(写真)富田克也監督
元ヤンカップル二人のどうしようもない怠惰な現実と、遅かれ早かれ彼らが迎えることになるであろう最悪な結末をフィクションとして描き切った富田克也監督作品『国道20号線』。
宮台真司氏が『国道20号線』を昨年の日本映画のナンバー1と評価するなど各所で話題を呼んだ本作品が、ロードショー公開を終えてすぐの2008年2月よりアップリンク・ファクトリーで「月例上映会」として再スタートした。今までに制作スタッフや出演者、素人の乱、ラジオマルーン、宮台真司、ラッパー集団Still Ichimiyaなどをゲストに招いて上映後にトークやライブを開催、“有意義な”イベントとして定評を得ている。
今回6月21日(土)の月例上映会では、『国道20号線』に加え、本作で描かれた世界観の源流ともいえる『雲の上』を併せて上映。富田監督に改めて月例上映会について話を伺った。
── 今年2月から始まった月例上映会ですが、なぜこのようなイベントを開催しようと思ったのでしょうか。
最も大きな理由は、「継続」することが大事だと思ったからです。まず一つ目は、現在、映画は短期間の上映を終え、即ソフト化されてしまいます。観客もそれを待って観るという流れができてしまいました。やはり、映画館で映画を観るという行為を大事にしたいという思いがあります。
二つ目。僕らは映画作りだけでなく、宣伝・配給も全て自分たちでやっているため、宣伝力は不足気味です。情報や評判がじわっと広がったころにはロードショーはとっくに終わっているわけです。実際、この月例上映会になってからお客さんは増え続けています。
そして三つ目。映画を映画だけで終わらせたくないという思いがあります。そのために映画を現実とリンクさせるべく、毎回多彩なゲストをお招きして、各回の濃度を高めようと努力しています。
── 社会学者の宮台真司さんが『国道20号線』を昨年の日本映画のナンバー1だと評していましたね。
宮台さんは映画の批評もされていますが、その切り口はやはり本業である社会学的なものです。最初の質問の三つ目の答えの通り、僕らがこの映画を作った理由を考えれば、宮台さんのくださった評価は非常に重要なものです。
(写真)地方都市で暮らす元暴走族の青年と、彼を取り巻く絶望的な状況をリアルに描いた作品『国道20号線』(2007年/77分/16mm-DV)
── 『国道20号線』は、どんなところが受け入れられたと思いますか。
観客の共感を呼んだのだとすれば、本作の描く問題が、非常に現実に差し迫ったものだったからじゃないでしょうか。この手の映画は近年では嫌われてきた映画だと思います。作り手側もそれを恐れてやらなくなっていました。映画が政治的・思想的なことを語ったり、作者の問題意識が前面に出るような作風が、です。でも、ここ数年、一部のドキュメンタリーが話題になったり、人々の問題意識が活発になり始める傾向があるのではないでしょうか。今、巷では小林多喜二の「蟹工船」が物凄く売れているそうですから。
── 『国道20号線』を初めて観たとき、初期のジム・ジャームッシュ作品を彷彿させるものを感じたのですが、影響を受けた映画監督や作品がありましたら教えてください。
マーティン・スコセッシの『ミーン・ストリート』に例えてくれた人もいました。非常に好きな映画です。最近の作家では、ペドロ・コスタ、ジャ・ジャンクー、そして亡くなりましたがエドワード・ヤンが好きです。
(写真)『国道20号線』より
── 今回、『雲の上』を併せて上映するのはなぜでしょうか。
この前作は8㎜作品で、移転前のアップリンクで7ヵ月間に渡り、月例上映会をやらせてもらっていました。でも、お世辞にも多くの人に観て貰えたとは思えません。その後勿論ソフト化はしていないのですが、『国道20号線』が多少話題になったことで、『雲の上』を観たいと言ってくれる声が多くなったというのがあります。そして同時に観ていただけるのならば、そのテーマの同じ部分、違う部分、移り変わりを観てほしいと思います。
(写真)映画美学校2004年度スカラシップ受賞作品『雲の上』(2003年/150分/8mm-DV)。アウトローな若者たちの日常を描き高い評価を受けた
── 月例上映会の魅力は何だと思いますか。
月一に濃縮した内容。そして継続。「まだやっているだろう、いつか観れるだろう」ではなく、ピンポイントで時間を作って、足を運ぶという行為によって映画を観るという意識を高めながら来ていただければと思います。
── 次回作の構想はありますか。今後どのような作品をつくりたいと考えていますか。
構想はありますが、今は上映活動で忙しく手はつけられません。毎回思うことですが、観る側にとって新しい世界が開けるような映画を作りたいと思います。
(インタビュー・文:牧智美/構成:倉持政晴)
■富田克也PROFILE
1972年生まれ。山梨県甲府市出身。高校卒業後、上京。1996年第1回監督作品でレインボーブリッジ建設途中の芝浦を背景に廃墟的な半自伝を描く。第2回監督作品の前作『雲の上』は8mm/140分という異例の撮影を敢行、驚異の大作で世間を驚かせた。そしてその内容は「中上健次と『わるいひとたち』(B.J.C)との映画的邂逅」と評され、柳町光男(映画監督)・矢崎仁司(映画監督)・田中泯(舞踊家)・松井良彦(映画監督)・七里圭(映画監督)・SAKANA(ミュージシャン)ら各方面・各世代から絶賛を受ける。作り手自らの血を通わせ、観る者の血をたぎらせる映画作家である。
『国道20号線』月例上映会(特別併映『雲の上』)
日時:6月21日(土) 開場18:30/開演19:00
会場:アップリンク・ファクトリー
(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
料金:1,800円(1ドリンク付/当日のみ)
※20:30より上映『雲の上』のみをご覧の方は1,300円(1ドリンク付)
★7月の月例上映会はお休みとなります。8月は日比谷カタンさんをゲストに招いての開催となります。