骰子の眼

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東京都 千代田区

2016-02-12 19:40


グアテマラ、マヤ族少女をめぐる現実『火の山のマリア』“映画を作る緊急性を感じた”

グアテマラ出身のブスタマンテ監督「ユニバーサルな女性の強さ描きたかった」
グアテマラ、マヤ族少女をめぐる現実『火の山のマリア』“映画を作る緊急性を感じた”
映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

過酷な自然に囲まれた地域で農業を営む17歳の少女と彼女の家族の姿を通して、グアテマラが直面する社会問題を描いた映画『火の山のマリア』が2月13日(土)より公開。webDICEではハイロ・ブスタマンテ監督のインタビューを掲載する。

ブスタマンテ監督は、長編映画デビューとなった本作で、2015年ベルリン国際映画祭銀熊賞(アルフレッド・バウアー賞)を受賞した。今回のインタビューでは、幼少期をマヤで過ごした監督がこの地を初監督作の舞台とした理由、現在のグアテマラの社会問題について、そして主人公のマリアをはじめ役者陣に現地の人々を起用した理由を語っている。作品は、マリアを中心に、アメリカ文化への憧れを抱きながら、コーヒー園に囲まれた素朴な現在の暮らしとの間に揺れる若者たちの心情を丹念に追う。家計を心配しコーヒー農園の主任の男に嫁ぐことをよしとしながら、青年ペペへの思いを募らせるマリア。言葉は少ないもののその顔に現れた決心は、女性の普遍的な強さを感じさせる。

マヤ族をめぐる現実

──監督は幼少期をマヤ高地で過ごしたそうですが、その背景について教えてください。

当時、グアテマラの高地では、政府軍と反政府ゲリラとの抗争が非情に激しく、医療従事者は誰もその高地に行きたがりませんでした。私の母はシングルマザーでしたから、職を求めて、そに地で働くことを決めたのです。主な仕事は、その頃、マヤの子どもたちに小児麻痺の予防接種を薦めることでした。少し遡って話したいのですが、かつてグァテマラ政府は、彼女たちに避妊ワクチンを打っていました。それはマヤ族の土地を奪うべく人口減少を図った、ある意味、虐殺でした。この仕打ちにより、マヤの人々にはメスティソ(インディオとスペイン系・ポルトガル系移民との混血)に対する強烈な不信感が生まれたのです。そのため私の母の仕事はとても困難を強いられていました。

映画『火の山のマリア』ハイロ・ブスタマンテ監督
映画『火の山のマリア』ハイロ・ブスタマンテ監督

──映画の中に、国勢調査のためにマヤ家庭を回る女性が登場しますが、お母様の仕事がモデルですね。

そうです。田舎で子どもを預ける場所もないため、母は私をよく仕事に連れて行きました。山超えは大変でしたが、それでも子どもの私には楽しい経験でしたし、その時間を通してマヤ族の暮らしに親しんでいきました。その後、私は学業のために14歳で高地を離れましたが、母はそこに住み続けました。なので私も帰省のたびに戻っては、この地と繋がりを持ち続け、エネルギーをチャージしています。

この高地は、巨大火山が噴火した後にできた美しい湖があり、周囲の9つの火山のうち、3つが未だに活火山です。そこの人口の80%はマヤ族ですが、残りの20%はグァテマラ人のメスティソのほか、美しい自然に惹かれて移り住んだ欧米人も多くいて、先住民やコーヒー農園に囲まれたボヘミアン的な暮らしを楽しんでいます。

映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015
映画『火の山のマリア』より、主人公のマリアを演じたマリア・メルセデス・コロイ ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

人々の暮らしや、自身が経験した真実を盛り込む

──幼い頃から映画の道に進むことを考えていましたか。長編監督までの道のりを教えてください。

子どもの頃、祖父母の農園によく遊びに行って、夜になると、火の側で語り部の話に一晩中耳を傾け、私も物語を語りたいと夢見るようになりました。マリオネットでお芝居を作り、お客を呼んで披露して。第1回目は近所の人が沢山来てくれましたが、二回目からはあまり人が集まらなかったので、食事付きと謳ったりして(笑)。それが僕の物語を語ることの始まりです。幼い頃から、この道に進みたいと決めていましたが、グァテマラには勉強する場所がない。そこで、高校で視聴覚の勉強ができるということで広告を学び、大学時代に広告業界で2、3年働きました。その後、パリのコンセルバトワールで映画を専攻後、脚本を書く力不足を感じて、ローマに脚本を学びに行きました。

その後はパリに拠点を置いて、グアテマラとの二重生活が始まりました。グァテマラ映画を撮りたくても、映画に対する支援、資金もなければ、映画産業自体がないため、戦略的にパリからプロジェクトを創り上げていく必要があったからです。『火の山のマリア』に関しても、フランスの協力が非常に重要でした。製作途中で資金繰りに窮して、プロデューサーのエドガルド・テネンバウムに完成途中の作品を見せたところ、「この真珠は磨かないと光らない」と言って、彼がポスプロのためにフランス最高のラボと技術者を用意してくれたのです。

映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015
映画『火の山のマリア』より、マリアが惹かれる青年ペペを演じるマーヴィン・コロイ(左)とマリア役のマリア・メルセデス・コロイ ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

──その長編第1作『火の山のマリア』のストーリーはどこかから?

