映画『クリムゾン・ピーク』より、主人公の小説家イーディス役のミア・ワシコウスカ(右)、トーマス役のトム・ヒドルストン(左) © Universal Pictures.
『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロ監督の新作『クリムゾン・ピーク』が1月8日(金)より公開される。『アリス・イン・ワンダーランド』のミア・ワシコウスカ、『アベンジャーズ』のトム・ヒドルストン、『ゼロ・ダーク・サーティ』のジェシカ・チャステインといった豪華俳優陣を迎えた、深紅の亡霊が現れる屋敷の秘密を巡るミステリーだ。ビクトリア朝時代を舞台に、幼い頃より幽霊を見ることのできる小説家の女性・イーディスが、ミステリアスな英国紳士トーマスと出会い結婚。彼が姉のルシールと住む豪華な屋敷で暮らすこととなるものの、幸せな気分もつかの間、そこで亡霊たちを目撃するようになる。webDICEでは、これまでも『パンズ・ラビリンス』などファンタジックな物語で個性を発揮してきたデル・トロ監督が「ゴシック・ロマンス」を再び手掛けることになった理由を語るインタビュー、そして今作で重要な役割を占める衣装を担当したケイト・ホーリーのインタビューを掲載する。
ギレルモ・デル・トロ監督 インタビュー
「古典的なラブストーリーであり、乙女が秘密を発見し変化する物語」
──まず、今作のテーマは?
この映画は、ゴシック・ロマンスのジャンルにおいて、典型的かつ昔ながらの壮大なハリウッド作品へと立ち返ろうとする私なりの試みである。映画の黄金期には『呪われた城』『ジェーン・エア』『大いなる遺産』といった作品が製作されたが、1950年代から1970年代にかけてすっかり世間から忘れ去られてしまった。これらの作品のようなスケールのゴシック・ロマンスの復活に携われたことを光栄に思う。
映画『クリムゾン・ピーク』より © Universal Pictures.
このジャンルは、理性の時代へのロマン主義的な反応として18世紀末に重要視されていた。暗闇が幾層にも重なり合う激しい恋愛劇と、薄気味悪いダークなおとぎ話の、表面上は異なる2つの要素を融合させることで、独特の風合いが生まれる。
『クリムゾン・ピーク』は、目の保養のみならず、目の栄養として豪華かつ美しく仕上がっている。本作では、登場人物の取り巻く環境やセットを通して、彼らの特徴を捉えられるようになっているだけでなく、深層心理をも映し出している。また、絢爛豪華な衣装が『クリムゾン・ピーク』の世界観を一層引き立てている。絵画のような美しさは、まさにこれまで私が創作した中で最もお気に入りの作品の一つとする理由である。
人間こそいちばん怖いんだ。『クリムゾン・ピーク』は『パンズ・ラビリンス』に匹敵するゴースト映画だ。いくつものジャンルを組み合わせたもので、じつは伝統的なゴースト物語を、古典文学の気品と美で包み込んだ。
ゴーストを使って人の防衛機能を取り払い、ストーリーを人間的なかたちで照らし出すため、恐怖を作品に持ち込むんだ。
映画『クリムゾン・ピーク』より、トーマス役のトム・ヒドルストン(右)、ルシール役のジェシカ・チャステイン(左) © Universal Pictures.
──どんなゴシック・ロマンスに影響を受けましたか?
エミリー・ブロンテ著『嵐が丘』、チャールズ・ディケンズ著『大いなる遺産』、ダフネ・デュモーリエ著『レベッカ』、アニヤ・シートン著『呪われた城』といったゴシック・ロマンスを読むと、そこには偉大なラブストーリーがあり、スーパーナチュラルな要素があり、心底からゾッとする場面があり……これらを組み合わせると、美しくも豪華な外見の映画ができ上がる。
私自身も、19世紀の作家ジョセフ・シェリダン・レ・ファニュが書いた『吸血鬼カーミラ』が愛読書だった。それはそのジャンルのあらゆる邪悪さ、恐怖、感情を網羅している。この映画は『吸血鬼カーミラ』にとてもよく似ていると内心では思ってるよ。
このジャンルを描くのに必要な素材はゴーストや崩れた城といったものだが、それはホラー映画的な装飾にすぎない。巧妙に蒔かれた種は古典的なラブストーリーであり、主人公の純潔な乙女が秘密や宝物や暗い過去を発見し……やがてなにか大きな変化を経て再登場する。
最も暗いおとぎ話であり、登場人物の大人への旅だ。それは『不思議の国のアリス』にも、『白雪姫』にも、オスカー・ワイルドやハンス・クリスチャン・アンデルセンの童話にも見つけることができる。登場人物たちは闇の旅へと連れ出され……地理的な空間を越え、大洋を横断したり、地下世界へと降りていったりする。
──ミア・ワシコウスカ演じる主人公の作家イーディスの幼なじみ、アラン・マクマイケル役にチャーリー・ハナムを起用した理由は?
『パシフィック・リム』の撮影終了後すぐ、チャーリー・ハナムにメールを送り、脚本に目を通して、アラン・マクマイケル役を引き受けるように考慮してくれと頼んだ。アランは現代的なキャラクターであり、トム・ヒドルストンが演じるトーマス・シャープとはまさに正反対だ。
映画『クリムゾン・ピーク』より、アラン・マクマイケル役のチャーリー・ハナム(左)、イーディス役のミア・ワシコウスカ(右) © Universal Pictures.
──ゴシック調のアート・ディレクションについては、どのような意図がありましたか?
