骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2016-06-18 01:30


ジェームス・ブラウンの「ヴァンプ・ミュージック」の発明なしにはヒップホップも存在しなかった

映画『ミスター・ダイナマイト』公開記念、中田亮×浜野謙太ファンキー対談
ジェームス・ブラウンの「ヴァンプ・ミュージック」の発明なしにはヒップホップも存在しなかった
渋谷アップリンクでの映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』成功上映イベントにて 左:中田亮氏 右:浜野謙太氏

ジェームス・ブラウン(以下、JB)をこよなく愛する2大ファンクバンド、オーサカ=モノレールのリーダー中田亮氏と、在日ファンクのリーダーで俳優としても活躍する浜野謙太氏が、ドキュメンタリー映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』の公開を記念して、渋谷アップリンクで開催されたスペシャル・イベントに出席。JB についてなら何時間でも語れるという両雄が「オレのJB論」をテーマに、時折ダンスを披露しながら熱いファンキー・トークを展開した。

アメリカの音楽シーンに多大な影響を与え、“ショービジネス界で最も働き者”として君臨したジェームス・ブラウン。本作では、黒人の権利を求める活動家として、ビジネスマンとして、そして「ファンク」を生み出した偉大なアーティストとして人生を駆け抜けた彼の生き様に肉迫。絶頂期のライブパフォーマンスを含めた貴重な未公開映像、当時を知る関係者、バンド・メンバーのインタビューなどを交えながら、JBの真の姿を浮き彫りにしていく。なお、ザ・ローリング・ストーンズのミック・ジャガーが本作のプロデューサーを務め、本編の中でもJBについての印象を赤裸々に語っている。

JBの魅力、それは「ヘタクソ」でも「ウマイ」と思わせる不思議なパワー

中田亮(以下、中田): JBとの出会いは高校1年の頃になるかな?大好きだったYMO(イエロー・マジック・オーケストラ)が解散後、細野晴臣さんが「セックス・マシーン」(Sex Machine)という曲をカバーしたんですが、いまいちグッとこなくて(笑)。その時にJBの存在を友達から教えられて、本物を聴いたら、もう、ぶったまげてしまった。その後、当時の最新アルバム『アイム・リアル』(I'm Real)を買って聴いたら、これがまた凄くて。ジャケットなんて、オレがリアルだ!JBの顔がバーン!ですからね。

ジェームス・ブラウン『アイム・リアル』

歌詞も、オレがどうしたとか、オレはこうだとか、オレがオレがってずっと言ってて、今の若い奴はアカン!みたいな。全然ポエトリーとかじゃないけれど、こんな世界があるんや!と思って痺れましたね。そうやってどんどんハマっていって、ビデオとかも観るようになって、「これ絶対にやるぞ!」と思ってファンクを始めた。

浜野謙太(以下、浜野):今、7人組のバンドをやってるんですが、2006年の年末にJBが亡くなったので、その遺志を受け継ぐために2007年に結成しました(真顔のジョークに会場爆笑)。僕がブラック・ミュージックを好きになったきっかけは、『ブルース・ブラザース』で、当時はまだ、JBもショーケースの中の一人でしかなかったんですが、アルバム『ライヴ・イン・パリ’71』(Love Power Peace)を聴いた時、「ブラサー・ラップ」(Brother Rapp)という曲と「エイント・イット・ファンキー・ナウ」(Ain't It Funky Now)という曲のつなぎがツボに入ってしまって。

ジェームス・ブラウン『ライヴ・イン・パリ ‘71』

アップテンポから突然ミドルテンポに変わり、なんだこれは!と思って、ビデオでライブ版をチェックしてみたら編集じゃなかった。僕がアルバムで聴いていたあのスピード感、あの細かい音符をJBが足のステップで表現していたので驚きましたね。あとは、YouTubeか何かで観たんですが、曲と曲のつなぎの時にドラマーが目測で打ってたりするんですよね。あれ、何でしたっけ?

