映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より、ジェームス・ブラウン(左)とミック・ジャガー(右)
ミック・ジャガーのプロデュースによるJBドキュメンタリーの決定版『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』が6月18日(土)より角川シネマ新宿、渋谷アップリンク、吉祥寺オデヲンほかにて公開。webDICEでは監督を務めたアレックス・ギブニーのインタビューを掲載する。
このインタビューでギブニー監督は、プロデューサーのミック・ジャガーからの監督を依頼されたエピソードや、ブラウン・エステートの協力により貴重なアーカイブをリサーチし、ドキュメンタリー作品とまとめていく経緯について語っている。
出来事のうわべをなぞるだけでは十分な“ソウル”が描けない
──ジェームス・ブラウンのドキュメンタリーを作ろうと思われたのは、いつですか?どんなきっかけで、このテーマを選んだのですか?
前からジェームス・ブラウンには興味があったけど、専門家とはとても呼べる人間じゃなかった。ところがある日、ミック・ジャガーから電話をもらって、映画製作に興味があるかと聞かれたんだ。もちろん即座に「イエス」と答えたよ。
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』アレックス・ギブニー監督
──ミックはブラウンの長編映画『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』のプロデューサーもしていますね。
2作は同時に並行して進んでいる。両方ともどちらかと言えばインディペンデント映画だ。ジャガーは、フィクションの映画とドキュメンタリーの両方をやろうとしていたんだよ。彼のブラウンに対する尊敬と思い入れは、半端じゃないからね。
──ジェームス・ブラウン・エステートが所蔵する資料を自由に見られるという前例のない権利を得たそうですね。あなたの調査や研究で見つかった最も驚いたもの、面白いものは何でしたか?
どんな映画を作る時も記録映像を使う扱う時は、神経をすり減らす作業となる。メインとなる映像というのは、常にあるものだが、最高の素材というのは、非公式のものだ。
ブラウン・エステートの協力が得られたのは、すごく有り難かったけど、資料を扱えるということは、あらゆるものを見なきゃいけないわけだ。1966年と1967年の素晴らしい映像があったよ。たとえばフランスのオランピア〔パリにある有名なミュージック・ホール〕での公演とかね。また1966年の彼が参加した「恐怖に抗する行進」の映像も見つけたんだ。マーチン・ルーサー・キング・ジュニアが暗殺された後にブラウンが話したスピーチ映像だ。他にもいろいろなところであらゆるものが見つかった。ほとんどの人は彼がこの運動に参加したことを知らないはずだ。〔「恐怖に抗する行進」:活動家のジェームス・メレディスが始めた公民権を求めるデモ。彼は、テネシー州メンフィスからミシシッピ州ジャクソンまで、人種差別反対を訴えて歩き続けた。コメディアンのディック・グレゴリーやジェームス・ブラウンも次第に大きくなる抵抗運動の人々に加わった〕。それから、誰もが紛失して音源のみしか残っていないと思っていたボストン公演の映像も見つけた。また今まで誰も見たことのないアポロ劇場で撮ったブラウンの楽しげな写真も見つけた。マネージャーの1人が束で持っていたんだ。また、1968年に当時の知識人の1人のデヴィッド・サスキンドが彼にしたインタビューがあったんだが、サスキンドは偉そうな態度で接し、彼を“ジミー”と呼び捨てで呼んでいたんだ。ブラウンはそれに腹を立てていて、今にも2人は殴り合いそうな勢いで、火花を散らしていた。一触即発って感じで、インタビューには臨場感があったね。
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より、ミック・ジャガー
リサーチにあたっては、ブラウン家の人々が非常に協力的だった。後は掘り起こし作業と、質問をし続けた。一番聞きたくない人物にも何か知っていることがないかと尋ね、それを追っかけることを最後まで続けるべきなんだ。「地下室を探してみる。何かあったような気がする」と誰かが言ったりする。それで戻ってくると、時として何かびっくり仰天するようなものを持ってくることがあるんだ。
──それらの素材を映画としてどうまとめようとしたのでしょう?
