骰子の眼

2016-03-04 10:00


米大統領選、候補者全員が反対するTPPの先行きは?

TPPを推し進める米政府より権力のある世界を牛耳ろうとする存在とは
米大統領選、候補者全員が反対するTPPの先行きは?
独走態勢に入った民主党ヒラリー・クリントン(写真上左)と共和党ドナルド・トランプ(写真上右)、それぞれを追う民主党バーニー・サンダース(写真下左)と共和党テッド・クルーズ(写真下右)

米大統領選候補指名争いのヤマ場「スーパーチューズデー」(3月1日)が終わり、民主党はヒラリー・クリントン候補が、共和党はドナルド・トランプ候補が他候補を引き離し、指名獲得へ前進した。

争点の1つであるTPP(環太平洋パートナーシップ協定)については、各党上位2候補者の計4名とも反対を表明している。




【与党・民主党】

ヒラリー・クリントン:TPP反対(賛成から転向)

もともとは賛成派だったが、2015年4月に「雇用を創出し、賃金を上げ、安全保障を促進する協定になっていない」と反対を表明した。先月22日には米ミネソタ州の有力紙『スター・トリビューン』に、「中国や日本などのアジア諸国は、通貨の価値を下げることで意図的に商品を安くしてきた。私はこうした不正行為と闘う。厳しい監視や関税など効果的な措置を取る必要がある」と寄稿している。(The 2016 campaign: Winning the fight for manufacturing jobs--- What I will do as president. By Hillary Clinton


バーニー・サンダース:TPP反対

「TPPは、アメリカの大企業と製薬業界、そしてウォール街のために用意されたものだ。アメリカの労働者に、時給56セントのベトナムの労働者と競争して欲しいとは思わない」と主張。(2015年10月放映のNBCのインタビューより
また、「NAFTA(北米自由貿易協定)やCAFTA(中米自由貿易協定)、PNTR(対中正常通商法案)などが発効されてから、数百万人の労働者が失業している。アメリカが製品を買ってほしいなら、この国で製造する必要がある」とし(SENATOR BERNIE SANDERS: THE TRANS-PACIFIC TRADE (TPP) AGREEMENT MUST BE DEFEATED)、2月4日にはニューハンプシャー州コンコードでの記者会見で、「大統領になったとしても、この破滅を招くような貿易協定に署名しない」ことを表明。(大統領になったとしてもTPPに反対 サンダース氏


【野党・共和党】

ドナルド・トランプ:TPP反対

中国、日本、メキシコ、ベトナムおよびインドに対し、自国通貨を下落させ米国からの輸入品を排除することで、米国から「略奪している」と非難。TPPには署名せず、北米自由貿易協定(NAFTA)に関してはメキシコ、カナダと再交渉を目指す。(共和党トランプ候補の公約、TPP署名せずメキシコ国境に壁建設


テッド・クルーズ:TPP反対(賛成から転向)

2015年夏にはTPP関連法案に賛成票を投じていたが、世論が反TPPに傾いたのにともない反対派に転じ、陣営は2月に「TPPはルビオとオバマの貿易協定」というページを開設した。 (THE RUBIO-OBAMA TRADE PACT




「TPP支持」は、自由貿易が米国企業の経営体力を弱め、国内の雇用を失わせるという連想を生みやすく、労働者層の票の獲得にマイナス材料となる。そのため、もともとは賛成派だったヒラリー・クリントンもテッド・クルーズも反対派に転じた背景がある。

2月4日にニュージーランドで全12カ国が参加したTPP署名式が行なわれたが、実際に合意内容が発効されるには、署名から2年以内に6カ国以上が議会承認の手続きを終え、手続きを終えた国の国内総生産の合計が全体の85%を超えなければならない。つまり、経済規模の大きい米国の議会承認がカギとなる。

票獲得のためTPP反対派に回る議員が多い中で、オバマの任期中にTPPが議会承認されるか不透明になってきているが、クリントンやクルーズはもし大統領選に勝てば再び賛成に転じるだろう、という推進派の見方もある。

大統領選候補の主張を見てみると全員TPPに反対なわけだが、日本では民主党のオバマ政権がTPPを押し付けると言われている。このことはどう考えればいいのだろうか。日本ではコメを守るためにTPP反対という論調が多いが、日本のコメに当たるのがアメリカの自動車産業といえるのではないだろうか。

排気量の多い都市においては無駄に大きなアメ車が世界の憧れではなくなり、現にフォードは今年1月、日本とインドネシアから事業を年内に撤退すると発表している。アメリカの自動車メーカーはグローバルビジネスから撤退したということだ。アメリカの自動車メーカーの組合はTPPに反対している。農村部の票が欲しいがために、2012年の総選挙で自民党はTPP反対を掲げていたことを忘れてはならないだろう。アメリカも選挙のために国内の労働者向けに耳障りのいい、TPP反対を大統領候補者たちが主張しているのだろう。

tpp

では、誰がTPP賛成なのか。かつて大統領選にも立候補したことのある活動家ラルフ・ネーダーの『もうとまらない 企業国家をぶっつぶす右派・左派連合の台頭』(Unstoppable: The Emerging Left-Right Alliance to Dismantle the Corporate State/未邦訳)では、最低賃金の引き上げ、刑事司法の改革、危険なグローバル貿易協定の拡大阻止、エネルギー政策の転換など、数多くの分野で左派と右派の共闘が生まれ、下からの突き上げによって議員やマスコミを動かしていると述べているという。

これから考えると、アメリカ政府を動かす権力を持っている組織、それは、最低賃金を引き上げたくない大企業、刑事司法の改革を改革したくない勢力、グローバル貿易協定を結びたいグローバル企業、エネルギー政策の転換をしたくない大企業などだろう。バーニー・サンダースの言うところの「TPPは、アメリカの大企業と製薬業界、そしてウォール街のために用意されたものだ」というわけだ。

さて、誰が大統領になっても、それらの政府より上位で世界を牛耳ろうとする勢力に抗うことができるだろうか。



参照元:デモクラシーナウ

http://democracynow.jp/video/20140428-3

レビュー(0)


コメント(0)