映画『ヘイル、シーザー!』より、若手女優ディアナ・モラン役のスカーレット・ヨハンソン ©Universal Pictures
ジョエル&イーサン・コーエンの最新作『ヘイル、シーザー!』が5月13日(金)より公開。webDICEではコーエン兄弟のインタビューを掲載する。本作の舞台は、1950年代のハリウッド、ジョージー・クルーニー演じるスター俳優が誘拐された事件をめぐる騒動を、ジョシュ・ブローリン、チャニング・テイタム、スカーレット・ヨハンソン、レイフ・ファインズ、ティルダ・スウィントン、アルデン・エーデンライクら豪華キャストが演じている。今回のインタビューでは、この物語が生まれたきっかけ、そしてハリウッド黄金期へのオマージュについてなどを語っている。
自作の脚本と他の監督の作品の脚本を書くプロセスは異なる
──本作品のアイディアはどこから生まれたのですか。これがあなた方の最初の脚本だというのは本当ですか?
ジョエル・コーエン(以下、ジョエル):違うよ。でも、すごく前に考えていたというのは本当だよ。
イーサン・コーエン(以下、イーサン):ジョージ・クルーニーと最初に話したのは……。
ジョエル:15年前くらいだね。
イーサン:でも、実際に脚本を書いたのは、映画にする直前だったよ。
映画『ヘイル、シーザー!』イーサン(左)&ジョエル(右)・コーエン
ジョエル:『オー・ブラザー!』(2000年)でジョージ・クルーニーと一緒に仕事を始めたころ、僕らには『ヘイル、シーザー!』のアイディアがあって、それを彼に話したんだ。その頃は、まぬけな二枚目俳優が興味をそそるような『ヘイル、シーザー!』という仮タイトルの宗教大作を撮っている、という程度の話でしかなかったんだけど、彼がすごく気に入ってね。
それで、彼が、この作品が僕らが一緒に作る次回作になるって触れ回りはじめたんだ。その頃の僕らは、本当に映画にするつもりはなかったんだけど。思考実験みたいなものだったんだ。でも、数年後、腰を据えて書いてみようってことになったんだ。
──ハリウッドの黄金時代に対するコーエン兄弟的なトリビュートが込められた作品となりましたね。ジョージ・クルーニーやジョシュ・ブローリン、チャニング・テイタム、スカーレット・ヨハンソン、レイフ・ファインズ、ティルダ・スウィントン、アルデン・エーデンライクといった豪華キャストが出演することになりました。『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー賞にノミネートされましたが、他の監督の作品の脚本を書くときは、脚本を書くプロセスは違いますか。
ジョエル:そうだね。
イーサン:全然違うよ。
イーサン:『ブリッジ・オブ・スパイ』の脚本は、たいていそうなんだが、既に存在していて、リライト(改訂)を頼まれたんだ。僕らは実際いくつかの脚本を書いているけれど、いつもそういう形式なんだ。僕らが雇われるときは、ある一定のやり方でやらなければならなくて、たいてい、特定の監督のために書くわけで、それが仕事なんだ。自分たちのために書くんじゃない。僕らならどう作るなんて考えないよ。
ジョエル:監督が何をしようとしているのか、脚本に何を求めているのか、物語または脚本において何を成し遂げようとしているのかを考えて、それがどんなアイディアだとしても、その目的を果たす。そういう風に考えるのはとても面白いけれど、ちょっと違うね。
映画『ヘイル、シーザー!』より、大スター、ベアード・ウィットロックを演じるジョージ・クルーニー ©Universal Pictures
映画の中の映画のためのシーンを撮影するのは大きな挑戦だった
──宗教大作、ウェスタン、ミュージカル、それにシンクロナイズド・スイミングといった、これらの様々な映画を本作の脚本に盛り込んだわけですが、これを突然撮影しなければならなくなったわけですね。
イーサン:(笑)。これを撮影しなければならなくなった。
ジョエル:それがいつも問題なんだ(笑)。脚本を書いて、それで「なんてこった、これを撮るなんて」うそだよ、そんなことないよ。
──様々な映画の撮影の現場を撮るのはどんな感じでしたか?