中田:「コールド・スウェット」(Cold Sweat)から「ギブ・イット・アップ・ターン・イット・ルーズ」(GIVE IT UP OR TURN IT LOOSE)につなぐ時やろ?あれ、カッコええな。なんや、だいたいオレの好きなところと一緒やんか(笑)。

浜野:あはは、何なんですかね、このつなぎのツボは。

映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より

中田:JBにはいろんな側面があって、一つでは語り尽くせない人なんやけど、30年間、僕なりに研究した結果、彼はピアノは弾けない、ドラムはめちゃくちゃ、でも、みんなに「ウマイ!」と思わせるパワーがある。僕はヘタクソですが一応ピアノ弾きなんで、「JBみたいに弾くにはどうすればいいのか」って一生懸命に研究していた時期があったんですが、どうも音程がおかしい音があって。でも、チューニングは狂ってないから、これはJBマジックやなって思ってたら……あの人、キーを間違えてるだけやった(笑)。

浜野:ああーわかる!JBには、なんか不思議な音、ワンダーキーがありますよね。

中田:そうそう。それで、JBバンドのトロンボーン奏者だったフレッド・ウェズリーと話したことがあるんやけれど、オレが「JBは下手くそだけどピアノもドラムも好きです」って言うたら、「ほんまに好きなんか?」と返されて、「好きです」って言うたら、「ほんまか?ほんまに好きなんか?ファイナル・アンサー?」って詰め寄られて、「いや、あの、うーん、正直、あんまり好きじゃないです」って言っちゃった(爆笑)。「お前がほんまに好きなら、耳が悪い証拠だぞ」って言われて。フレッドは音楽をショウビジネスやエンタテインメントとしては見ていない人。優秀だけれど、楽器が上手いか下手か、で考える人なんやね。

映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より

この作品は、JBの知られざる真の姿を捉えたかつてないドキュメンタリー

中田:今回、字幕監修もやらせていただきましたが、ここまでJBをディープに掘り下げた作品は今までなかったと思いますね。偉大なミュージシャンという表層的なことだけじゃなく、ステージの裏側や政治的な活動、JBの人柄や事業にも言及してるしね。

浜野:そういえば、JBを取り巻くメンバーがたくさん登場しますが、中田さんに「いやぁー、映画、面白かったです。愛憎入り交じる感じで」って言ったら、「いや、愛はないと思うよ」って一蹴されましたよね。

中田:インタビューでもあったように、バンドのメンバーは、黒人解放運動に一役買い、音楽の歴史の1ページを飾ったJBとツアーできたことは誇りに思っているのは確か。でも、人間的に好きかというとぜんぜん好きじゃなかったりするんだよね(笑)。その一方で、女性シンガーたちはJBに対して愛はあると思う。黒人のコミュニティーの中でも別格の人やから、独り占めできないことはわかっているけど、みんな彼のことが好き。ただ、ちょっと怖いところもあって、別れた彼女に「今、何してんねん」とか「今、どこに住んでんねん」とか「彼氏いてるのか」「金に困ってないか」とか“コントロール・マニア”なところがある……って、うん、あれ?オレ、さっきから悪口ばっかり言ってるなぁ。

映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より

浜野:まぁ、映画を観ていると、だいたいそういう人だろうなぁっていうのは思っちゃいますよね(笑)。ただ、そういう嫌な奴の部分が逆に人間っぽくて、パワーに繫がっていますよね。『ソウル・パワー』(ジェームス・ブラウンが出演した伝説の音楽祭「ザイール74」を追ったドキュメンタリー)を観た時に思ったんですが、黒人のアーティストがいっぱい出てくるフェスでも、JBはみんなと仲良くやる気はさらさらなくて、逆にこいつらの上に立ってぶっ潰す!みたいな勢い。ああいうところが僕、なんか好きなんですよね。

中田:そういうところあるよね。「みんなで作っていきましょう!」っていう発想は全くない人。でも、その根底にあるのは孤独なんだよね。この映画でも語られていたけど、JBは、お母さんにも捨てられ、お父さんにも捨てられ、兄弟もいない。売春宿を経営するおばさんのところで育てられ、10代は刑務所暮し。信用する人が全くいない孤独な人だった。言ってみれば『想像を絶する一匹狼』ですよね。