まとめあげる作業は、ひと苦労する。どの素材も大切なんだ。納得するまで切り刻む。僕らは端から、彼の生涯を揺りかごから墓場まで描かないことを決めていた。そんなことをしても跳び石を飛ぶように出来事のうわべをなぞるだけで、十分な“ソウル”が描けないと思ったんだ。
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より
音楽文化を変えた男なんだよ
──彼が音楽やポップ・カルチャーや政治に与えた影響を、どう表現しますか?
彼は一匹狼の破壊屋なんだ、いい意味でだけどね。確かに私生活でやったことは、無情で執念深くて、ひどいものだったが、彼は音楽文化を変えた男なんだよ。ビッグバンド・ジャズの時代からヒップホップの時代まで音楽をやり続けられたのは、彼だけだ。その間にファンクも発明している。バンドリーダーとして彼はけたたましくて威勢のいい音楽が市民権を得られるように、傲然と立ち上がったんだ。また彼は「I Don't Want Nobody To Give Me Nothing」や「Say It Loud - I'm Black and I'm Proud」みたいな曲も作っている。
──一部の人によれば、驚くべきことにブラウンは保守派でリチャード・ニクソンの支援者で、それを裏付けるものとして「I Don't Want Nobody To Give Me Nothing(俺に何もよこさないやつは必要ない)」の歌詞が挙げられています。ブラウンが保守派だったという意見には、賛成されますか?
彼は傲慢だったんだよ。あの曲の歌詞には「俺は自分の手でつかんでやる。何の施しも、進歩的な憐れみもいらない。同じ土俵に立ったら、叩き潰してやる」というフレーズがある。彼は“自立を促進する保守主義”、ニクソンの公約の犠牲者なんだよ。ニクソンは組織的な人種差別は存在しないようにふるまっていたが、ことはそんな単純じゃない。それに誰しもがジェームス・ブラウンみたいに、才能があふれ、自分を駆り立てたり、また残酷になれたわけじゃないんだ。ブラウンは不平等に対して思慮が足りなかったが、根っからの保守主義者でもなかった。でも彼は傲慢だったから、人に頭を下げようなんてしなかった。結局、彼はニクソンの術中にはまったんだよ。それは彼にとって諸刃の剣だったんだ。
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より
──彼の人生のなかで、どのようにフォーカスを当てるポイントを決められたんですか?
しばらく何にも焦点を当てずにやっていたが、最終的には彼がどのようにして音楽文化を変えたかというところに焦点を当てた。ジェームス・ブラウンというのは、ビッグバンドの時代からヒップホップの時代まで音楽をやり続けることができた稀有な人間だ。だから僕らとしては、彼の栄光に焦点を絞ったんだ。彼が絶頂期であった1974年あたりを見るとはっきりするように思えたんだ。この年の「Payback」は彼の最後の大ヒット曲で、ヒップホップへの源泉が見られるんだ。
“できない”を“できる”に変えるというアイデアがJBにはあった
──本作は、ジェームス・ブラウンが「ソウル・ミュージックとは何か」という質問に答えるところから始まりますね。
それに対して彼は、かなり深みのある返答をしている。というのは、それは音楽だけにとどまらず、彼を駆り立て成功へと導いた原動力でもあるからだ。“ソウル”を語る時、人は“不可能”という言葉を語るのだと彼は言っている。要するに彼はいかに人ができないと思い込んでいるかということに焦点を当てて語っているんだ。それこそが彼を駆り立てた原動力で、 “できない”を“できる”に変えるというアイデアが彼にはあったんだ。
──インタビューを見ると、メッセージを伝える時、ブラウンは落ち着いており、雄弁ですね。
子供のころに味わったあらゆる苦悩をバネにして、彼はアーティストの道に進んだ。その苦労があったからこそ、彼の音楽はパワフルなものになったんだよ。
ブラウンは雄弁な自分に戸惑っていたんだと思う。彼は音楽を通して、自分自身を表現したんだ。だから僕らは、この映画をミュージカル風な構成にしようと考えた。さまざまな逸話が歌を通して語られる。時として時代順からズレているんだが、僕らが伝えたい順番にした。1971年の映像を通して、ボビー・バードとジェームス・ブラウンの関係を描いているが、そこで初めて当時のふたりを紹介している。この2人がバンド仲間で友人だったというのは、興奮すると思うよ。ブラウンにとってキーとなる関係だから、映画では音楽を通して表現したんだ。
──彼の凋落を取り上げなかったのには、何か理由がありますか?
