映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』より
イギリスのアーティスト、バンクシーが2013年10月1日から突然告知もなく開始し、ニューヨーク中とインターネット上を狂乱の渦に巻き込んだ展覧会「Better Out Than In」の模様を追ったドキュメンタリー映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』が3月26日(土)より渋谷シネクイント、4月2日(土)より渋谷アップリンクにて公開。ロードショーに先駆け、3月22日(火)より4日間にわたりトークイベント付きの先行上映も渋谷シネクイントにて行われる。監督を務めるクリス・モーカーベルのインタビューを掲載する。
ネットのアーカイブにアクセスしてストーリーを伝える
──2013年10月、あなたはニューヨークに居たのでしょうか?
いや、いなかった。だからバンクシーの展覧会のことはニュースで知っていたけど、市内でやメディアの盛り上がりと同じ熱量はなかったね。けど、プロデューサーのシェイラ・ネビンズが映画の話を持ちかけてきたんだ。彼女はバンクシーとバンクシーが巻き起こした現象に感銘を受け、それを1本の映画という形で表現したかったんだ。僕は以前に、彼女の会社で『Me at the Zoo』という映画を手がけていて、この作品もウェブサイトやSNSに投稿されたユーザー型のコンテンツを数多く使用して、公共の場に生まれたストーリーを伝える映画だった。バンクシーのレジデンシーを映画にするなら、その手法を使うことはまさに相応しいと思ったんだ。
映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』クリス・モーカーベル監督 via Chris Moukarbel's Instagram
──ソーシャルメディアからの素材の収集はどのように行ったのですか?
バンクシー関連の写真や動画を投稿する人の多くはハッシュタグ使うので、#BanksyNY や #BetterOutThanIn を検索したね。ハッシュタグを使用することは、その内容に注意を向けることに加えて、大規模なオンライン・アーカイブを作成することにもなる。だから、このプロジェクトは、このアーカイブにアクセスして、いかにストーリーを伝えるかという部分もあったんだ。
──多くの投稿者の中で一線を画す投稿者はどんな人でしたか。
単純に記録の量や正確さかな。例えば、ドッグウォーカーを映画で取り上げているけれど、これは彼らの活動がとても包括的だったからだ。彼らはバンクシーの作品を探す彼ら自身の様子も日々撮影していたので、この映画を真にエキサイティングなものにしたと思う。なぜなら、自分自身の体験が公開されるとは思いもせずに自らを記録し続ける姿を、観客は観ることになるからね。
映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』より、セントラル・パークによく出店されている土産物屋風に、オリジナル作品が60ドルで陳列販売されていた時の模様。現在のバンクシー作品の評価額は25万ドル。
バンクシーは都市や公共空間の高級化や資本家による私物化をテーマにした
──ユーザーが作成したコンテンツの中であなたを驚かせたものはありましたか?
レジデンシーの終盤に、ドッグウォーカーの1人、カートがその最後の日の様子をナレーションする場面がある。当時、バンクシーの文字が書かれた風船が彼の目の前で捕えられ、警官達が介入して小競り合いが始まったんだけど、カートは、この様子を細部にわたって説明していた。そのほかに彼はバンクシー公式サイトの音声ガイドのナレーターも担当していて、そこで「New York, New York」の曲を取り上げながら、「この曲は、バンクシーが最終日に僕たちに聞かせたかった曲です」、「僕らはまるで、映画の中にいるようだ」と話していた。その数ヵ月後、僕は彼の記録を編集して、同じ曲を使って1本の映画へとまとめ上げたときに「これでやっと、僕たちの映画は終わった」と思った。ふたつの異なる世界の間の隔たりが崩れた瞬間だったと思う。
──バンクシーのアートについて、どのように感じますか?
僕はバンクシーに向けられる批判について、常に関心をもっていた。バンクシーを現代アーティストとして見なすかどうかは議論の余地がある問題だけど、個人的に、僕は彼の作品がもたらす光景に惹きつけられたんだ。バンクシーのレジデンシーで理解したことは、バンクシーも同じだということ。つまりバンクシーは、作品やジェスチャーそのものではなく、その背景が重要になる作品を数多く制作しているということだ。そして彼は都市や公共空間の高級化や資本家による私物化や公共芸術の価値を取り巻く、より広いテーマにも興味を示しているように思う。その壮大なテーマは僕にとっても魅力的なものだったし、この映画で僕たちが模索したものだったと思っている。
映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』より、家畜のぬいぐるみが乗ったトラックが街を走る(ときどき精肉店で停まる)。
──映画の中でも触れられていますが、バンクシーの作品の収益化についてお話しいただけますか?
