映画『バナナの逆襲』より ©WG FILM
スウェーデンの映画監督、フレドリック・ゲルテンが自ら出演し、自分が制作したドキュメンタリー映画への大企業からの妨害工作を描いた映画『バナナの逆襲』が2月27日(土)より公開。ゲルテン監督が、撮影の経緯についてインタビューを掲載する。
今回の日本の上映では、映画祭での上映中止を目論む企業とそれに対抗する監督とを描く『第1話 ゲルテン監督、訴えられる(原題:Big Boys Gone Bananas!*)』、そしてこの事件ともととなった、中米ニカラグアのバナナ農園の労働者が農薬被害をめぐり超巨大企業を訴えた過程を記録した『第2話 敏腕?弁護士ドミンゲス、現る』(原題:Bananas!*)』の2話が合わせて上映となる。
フレドリック・ゲルテン(Fredrik Gertten)
スウェーデンのマルモを拠点として活動しているジャーナリスト・映画監督。1994年に製作会社WGフィルムを設立。身近な問題をグローバルな視点でとらえた作品を製作することで知られる。自転車乗りの視点から車中心の社会を見つめ直すドキュメンタリー『Bikes vs Cars 車社会から自転車社会へ』も1月に日本で上映された。
消費者の力を信じる
──『第1話 ゲルテン監督、訴えられる』について、いつから自分自身のことを撮ろうと思ったのか?
自分自身が「主役」となっているが、この映画は別にフレドリック・ゲルテンについての映画ではない。自分の身に降りかかったことは、どのジャーナリストにも起こりうることで重要なことだと感じた。そういう意味で、報道の自由・言論の自由というテーマを伝えるために、一番効果的な手法として、フレドリック・ゲルテンというキャラクターを使ったというだけの話。普段は、あまり自分自身が映画の中に出るという手法は取らないが、今回に関しては有効だと思った。もちろんストレスはあったが、一方で新たなシーンも見えて面白かった。
──ドール側から訴えられている時、どのような心境だったか。また勝算はあったのか?
ドールに対しては、とても大きな怒りを感じたし、強いストレスにさらされた。渦中にいる時は、映画を観ている皆さんと同じようにどういった結末になるのか、まったくわからなかったが、自分を支えたのは「我々は間違っていない。正義は我々の側にある」という信念だった。
映画『バナナの逆襲 『第1話 ゲルテン監督、訴えられる』より、ゲルテン監督が取材を行った、ドール製品に抗議したブロガーのアルフォンソ・アレンデ ©WG FILM
──スウェーデンと日本の世論の違いについて、現在置かれている日本の状況について教えてください。
ただ、スウェーデンでは、言論の自由については、非常に古くから憲法で定められている。米国よりも長い歴史がある。だからこそ、米国では多くのジャーナリストがドール側の情報に流されて「フレドリック・ゲルテンという監督はおかしなやつだ、間違った情報に基づいたドキュメンタリーを制作して嘘をまきちらしている」といった言説を流したが、母国スウェーデンでは違った。「巨大な米国の大企業 vs 小さなスウェーデンの映画監督」といった構図で理解され、その言論の自由が脅かされている、と受け取ってもらえた。国会議員へのアプローチに関しても、「言論の自由には右も左も関係ない」、「言論の自由が保障されないところに真の民主主義はない」という確信の元、リベラルだけでなく、保守派にも同様に働きかけたことが支援の幅を広げるきっかけになった。
政治も含めて、現在の日本の状況について、あまり多くを知らないが、スウェーデンでも現在、極右政党が第二党となり、イラク戦争時には派兵もするなど矛盾はかかえており、日本とはそれほど大きな違いはないと思う。
私の2本の映画を観て、多くのスウェーデン人が、組織された人々ではなく、近所のスーパーマーケットに「なんでドールのバナナを売っているのか?売り場から下げてください」という声を届けた。その結果、スウェーデンで売られるバナナに占めるフェアトレード・バナナの割合が、映画の上映前後で6倍に増え、5割のシェアを持つようになった。これが消費者が持つ力だ。日本でもできるはずだ。
映画『バナナの逆襲 第2話 敏腕?弁護士ドミンゲス、現る』より、ホアンJ.ドミンゲス弁護士。今作の主人公で、ニカラグアのプランテーション農園の労働者たちがドール社を有害な禁止農薬の使用とそれによる労働者たちの不妊被害で訴えた裁判を担当した。 ©WG FILM
映画としても面白く観ることのできる作品にしたかった
──『第2話 敏腕?弁護士ドミンゲス、現る』で描かれているニカラグアの出来事を知り、映画を撮ろうと思ったきっかけは?
ニカラグアのケースについては、現地のスウェーデン人ジャーナリストから話を聞いたのがきっかけ。バナナ農園の問題については、まったく新しいテーマではない。政治的な果物で、1970年代から様々なジャーナリストが取り上げてきた血塗られた歴史のあるテーマだ。けれども、現在でも状況は変わっておらず、バナナはスウェーデンでも、おそらく日本でもどこでも手ごろな果物の代名詞的存在で、スーパーの中でも依然重要な売り上げを占めている。そうしたバナナがニカラグアからスウェーデンに運ばれる、フィリピンから日本に運ばれる。それと同じように映画を制作する側も北と南を行き来して、そのバナナについて伝える必要があると思った。
──ドミンゲスと出合い、なぜ彼を中心に撮ろうとおもったのか?
