骰子の眼

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東京都 渋谷区

2016-05-03 16:15


『オマールの壁』パレスチナ人俳優アダム・バクリが語る「個人が世界を変えるんです」

分離壁については50年後イスラエルで「俺たちは21世紀にもなって、なんてバカなことをしたんだろう!」と笑い話にできればいい
『オマールの壁』パレスチナ人俳優アダム・バクリが語る「個人が世界を変えるんです」
映画『オマールの壁』主演のアダム・バクリ 写真:荒牧耕司

パレスチナの今を生き抜く若者たちの姿をスリリングに描いた映画『オマールの壁』が公開中。主演俳優アダム・バクリが、映画公開に合わせて初来日を果たした。本作は、分離壁で囲まれた危険と背中合わせのパレスチナを背景に、命懸けで生きる若者たちの姿をリアルかつスリリングに活写した衝撃のサスペンンス・ドラマ。カンヌ国際映画祭をはじめ、多数の映画祭で絶賛され、パレスチナ代表としてアカデミー賞外国語映画賞ノミネート作品に選出された。イスラエル・ヤッファ生まれのパレスチナ人であるアダムは、何を思い、何を感じ、本作の撮影に臨んだのか。劇中、丸刈りだった髪を伸ばし、端正なマスクから時折笑顔をのぞかせる27歳の青年がリアルな心情を語った。

また今作は好評につき、角川シネマ新宿、渋谷アップリンクに加え、シネスイッチ銀座での上映が5月7日(土)より1週間限定で決定。1日1回16:00より上映される。

オール・パレスチナで作った世界初の100%パレスチナ映画

─一脚本を読んで、一番最初にどんなことを感じられましたか?

脚本を読み始めて、あまりにも感動して、1時間もかからず読み切りました。力強いストーリーと、オマールの美しい魂に感動して震えました。共感もできました。内面的な葛藤は誰しもありますが、それに非常に感動しました。

──本作がパレスチナ資本100%で完成したことの意義をどのように感じていますか。

ナザレ地区で7週間、西岸で1週間、分離壁に遮断されたそれぞれの場所で撮影できたことは、とても貴重な体験でした。でも、そのことよりも、あなたがおっしゃるように、この映画は100%パレスチナで資金が調達され、クルーもキャストも99.9%がパレスチナ人、つまりオール・パレスチナ人で作られた最初のパレスチナ映画であるということを、非常に私たちも誇りに思っています。さらに、その記念すべき作品がアカデミー賞外国語映画賞のノミネートされたことも光栄に思っています。

映画『オマールの壁』より
映画『オマールの壁』より

──パレスチナで上映した時に大きな反響があったそうですが、具体的には作品のどの点が響いたのでしょうか?

いろんなシーンに感動されていたと思いますが、特にオマールが分離壁をよじ登ろうとして登れない時に、老人がスーッと立ち上がり手助けするシーンに感銘を受けた方がとても多かったそうです。私の兄弟は非常にタフで、人前で絶対に泣かないんですが、あのシーンを観た時は号泣してしまったそうです。それはなぜだかわからないけれど、あのシーンは、パレスチナ人の物語を象徴しているからかもしれませんね。

──100%パレスチナ映画である、というところと関連するところですが、本作のメガホンを取ったハニ・アブ・アサド監督の『パラダイス・ナウ』の中で、フランスに住んでいる女性がパレスチナへ行って、外からの視点で「暴力以外の解決方法があるはずだ」と説いていました。ところが、本作に関しては外部の視点が全くない。それはやはり、100%パレスチナ映画であることが影響しているのでしょうか。

アブ・アサド監督は当初、脚本を練っている時は、100%パレスチナ映画にしようとは思っていなかったと思います。ただ、この脚本を書き終わってから、いろんなオファーを受けたけれど、結局、歴史的な意味を考えると「これはパレスチナで作ったほうがいい」と判断したのではないでしょうか。ですから、「パレスチナ映画だから、外部からの視点を排除した」ということはないと思います。でも、この映画も「暴力以外にも解決方法はある」ということを訴えていると思いますよ。悪いのは「占領」であり、それによって現在のパレスチナの状況が起こっているということも伝えていると思います。

映画『オマールの壁』より
映画『オマールの壁』より

衝撃の結末は、「人生で一番ハッピーな日」をイメージ

──この映画では、誰にでもあるような若者たちの男女関係や友人関係のもつれ、そこから生まれる不信感や嫉妬心といったものも描かれていていましたが、そこに「占領問題」が加わることによって、演じ方、あるいは表現の仕方が変わった部分はありますか?

