骰子の眼

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東京都 千代田区

2016-05-31 23:15


J・ギレンホール熱演!エミネムが己を重ねた怒れるボクサーの復活劇『サウスポー』

「エミネムはこの作品の世界を生来的に理解できたんだろうね」監督インタビュー
J・ギレンホール熱演!エミネムが己を重ねた怒れるボクサーの復活劇『サウスポー』
映画『サウスポー』より © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

自らの気性の荒さをコントロールできず身を滅ぼしていくボクシングの元世界チャンピオンが、亡き妻と最愛のひとり娘のために再起をかける映画『サウスポー』が6月3日(金)より公開。webDICEではアントワーン・フークア監督のインタビューを掲載する。主人公の無敗のチャンプ、ビリーを演じるのは『プリズナーズ』や『ナイトクローラー』などでの怪演が話題を呼んだジェイク・ギレンホール。彼が6ヵ月に渡り体を鍛え上げ、切れ味鋭いボクサーの体を作り上げた。そして『スポットライト 世紀のスクープ』のレイチェル・マクアダムスや『大統領の執事の涙』のフォレスト・ウィテカーら演技派が脇を固めている。自身もボクサーで、『トレーニング デイ』『イコライザー』などアクションと人間ドラマ双方に才気を発揮するアントワーン・フークアは、主題歌「Phenomenal」を担当したラッパーのエミネムが自身の人生を投影させた物語のアイデアをもとに、オーソドックスなボクシング映画のスタイルのなかに、ビリーの心の闇とどん底からの復活をエモーショナルに描くことに成功している。

“一人の父親になるために学ぶ”という事を描きたかった

──この作品は、主題歌を担当しサウンドトラックのエグゼクティブ・プロデューサーも務めたエミネムが最初に、1979年の『チャンプ』のリメイクを制作する話を脚本のカート・サッターに持ちかけたのがきっかけで、そこにエミネムの実体験も反映させたそうですね。

エミネムはこの作品の世界を生来的に理解できたんだろうね。その浮き沈みや、ジェットコースターのような感情の変遷を。彼がどんなふうに感じるのか見たかったから、完成した作品を最初に観せた。自らの暗闇をくぐり抜けてきた彼が部屋を出るときに、何かを感じてくれるのであれば、私は自分の仕事を果たせたということだ。

映画『サウスポー』アントワーン・フークア監督
映画『サウスポー』アントワーン・フークア監督

──そのエミネムの人生からインスパイアされた物語について、どの部分にあなたは惹かれ手掛けることを決めたのでしょうか。

アスリートが父親になるために色々と学ばなければならない、という物語を伝えることが大事だと思った。ありきたりなボクシング選手の話ではない、“一人の父親になるために学ぶ”という事を描きたかったからこの映画を作ったんだ。

──あなたはボクサーの経験もあります。アスリートとしてボクサーについて教えてください。

私はボクシングが大好きだ。毎日トレーニングしているし、いつもボクサーと一緒にいる。だけど、ジムにいるときでもなく、リングで何千人もの観客の前にいるときでもない、彼らの実像としての人生を分析していくと、とてもデリケートな問題があるということが分かる。腕があって技術があれば、最高のファイターになるためには大学に行かなくていいし、高校を卒業する必要もない。頭は良くなくてはならないが、違う種類の頭の良さだ。彼らはアスリートの中でも最も弱い立場だと思う。

──主人公ビリーと、その妻モーリーンの役柄について教えてください。

ビリー(ジェイク・ギレンホール)とモーリーン(レイチェル・マクアダムス)はアメリカン・ドリームを手に入れたと思っている二人の孤児だ。二人はそれを手に入れた後も一緒にいたいと思っていて、親友でもある。彼は彼女のおかげで偉大なるビリー・ホープでいられたし、彼女は彼のおかげで、レンジローバーで娘を学校に送り、大きな豪邸に住んで、子守りもいるような母親でいられた。二人はまるで空想の世界を見つけた迷子の子供の様なもので、だからこそお互いを必要としていたんだ。

映画『サウスポー』より © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
映画『サウスポー』より © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