ジョエル:映画の中の映画のためのシーンを撮影するのは、ロジスティック的にはとても大きな挑戦だったね。毎週違う映画を撮影するようなものだからね。普通、アート部門や衣装部門、特殊効果部門はみんな、ひとつの映画の撮影で、ひとつのことをするために準備するんだ。
ウェスタンだったら、カウボーイと馬を用意し、スタッフと制作部門はそういう映画を撮る際に必要な問題を解決するために準備するわけだ。しかし、これだけいろいろなことをやろうとすると、ある週はウェスタン、翌週は違うジャンルになるから、カウボーイはもういらないけれど、タンクとシンクロの水泳選手を探して、どうやって照明を当てるかを考えなければならない。
映画『ヘイル、シーザー!』より、映画監督ローレンス・ローレンツ役のレイフ・ファインズ(右)、カウボーイを演じる俳優ホビー・ドイルを演じるアルデン・エーレンライク(左) ©Universal Pictures
──『ヘイル、シーザー!』の中の映画に関して、リサーチはたくさん必要でしたか?
イーサン:リサーチからではなく、ハリウッドの歴史を知っていることによって、もともと知っていたこともあった。だから我々はリサーチはしなかったよ。脚本を書き終わったところで、製作にあたって何が問題になるかを特定するためのリサーチはしたけれどね。他の作品なら技術的にやることがあるだろう。僕らの場合は、リサーチはその一部なんだ。
ジョエル:各部の全メンバーがたくさんリサーチをしたんだ。映画の質感という意味で、アート部門はアート部門の視点で、他の部門はそれぞれの視点でね。実際の映画のセットで、どうやってその世界観を作り上げるか。それは大々的に行ったよ。でも、君が聞きたいのは、エディ・マニックスの問題とは何だったかということなどだよね。映画の中でひとつ、実際の話から取ったことがあるんだ。たまたま知っていたことなんだけれど、ロレッタ・ヤングは実の娘を養子にすることができたんだ。本当だよ。その他のことは、彼が処理する通常の映画スターのスキャンダルなどだよ。
映画『ヘイル、シーザー!』より、事件を追う「何でも屋」エディ・マニックス役のジョシュ・ブローリン(左)、双子の記者ソーラ&セサリーを演じるティルダ・スウィントン(右) ©Universal Pictures
──スタジオのシステムを描き、ハリウッドにおける共産主義者の魔女狩りにふれていますが、コメディだとしても、そこに意図はあったのでしょうか?
イーサン:そうともいえる。いろいろなことに対するきちんと整理されていないアイディアを大きなシチューにしたって感じだね(笑)。
ジョエル:実際に僕らが意図したものより、もっと論理的で理路整然とした計算がされているかのように思われているかもしれないね。
イーサン:政治的な部分というのは、共産主義そのものに対する興味というほどではないんだ。僕らはこういう前提を作ったんだ。映画スターが身代金目当てでセットから誘拐された。映画に大金を出資していたビッグスタジオは、身代金も払わなければならない。そこで、このクレイジーなスタジオの世界でまっとうな男、つまりジョシュ・ブローリンが演じている役が出てきて、OK、悪いやつは誰だ?誘拐したのは誰だ?当然、この良識ある、カトリックの、資本主義者とは相反するイデオロジーをもった人々になるわけだ。1951年なら、それは共産主義者となるわけで、だから、政治的または思想的にそうなったわけではなくて、ストーリーとしてそうならざるを得なかったわけだよ。
チャニング・テイタムはいいダンサーだよ
──脚本を書くにあたっては、特定の役者を念頭に書きましたか。
イーサン:ジョージの役はそうだ。ジョシュは、過去に2作品一緒にやっているけれど、特に彼のために書いたわけではなかったんだけれど、書き終わって、あの役をよく考えてみたら、「OK、ジョシュならこの役ができるな」ってことになったんだ。
ジョエル:ティルダに関しては、あのキャラクターに対するアイディアがあって、「OK、ティルダならこの役を演じられるな」って感じで、「ティルダのためにどんな役を書こうか?」というのは違うんだ。
スカーレットに関しては、NOだ。でも、彼女のことは知っていた。スイミングに関することをやろうというアイディアを思いついたときに、スカーレットに是非やってほしいと思ったんだ。だって、彼女にやってもらったら、とても面白くなると思ったからね。レイフも同じだ。アルデンは、映画では本当に素晴らしいけれど、オーディションで初めて会ったんだ。彼がオーディションにやって来て、あのシーンを読んだんだ。
──みんな特定のスキルがありますね。チャニングがジーン・ケリーのように踊れるなんて、どうして知っていたんですか。
ジョエル:チャニングが踊れるのは知っていたよ。タップダンスはしたことがなかったけれど、ダンスはたくさんしていた。いいダンサーだよ。彼ならタップもできるようになるって、自信があったね。
映画『ヘイル、シーザー!』より、ミュージカル・スター、バート・ガーニー役のチャニング・テイタム ©Universal Pictures
──カーボーイ役の男優ホビー・ドイルを演じるアルデン・エーレンライクは、オーディションで投げ縄を?