俳優として僕が描いているのは、地理的なものではなく、あくまでも“人間”だと思っています。ですから、人間としての葛藤や対立といったものを「よりパーソナルに見せる」というところには、強い責任を感じながら演じていますね。

──つまり、そういった状況を演技に反映することはないということですか?

まぁ、二次的なものではあると思うんですが、そこにもう場所が存在しているわけで。例えば、物語のキーになっている分離壁は、すでにそこにあるもので、その壁を見ると圧倒される、という感情は、演技に反映されるかもしれません。つまり、そこにあるものが演技を助けるということはあると思うんです。もしも違う場所だったら、もっとリサーチしなければいけなかったかもしれませんが、パレスチナということで自然に反映させていたのかもしれません。

──アダムさんは、イスラエル・ヤッファ出身のパレスチナ人ということで、実際には分離壁に囲まれて育ったわけではないそうですが、その部分では、何か準備やリサーチなどをされたのでしょうか?ずっと隔離された中で育った方は、閉塞感があるのかなと想像するのですが……。

そうですね、どこの地域で育ってもパレスチナ人は二級市民であるという感覚で育ち、同じように人種差別を受けます。ただ、生活環境はオマールが住んでいた区域とは全く違っていたと思います。ですから、撮影前に何度も訪れて、オマールがどんなことを感じたのか……囚われた感じなのか、あるいは刑務所にいるような感じなのか、そういった内面的なことを想像しながら準備は入念に行いました。

オマールは自分に近いところも、まったく違うところもあります。人間はみんな内面的な葛藤や苦しみを抱えていると言う意味では近いと思います。この映画の核になるのは、オマールの内面の葛藤や悩み。彼はいつも自問して、いろんなことを考えている。演じるということは想像することで、僕はいつも彼のことを想像していました。もし自分がオマールの立場で、恋人に会うために毎日、殺される危険を冒して壁を越えなければならないとしたら?朝起きてシャワーを浴びようとして、水が出ないとしたら?日常生活で必要最小限なことも西岸では満たされていない。そういう生活はどうなんだろう、と自分に常に問いかけていました。オマールの悩みや葛藤は、パレスチナの悩みであり葛藤なんです。

映画『オマールの壁』より
映画『オマールの壁』より

──撮影で分離壁を実際に登ってみて、どのようなことを感じましたか?

その緊迫感たるや、物凄くエモーショナルな体験でした。分離壁の前に立って初めて壁が持つパワーを感じましたし、視界からは空が見えなくなり、太陽が隠れてしまう大きさには本当に驚きました。それを毎朝起きて、毎回見なければならないフラストレーションや無力感というものを私もその場で強く感じましたね。

──本編では8メートルの壁をよじ登るシーンがありますが、あれは実際に登ったのですか?

いえいえ!全部登り切ったら銃で撃たれちゃいますからね。壁をまたいで降りるシーンは、その部分だけセットで撮影したんです。途中までは実際に登りましたが、3.5メートルくらいが限界でした(苦笑)。かなりトレーニングを積んでトライしたのですが、半分以下で力尽きてしまって……あとはスタントマンに託しました。

映画『オマールの壁』アダム・バクリ
映画『オマールの壁』アダム・バクリ

──ちょっと際どい質問ですが、誰もが驚く衝撃のラストシーンについて。アダムさんにとってあのシーンは、どのように解釈し、どのように演じようと思いましたか。また、このシーンについて監督とどのようなディスカッションがあったのでしょう。

アブ・アサド監督から「人生で一番ハッピーな日だと思って演じてほしい」と指示を受けました。私自身も、あの時オマールは、自分自身が下した最後の決断に心から「これでいいんだ」と納得し、そして平和を感じたんだと思います。

──演じている時、どのような気持ちだったのですか?

俳優はたいがい、何か他のものに気持ちを置き換えるものですが、私はその時、大好きだった今は亡きおばあちゃんが自分の前を歩いている姿を思い浮かべましたが、心から平和な気持ちになりましたね。

映画『オマールの壁』より
映画『オマールの壁』より

イスラエル人は「恐れ」に洗脳されたメディアの犠牲者

──アダムさんは、アメリカで演技の勉強をされて、お仕事をされているそうですが、国をいったん離れると、イスラエルとパレスチナの対立について、見方が変わったりするものですか?