──ビリーを演じるにあたって、ジェイクにはどんなアドバイスをしたのですか。

私はジェイクに、「本物のボクシング選手の様にトレーニングしなければいけない。毎日2回、日曜日もジムに来なければならない。ニューヨークだろうと、ラスベガスだろうと、旅先にはトレーナーのテリー・クレイボンも同行してトレーニングする。ごまかしをして欲しくない」と言った。そして彼はその通りにしたんだ。

ジェイクがビリー・ホープに変貌していく中で、色々なものが見えてくると分かっていた

──ジェイクとのトレーニングはどのように進めていったのですか。

ボクシング選手と同じだけのトレーニングをする過酷さを私は知っている。そして私は本当にジェイクの事が好きで、良い友達なんだ。トレーニングは私の年齢でもできることではあるが、そんなに大変なことを頼みたくはなかった。だから言ったんだ「私も一緒にやる」って。一緒に音楽のボリュームを上げて、一緒に汗をかいて、すべてやろうって。一緒にいてお互いに励まし合っていれば、物語や登場人物に関しても話し合えるし、彼の中にある映画で使える部分を見つけ出せるということを私は分かっていた。テリーとトレーニングを一緒に行い、サンドバックを叩いているところを見て、私はこう言った。「君は大いなる怒りを抱えている」と。

映画『サウスポー』撮影風景  © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
映画『サウスポー』撮影現場より、左からジェイク・ギレンホール、トレーナーのテリー・クレイボン、ミゲル・ゴメス、アントワーン・フークア監督 © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

ジェイクは多くを抱えている、分かるだろ、ジェイクは良いヤツだが内面に何かあるんだ。私はそれを近くで見る必要があった。一緒にトレーニングすればするほど彼が身体的に引き締まっていって、ボクシングの世界やそれに伴う犠牲への理解が深まっていくだけではなく、彼がビリー・ホープに変貌していく中で、監督としての私には色々なものが見えてくると分かっていたんだ。

私はジェイクに言った。「カメラはあらゆる瞬間を捉える。だから君が疲れていたり、気絶したり、嘔吐したりすれば、それは映画に映ることになる」。また私は撮影監督のマウロに言った。「照明の補正はなしだ。実際のボクシングでは、マディソン・スクエア・ガーデンや、ラスベガスの試合の照明を補正したりしないだろう」とね。

──ジェイクの演技に関しては満足していますか?

彼は本当に心をこめて演技をしている。言うことないね。子供のころからやっている技術はすでに持っているから、後は心をこめるだけなんだ。技術はただ自然についてきている状態だ。ボクシングの選手の様にね。

映画『サウスポー』より © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
映画『サウスポー』より、レイチェル・マクアダムス(右) © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

──ビリーの妻役レイチェル・マクアダムスについては?

レイチェルと衣装の打ち合わせをしていたとき、彼女が「私もトレーニングに行っていい?」と言ったんだ。私達はみんな「あぁ……、いいけど……」っていう感じだった。翌朝6時に彼女は来ていた。それから毎日だ。彼女は、ボクシングのトレーニングはどんな感じがするのか、どんな匂いがするのかと言うことを知りたかったんだ。自分が何を言っているのか確実に理解したいと思っていた。劇中で「パンチをもらい過ぎよ」と言ったとき、その意味が彼女には分かっていたんだ。あまりにも近くにいたからこそ、彼女はそれを実質的に理解していたんだ。

娘役、ウーナ・ローレンスはあらゆる意味でとても特別だ

──ビリー・ホープのトレーナーを務めることになるティック役のフォレスト・ウィテカーについては?

崇高で力強く強烈、独特な上品さがあるにもかかわらず、荒々しい人物が必要だった。そしてフォレスト・ウィテカーがその人物だった。役に物凄い精神性と力強さを与えてくれる。しかもそれを難なくやってのけるんだ。

映画『サウスポー』より © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
映画『サウスポー』より、フォレスト・ウィテカー(右) © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

──ビリーと彼の娘・レイラとの関係も物語の重要なポイントです。レイラ役にウーナ・ローレンスを起用した決め手は?

