骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2016-05-25 20:30


ある日、神様から余命がメールで届く!?ベルギー監督が語るコメディ映画『神様メール』

「恐れないで好きなことをやろうよ。罰はないのだから」教会もお勧め
ある日、神様から余命がメールで届く!?ベルギー監督が語るコメディ映画『神様メール』

『トト・ザ・ヒーロー』『八日目』『ミスター・ノーバディ』などで知られるベルギーのジャコ・バン・ドルマル監督の新作『神様メール』が5月27日(金)より公開。webDICEではジャコ・バン・ドルマル監督のインタビューを掲載する。本作は、ベルギー・ブリュッセルの街に暮らす神様と、その娘が引き起こす騒動を描いたファンタジック・コメディ。これまでの作品でも人間の運命を描いてきたドルマル監督は、神様の存在をブリュッセルのアパートに住む4人家族の主で、うだつが上がらない“嫌なやつ”に設定。彼の10歳になる娘がパソコンから世界へ余命を知らせるメールを送ったことが発端となり、人々に変化をもたらしていく過程がユーモラスに描かれている。

テーマは宗教そのものより、支配と自由

──神様が“嫌なやつ”というのは、オリジナルでとても面白いアイディアだと思いますが、そこにはたとえば、宗教が多くの問題を起こす原因となっている今日の宗教観に対する、批判の意図もあったのでしょうか。

本作は宗教や神というよりも、人間が本来持つパワーがテーマになっている。男性が持つ、女性が持つ、父親が持つパワー。社会や政治が持つ権力、それに従わなければ罰が下されるような力。それはときには政治であったり、宗教であったりするかもしれない。神様の10歳の娘エアはそれに対して「恐れないで好きなことをやろうよ。罰はないのだから」と言う。このセリフは書いていて楽しいものだったよ。あなたの人生はカタログにはない、好きなように設計すればいいのだ、というメッセージ。たしかに宗教はときに危険なものにもなり得るし、権力を持ち得る。でもこの映画のテーマは宗教そのものより、支配と自由に関するものだと思っている。

映画『神様メール』ジャコ・ヴァン・ドルマル監督
映画『神様メール』ジャコ・ヴァン・ドルマル監督

──本作における神の描き方に関して、信心深い人々から抗議などはきませんでしたか。

いや、それはなかったよ。ベつに恐れる理由があるとも思えなかった。いまも誘拐されずにすんでいるしね(笑)。むしろベルギーでは反対に、教会の人々がこの映画を観るようにと、勧めてくれたぐらいだ。女神を描いていたり、死後の世界を考えたり、興味深い映画だからと。もちろん僕は、神を信じるなと言っているわけじゃないしね。

映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

───脚本を書いているときは、どんな気分でしたか。自分で書きながら笑ってしまうようなところはありましたか。

最初は僕の共同脚本家とアイディアを出しながら、一緒に書いたんだ。お互い、笑わせるようなアイディアを出し合っていった。彼は神がブリュッセルに住んでいるということを思いついて、僕は彼に娘がいることを思いついた。そこから出発して自然にコメディになった。ひとりでコメディの脚本を書くのはとても難しい。僕は自分のアイディアに笑えたことがないんだ(笑)。

──これはタブーすぎると控えたことなどはありましたか。

面白くないからやめることにしたものはあるよ。たとえばゴリラがカトリーヌ・ドヌーヴ演じる寂しい主婦マルティーヌを見ながらマスターベーションをするシーンというのを考えていたんだけど、これは笑えないと思ってやめた(笑)。

映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

──カトリーヌ・ドヌーヴ演じる主婦マルティーヌが恋に落ちたのはなぜゴリラだったのでしょう?あなたがとくにゴリラ好きだったとか!?

じつは僕の友人の経験をもとにしている。友人の知っているフランスの歌手がベルギーに来て、ベットの雌のチンパンジーを連れてきたんだけど、ホテルに泊められないから友人が家に預かった。チンパンジーはとても嫉妬深くて、女性が近づくとものすごく攻撃的になったそうだよ。彼は二週間預かっていたんだけど、人生でもっともクレイジーな二週間だったと言っていたよ(笑)。

映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

エアは何事も恐れない心を人間世界にもたらした

──ところで、素朴な疑問ですがなぜエアの兄イエス・キリストはミニチュアになってしまったのでしょうか。

まあキリストは死んでしまったから、と言えるかな。母親は彼が戻ってくることを期待しているけれど、彼は戻らない。でも彼はとても妹思いだから、ときどき彼女と会話するんだ。

映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

──この映画では誰もが寿命を知らされて、とくに死期が近い人は悲嘆にくれますが、その後彼らはいかに限られた時間を大事に過ごすかという、ポジティブな発想の転換をしますね。

