映画『若き詩人』より、詩人を志す青年を演じるレミ・タファネル
フランスの映画作家ダミアン・マニヴェル監督の『若き詩人』が1月16日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムで上映される。マニヴェル監督はこの『若き詩人』が長編処女作ながら、短編では既にジャン・ヴィゴ賞(『犬を連れた女』)、カンヌ国際映画祭批評家週間短編大賞(『日曜日の朝』)を受賞し大きな注目を浴びており、本作もフランス全土20館で上映されたほか、ロカルノ映画祭の特別大賞など各国の映画祭で様々な賞を獲得した。webDICEでは、マニヴェル監督が自身を含め4名のスタッフによって10日間の撮影期間で作り上げた今作の制作経緯について語ったインタビューを掲載する。
本作は、詩人ポール・ヴァレリーが眠る墓地があることで知られる南仏の海辺の町セットを舞台に、詩人を志す青年レミが様々な人と出会い、詩作にふける様子を描く物語。なお今回の上映では、主演のレミ・タファネルとマニヴェル監督のコンビによる前作となる短編『若き詩人』が併映されるので、主演を務めるレミ・タファネルそして彼が演じる青年レミの成長物語としてこの2作を楽しむことができる。
18歳は人生の中で分岐点となるとき
──あなたの最初の長編映画である『若き詩人』を撮った経緯を教えてください。
主演のレミ・タファネルとは、以前も作品つくったことがあります。彼が14歳の時に撮った『犬を連れた女』です。それから4年後に、レミは「バカロレア(大学入学資格)がとれたから、新しい作品を作ろう」と連絡をくれました。僕は驚きましたが、これはまた彼と映画を作るチャンスだと思いました。この連絡から、撮影を始めるまでは一ヶ月とかかりませんでした。18歳はレミにとって大事なときです。特に、(フランスでは9月から大学が始まるので)夏は新しい人生の物語の始まりなのです。
映画『若き詩人』のダミアン・マニヴェル監督
──なぜ若い人についての映画を撮ろうと思ったのですか?
その質問の答えはたくさんあります。まず、前回レミと映画を撮った経験がすばらしかったからです。なので、また一緒に映画を作れるチャンスをつかもうと思いました。プロジェクトを立ち上げた当初、僕以外の人はこの映画がどういう物語になるかわかっていませんでした。ですが僕は、18歳のレミをテーマに映画を作ろうとすぐに思ったのです。18歳というのは、人生の中で、ひとつの分岐点となる大事なときです。実際に、僕自身にとっても特別でした。当時の僕は、夢を追いかけながらも、将来への不安を抱いていました。こうした人生の一場面を映画にするのは、すばらしいと思いました。もちろんどの年齢もすばらしい題材になりえますが、僕とレミにとって、これは映画を作るべきタイミングだと思ったのです。
──レミのどこに惹かれましたか?
レミはいつもたくさんの驚きを与えてくれます。レミはきっと観客も驚かせてくれると思います。彼は、予想不可能で、夢見がちで、愛情深い青年です。僕たちはすでに一度作品を作っているので、よりお互いを知っている状態でまた映画を撮れたのは、とても嬉しいことです。
──今作の舞台となるのは南フランスの町セットです。どうやってロケーションを探したのですか?
セットという町で撮影を行ったのには、実際的な理由と芸術的な理由の両方があります。撮影は、いつもだいたい3人から5人で行っていました。僕たちは車を持っていなかったので、歩いて移動できる小さな町で撮影することに決めました。まるで『若き詩人』の主人公のように、町を歩いて、通りやバーや海辺で町の人々に会いました。それは僕たちが映画を作るのにあたって、とても自然な方法でした。スタジオでの撮影のように長い時間、照明をあてたりする必要もなく、もう撮影の準備のできた環境に僕たちはいたのです。
それから、僕はこの町のことを前から知っていました。僕自身も、創作のために夏のこの町を訪れたことがあったので、僕はこの町で映画を撮ったらおもしろいだろうというイメージをもっていたのです。芸術的には、このセットという町の美しい景色や、有名な詩人ポール・ヴァレリーの墓があることに惹かれていました。 これらの理由から、映画のアイディアはとても早く浮かんできて、すぐに形になりました。ここ以外で撮影することは考えられなかったのです。
──撮影にはどれくらいかかりましたか?