彼が悪態をつき、利己的で癇癪持ちなところは知っている。映画の後半部分で最後には墓穴を掘ってしまう兆しは見えるはずだ。でも1本の映画ですべてを描くことは無理なんだ。そんなことをすれば全部が表層的になってしまうからね。だから僕らは、いかに彼が音楽シーンを変えたかということに焦点を当てることにした。
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』より
公民権運動を音楽と結びつけたエンターテイナー
──この作品を見るまで、ブラウンが公民権運動の先頭に立っていたことを知りませんでした。このことを知っていらしたんですか?
よく知っていたわけじゃないが、彼の「Say It Loud - I'm Black and I'm Proud」を聴いて、はっきり気づいたんだ。この曲はすごく社会にインパクトを与えた曲だよ。 「恐怖に抗する行進」で彼がとった行動やマーチン・ルーサー・キングが暗殺されたすぐ後の有名なボストン公演のことはほとんど知らなかった。この2つの出来事はある意味でつながっているんだ。ブラウンはマーチン・ルーサー・キングが「恐怖に抗する行進」で重要な役割を演じているミシシッピに行っているんだ。その後、キングが暗殺されたが、その時彼は、皆の心をひとつにした。だからボストンは暴動が起きなかった数少ない街のひとつなんだよ。
ブラウンが行ったことで重要なことは、彼が公民権運動のオルグだったということではなく、公民権運動を音楽と結びつけた人気のあるエンターテイナーだったことだ。シャープトンが言っているように、「我らは打ち勝つ」から「俺は黒人だ。それを誇りに思ってる」へ変わったんだ。彼がこの言葉を大砲から放つことによって、ある意味で彼からの力強い後押しとなったんだよ。
──友人たちや元バンド・メンバーは、このドキュメンタリーについて、どう思っているんですか?
最初、彼らは口をつぐんでいた。多くの人たちが自身のキャリアを築いているから、ジェームス・ブラウン・バンドにいた時代の逸話と結びつけられるのを望んでいなかった、でも彼らの人生において極めて重要な時期だった。だけどこの映画はうわべをさらうだけじゃないと伝えて、僕らが彼らに発言の機会を提案したら、飛びついてきたんだ。だから彼らのおかげで、映画ができたんだ。
──あなたのお気に入りのシーンはどれですか?