浜野:でも、あのJBのゴッドファーザー的な立ち位置、実力があるんだと見せるところが凄い好きで、昔、ビッグバンドをやってたんですが、ああいう大所帯のバンドって、ボスがいるような封建的な構図じゃないとつまんないんですよね。僕もボスになりたかったけれど、結構、クーデターが起きちゃうんですよね。まぁ、僕らは日本のファンクなんで、ころころかわる首相と同じ。大統領にはなれないということですかね(笑)。

JB最大の音楽的功績は「ヴァンプ・ミュージック」をこの世に生み出したこと

中田:まぁ、JBに関してはいろいろあるけれど、音楽業界にもたらした最大の革命は、ヴァンプ(Vamp)の曲を作ったことやね。通常の曲は、イントロ、Aメロ、サビ、間奏、そしてまたAメロとか流れがあって、ヴァンプ(遊びの部分、アドリブの部分)に入っていくけど、JBはヴァンプのところ、つまり曲ができてなくて練習しているところをそのまま曲にした。だからコード進行がなく、メロディもないという、かつてないスタイルを確立した。ハウスやテクノやヒップホップなど、今、聴いているクラブミュージックは1960~70年代前半まではなかったが、その源流を作ったのがJB。

浜野:なるほど、それを機械じゃなくて人力で確立した人がJBだと。めざしていた音楽のベクトルが違う次元だったんでしょうね。

映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より

中田:ダンスに集中するための音楽とか、しゃべる(ラップ)ことに集中するための音楽とか、ラップやヒップホップもJBがいなかったらこの世に存在しなかっただろうし。

浜野:ということは、ヒップホップのトラックのようにコードの進行に関係ないフレーズを時々在日ファンクでやりたいと思うのは、間違いじゃなかった。思いっきりJBの影響を受けているということですよね。

中田:進行しない奴ね(笑)。

浜野:あと、JBはもとよりアメリカでは音楽を通じて社会的なことに貢献したり、政治的なことを訴えたり、積極的にやっていますが、日本のミュージシャンはあまりやらないじゃないですか。その辺りはどう思います?

中田:確かにね。JBは「ブラック・プライド」、つまり黒人の尊厳を主張し、この映画はそこに焦点を当てているところが素晴らしかった。公民権法が制定されても何も状況が変わらず、1968年にはキング牧師が暗殺され、時代がどんどん急進的になっていく。そんな中、JBが「セイ・イット・ラウド、アイム・ブラック&アイム・プラウド」(Say It Loud, I'm Black & I'm Proud)を発表し、「プライドを取り戻せ!」「今こそ団結を!」と訴えるわけだけど、JBの影響力が政治的にあまりにも大きくなり過ぎて、結局はニクソン大統領の画策に取り込まれ、最後は裏切られてしまうという……ここがこの映画のストーリーなんだよ。

ジェームス・ブラウン『セイ・イット・ラウド』

浜野:僕らはJBがやった活動をどう受け入れていったらいいんですかね。

中田:JBは黒人たちの価値観を、たった1曲で180度変えてしまうくらい影響力を持ってしまい、黒人解放運動などにも大きく貢献したけれど、本人の精神構造にはエゴイストな部分もあって、同胞のことを思いながらも、自分が常にヒーローでありたいという願望も持っていた。ただ、いろいろ複雑な思いもあるけれど、JBから大きな勇気とエネルギーをもらった、これだけは確かなことだよね。

この日のイベントは、中田と浜野がJBへの愛あるツッコミを入れたり、JBが得意としたキャメルウォークや韓国の女性アイドルグループ“少女時代”の美脚ダンスを披露したり、終始、笑いと熱気に包まれた。これもひとえにJBの「偉大だけれど、どこか憎めないキャラクター」が成せる仕業だろうか。偉業は数あれど、そこに至るまでの言動や行動に傲慢さが見え隠れする。だが、そこがまた、人間臭い魅力となって我々を永遠に魅了し続けるJBの懐の深さ。誰一人、信用できなくなるまで悲惨な暮らしを強いられた幼少時代を自力で乗り越えたミスター・ダイナマイト。そのファンキーなスピリッツは、中田、浜野をはじめ、世界中のファンク・ミュージシャンに継承されている。

