない人がいるのであれば、それもラスタの一面であるし、ドキュメンタリーとして無視することはできないと考えている。
今回の支援プロジェクトで使用した、iYUMiが銃を構えた写真を撮影したのは、ゲットーのギャングたちから敵やスパイと思われないように、「お前も銃をかまえろよ」と言われたからだ。そのシーン自体を使うかどうかはこれからの編集次第だが、特殊な環境で生きる彼女のバイタリティを表す画として良いと判断して使用している。
中村保夫 プロフィール
1967年、神田神保町の製本屋に生まれる。千代田区立錦華小学校、早稲田実業中等部、高等部を卒業。九州のデベロッパー、東京の出版社で12年間のサラリーマン生活を全うし、21世紀の幕開けとともに出版社・東京キララ社を立ち上げる。『KEI チカーノになった日本人』(KEI)『死なない限り問題はない』(早田英志)『RANGOON RADIO』(宇川直宏)『ブラックアンドブルー』(根本敬)など他社では実現し得ないディープな企画を続々と出版。本職は編集者だが、必要に迫れば映像も作り、呼ばれればレコードを回す。現在は永田一直が主催する和ラダイスガラージのレギュラーDJとして、国内だけでなく海外(シンガポール)のフロアを席巻。これまでに手掛けた映像作品にはDVD『CHICANO GANGSTA』(監督)、映画『i&i~after Bob Marley 21,000miles』(プロデューサー)、DVDブック『ジゴロvs.パワースポット』(監督・編集)がある。
■『シスター・ジャップ―ラスタを生きる女』MotionGalleryプロジェクトページ