ウーナについては語りつくせないよ。あらゆる意味でとても特別だ。彼女と共演したらどんな役者であれ命がけの闘いをスクリーン上で強いられる。あの子は特別だ。オーディションが終わった後、ジェイクが「彼女に演じてもらわなくちゃ映画ができない」と言ったのを覚えているよ。

映画『サウスポー』より © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
映画『サウスポー』より、ウーナ・ローレンス(右) © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

──ビリーのマネージャー役をラッパーの50セントが演じています。

マネージャーのジョーダンは、曖昧なグレーな感じのする男にする必要があった。彼は悪い男ではなく、ビジネスマンなんだ。それが50セントの役さ。

映画『サウスポー』より © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.
映画『サウスポー』より、カーティス・“50Cent”・ジャクソン(右)とレイチェル・マクアダムス(中央) © 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

──最後に、この映画でどのような目標を達成したかったのでしょうか。

私はボクシング、そしてボクサーが行うことに対して愛情を持っているので、彼らがそれを誇りに思えるようにすることが目的だ。目標は、ボクサーの友人がこの映画を観て「やり遂げたな、映画を観ていることを一瞬忘れたよ」と言ってもらえることだよ。

(オフィシャル・インタビューより)



アントワーン・フークア(Antoine Fuqua) プロフィール

1966年1月19日生まれ。同世代で最も高い評価を受けるフィルムメイカーの1人であり、アクションと人物描写を軸とするストーリーテリングを難なくブレンドしてみせる。批評家より高い評価を受けた監督作『トレーニングデイ』では、デンゼル・ワシントンがアカデミー賞主演男優賞を受賞、イーサン・ホークが助演男優賞にノミネートされた。その他の監督作は、ジェラルド・バトラー主演、モーガン・フリーマン出演『エンド・オブ・ホワイトハウス』、リチャード・ギア主演『クロッシング』、世界的ヒットを記録したクライヴ・オーウェン出演作『キング・アーサー』、マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めて好評を博したブルース音楽のドキュメンタリー『ライトニング・イン・ア・ボトル~ラジオシティ・ミュージックホール 奇蹟の夜~』、自身の長編監督デビュー作であるチョウ・ユンファ主演『リプレイスメント・キラー』など。最近では、デンゼル・ワシントンと再タッグを組み、大ヒット作『イコライザー』の監督を務めた。待機作に、クリス・プラット、デンゼル・ワシントン、イーサン・ホークらが出演する黒澤明監督の『荒野の七人』のリメイクである、「ザ・マグニフィセント・セブン The Magnificent Seven(原題)」など。




映画『サウスポー』
6月3日(金)よりロードショー

映画『サウスポー』ポスター

リング上で脚光を浴びるチャンピオン、ビリー・ホープ。怒りをエネルギーに相手を倒すというスタイルに心配が耐えない妻と娘。その彼の怒りは無情にも妻の死へと繋がってしまう。最愛の妻を失くしたビリーは悲しみに暮れる毎日。ボクシングにも力が入らず全てを失ってしまう。愛する娘までも…。そんなビリーは、今は第一線を退き、古いジムを営むトレーナーのティックのもとを訪れる。かつて、ビリーが唯一恐れたボクサーを育てた彼に教えを請い、自らの「怒り」を封印することを学んでいくビリー。やがて彼は、過去の自分と向き合うことで闇のなかに光を見出して行く……。

監督:アントワーン・フークア
出演:ジェイク・ギレンホール、フォレスト・ウィテカー、レイチェル・マクアダムス、ナオミ・ハリス、カーティス・“50Cent”・ジャクソン、ウーナ・ローレンス
脚本:カート・サッター
製作:アントワーン・フークア、トッド・ブラック
作曲:ジェームズ・ホーナー
主題歌:エミネム「Phenomenal」(ユニバーサル ミュージック)
提供・配給:ポニーキャニオン
宣伝:KICCORIT
2015年/アメリカ/英語/スコープサイズ/124分/ドルビー・デジタル 原題:SOUTHPAW
© 2015 The Weinstein Company LLC. All Rights Reserved.

公式サイト:http://southpaw-movie.jp

▼映画『サウスポー』予告編

▼エミネム「Phenomenal」ミュージック・ビデオ

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