(取材・文・写真:坂田正樹)



映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』
2016年6月18日(土)角川シネマ新宿、渋谷アップリンク、吉祥寺オデヲンほか全国順次ロードショー

映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』チラシ

ミック・ジャガープロデュース!異例のジェームス・ブラウン・エステート全面協力、未公開映像満載の驚異のドキュメンタリー。母親に捨てられ、靴磨きや売春宿の客引きをした不遇な少年時代を経て、“ショービジネス界で最も働き者”として音楽シーンに君臨したジェームス・ブラウン。そんな彼の知られざる素顔と“ファンクの帝王”と呼ばれるに至った経緯、そして今のアーティストたちに与えた絶大な影響を、未公開映像と全盛期のライブ映像、バンド・メンバーなどの関係者、また彼に影響を受けたアーティストたちのインタビューで綴る、熱く、貴重な映像クロニクル。

脚本・監督:アレックス・ギブニー
プロデューサー:ミック・ジャガー
出演:ジェームス・ブラウン、ミック・ジャガー、アル・シャープトン、メイシオ・パーカー、メルビン・パーカー、クライド・スタブルフィールド、アルフレッド“ピーウィー”エリス、マーサ・ハイ、ダニー・レイ、ブーツィー・コリンズ、フレッド・ウェズリー、チャックD、アーミア“ クエストラブ”トンプソン
配給:アップリンク/2014年/アメリカ/115分/カラー/16:9/DCP
原題:MR. DYNAMITE:THE RISE OF JAMES BROWN
©2015 Mr. Dynamite L.L.C.

公式サイト




【JBトリビュートショー「It's A 面's, 面's, 面's World」】

セルジオムトウさん×WODDYFUNKさん

・日時:6月18日(土)10:50の回 ※上映開始前に実施
・会場:角川シネマ新宿
・​​登壇者:セルジオムトウ(ミュージシャン)、WODDYFUNK(ミュージシャン)
・角川シネマ新宿公式ホームページ:http://www.kadokawa-cinema.jp/shinjuku/
・チケット販売開始日時
<PC/携帯>6月11日(​土​)​00​:00
<劇場窓口>6月11日(土)劇場オープン時

http://www.kadokawa-cinema.jp/shinjuku/news/803.html


公開記念トーク付き上映開催!

VOL.1「音楽だけじゃない!! ダンス界に轟くJBの衝撃!!」
トークゲスト:Ricky(ソウルダンサー/ BE BOB CREW)

6月19日(日)15:00開場/15:10上映(上映終了後トークイベントスタート)
http://www.uplink.co.jp/event/2016/44439

前売りチケット購入は下記より
https://peatix.com/sales/event/176121/tickets

VOL.2「ジェームス・ブラウンはなぜニクソンを支持したのか?! ~JBと政治運動の“距離”~」
トークゲスト:大和田俊之(慶應義塾大学教授・アメリカ文学/ポピュラー音楽研究)

6月29日(水)18:45開場/19:00上映(上映終了後トークイベントスタート)
http://www.uplink.co.jp/event/2016/44445

前売りチケット購入は下記より
https://peatix.com/sales/event/176120/tickets

VOL.3「ジェームス・ブラウン徹底解説! ~ソウルサーチャーとメロウな夜~」
ゲスト:吉岡正晴(音楽評論家/DJ)×松尾潔(音楽プロデューサー)

7月1日(金)18:45開場/19:00上映(上映終了後トークイベントスタート)
http://www.uplink.co.jp/event/2016/44448

前売りチケット購入は下記より
https://peatix.com/sales/event/176119/tickets




▼映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』予告編

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