ジョエル:違うよ、オーディションでは、レイフとのシーンをやってもらったんだ。台詞をうまく言えないシーンだね。
──『ヘイル、シーザー!』のどの映画を本当に映画化したいと思いますか?
ジョエル:イーサンは、歌うカーボーイの映画だって。
イーサン:歌うカーボーイ。絶対に水のバレーじゃないね。あれはもう十分(笑)。
──これまでセットでジョシュ・ブローリン演じるエディ・マニックス的な何でも屋が必要だったことはありますか。
ジョエル:エディ・マニックスみたいな何でも屋はないね。
イーサン:あんなに興味深いキャラはいないね。スキャンダラスなことはないよ。
映画『ヘイル、シーザー!』より、ジョージ・クルーニー ©Universal Pictures
僕らが50年代ハリウッドのスタジオで成功してたかはわからない
──スタジオシステムには明らかに欠点があった。特に、契約中の役者にはそうだったでしょう。でも、この映画の舞台になった時代の映画製作者たちにとっては大きな資産/資源でもあったわけです。例えば、ビリー・ワイルダーと時代を取り換えたいと思いますか?
ジョエル:いい質問だね!それは奇妙なトレードだね。
イーサン:最近はもっと洗練された技術がある。もっともわかりやすいのが、コンピューターを使って、制作の問題を解決するんだ。でも、彼らにはスタジオのシステムがあった。本当に優秀な技術者や職人の集団がいて、たいていの映画では、普通に集めることはできないような人たちだよ。
ジョエル:そういう技術的な部分もあるけれど、その他には、こういうシステムの中で成功しただろうか?ってことだよ。僕らは自分たちが育ってきた時代の産物だから、実際に、どうだったかと考えるのは不可能だし、実際に自分が存在しなかった時代に成功できたかどうかを考えるのは、実際にはわからないけれど、魅力的に映る部分もある。
ご存じのように、映画を撮るためのすばらしい機材があった。そして、当時映画監督をしていた人たちは、キャリアの中で40から50本もの映画を撮っていたんだ。今やそんなことはできない。
ひとつ撮ったら、次へ、そして次へと撮っていくから、仕事量はいつも違うだろうし、刺激的だったと思うよ。でも、一方で、当時は、スタジオのコントロールという意味で、今とは大分異なっていただろうし、我々が慣れているものとは違うだろうね。僕にはわからないし、答えるのが不可能な質問だけれども、面白い質問だと思うね。
──今日存在するスタジオシステムは、敬遠してしまいますか?
イーサン:僕らはもうその一部分であり、そうではない。僕らはスタジオで脚本を開発しないし、基本的には、何についても、彼らからのインプットに従わなければならないというわけではない。僕らはできあがった脚本、予算、キャストをスタジオに提示し、資金調達をお願いするんだよ。僕らの作品の資金調達は、たいていスタジオがやってくれるけれど、そんなに特別なことではないよ。多くの人が、スタジオとそういう風に仕事をしている。それに、スタジオの外で資金調達することもあるしね。
『ヘイル、シーザー!』は、昔の映画に対する愛から生まれた
──脚本家であり共産主義者だった誘拐犯たちについて教えてください。
イーサン:物語だよ。彼らは理想主義者なんだ。誤った方向に導かれてしまったけれど、実は正しい。彼らは理想的な対局に位置している。メインキャラクターに対して正反対の理想だね。でも、物語にきちんとはまるような面白いキャラクターを考えていて思いついたのであって、僕らの考え方を反映させたわけではない。
──登場人物たちの問題を背負うエディ・マニックスのようなキャラクターには魅かれますか?あなた方の映画には、彼のようなキャラクターがよく見られますが。
イーサン:そう?
ジョエル:ちょっとそういう風にも考えていたけど、この映画のキャラクターは特別なものだと思うよ。魅力的だと思ったことのひとつは、スタジオがキリストの映画を作っているという事実だよ。キリストが何をしたか?彼は人々の罪を背負った。それは僕らにとっては面白いほど類似している話なんだ。でも、僕らの他の作品で出てくるキャラクターは同じだとは言えないよ。『シリアスマン』のマイケル・スタールバーグも多くの問題を抱えていたけど、全部自分の問題だったしね。
映画『ヘイル、シーザー!』より、スカーレット・ヨハンソンとジョシュ・ブローリン ©Universal Pictures
──あなた方の作品全部を通して共通するテーマはありますか?