10日間です。長編映画としてはとても短いですが、僕たちはその間にたくさんのことをしました。僕たちにとってすべてのエネルギーをそそぎ込むのに、それ以上長くはかからなかったのです。みんな何か特別なことをしたいというエネルギーに満ちていて、僕たちは全力を出し切りました。あの10日間は、まるで別世界にいるような、特別な時間でした。
──映画の出演者は、プロの俳優ですか? 彼らの演技は、とても自然に見えましたが、どうしてその方法を選んだのですか?
僕はプロではない演者と映画を作るのが好きです。映画を作ることは普段出会えないような人と出会って、一緒に何かする機会をあたえてくれます。僕は、いろんな人と出会って関係を築きながら何かを作っていくのが好きなのです。
レミ以外の映画の登場人物は、撮影の中で出会った、その町で暮らす人々です。例えば、レミが恋をする女の子は、実際に休暇中に両親の家を訪れていました。エンゾは、本当に漁師です。彼の寝室や船で撮影をしたり、一緒に釣りに行ったりしました。バーやパーティーの人々もみんなあの場に本当にいた人です。みんな、快く撮影に参加してくれました。 出会いの後は、どうやって映画にするかを考えます。彼らはテクニックを持っていないので、それからどうしたらいいかを考えるのです。でも、僕はこうした方法が好きです。なぜなら、みんな違う個性をもっていて、みんな違う方法で演技をするからです。映画の中で、彼らの演技が自然に見えていたら嬉しいです。
映画『若き詩人』より、レミ役のレミ・タファネル(右)とレミが恋をする女の子レオノール役のレオノール・フェルナンデス(左)
──エンゾは本当の漁師だったのですね。
そうです。彼とは町で会いました。はじめは、彼を登場させるのは、最初のシーンだけのつもりでした。レミが墓地の場所を聞いて、退屈そうな若者が、「知らない。あっちに行ってみれば」と素っ気なく答えるシーンです。この撮影の後、エンゾと話して、彼が漁業に対して情熱をもっていることに気がつきました。そこで、彼の話をもっと聞かせてくれないか、彼の暮らしを映画に撮っていいかとお願いしたんです。
もうひとつ実際に起こったことがあります。エンゾとレミは全く違うタイプのふたりですが、彼らは実際に友達になりました。まさに映画の中と同じように、ふたりはたくさん話して、仲良くなったのです。
サイレント映画のキャラクターのような主人公レミ
──彼らに演技指導はしましたか?また、台本はあったのですか?
詳細まで決められた台本はありませんでした。僕は、毎日の撮影の中で、物語を書いていきました。アドリブもたくさんあります。レミは、いろんな人と出会って仲良くなる才能があるのです。彼と一緒に出かけたら、たくさんの人が彼に話しかけてきます。それはとてもおもしろく、興味深いことだったので、撮影の中で状況に合わせて物語を考えていったのです。
特に、演技に決まったメソッドはありませんでした。それは、人によって演技の方法が違うからです。長めにカメラを回して、即興で演技をしてもらうこともあれば、ただ、決まった短いテイクを何度も繰り返して撮ることもあります。または、撮影中に演者に言葉をかけることもあります。本当に、決まったメソッドはなかったのです。みんな異なった個性をもっているので、僕もそれに合わせて柔軟に、人それぞれ異なった対応をしました。ある人にはとても正確なイメージを伝えるけれど、ある人にはぼんやりしたイメージだけ伝える、というようにです。ですが、彼らが自分自身の解釈でアイディアをつかめるように、意識的に、明確な指示は出さないようにしていました。そうすると、自然と演技が良くなっていったのです。 なので、どうやっているかと聞かれると、何か決まったことがあるわけではないのですが、自分が人それぞれの個性に合わせて、異なった方法をとっているということは言えます。
映画『若き詩人』より、レミ役のレミ・タファネル
──この映画ではレミの家族は出てきませんが、それはなぜですか?
映画を作るとき、僕は自分の直感に従います。僕は、レミの家族を描こうとは一度も思いませんでした。この映画ではレミというキャラクターに焦点を当てているので、家族のことは気にしなかったのです。映画は、レミがあの町で過ごした時間がテーマなので、家族のことを描くというより、彼の現在や、彼があの町で出会った人々とのことを描きたかったのです。彼の両親がどこにいて何をしているかを描くことの必要性は感じませんでした。
映画の中で、キャラクターの説明をするな、というのが自分の直感でした。僕たちはレミの名前を映画の中で知ることができますが、他のことについてはわかりません。彼はあたかも、サイレント映画のキャラクターのようです。ちょっと滑稽ないつも同じ衣装を着ていて、特徴的な動きをする様は、まるでチャップリンみたいですよね。彼らのバックグラウンドや家族について、観客は知ることができません。彼らは誰でもあり、その場所に突然現れては消えます。僕は、このようなキャラクターをこの映画に登場させて、何が起こるか見てみようと思いました。そうして起こったことは、とても興味深いものでした。こうした方法は、レミをより普遍的なキャラクターにしたと思います。
以前、あるインタビューで、レミが最初のシーンで、急に画面に登場するのがおもしろいと言われたことがあります。まるでエイリアンみたいだと言われました(笑)。
──若い人にとって家族とは、また人生の中で出会う人々とはどういうものだと思いますか?
