映画『わたしの自由について ─SEALDs 2015─』より
2016年夏、安全保障法制に反対の声上げ続け、国会前を群衆で埋め尽くした学生団体「SEALDs(シールズ)」。彼らの激動の夏に密着したドキュメンタリー映画『わたしの自由について ─SEALDs 2015─』が、渋谷アップリンクで5月3日(火・祝)~5月10日(火)に先行上映後、5月14日(土)から全国の劇場で順次公開となる。
5月3日の憲法記念日が設立1周年になるSEALDsは、今夏の参議院選挙で解散することを表明しているが、メンバーたちは今、どのような思いを抱え活動しているのだろうか。以下に、映画完成後の去る4月15日に行なわれた、西原孝至監督とSEALDsメンバー3人(牛田悦正、奥田愛基、芝田万奈)の座談会の模様を一部掲載する。
※座談会の全文は、『わたしの自由について~SEALDs 2015~』劇場パンフレット(5月14日の本公開から販売予定)に掲載されます。
SEALDsには「俺が俺が」感がない
奥田:映画をみて思ったのは、「俺もそういうこと考えてたわ」っていうのが、違うメンバーが言ってたりしてた。ミーティングでもそういうコンセプト的な事ってなかなか密に話せなかったりするんだけど、それを動きながら共有していたんだっていうのを感じました。
牛田:そうだね、だから俺はそういう思考を磨いていく係だと勝手に思ってます。奥田くんが遅れてきたミーティングとかでシモーヌ・ヴェイユを引用して「集団は思考しない」っていきなり哲学の話はじめるとか(笑)。
牛田悦正(SEALDs) photo:植田千晶
奥田:「一人ひとり孤独に思考し判断しろ」という言葉もアップデートされていく感覚があって。元々辿っていくとアーレントがいたりとか色々あるんだろうけど、その言葉を、今の動きや形にあったものにしていく。キング牧師のスピーチも聖書が元にあったりするように、その場所でしか生まれないものを探っていく。動きながら、ある時はじっとしながら、言葉を紡いでいく。それはさっきの組織論とは別に、すごく地道に続けていかないといけないなと。あと、SEALDsがいいなと思うのは、「俺が俺が」感がないじゃん。
牛田:ないね。なんなら、「俺が俺が」っていうやつが嫌いなんだよね。「俺が俺が」っていう人と仲良くなれない人の集まり(笑)。
西原:でも、それはあるかもね。撮影していて感じたのは、いろんな考えの人が勿論いるんだけど、なにか通底している部分がSEALDsのメンバーにはあって。そこが一個共有できているからこそ、それぞれが個人としていられる気がしました。
映画『わたしの自由について ─SEALDs 2015─』の西原孝至監督
photo:植田千晶
牛田:僕が感じる共通性は、みんな悩んでいる。元ひきこもりが結構いる。僕もその時期があったし。奥田くんもそうだし。
芝田:内向的なのかな。
奥田:よくこんなことやってるよね(笑)。
牛田:どれだけ集団になろうとしても、なれないという事を分かっちゃってる人たちなんだよ。「俺の気持ちはお前に分かんないし、お前の気持ちも俺には絶対分かんない」。
奥田:っていうことだけは、分かってる(笑)。
牛田:共同体足り得ない共同体というか。それはみんなに共有できてるのかな。
芝田:みんな学校のクラスの中とかサークルとかで、完全にフィットした経験がないんですよね。いつも自分は他の人とは違っていて、合わないなっていう、そのちょっとした違和感を感じていた人たちが、偶然集まったのかなとは思ってます。でもそれってきっと、みんな思ってるんですよね。考えなかったら楽だし、自分の意見なんて無い方が楽なんですよ、集団でいれば。でも少なくとも私たちの世代は、そういう違和感のような感覚があるんじゃないかな。だからそういう、いろんな個人が尊重されて認められる社会になればいいなと、ずっと思ってます。
芝田万奈(SEALDs) photo:植田千晶
奥田:世代って話が出たけど、前は意見なんて言わなくても、ある程度社会は回っていく感覚があった気がするんですね。大きなストーリーがあって経済が成長してますっていう。一億総中流という言葉とか、いま絶対言えないけど。格差の広がりとかみても、俺たちの世代って大変じゃない?っていう感覚はあると思う。
奥田愛基(SEALDs) photo:植田千晶
固定された社会に「グッドノイズ」を与える