彼の作品「スフィンクス」が白昼堂々と盗まれたことに気づいた時、人々はお決まりの反応を示した。つまり多くの人々が強い怒りを感じたんだ。僕らはその作品を持ち去った男たちに連絡を取ったんだけど、彼らの言い分としては、バンクシーはその作品を彼らの近所に置いて立ち去ったということだった。そのエリアはかなり緊迫したエリアであり、シティー・フィールド用の駐車場やショッピング街を建設するために、解体される予定の250の中小企業が軒を連ねていたんだ。このクイーンズのウィレッツ・ポイントというエリアはバンクシーのレジデンシーの中だけでなく、映画の中にも取り上げた「スフィンクス」を盗んだ男たちは、「バンクシーは盗難届を出していないのだから、盗まれたことにならない」と考えていたんだ。彼らは「もし俺たちがそれを盗らないなら、他の誰かが盗るだろう。ギャラリーの関係者や金持ちのアートファンが持ち去るかもしれないし、それで何か良いことが起こるのか?ここは俺たちのエリアだし、俺たちがそれを手にすべき人間なんだ」と話していたのです。そういう背景を聞くと、彼らが作品を持ち去るのはフェアなことのようにも思えるんだよね。
映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』より、クイーンズに作られた廃材の「スフィンクス」は、大型商業施設の建設に伴い廃業予定の自動車修理工場の男たちが持ち去り、転売した。
──バンクシーのレジデンシーが大衆の興味を惹きつけた理由は何だったのでしょう?
彼は間違いなく世界で最も有名な芸術家だと思う。彼はこの種のレジデンシーを過去にも行っていて、どう展開すればいいのかを、ある程度きちんとわかっていた。大衆やメディアをどう惹きつけるのかも。ソーシャルメディアがどれほどこのプロジェクトに役立だったかはまさに彼らの思うツボで、すごく興味深いよ。それこそ、バンクシーが注意を向けようとしていた別の問題だったんじゃないのかな。つまり、バンクシーのアート作品は現実の路上(ストリート)に存在するパブリックアートだけど、同時に、新しいストリート……それはインターネットなのだという事実に、彼は注目していたんだと思う。
──映画では5Pointzの悲しい結末で幕を閉じています。ストリートアートについて、あなたは観客にどんなメッセージを感じてもらいたいですか?
5 Pointzに起きたことに関しては複雑な気持ちだけど、同時に、これは大きな問題を暗示している。ニューヨークのような大都市で不動産価格が上昇し、都市がビジネスや文化よりも高級マンションの開発を優遇するような傾向にあるとき、それは都市の構造を根本から変えている。都市の高級化が進むにつれて、アーティストがそこで暮らして働くことが困難になって、都市生活の内実も変化していく。グラフィティは、以前ほど多様で活気あるものではなくなってきている。ニューヨーク市に5 Pointzに代わるような場所は恐らくないだろうし、こうした状況にはまったく残念なものがあるよ。
(オフィシャル・インタビューより)
クリス・モーカーベル(Chris Moukarbel)
1978年、アメリカ、コネチカット州ニューヘイブン生まれのテレビディレクター。2012年、ヴァレリー・ヴィーチと監督したドキュメンタリー『Me at the Zoo』を発表。本作が2作目のドキュメンタリーとなる。プライベートでは、ロックバンド、シザー・シスターズのフロントマン、ジェイク・シアーズのパートナーである。
映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』
フライング4days!!!!!
上映作品:『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』
日程:2016年3月22日(火)~3月25日(金)
時間:19:30~
会場:渋谷シネクイント(東京都渋谷区宇田川町14-5 渋谷パルコ パート3・8F)
料金:一律1,500円(シニア割引等各種割引対象外)
チケットは窓口・オンラインともに上映日の各3日前より販売開始
※前売券もご利用いただけます。(窓口での受付のみ)
※書籍『バンクシー・イン・ニューヨーク』ご持参/その場でご購入で1,000円で鑑賞可能
【ゲスト】
3月22日(火)
「バンクシー、お前は誰だ?!」座談会
座談会:小倉利丸(評論家)×鈴木沓子(ライター)×高久潤(朝日新聞 国際報道部記者)×浅井隆(アップリンク社長)
3月23日(水)
荏開津広(DJ/オールピスト京都・京都精華大学非常勤講師)
「バンクシーがニューヨークでアートをすること」
3月24日(木)
丹下紘希(人間/映像作家/NOddIN)×平井有太マン(ライター)
「バンクシーという〝在り方“について」
3月25日(金)
しりあがり寿(漫画家)×毛利嘉孝(社会学者)×鈴木沓子(ライター)
「バンクシーとは現在の『サウンド・オブ・サイレンス』である」
#バンクシーフラゲ キャンペーン
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応募締切:2016年3月26日(土)午前11時
対象SNS:Twitter、instagram、facebook
≫#バンクシーフラゲ をつけてTwitterで感想をつぶやく
映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』
3月26日(土)渋谷シネクイント、4月2日(土)渋谷アップリンクほか全国順次公開
監督:クリス・モーカーベル
提供:パルコ
配給:アップリンク、パルコ
宣伝:ビーズインターナショナル
2014年/アメリカ/81分/カラー/16:9/DCP
▼映画『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』予告編
書籍『バンクシー・イン・ニューヨーク』
著:レイ・モック 翻訳:毛利嘉孝、鈴木沓子
発売中
現地の凄腕グラフィティ・ライターが、バンクシーのニューヨークでの活動に完全密着。撤去された作品も全て見られる貴重な作品集/ルポルタージュ。
2,376円(税込)
パルコ出版
Amazonでの購入は下記より
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