もちろん家族は誰にとっても大切です。もし家族からのサポートがあれば、自分がやっていることにとても自信がもてるでしょう。でも、家族以外にも、人生の中で出会う人がたくさんの影響を与えてくれます。人との出会いは道を作ります。僕自身も、映画監督としてのキャリアを続けられているのは、自分がやりたいからというだけでなく、出会った人々が僕に自信をもたせてくれたからなんです。この映画では、レミがいろんな人と出会い、その関係の中で、彼自身の道を模索していきます。彼らは物語を作ります。彼らは、レミにとって大切なガイドなのです。
──どうして詩という方法を選んだのですか?
詩というものはとてもオープンなものだと思ったので、この方法を選びました。 どのように世界が見えているか、どのように感じているか、いろんな人に会って、太陽や自然を感じて作られる詩は、普遍的なものだと思います。
もしかしたら、18歳のレミの映画を作るのに、他にもやり方があったかもしれませんが、詩とレミというのは、とても相性がよかったのです。実は、映画を撮る前に、僕は彼にたくさんの詩を読むように言いました。映画の中に出てくる詩は、すべてレミが書いたものです。僕は、詩の内容について一切口出しをしませんでした。なので、詩は不出来なものもあれば、とても美しいものもあります。僕にとって大切なのは、詩の出来ではなく、彼が実際に書いた詩であるということだったのです。映画は、18歳の彼が実際にあの時どのように感じていたかを記録したドキュメンタリーでもあります。
映画『若き詩人』より、ポール・ヴァレリーの墓に語りかける青年レミ(レミ・タファネル)
──なぜレミとお墓との対話という方法を選んだのですか?
レミはいつも詩人の墓に語りかけていますが、あれは実際に詩人の墓なのです。あそこにレミを行かせることで、雰囲気を作りたかった。僕たちは毎日いろんな時間帯にあの場所に行って、レミは1時間ほど墓に語りかけました。他の墓でもよかったのではないかと言われたりしますが、あの墓でなくてはならなかったのです。なぜなら、あの場所で語りかけることを通して、彼は、かつて実在した、彼が尊敬している詩人に話しかけているという実感をもつことができたのです。レミとあの墓に眠る詩人との間に、関係性が生まれていたのです。
レミが問いかけている問いと同じことを、
日々、自分に問いかけている
──レミのように自分自身と向き合うことは怖いことでもあります。自分の心の声を無視してしまっている人もいるでしょう。そうした人々にこの映画はどう響くと思いますか?
どんな人でも、どんな年齢でも、どんな国の人でも、レミと同じ問いに直面すると思います。この映画で、僕たちは自分の心への問いかけをコミカルで明るく描きましたが、根底に重いテーマがあるのも事実です。もしかしたら、だからこそ、この映画をとても明るい雰囲気で作ったのかもしれません。そうでなかったら、暗い映画になっていたでしょう。
日本の若者に関しては……彼らについてあまり多くのことは知らないので、アドバイスをあげることはできませんが、ひとつ言えるのは、レミのキャラクターはきっと悩める若者に勇気を与えるのではないかということです。彼は、自分自身と向き合います。そのことに対して、とても真剣に取り組みます。レミは、友情、恋心、詩の創作など、さまざまな新しいことに挑戦します。このキャラクターの尊敬できる部分です。彼は、感じたことをいつも行動に移すのです。
レミは、大学入学試験を終え、これから大人にならなくてはなりません。この休暇は……彼にとっては休暇というより、創作のための期間です。彼は、自分自身に課題を課して、逃げずに自分と向き合っています。これが、映画のテーマのひとつとも言えるかもしれません。 みんな、何かに情熱をもって取り組みたいという気持ちを、もっていると思います。でも、それを実現させること、うまくやることは、ときに難しいでしょう。例えば、スポーツやアートの道に進みたくても、他にもっと楽な道があったり、もっと得意なことがあったりもするかもしれません。でも、それが厳しい道であっても、情熱があるなら、戦わなくてはなりません。レミはそういったことに向き合っています。彼は18歳ですが、とてもパワフルです。これは、どんな年齢でも、女性でも、男性でも、きっと同じです。僕自身、映画監督としてのキャリアを始めて10年経ちますが、レミが問いかけている問いと同じことを、日々、自分に問いかけています。
──映画をどのような人に観てもらいたいですか?