モノクロのコンサート映像が気に入っているね。あれにはビッグバンド時代からファンク時代に移り変わる転換期が表れている。当時のショーには迫力があるし、すごく洗練されていて、それでいて荒削りな感じがする。彼はショービジネスの世界で、一番忙しい男だった。ステージの彼の姿には、それが表れている。
──作中、まるで“株式市場の人間”のようにブラウンが市場動向を読もうとしているシーンがありますね。
彼はそんな風に考えるのが好きだったんだと思うよ。いうならばお客が求めているものを提供しようとする巧みなエンターテイナーだったんだ。でもそこに彼の音楽にパワーを与えている、他の要素があると思う。シャープトンがよく言ってるんだ。彼は消極的性格から前向きになった。子供のころに味わった苦悩をバネにして、アーティストの道に進んだ。その苦悩があったからこそ、彼の音楽はパワフルなものになったんだよ。
(インターナショナル・ビジネス・タイムズ、HBOのインタビューより)
アレックス・ギブニー(Alex Gibney) プロフィール
1953年ニューヨーク生まれ。「現在、最も影響力のあるドキュメンタリー監督」(エスクワイア誌)や「アメリカで最も卓越したフィルムメーカーの1人」(インディワイヤー)と称される監督。卓越した調査力と見識に満ちた作風で知られ、アカデミー賞を始め、エミー賞、グラミー賞、インディペンデント・スピリット賞、全米脚本家組合賞など多くの賞を受賞している。主な作品に『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』(2005)、『「闇」へ』(2007)、『ランス・アームストロング ツール・ド・フランス7冠の真実』(2013)、『ゴーイング・クリア: サイエントロジーと信仰という監禁』(2015)などがある。
映画『ミスター・ダイナマイト:ファンクの帝王ジェームス・ブラウン』
2016年6月18日(土)角川シネマ新宿、渋谷アップリンク、吉祥寺オデヲンほか全国順次ロードショー
ミック・ジャガープロデュース!異例のジェームス・ブラウン・エステート全面協力、未公開映像満載の驚異のドキュメンタリー。母親に捨てられ、靴磨きや売春宿の客引きをした不遇な少年時代を経て、“ショービジネス界で最も働き者”として音楽シーンに君臨したジェームス・ブラウン。そんな彼の知られざる素顔と“ファンクの帝王”と呼ばれるに至った経緯、そして今のアーティストたちに与えた絶大な影響を、未公開映像と全盛期のライブ映像、バンド・メンバーなどの関係者、また彼に影響を受けたアーティストたちのインタビューで綴る、熱く、貴重な映像クロニクル。
脚本・監督:アレックス・ギブニー
プロデューサー:ミック・ジャガー
出演:ジェームス・ブラウン、ミック・ジャガー、アル・シャープトン、メイシオ・パーカー、メルビン・パーカー、クライド・スタブルフィールド、アルフレッド“ピーウィー”エリス、マーサ・ハイ、ダニー・レイ、ブーツィー・コリンズ、フレッド・ウェズリー、チャックD、アーミア“ クエストラブ”トンプソン
配給:アップリンク/2014年/アメリカ/115分/カラー/16:9/DCP
原題:MR. DYNAMITE:THE RISE OF JAMES BROWN
©2015 Mr. Dynamite L.L.C.
【JBトリビュートショー「It's A 面's, 面's, 面's World」】
・日時:6月18日(土)10:50の回 ※上映開始前に実施
・会場:角川シネマ新宿
・登壇者:セルジオムトウ(ミュージシャン)、WODDYFUNK(ミュージシャン)
・角川シネマ新宿公式ホームページ:http://www.kadokawa-cinema.jp/shinjuku/
・チケット販売開始日時
<PC/携帯>6月11日(土)00:00
<劇場窓口>6月11日(土)劇場オープン時
公開記念トーク付き上映開催!
VOL.1「音楽だけじゃない!! ダンス界に轟くJBの衝撃!!」
トークゲスト:Ricky(ソウルダンサー/ BE BOB CREW)
6月19日(日)15:00開場/15:10上映(上映終了後トークイベントスタート)
http://www.uplink.co.jp/event/2016/44439
前売りチケット購入は下記より
https://peatix.com/sales/event/176121/tickets
VOL.2「ジェームス・ブラウンはなぜニクソンを支持したのか?! ~JBと政治運動の“距離”~」
トークゲスト:大和田俊之(慶應義塾大学教授・アメリカ文学/ポピュラー音楽研究)
6月29日(水)18:45開場/19:00上映(上映終了後トークイベントスタート)
http://www.uplink.co.jp/event/2016/44445
前売りチケット購入は下記より
https://peatix.com/sales/event/176120/tickets
VOL.3「ジェームス・ブラウン徹底解説! ~ソウルサーチャーとメロウな夜~」
ゲスト:吉岡正晴(音楽評論家/DJ)×松尾潔(音楽プロデューサー)
7月1日(金)18:45開場/19:00上映(上映終了後トークイベントスタート)
http://www.uplink.co.jp/event/2016/44448
前売りチケット購入は下記より
https://peatix.com/sales/event/176119/tickets