そうだね。エアが人間世界にもたらしたものは、何事も恐れない心というか……。僕は人間というのは知らず知らずのうちに、自分を檻にとじ込めるような、限られた考え方に陥りがちだと思う。自分の人生はこれだ、他にはあり得ないと思ってしまう。映画のなかのセリフにもあるけれど、多くのキャラクターは人生のウェイティング・ルームにいるようなものだ。彼らは幸福とは自分のためにあるものじゃない、愛は自分のものじゃない、と考えている。エアはいわばパンドラの匣を開けて、それは正しくないということを教える。愛や人生はイケアのカタログにあるものじゃない、自身で作っていくものだと。ここに出てくるすベてのラブストーリーは風変わりなものだけど、ラブストーリーであることに変わりはないし、彼らはそのことによって幸福というものを発見するんだ。

映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

──この映画には、『モンティ・パイソン』的な、特にテリー・ギリアム的なセンスがあると思いました。

だとしたら、とても光栄だね。たしかに『未来世紀ブラジル』に見られるような、彼のクレイジーなユーモアに近いかもしれない。僕が思春期のときに『モンティ・パイソン』から大きな影響を受けたからかもしれないね。あと、僕のベルギー人的なユーモアも関係していると思う。ベルギー人というのは、他の人から笑われる前に自分たちを笑いのネタにするんだ。とても小さい国だし、僕らはふだん、フランス人からよくからかわれているからね(笑)。自分を笑い飛ばすユーモアや、自由な精神があるんだ。

映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage
映画『神様メール』より © 2015 - Terra Incognita Films/Climax Films/Après le déluge/Juliette Films Caviar/ORANGE STUDIO/VOO et Be tv/RTBF/Wallimage

──本作のラストはとてもユニークですね。

このエンディングは僕の父のエピソードが下敷きになっている。父は100歳なんだけど、もう25年間コンピューターを使っている。そして毎週金曜にコンピューターの具合がおかしい、と言うので見に行くと、コンピューターの電源が抜けている(笑)。「電源を繋がなければダメに決まっているじゃないか」と言うんだけど、毎週金曜になると決まって同じことが起きる。それで気付いたんだが、毎週金曜に父のところに家政婦がやってきて掃除をするんだ。彼女は掃除機のコンセントを繋げるためにコンピューターのコンセントを抜いて、掃除機が終わったあとそのまま元に戻さずに帰ってしまうということがわかった。だから父のおかげで僕はあのエンディングを思いついたんだ(笑)。

(佐藤久里子さんによるオフィシャル・インタビューより)



ジャコ・ヴァン・ドルマル(Jaco Van Dormael) プロフィール

1957年ベルギー生まれ。ブリュッセルやパリの専門学校で学んだ後、児童演劇の監督としてキャリアをスタート。その後、1980年代前半から短編映画を撮り始め、数々の映画祭で称賛を浴びる。長編第一作『トト・ザ・ヒーロー』(91)は、ヨーロッパ映画賞で主演男優賞・新人監督賞・脚本賞・撮影賞を、第44回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドールを受賞し、一躍有名となる。次作『八日目』(96)は第49回カンヌ国際映画祭にてダニエル・オートゥイユとパスカル・デュケンヌが主演男優賞をW受賞。その後発表した『ミスター・ノーバディ』(09)もヨーロッパ映画賞観客賞をはじめ数々の賞に輝く。また、映画監督のみならず、オペラ監督など幅広く活躍中。本作では「余命0分」のメールを見た瞬間に事故に遭うドライバー役でカメオ出演もしている。




映画『神様メール』
5月27日(金)、TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー

映画『神様メール』ポスター

神様はブリュッセルのアパートに家族と一緒に住んでいて、パソコンでいたずらに世界を支配している。ある日、神様の娘10歳のエアは人間に運命に縛られずに生きてほしいと思って、神様のパソコンから人々に余命を知らせるメールを送ったから、さあ大変!エアが大パニックな世界を救う旅にでると、彼女の小さくてヘンテコな奇跡は思いがけず人々のお悩みを解決していく。会社員は鳥を追い北極まで大冒険、殺し屋は不死身の美女にめぐりあい、主婦はゴリラと恋に落ち……皆、それぞれの生きがいを見つけていく。しかしエアが最後に出会ったウィリーは死期が迫っていて――。小さな奇跡たちが呼び起こす、神様のパソコンからの人類への[最高にハッピー]なメールとは?

監督:ジャコ・ヴァン・ドルマル
脚本:ジャコ・ヴァン・ドルマル、トーマス・グンズィグ
主演:ブノワ・ポールヴールド、ヨランド・モロー、ピリ・グロワーヌ、カトリーヌ・ドヌーヴ
2015年/フランス、ベルギー、ルクセンブルク/カラー/115分/スコープサイズ/5.1ch サラウンド
日本語字幕:松浦美奈
後援:ベルギー大使館
配給:アスミック・エース

公式サイト:http://kamisama.asmik-ace.co.jp/


▼映画『神様メール』予告編

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