すべての人に見てもらいたいのはもちろんですが……もしその質問に答えるなら、ふたつ思いつきます。ひとつは、自分の親しい人たちです。僕のことをよりよく理解してもらえると思うからです。なぜなら、これは僕自身が感じたことを伝える映画でもあるからです。
もうひとつは、レミの問いと同じような問いを持っている人々です。例えば、レミと同じような年齢の若者たち。この映画は、若者が好むようなエンターテインメントとは違うかもしれませんが、彼らの心に響くと思っています。フランスでこの映画を上映した時は、若い人たちがたくさん観てくれました。彼らはよく笑い、レミついての意見を交わしていました。きっと彼らはレミの中に自分自身を見つけたり、共感する部分があったりしたのではないかと思っています。この映画を観た16、7歳の若者たちに、彼ら自身も詩を書いたことがあるけれど、誰にも見せたことがないんだと言われたこともあります。彼らは、レミと同じように、これから人生はどうなるのか、どんな選択をしていけばいいのか、といった問いに直面しているのでしょう。
ロカルノ映画祭で、ある女性が言ってくれた感想に感動しました。彼女は、自分には18歳の息子がいるんだと言いました。そして、彼に関して問題を抱えていると。でも、この映画を観て、彼のことが理解できたと言ってくれました。僕は、とても嬉しかったです。彼女はレミというキャラクターを通して、きっと息子の何かを理解したのだと思います。とにかく、この映画に興味を持ってくれたすべての人に観てもらえれば嬉しいです。
──最後に、日本での公開については、どんな気持ちですか?
日本のみなさんに、『若き詩人』を観てもらうことができてとても光栄です。主演のレミはフランスの若い役者です。彼は、とてもおもしろい青年で、私が一緒にたくさんの映画を作りたいと思っている俳優です。彼が14歳の時に、併映の『犬を連れた女』を撮りました。初めての長編映画、『若き詩人』では彼は18歳です。みなさんはこの2つの映画を通して、彼の成長や変化を知ることができるでしょう。みなさんが作品を楽しんでくれると嬉しいです。
(オフィシャル・インタビューより)
ダミアン・マニヴェル(Damien Manivel) プロフィール
1981年生まれ。コンテンポラリー・ダンサーとして活躍後、ル・フレノワ国立現代アートスタジオにて映画を学ぶ。初短編映画は『男らしさ』(2007)、2作目の短編は 『静まれ、私の痛み』(2008)。2010年に発表した3作目の短編『犬を連れた女』(2010)はジャン・ヴィゴ賞を受賞、四作目となる『日曜日の朝』(2012)はカンヌ国際映画祭の批評家週間短編大賞を受賞し反響を呼んだ。初長編映画となる『若き詩人』(2014)はロカルノ映画祭審査員特別賞を受賞した。
映画『若き詩人』
2016年1月16日(土)よりシアター・イメージフォーラムにて公開
併映:『犬を連れた女』(La dame au chien)
『若き詩人』
レミは、世界を感動させる詩人になりたいと思っていた。アイディアを探して海辺の街へやって来たものの、何から手をつければいいのか分からない。 ペンとノートを携え、海を眺めて考えてみたり、山に登って鳥の声を聞いてみたり、彼だけの詩の女神を探してみたり……。レミは詩作を通じて、何かと向き合おうともがいていた。
『犬を連れた女』
暑い夏の午後、プール帰りのレミは公園で迷い犬を見つけた。 飼い主を探して犬を送り届けたが、家から出てきたのは少し酔っぱらった大柄な黒人女性だった。レミは彼女の家に招かれるが……。
監督:ダミアン・マニヴェル
出演:レミ・タファネル、エンゾ・ヴァッサーロ、レオノール・フェルナンデス、クリストフ・カバレロ、アニバル・フェルナンデス、モハメド・ベラオー、他
脚本:ダミアン・マニヴェル、イザベル・パリアイ、スザンナ・ペドロ
製作:ダミアン・マニヴェル
録音:ジェローム・プチ
原題:Un Jeune Poete
配給:IndieTokyo、MLD Films
2014年/フランス/71分
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