牛田:俺が最近発明した「グッドノイズ」っていう概念があるんですけど。社会って固定されたもので、そう簡単に変わらない。秩序をどう考えるか。個人の意思って、言ってしまえばすごい無力で、無効化される時があるんですね。だけど、今の秩序の中ではこうなるっていう、ある意味決まっている未来があるとしたら、その未来が起こらないようにするために、そのクリーンな道筋に若干ノイズを与えていく。迂回するように方向付けだけ変える、つまりその全体の秩序を変えることができないけど、ノイズを与えることで、未来に……。
芝田:SEALDsがグッドノイズってことか。
映画『わたしの自由について ─SEALDs 2015─』より
西原:去年の活動はまさにそうなんじゃないかな。例えばSEALDsが声を上げなかったら、安保法制は簡単に通った気がするし、問題点も可視化されなかった。そしていまも尚、声があがっている。
牛田:そうなんです。全部が意思によって社会が変わるというのも危険なんで、常に「グッドノイズ」を発し続けていく。秩序に対して。
奥田:入れ替わり立ち替わり、自分たちがやっている事は続いていくというか、牛田くんが「キング牧師から受け取っちゃったんですよね」って言ってたけど、映画をみた人にも受け取るものがあればいいなと思ってます。社会活動って結局は「グッドノイズ」でしかないから、だから逆にいうと大いに声出してくださいと。出来る事は限られてるけど、出来る事は大いにある。だから「あなた」に出来る事をやってほしいですね。次にこういうドキュメンタリー映画が出来た時、その終わりが「あなた」の行動であってほしいと思います。
映画『わたしの自由について ─SEALDs 2015─』より
映画『わたしの自由について ─SEALDs 2015─』
2016年5月3日(火・祝)~5月10日(土)渋谷アップリンクにて先行上映/5月14日(土)より全国順次公開
終わったなら、はじめるぞ。
声上げ続け、国会前を群衆で埋め尽くした学生団体「SEALDs(シールズ)」。2015年。第二次世界大戦以後、70年間、平和国家として歩んできた日本の安全保障が、大きく変わろうとしていた。安倍晋三首相率いる自民党は、これまでの憲法解釈を180度転換し、集団的自衛権の行使容認を含む新たな安全保障関連法案を国会に提出した。日本国憲法第9条で定められた、戦争放棄に反するこの政府の動きに、世界一政治に無関心といわれた日本国民、特に若い世代が大きな危機感を持った。東京を中心に立ち上がった、学生団体「SEALDs」(シールズ:Students Emergency Action for Liberal Democracy-s)は、毎週金曜日に国会議事堂前で抗議活動を開始し、その動きは日本全土に広がった。この映画は、数名の若者たちが手探りではじめた社会運動の、半年間の記録である。
2016年/日本/カラー/165分/16:9/DCP
公式サイト:http://www.about-my-liberty.com
監督・撮影・編集・製作:西原孝至
撮影応援・カラリスト:山本大輔
サウンドデザイン:柳智隆
配給・宣伝:skykey factory
配給協力:アップリンク
宣伝協力:contrail
先行上映&トークイベント@渋谷アップリンク
5月3日(火祝)16:30の回
【ゲスト】奥田愛基(SEALDs)、牛田悦正(SEALDs)、芝田万奈(SEALDs)、西原孝至(監督)
5月4日(水祝)16:30の回
【ゲスト】沖野修也(DJ)、橋本紅子(SEALDs)、西原孝至(監督)
5月5日(木祝)16:30の回
【ゲスト】蓮舫(政治家)、芝田万奈(SEALDs)、西原孝至(監督)
5月6日(金)19:15の回
【ゲスト】ECD(ラッパー)、西原孝至(監督)、荏開津 広(執筆・オールピスト京都・京都精華大学非常勤講師)
5月7日(土)15:30の回
【ゲスト】宇都宮健児(弁護士)、金子遊(映像作家)
5月8日(日)15:30の回
【ゲスト】山本太郎(政治家)、西原孝至(監督)、ほか未定
5月9日(月)19:15の回
【トークゲスト】茂木健一郎(脳科学者)、西原孝至(監督)、ほか未定
5月10日(火)19:15の回
【トークゲスト】福島みずほ(政治家)、SEALDsメンバーほか
映画公開記念
植田千晶・矢部真太・七田人比古写真展 『わたしの自由について』
本作の公開を記念して、SEALDsメンバーでフォトグラファーの植田千晶さん、矢部真太さん、七田人比古さん3名によるリレー形式のグループ展を渋谷アップリンク・ギャラリー開催。詳細はこちら。