イスラエルでの生活は、常に対立があり、緊迫しているので、底流の部分でみんな怒りを持っています。だから凄く気性が激しいんです。私の兄弟はパレスチナ人でイスラエルに住んでいますが、いつも対立という重荷を背負って生きている。私は5年前にアメリカに移住しましたが、全てを俯瞰して遠くに見ることができるので、やはり向こうでの生活の方が楽ではありますね。

──アメリカ、特にニューヨークは、ユダヤ人やイスラエル人との関わりが多いとも聞いていますが、異国で接する場合と、対立がある自国で接する場合と、感覚的に違いはあるものなんでしょうか?

これは、パレスチナ人とイスラエル人、ということだと思いますが、お互いがお互いを恐れながら生きていることだと思います。私自身はユダヤ人の友人もたくさんいますし、私は“人間”なので、他の人間を好きになったりもするし、平和も求めています。ところが、イスラエルの人たちは、メディアの犠牲になっていると思います。常に恐れというものに洗脳されているので、その恐れの中に、平和というものは、なかなか訪れない……ということが、より鮮明に見えてきますね。

映画『オマールの壁』より
映画『オマールの壁』より

ラブレターはとても美しい行為

──ちょっと話は変わりますが、ナディアの結婚をめぐるやりとりがとっても興味深かったです。まず、お兄さんに話を通して、というシーンがありましたが、いまだに家族の了解を得ないと結婚できないという風習があるのでしょうか?

ええ?これは世界中、どこでも家族の了承は必要なものではないですか?

──日本では多少、その辺りは変わってきていると思います。

なるほど。そうですね、まぁ、ここでも「占領」ということが大きなテーマになってくるのですが、パレスチナは占領されているがために、人々が閉鎖的かつ制約的で、他の文化に対して開いていないので、いまだに古い伝統が残っているのかもしれませんね。

──もうひとつ気になったのが、手紙のやりとりを頻繁にやっていますが、今時ですと、携帯電話とかメールのやりとりが普通だと思うのですが。

僕が高校の時は、ちゃんとラブレターを書いて、手紙でやりとりをしていましたし、とても美しい行為だと思います。ただ、パレスチナでも、そろそろスマートフォン世代は出て来ていまして、すぐに普及すると思います。僕の甥っ子は4歳ですが、iPadを使って何時間も遊んでいます。

──友人であるアムジャド(サメール・ビシャラット)のお姉さんが7人いるのに誰も結婚していないシーンも印象的だったのですが、日本でも女性の社会進出によって晩婚化が進んでいて、男性も女性も結婚しない、子供も生まれない、ということが問題になっています。パレスチナでは晩婚化の問題はないのでしょうか?

考えたことなかったですが、今言われて気付いたんですが、もしかしたら同じことが起きているかもしれませんね。15年前くらいから比べれば、生まれる子供の数はかなり減っていて、「どうしてかな?」と思ってはいたんですが、確かにパレスチナでも女性も男性も働いている。僕がいた村でもそうですね。

映画『オマールの壁』より
映画『オマールの壁』より

──パレスチナでは、平均何歳くらいでご結婚されるのでしょう。日本ですと30歳ちょっと過ぎくらいが一番多いのですが。

パレスチナの人はもっと若いうちに結婚しますし、若いうちに結婚しないと一生できないという考えがあって、その考えはよくないとは思うけれど、アラブの国で物凄く早く結婚する、という風習があったので、もしかすると、そこから来ているかもしれません。

──驚いたのが、ナディアに対して、オマールが「子供を産んだあとに学校に戻るの?」って聞きますよね。最近の日本では、少子化対策のひとつとして、学生時代に子供を産んでから社会に復帰するほうが女性としても、仕事と家庭を両立するにはいいんじゃないかという考えもあります。パレスチナでは普通なんでしょうか?

もちろん、子供を産んで、また学校に戻るという人は中にはいると思いますが、それは特別なケースで、大多数の女性は学校に行って、仕事に行って、そして結婚するか、大学時代に婚約して、卒業後に結婚する人が多いと思います。教育一般について言えることは、ここ10年くらの話ですが、みんな教育を受けなきゃいけないと言い始めて、教養があればあるほど女性が魅力的だと。社会的な風潮にはなってきています。

映画『オマールの壁』アダム・バクリ
映画『オマールの壁』主演のアダム・バクリ 写真:荒牧耕司

──オマールは秘密警察に捕まったことから、信頼していた恋人や友人まで疑わなくてはいけない状況になってしまいました。アダムさんご自身は誰かと信頼関係を築くときに大切にしていることは何かありますか?

