「シネマ・チュプキ・タバタ」の完成予想図
バリアフリーの映画鑑賞を推進する団体、シティ・ライツが運営する映画館「アートスペース・チュプキ(ART Space Chupki)」が上中里から東田端に移転し、「シネマ・チュプキ・タバタ(CINEMA Chupki TABATA)」として9月にオープンする。これにあたり現在、クラウドファンディング・サイトMotionGalleryにて支援プロジェクトを実施している。webDICEでは、シティ・ライツの代表・平塚千穂子さんとともにこのプロジェクトを立ち上げた、シティ・ライツ事務局員で「シネマ・チュプキ・タバタ」の支配人である佐藤浩章さんから、これまでの経緯や映画館のコンセプト、そしてクラウドファンディングについてメールでメッセージをもらった。
「アートスペース・チュプキ」は視覚に障がいのある方でも、FMラジオで“音声ガイド”や“字幕朗読”を使って楽しめるバリアフリー映画館として2014年11月から2016年2月まで営業してきた。9月オープン、座席数20席となる「シネマ・チュプキ・タバタ」では、聴覚に障害のある方のための日本語字幕付きの上映や、定期的に手話活弁をつけた上映なども行い、すべての人に使いやすく心地よい映画館を目指すという。
今回のクラウドファンディング・プロジェクトは、2016年8月31日までの期間で、600万円を目標に資金を募る。集まった資金は、オープンのための内装工事や設備の設営に使用される。
協力は1,000円から可能で、10,000円で映画鑑賞ペアチケット、5万円で年間パスポート、10万円で上映作品選定権、50万円で1日支配人になれる権利が用意されている。詳しくはプロジェクトページまで。
「シネマ・チュプキ・タバタ」支配人・佐藤浩章さん(26歳)からのメッセージ
「映画館の夢を諦めきれなかったのは“諦めることを終わらせたかったから”です」
私はTSUTAYAで4年間アルバイトをして、映画配給会社に従事したいと志しました。2012年の「第13回TOKYO FILMeX」の映画祭ボランティアを通じて、シティ・ライツに出会いました。それまでの私は就職の為の経歴作りや、インディペンデント映画の世界を広げる事に躍起になっておりました。そんな時に「目が見えない人も楽しめる。「シティライツ映画祭」のボランティアをしてくれませんか?」というお誘いを受けました。聞いた時に凄くワクワクしました。観られないものが観られたら嬉しいし、楽しいに決まってる。それを一緒に共有できる空間っていうのは素敵だなって、共有させてくださいって思ったんです。
「シネマ・チュプキ・タバタ」支配人の佐藤浩章さん
映画祭でご一緒させていただいた視覚障害者のおじいさんは、ご病気で中途失明されたとおっしゃっていました。「第6回シティライツ映画祭」では1999年公開のアメリカ作品『遠い空の向こうに』が午後から上映されました。ご一緒させていただいた、おじいさんは映画が始まる前から寝てしまいました。「最初の出だしで寝てしまったら展開がわからなくて感動できないだろうな……」と思っておりました。けれどラストシーンで誰よりも泣いて嗚咽して号泣してたのは、そのおじいさんでした。視覚に障害を持った人、晴眼者の方のすすり泣く音が会場いっぱいに溢れていました。前の座席で映画を観ていた私は、振り返り、会場の人の顔を見たときに、言葉にならない光景に感動しました。
その後、「第7回シティライツ映画祭」の実行委員に参加し、益々その世界に深く関わる事になった時に気が付いた事があります。当たり前ではありますが、それは人生の経験というものは、人それぞれ全く違ったドラマと感性の中で生きているということ。
そして心というものは、人間に備わった素晴らしい特性であり、障害の有無に関わらず繋がり合えること。自分にとって最高の映画を観たいといった価値観が一変し、心で映画を観て人と繋がりたいと切に思うようになりました。2014年には、北区上中里の駅前にオープンした、シティ・ライツ自前の上映スペース「アートスペース・チュプキ」の支配人を任される事となりました。そこでは、既存にある映画館にはない事をやってみよう!と木製の椅子を集めたり、ハーブティーを出して映画を観た後に感想をシェアできるようにしました。
2014年11月にJR上中里駅前にオープンした「アートスペース・チュプキ」の内観