前述の通り、バナナを取り巻く問題は決して新しいものではないが、ドミンゲスと出会ったことで、彼を中心にこのテーマを取れば、映画としては、新しい切り口でバナナのことを伝えられると思った。ドミンゲスが、いわゆる「人権派弁護士」ではなく、フェラーリを乗り回し、葉巻をくわえたりするような成り上がりのようで、ある意味人間味あるキャラクターであることに惹かれた。社会問題を扱うドキュメンタリーは、往々にして重苦しく、観客の気持ちを沈めるものが多いが、映画としても面白く観ることのできる作品にしたかった。
映画『バナナの逆襲 第2話 敏腕?弁護士ドミンゲス、現る』より ©WG FILM
──第2話の最後のテロップで、ドールがドミンゲスを証拠偽造で訴えたと出ていたが、その後の裁判はどうなったのか?
ドール社が裁判で結果的に負けると、ドールは当該弁護団を解雇した。そして新しい弁護士事務所と契約をした。その新しい弁護士事務所は、ジャーナリストを名誉棄損で訴える裁判に非常にたけている弁護士事務所だ。その裁判の闘い方というのは非常にアグレシブでより攻撃的に変わっていった。その新しい弁護士事務所が何をしたかというと、まず3人の調査員をニカラグアに送った。彼らが現地で何をしたかというと、バナナ農園労働者の組合活動の分断に入るのだ。ドミンゲス弁護士との軋轢をつくっていくために、現地でたくさんの紛争や問題を起こしていく。要はお金を払って買収していったのだ。そういうなかで現地からの証言とは偽物である、嘘であるという証言がどんどん出てくるようになった。
そうした報告がロスアンゼルスの裁判所に提出されていった。その挙がってくる証言はすべて匿名で秘密にされて、ドミンゲス弁護士側には情報が入ってこなくなった。そういったなかで、多くの誹謗中傷も行われて、隠されているということで、弁護団は勝ち目がないと判断し、裁判から手を引いてしまっている。ニカラグア議会のなかに委員会があったが、その人たちも買収されてしまった。裁判自体は黒い血塗られたものとなってしまった。
アメリカの司法システムでは、この裁判は最終的決断が下るまであと5年くらいかかるが、ドール側が勝つことは目に見えている。一番大事なことは、このような司法の現実はあったとしても、私がつくった映画のメッセージは、一番強く伝えたいことは、ドールが禁止されていた農薬をわかっていながら使っていたという事実であり、それは変わらないということだ。裁判はその事実と争点を絶妙にずらされてしまっているが、その事実は裁判の結果には影響されない。これはニカラグアのことを撮った映画だが、フィリピンのバナナ農園労働者にとっても同じで、この映画のメッセージは、小さなバナナ農園労働者たちと巨大企業の闘いなのだ。
映画『バナナの逆襲 『第1話 ゲルテン監督、訴えられる』より、フレデリック・ゲルテン監督 ©WG FILM
──日本の観客へのメッセージ、見てもらいたいところがあれば、お願いします。
第2話は、ニカラグアを舞台にはしているが、ニカラグアだけの問題を映しているわけではない。日本が沢山バナナを輸入しているフィリピンでも同様のことが起こっている。また、ドール社に対する裁判は、ドールだけでなく、他の多国籍企業も同様のことをしている。実際に、DBCPが禁止されて以降も様々な農薬が現在まで使用されており、それらの危険性は明らかになっていない。研究は進められているし、明日にでも使用禁止となる農薬があるかもしれない。だから、考えてほしいことは、私たちが手にする安いバナナの代償を誰が支払っているのか?ということ。バナナだけではなく、そのほかの果物や野菜、今日履いているジーンズだって同じことだ。農薬が撒かれる空の下で手足がない状態で生まれた子どもたち、生殖機能を失った農園労働者たち、ガンにおかされた農園労働者たち、破壊しつくされた環境……といったものが、安いバナナの代償を払っているということを忘れないでほしい。
第1話については、ドール社だけではなく、巨大企業がどういった方法で自分たちに都合の悪い情報を封じ込め、報道を操作しているか、ということを多くの人に知ってもらいたいという思いで作った作品だともいえる。巨大企業は、多額のお金をつかってPR企業を動かしているということが映画を観てわかると思う。SNSやウェブのコメントにしても、一般の人を装って書き込まれたものが実は「サクラ」だということがとても多い。しかし、情報を受け取る側がそういったことを判断するリテラシーを身につけていれば、PR企業の仕事の効果は半減するわけだ。
組織ジャーナリストや、これからジャーナリストになろうとしている人たちには、報道の自由、言論の自由のない民主主義は、真の民主主義でないということ常に認識しておいてほしい。とにかく、2月27日の公開を満席にして、映画を話題にして、日本各地での上映につなげていただきたい。そのために、記事にしてもらいたいし、口コミで広げてほしい。
(オフィシャル・インタビューより)
映画『バナナの逆襲』
2016年2月27日(土)より渋谷ユーロスペースにてロードショー、
ほか全国順次公開
第1話 ゲルテン監督、訴えられる(原題:Big Boys Gone Bananas!*)
監督:フレドリック・ゲルテン
撮影:ジェセフ・アグイレ/キキ・アルゲイエ/ステファン・ベルグ/マリン・コルケアサロ/ホセ・ガブリエル・ノグエ
編集:ベンジャミン・ビンデラップ/ヨスパー・オスモンド
録音:アレクサンダー・トロンキビスト
制作:WG FILM
スウェーデン/2011年/87分
第2話 敏腕?弁護士ドミンゲス、現る(原題:Bananas!*)
監督:フレドリック・ゲルテン
撮影:フランク・ピネダ/ジェセフ・アグイレ
編集:ヨスパー・オスモンド
録音:アルセニーオ・カデナ
制作:WG FILM
スウェーデン/2009年/87分
配給:きろくびと