マヤ高地の医療キャンペーンに従事した数年後、母は公の医療関係者が組織ぐるみでマヤの赤ん坊誘拐に加担していたと知り、大変憤慨していました。その怒りに加え、実在するマリアと出会ったことが、この映画のインスピレーションの発端でした。彼女の一番大切なもの、すなわち、お腹な中の子どもを奪われてしまったという事実を知り、なぜ女性はこれほどまでの犠牲を払わなければならないのかという疑問を持ち、映画を作る緊急性を感じたのです。その赤ん坊のエピソードからマリアの過去に遡って、フィクションを組み立ててゆきました。過去の部分は、幼い頃から親しんできたマヤの人々の暮らしや、私自身が経験した真実を盛り込みました。

映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015
映画『火の山のマリア』より、マリアの母フアナ役のマリア・テロン ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

──撮影前にワークショップを開いたそうですが、そこで熟成された部分もありますか。

ワークショップでは、マヤの女性を集め、彼女たちの生活の問題について表現してもらうスペースを創りました。それには2つの目的があり、ひとつは脚本をもっと膨らませるため。でも実際は、元々の脚本を削ったり、洗練する作業にも役立ちました。またこの場で、マヤの女性たちの表情を掴んで、映画に取り込んだりもしました。もうひとつの目的である役者探しには難題に直面しました。マヤの女性たちは家族の男たちの許可を得なければ、撮影に誘っても出演できなかったからです。

──では、どのようにして娘と母の役者を見つけたのですか。

さて困ったぞと思っていたところ、アマチュア劇団で演じていたマリア・テロンに出会えたことは幸運でした。彼女は僕を色々なところに連れて行き、ロケ地であるボルカン・デ・アゴアという場所も発見させてくれました。そして彼女の住む村サンタ・マリア・デ・ヘススの市場に、キャスティングブースを出したんです。伝統工芸品や野菜、ペピトリア(カボチャの種、イグアナのシチューを作るための材料)などの出店と並んだテントの中で待ち構えていましたが、初日は誰も来ませんでした。翌日、“求人”と書いたら、村中の人全員がやって来て。そして最後に現れたのが、ヒロイン役のマリア・メルセデスでした。

映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015
映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

──難航したマリア役の決め手となったものは何ですか?

マヤの女性はとても従順で、受け身の人が多い。でもマリアは一見、従順でありながら、その裏側に強いものを持った人でなければなりませんでした。マヤの人は、メスティソや外国人と話すときは目を反らす人がほとんどですが、彼女は最初から私としっかり目を合わせて話をしました。その瞬間、彼女こそ求めるヒロインだと思ったのです。

──演技初体験のマリア・メルセデスにはどのような演技指導を施したのですか。

最初のうち、彼女は恥ずかしがって、演技はごく固いものでした。でも、固いのは表面だけで、内面は違う。彼女が自信を獲さえすれば、期待通りの表現をしてくれると信じていました。“過剰は不足と同じ”というコンセプトで、抑えた演技を求めました。撮影現場のモニターは極小で、今はこんなに小さな目も、大きなスクリーンに映ると、君の頭より大きくなるんだよと。だから、ベルリン国際映画祭で完成作を、初めて一緒に大スクリーンで観た時、彼女たちは本当に驚いていて感動的でした。

──強さを裡に秘めたマリアに対し、喜怒哀楽の表現豊かな母役マリア・テロンには異なる演技アプローチを求めましたか。

マリア・テロンは、彼女自身が非常に強い女性なので、演技指導するにも強い人が必要でした。最初は権力争いのような感じで、恐らく私のことを試していたんだと思います。それに合格した後は信頼関係に基づいて、冗談を言い合い、パーソナルな話をし合う関係の中で、彼女の感情を引き出してゆきました。また火山の砂の上を歩くのは、とても歩きづらく大変なのですが、彼女にはその上をアクティブに歩き回るという物理的にもハードな役を果敢にこなしてもらいました。