イーサン:自分たちで意識しているものはないよ。つまり、もし繰り返しているものがあるのだとわかっていたら、他のことをやろうとするだろうね。だから、僕らの映画に共通しているものがあるのだとしたら、それは我々の努力が足りないということかな。
──『ヘイル、シーザー!』は、1950年代のクラシック映画へのラブレターですか?
ジョエル:もちろん、そうだ。『ヘイル、シーザー!』は、昔の映画に対する愛から生まれたんだ。この話を映画化する魅力のひとつは、過去のジャンルから少しずつサンプルを取ることができることだったんだ。この映画を撮る楽しみのひとつだったね。
──では、その時代のハリウッドに対するノスタルジア(郷愁)を表現していると言えるでしょうか。
ジョエル:自分たちが生きていた時代ではないから、ノスタルジックになることはできないけれど、この作品は、意図的に、1950年代のハリウッドを美化して描いたものなんだ。でも、当時、どのように映画が作られたかという部分があり、映画の製作工場や映画を製作する機械といった考えがあったけれども、美しくデザインされた映画というものを作っていたということで、ノスタルジアではないけれど、愛情と称賛という要素はあるね、恐らく。ああいう環境で、どうやって機能できたかわからないけれど、現代的な感覚では、ああいう状況に自分たちの身を置くというのは不可能だ。でも、もちろん、ああいう映画製作に対して愛おしさを感じさせるものにはなっているね。我々がそういう風にやっているわけではないけれど、とても愛おしさを感じる描き方にはなっているよ。
(オフィシャル・インタビューより)
ジョエル&イーサン・コーエン(Joel Coen & Ethan Coen) プロフィール
アメリカ、ミネソタ州出身。1954年11月29生まれのジョエルと57年9月21日生まれのイーサンの兄弟で活動する監督・脚本家・プロデューサー。処女作『ブラッド・シンプル』(84)が絶賛され続く『バートン・フィンク』(91)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールと監督賞を受賞。1996年『ファーゴ』(96)はカンヌ国際映画祭で監督賞を、アカデミー賞では脚本賞を受賞。その後も『バーバー』(01)『ノーカントリー』(07)『トゥルー・グリッド』(10)『トゥルー・グリット』などの作品で世界の映画祭でノミネートや受賞を果たしている。ヒューマンドラマの中に他に類を見ない独自の世界観を共存させる作風は、批評家のみならず世界中の映画ファンからリスペクトされている。前作『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』(13)は第66回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映され、審査員特別グランプリを獲得。第86回アカデミー賞には撮影賞と録音賞にノミネートされた。また第71回ゴールデングローブ賞には作品賞(ミュージカル・コメディ部門)を含む3部門にノミネートされた。
映画『ヘイル、シーザー!』
5月13日(金)よりロードショー
1950年代、ハリウッドが“夢”を作り、世界に贈り届けていた時代。スタジオの命運を賭けた超大作映画『ヘイル、シーザー!』の撮影中に、主演俳優であり世界的大スターのウィットロック誘拐事件が発生。撮影スタジオは大混乱に陥る中、事件解決への白羽の矢を立てられたのは貧乏くじばかりを引いているスタジオの“何でも屋”。お色気たっぷりの若手女優や、みんなの憧れのミュージカルスター、演技がどヘタなアクション俳優など、撮影中の個性溢れるスターたちを巻き込んで、世界が大注目する難事件に挑む
監督・脚本・製作:ジョエル・コーエン & イーサン・コーエン
出演:ジョシュ・ブローリン、ジョージ・クルーニー、アルデン・エーレンライク、レイフ・ファインズ、スカーレット・ヨハンソン、ティルダ・スウィントン、チャニング・テイタム、フランシス・マクドーマンド、ヴェロニカ・オソリオ、ティルダ・スウィントン、ヘザー・ゴールデンハーシュ、アリソン・ピル、クリストファー・ランバート
製作:ティム・ビーヴァン/エリック・フェルナー
製作総指揮:ロバート・グラフ
撮影:ロジャー・ディーキンス
プロダクション・デザイン:ジェス・ゴンコール
編集:ロデリック・ジェインズ
衣装:メアリー・ゾフレス
音楽:カーター・バーウェル
原題:Hail, Caesar!
2016年/アメリカ・イギリス/ビスタサイズ/ドルビーデジタルSRD/上映時間106分
字幕翻訳:石田泰子
配給:東宝東和
公式サイト:HailCaesar.jp