シティ・ライツが13年かけて集めた団体の貯金を使い、映画館の興業をスタートさせたのも束の間。“興行場法”により、月4日の上映に制限されました。私は自分の無知で皆様が頑張ってきたものを、台無しにしてしまったという想いで何度も自分を責めました。
上映作品は、お客様から色んなお話が引きだせるようにと工夫したり、レンタルスペースをしてみたりと試行錯誤を経て得たものは、お金には変換できない特別な時間でした。お客様同士が想いを分かち合って、手を繋ぎ合い涙した瞬間や、ご自身の辛かった体験を吐露するような場面に何度も立ち会う事が出来ました。
振り返ってみると私自身“なんとなく繋がってる”ような感覚で生きてきました。
けれど映画が生み出したドラマには、繋がり合う喜びの音が聞こえるような、忘れられない瞬間が幾つもありました。素晴らしい場面に何度も出会えた上中里のチュプキもオーナーさんの事情により2016年3月に退去する事となりました。
「今度こそ、法的にも認められる映画館を創ろう!」と、移転先を探し始めました。興行場法の規定によると、まず映画館の営業ができる条件は、
・立地条件は、商業地域か準商業地域であること。
・敷地面積が100平米以上の建物であれば、用途変更のため検査済証が必要。(古いビルのほとんどが、検査済証をとっていません)
・消防法では、不特定多数の観客が集まる「映画館」の防火基準は最も厳しい。(2階以上であれば2カ所の避難階段がなければならない。1階の倉庫や店舗物件等でも、飲食店並の防火基準でなければならない)
・映画館の観覧スペース15平米につき1個のトイレを男女別に付設しなければならない。
100件以上を見て回りましたが、上記の条件にあう物件がなく、『映画館』は無理なのではないか?と、何度も挫けそうになりました……。それでも映画館の夢を、諦めきれなかったのは“諦めることを終わらせたかったから”です。きっと皆さんもやりたくても“出来ない”ことが沢山あって、それぞれの生活の中で我慢して、歯を食い縛って生きていると思います。けれど人生は、たった一回しかありません。だからこそ夢を見せたい。映画を観て多くの悲しみや喜びを共有したい。生きている美しさを実感したい。傷が癒えるように少しでも寄り添いたい。それが明日へのちょっとした、本当にちょっとした一歩に繋がっていくと信じているからです。
映画館は諦めかけて、事務所物件を探してるところで田端のビルに出会いました。2Fを事務所に使おうと下見に来たら1Fが店舗物件として空いていて驚きました!見た瞬間に映画館が見えました。
【Google マップ】「シネマ・チュプキ・タバタ」が入ることが決まった北区東田端のビル「マウントサイドTABATA」
「シネマ・チュプキ・タバタ」の入る北区東田端のビル「マウントサイドTABATA」外観
間取りとまわりの環境をみて、視覚障害者や車椅子ユーザーも来られる!私たちの考えているユニバーサルシアターができる!と確信しました。狭いと自然とお客様と接することが出来ます。場を一緒に育てていく事もまた私たちの喜びのひとつだと思っております。
「シネマ・チュプキ・タバタ」の設計図
「シネマ・チュプキ・タバタ」工事前スケルトンの状態
「シネマ・チュプキ・タバタ」内装工事の様子
人間はひとりで生けていけません。明日もしかしたら死んでしまうかもしれません。悲しいことはあるけれど今を生きる人の中に、ほんの少しの灯火を与えることができるなら、人生を賭けた挑戦をしようと決意しました。そして「シネマ・チュプキ・タバタ」設立にあたっての募金を呼びかけ、現在までに、1,000万以上のお金が集まりました、これはもう私の夢ではなくて、夢を応援してくださった全ての人の夢だと思っております。夢見た人に少しでも喜んでもらいたいという想いで、上映環境をより整えようとクラウドファンディングを立ち上げました。皆様のご支援・ご協力、心から御願い申し上げます。
佐藤浩章:1990年1月24日生まれ。流通経済大学社会学部中退 シティ・ライツ事務局員 「シネマ・チュプキ・タバタ」支配人
「シネマ・チュプキ・タバタ」MotionGalleryプロジェクトページ:
https://motion-gallery.net/projects/cinema_chupki_tabata
「シネマ・チュプキ・タバタ」
東京都北区東田端2-8-4 マウントサイドTABATA 1F [地図を表示]
公式サイト:http://chupki.petit.cc/