マヤの女性に身を置いて描く

──原題は“火山”(IXCANUL)ですが、静と動の娘と母も、それぞれが胸に火山を抱いていますね。

マリアの人物像は、火山と同義語となることを目指しました。さらにヒロインはマヤの女性ですが、マヤの女性に限らず、ユニバーサルな女性の母性、喪失、そして女性の強さ、力も描きたかった。勿論、私の母と一緒に過ごした集落での経験、マヤ女性の声が役に立っていますが、実際に、女性が男性より低い位置に置かれることはグアテマラだけに限らず、世界中でみられることだと認識しています。また映画の時代設定は現在ですが、映画にわざわざ日付をつけることは、アーティスティックな意味でやりたくないので、いつの時代の物語なのかわからない設定になっていると思います。マヤの女性の困難は今も変わらず続いています。映画の中でダイレクトに社会批判してはいませんが、内に秘めたものは大きい。私自身、マヤの女性に身を置いて描いたつもりです。

映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015
映画『火の山のマリア』より ©LA CASA DE PRODUCCIÓN y TU VAS VOIR-2015

──ポストプロダクションはフランスの協力が大きかったということですが、カメラマンや美術などのスタッフも国際的なチームが組まれたのですか?

いいえ、ポスプロ以前はとてもインディペンデントな作り方をしていて、カメラマンのルイス・アルテアガ、製作兼、美術のピラール・ペレド、編集のセサル・ディアスという非常に重要な仕事をしてくれた3人はみなグァテマラ人です。グァテマラには才能もエネルギーもあるけれど、映画の経験、映画産業がない。現在、彼らが、映画作りを目指すグァテマラの若者たちの指導者となっています。

その他のスタッフも見返りを求めず、熱心にこのプロジェクトに加わってくれました。例えば、パリで他の企画で一緒に仕事をした佐藤亜衣子さんは自腹で航空券を買ってグァテマラに来て、ヘアメイクを担当してくれました。

──黒い火山灰の地に鮮やかな民族衣装が映え、大きな存在感を放っています。衣装を担当したのもグァテマラ人スタッフですか?

この民族衣装はマヤの先祖代々からのものであり、彼らの誇りです。ところがスペインが入植した時、マヤの人々の集落を分類し、その集落、民族毎に、色と種類を決めました。まるで彼らにラベルを貼って、一目で出身が判別できるように。彼らが誇る民族衣装には、一方で皮肉で悲しい歴史があるのです。

映画で使った民族衣装は、私が育ったソローラト村のものを選びました。実在するマリアもこの地の人ですから。衣装担当のソフィア・ランタンは、メスティソのグァテマラ人です。彼女が実際に村の家々を回って集めてきた衣装は、映画で見るよりずっとカラフルで鮮やかな色をしていました。私が映画のカラーパレットをより暗くしたいと言ったところ、彼女は火山の砂をかけて、色のトーンを落とすという素晴らしいアイデアを出してくれました。

(オフィシャル・インタビューより)



ハイロ・ブスタマンテ(Jayro Bustamante)プロフィール

1977年 グアテマラ生まれ。コミュニケーション学を学んだのち、大手広告会社でCMを監督。パリ、ローマでも映画制作を学んだ。フランスのクレルモンフェラン短編映画祭で『Cuando sea grande』がCNC賞を受賞し、フランス、スウェーデン、ドイツのテレビで放映された。また脚本を手掛けた『El escuadron de la muerte』はサン・セバスチャン国際映画祭を始めとする各国の映画祭に正式出品された。『火の山のマリア』は彼の長編デビュー作である。




映画『火の山のマリア』
2016年2月13日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

17歳になるマヤ人のマリアは、火山のふもとで農業を営む両親と共に暮らしていた。過酷な自然に囲まれたその生活は極めて原始的な暮らしであった。借地での農業は家族を経済的に圧迫していた。農作物が収穫できなければ追い出されてしまうからだ。そこでマリアの両親は、土地の持ち主でコーヒー農園の主任であるイグナシオにマリアを嫁がせようとする。妻に先立たれたイグナシオは3人の子どもたちを男手ひとつで育てていた。しかし、マリアはコーヒー農園で働く青年ペペに惹かれていた。アメリカに行くというペペに、マリアは一緒に連れて行ってほしいと頼むが、彼は彼女の処女を捧げることを条件とした。控えめで真面目なマリアは悩んだ末にペペに身を任せてしまうが、ペペは一人で旅立ってしまう。一方、両親や村人たちの農場では蛇の被害に悩まされていた。強力な農薬も効かず、みんなは頭を抱えていた。そんなときにマリアの妊娠が発覚する。

監督・脚本:ハイロ・ブスタマンテ
製作総指揮:イネス・ノフエンテス
出演:マリア・メルセデス・コロイ、マリア・テロン、マヌエル・マヌエル・アントゥン、マーヴィン・コロイ
原題:IXCANUL
2015年/グアテマラ、フランス/93分
配給・宣伝:エスパース・サロウ
提供:ギャガ、新日本映画社

公式サイト:http://hinoyama.espace-sarou.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/hinoyamanomaria/
公式Twitter:https://twitter.com/hinoyama_maria


▼映画『火の山のマリア』予告編

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