普通、信頼関係というのは、誰かと出会っていきなりできるものではなく、ある程度継続的に付き合っていくなかで信頼関係が築かれていくものだと思います。だけど僕の場合、実はわりとすぐに信じてしまうほうなんです(笑)。周りから「お前は、何でそんなにすぐ信じるんだよ」とよく言われることがありますが、なぜ信じてはいけないのでしょうか?人に対して疑いを持っていると、いつも心配しなければならないので、だったら人を信頼して幸せになれば良いんです。僕は人間のなかにある善の部分をすごく信じているのですが、それはオマールと共通する部分だと思います。彼はすごく正直で、相手のなかに誠実さを見る人で、だからこそ余計に悩んで苦しかったんだと思います。

アートの素晴らしさを教えてくれた父は、私の誇り

──俳優・映画監督であるあなたのお父さんモハメド・バクリさんは過去2回来日されており、エミール・ハビービー原作の1人芝居『The Secret Life of Saeed: The Pessoptimist』や、ドキュメンタリー映画『ジェニン・ジェニン』『あなたが去ってから』なども日本で上演・上映されています。お父さんから、何か思想的に影響を受けたところはありますか。

影響ということでいえば、家族はもとより、お会いした方全員に何かしら受けていると思いますが、子供から大人になる成長過程の中では、やはり父という存在は大きかったですね。小さい頃からステージで演じる姿を観たり、セットの中で撮影している姿を観たりして育ってきたので、心から尊敬していますし、私の誇りでもあります。また、2人の兄も俳優として活動していて、いろいろ相談に乗ってもらったりもしていますが、結局、私がなぜ俳優になったかというと、周りが自然にそういう環境だったからなんですね。私たちの家庭では、映画・演劇といったアートがとても大切なものでした。非常に美しく自分を表現するとても重要なツールだと考えています。

私たちが生きているのは、壁に囲まれた閉鎖的な社会

──本作で描かれているイスラエルとパレスチナの問題をはじめ、文化や宗教の違い、そして過去の歴史によって近隣諸国との対立は世界中で問題になっています。どのようにしたら解決できるでしょうか。

私は映画に出る仕事をしている人間なので本作のような映画に出演して、人を愛することの大切さを広めていければと思っているのです。相手がユダヤ教だったりキリスト教だったり、はたまた仏教徒だったりと世界中には色々な人がいますが、一人の人間として付き合っていきたい。私は個の力を信じているんです。例えば自分の子供に『愛を広めなさい』と言えば、その子供がまた別の人に愛を広めていく……というようになっていけば、きっと世界から紛争がなくなっていくと信じています。

映画『オマールの壁』より
映画『オマールの壁』より

──あなたにとって分離壁とはどんな存在ですか?

壁はイスラエルが不正に占領を続けているという証明です。また、こんなに巨大で醜い壁が、イスラエルや米国の多くの市民から支持されているという事実には驚くばかりです。僕が望んでいるのは、しばらく経って分離壁がなくなることです。そして50年後くらいのイスラエルで、「俺たちは21世紀にもなって、なんてバカなことをしたんだろう!」と教訓にしたり、笑い話にできるような時代が来ることです。

──アダムさんは、自分人身が壁に取り囲まれていると感じたことはありますか?『オマールの壁』のような物理的な壁ではなく、メタファーとしての壁ということですが。

そうですね。最近、映画を観たり本を呼んだりして考えるのですが、人々は腐敗したシステムによって壁の中に閉じ込められているのではないかと思うことがあります。世界をコントロールしているのは、腐敗したシステムで、そのシステムが牢獄のように人々を閉じ込めて、皆からお金を吸い上げているのではないかと。人々は、その壁の外を知ることができないために、羊の群れみたいに、何も知らずにシステムに追従している。私たちが生きているのは、そういう閉鎖的な社会なのではないかと思うんです。

そういう意味では、この映画はとても象徴的です。この映画の原題は“OMAR”で、「壁」という言葉は日本語のタイトルにしかないんです。『オマールの壁』というタイトルを付けた日本の人たちは、この映画をとても良く理解しているし、現実に対する洞察力もすごいと思います。

映画『オマールの壁』アダム・バクリ
映画『オマールの壁』アダム・バクリ

──近年は世界の映画で、語り方に多様性が失われているのではという懸念を感じることはないでしょうか。

日本の偉大な巨匠である黒澤明監督はこう言っています。「人間の問題というものは同じで、みな共通の問題を抱えている。映画がそれを的確に描写していれば、映画はきちんと理解される」と。私はこれは非常に正しいと思います。つまり人間の問題というのは、どの人種でもどの国の人でも同じだから理解できると思うんですね。この映画でも、歴史的な事実など細かいところでわからない部分はあると思いますが、葛藤やもがき、悩みといったものは、この地球上の人間であれば皆同じだということです。

──では、あなたにとってアイデンティティの根拠はどこにありますか?

アイデンティティというのは非常に広い意味ものだと思うんですね。例えば私がパレスチナ人であるというのは本当にその一部でしかありません。自分がパレスチナ人だとかムスリムであるとか、ニューヨークに住んでいるとか、または仏教徒であるとか、それぞれにいろんなものがあって非常に複雑です。と同時に、アイデンティティというものは決して固定したものではなく、常に形成されつつあるものなんだと思います。例えば住む場所を変えたり旅行をしたりすればそのたびに新たに形成される部分があります。私は今朝、明治神宮に行って素晴らしい体験をしましたが、その経験もきっと影響を与えるでしょう。そういう意味でとても大きなものだと思っています。でも、まず第一に、私は人間です。エイリアンではありません(笑)。

──日本人にとって中東の問題は決して身近ではありません。日本人へのメッセージはなんでしょうか。

映画を観て、国という枠組みよりも、個人、つまり一人一人の人生の大切さを考えてもらえるといいと思います。個人が世界を変えるんです。登場人物に自分を投影してみて、様々なことを考えてもらえたら嬉しいです。


これは、「ある意味、『ロミオとジュリエット』だね」と屈託のない笑顔を見せるアダム。この映画をエンタテインメントの視点で観ていくと、確かに「分離壁」ほどドラマティックな舞台装置はない。だが、パレスチナの今を生きる若者たちにリアルに忍び寄る危険を思うと、この壁は、まるで要塞のように恐怖が覆いかぶさってくる。本当に乗り越えると射殺されるという現実と、危険な部分はセットで表現するという映画の世界、両方を行き来するアダムにとって、人生で一番ハッピーな日とは、パレスチナにとって一番ハッピーな日とは、いったいどんな景色をしているのだろうか。

(取材・文・写真:坂田正樹 発言は来日時のインタビューから構成)



アダム・バクリ(Adam Bakri) プロフィール

1988年、イスラエル・ヤッファ生まれのパレスチナ人。父親は俳優で映画監督のモハマッド・バクリ。二人の兄とも俳優だったため、自然に俳優の道を志すようになる。テルアヴィヴ大学で英語と演劇を専攻。その後、ニューヨークのリー・ストラスバーグ劇場研究所で演技のメソッドを学ぶ。研究所の卒業式の翌日に、本作のキャスティング・ディレクターにオーディション・テープを送り、イスラエルで演技テストを幾度も経たのちに合格した。本作が長編映画デビューとなる。現在はニューヨークを拠点に活動中。第一次世界大戦のアゼルバイジャンを舞台にしたアジフ・カパディア監督の新作『Ali and Nino』(2016年)で、キリスト教徒の女性と恋に落ちるイスラム系アゼルバイジャン人役で主演を務める。




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映画『オマールの壁』
角川シネマ新宿、渋谷アップリンクほかにて公開中、
5月7日(土)よりシネスイッチ銀座にて1週間限定上映、
全国順次公開

思慮深く真面目なパン職人のオマールは、監視塔からの銃弾を避けながら分離壁をよじのぼっては、壁の向こう側に住む恋人ナディアのもとに通っていた。長く占領状態が続くパレスチナでは、人権も自由もない。オマールはこんな毎日を変えようと仲間と共に立ち上がったが、イスラエル兵殺害容疑で捕えられてしまう。イスラエルの秘密警察より拷問を受け、一生囚われの身になるか仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られるが……。

監督・脚本・製作:ハニ・アブ・アサド(『パラダイス・ナウ』)
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ ほか
2013年/パレスチナ/97分/アラビア語・ヘブライ語/カラー
原題:OMAR
配給・宣伝:アップリンク
公式サイト




渋谷アップリンク併設のカフェレストランTabelaにて
映画『オマールの壁』公開記念メニュー

Tabelaアラブのデザートプレート

アラブのデザートプレート~バスブーサとマラミーヤ(税込700円)
ケーキ「バスブーサ」は、セモリナ粉を使ったアラブの伝統的なお菓子。甘い生地にレモンが爽やかに香ります。セージのお茶は「マラミーヤ」と呼ばれ、アラビア語で“聖母マリアの草”を意味します。

カフェレストランTabela
東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階
TEL 03-6825-5501
http://www.uplink.co.jp/tabela/


▼映画『オマールの壁』予告編





「世界を変える、社会を変える、映画特集」
4月16日(土)より渋谷アップリンクにて開催

http://www.uplink.co.jp/omar/special.php

『世界を変える 社会を変える 映画特集』ポスター

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