この映画のアート・ディレクションのやり方は、2つの完全に違った章を作りだすことから始まった。第1章はアメリカが舞台であり、アメリカはタバコ、黄金、豊かなセピア色──進歩と生命力の色だ。やがてクリムゾン・ピークに到着すると、すべてが冷たく暗い色に変わる。本当に不気味な感じになるんだ。
デザイン要素にはまた、蛾も含まれる。それを屋敷中に組み込みたかった。プロダクション・デザイナーのトム・サンダースは、壁の表面は皮膚であり、ひび割れからは内部の肉が覗いているという。屋敷はその体液を沁みだしているんだ。
なかでもルシールのドレスは、枯れた葉っぱのモチーフで荒涼としており、カタストロフと飢餓と不毛さに満ちている。ルシールのどの衣装の刺繍も、お屋敷の構造物の飾りを反映している。だから、色々な意味で彼女は「家」を身につけてるんだ。
衣装担当:ケイト・ホーリー インタビュー
「見た人を暗くて美しい、心かき乱す世界へといざなう一夜の逃避行」
── 『クリムゾン・ピーク』に参加したいきさつは?
初めてギレルモ・デル・トロの作品に出会ったのは、ニュージーランドのホテルの部屋で見た『パンズ・ラビリンス』(2006年)ね。友人にこう言ったのを憶えてる、「いつかこの素晴らしい監督と一緒に仕事がしたい」その2年後、ピーター・ジャクソン(映画監督)が紹介してくれた。ギレルモは『パシフィック・リム』(2013年)で一緒にやらないかと言ってくれたのよ。その後で、彼と色々な映画の話をしていて、「いま、ひとつ企画を立ち上げててね、『ビクトリア時代のちょっとした映画だけどね!』って言うの」ちょうどその時はイギリスに滞在していて、ほかの仕事はぜんぶ引き受けずに待ってた。だってギレルモからそんな映画のお誘いが来たら、どうしたって引き受けなくちゃならないでしょ。
映画『クリムゾン・ピーク』の衣装担当、ケイト・ホーリー via Kate Hawley's linkedin
── 監督はどんな人でしょうか?
ふたつの面がある――オタク少年で、ロボットやモンスターが大好きという面と、もう一つは、ルネッサンス人。あらゆる分野についての知識の宝庫。作品でも彼のその面は大好きだし、それに自分で描いた絵でストーリーを説明するわ。ギレルモは前に自分を親切な独裁者だって言ってたことがあった(笑)。目標のバーをすごく高くかかげるけど、とても協力的だし情熱的で、ののしり言葉の選び方がとっても上手!
── 衣裳について、監督とどのような話をしたんですか?
彼は最初から、映画のなかの二つの世界をはっきりと分けてたわ。ニューヨーク州のバッファローと、英国の湖水地方のアラーデール。アラーデールの世界を代表するのは、冬、寒さ、窮乏、過去、衰退。その屋敷はシャープ家の二人の兄妹ルシールとトーマスによって占められている。対照的に、バッファローの世界でギレルモが欲しがったのは、夏、豊かさ、莫大な富、豊饒な実り。近代の夜明けの時代として、「新たな産業社会」を象徴するもの。
映画『クリムゾン・ピーク』より、イーディス役のミア・ワシコウスカ © Universal Pictures.
── では、どんなアプローチでそのような作業に臨んだんですか?
頭の中で二つの世界を秘密のドアで分断したの。衣裳はこのゴシック・ロマンスの建築、環境、夢幻のような雰囲気を反映するようにデザインした。バッファローの莫大な富は豪華なゴールドの色取りで表現した。アラーデールはその正反対。屋敷の古びた死に瀕した世界を、寒々しい、ブルーやシアンといった冬の色調に反映したわ。ドアを通り抜けて英国やアラーデールの世界に入るというのは、過去へ踏み込むこと、まるでバラ色の眼鏡をはずされるみたいなものよ。わたしたちはイーディスの眼をとおしてものを見るから、そこで初めてシャープ姉弟のほんとうの姿を目の当たりにする。以前抱いていたロマンティックな幻想は消える。トーマスとルシールの衣裳はかつて豪華だったけど、いまや色あせ、二人ともずっと以前の時代からの、べつの誰かの生まれ変わりのような……。
── 衣裳はどれほど登場人物の性格をあらわしてるんでしょう?
衣裳は登場人物たちの感情の遍歴を映し出してるし、各キャラクターに呼応する象徴なの。それらに感情の軌跡が反映される。有機的な性質を持ってるのよ。たとえばルシールの衣裳は暗い、彼女が捕虫ビンに集めている蛾や蝶のように。イーディス、われらのはかない美女は、黄金の蝶々ね。イーディスが身に着ける黄金色は、ルシールがまとう暗い色合い、アラーデールを包むより暗い憂鬱といちじるしい対照になってるわ。
映画『クリムゾン・ピーク』より、ルシール役のジェシカ・チャステイン © Universal Pictures.
──イーディス独自の色使いは、どんなふうに変わっていくんですか?
映画の最初のパートは夏に起こるから、あらゆる色彩がタバコと黄金に彩られてるわ。色を何層もかさねて使った――豊饒の実りね。イーディスがトーマスに心奪われたとき、そのシルエットは変わる、花ひらく。袖を大きく膨らませ、何層に布地をもかさね、細かいプリーツをつける。色使いをさらに豊かにする。その頂点を迎えるのが、アラーデールで黄金色に豊かに彩られたドレスを身に着けたとき。それに彼女の衣裳をとおして花柄のモチーフを使った。バッファローでは服にもドレスにも小さな花々があしらわれ、彼女と一緒に育って花ひらく。バッファローの住み慣れた故郷の世界を離れ、アラーデールの世界に捕らわれの身になったとき、彼女の衣裳はその家の性格を反映しはじめる、映画のなかのもう一つのキャラクターの性格をね。彼女の服はハイネックのカラーで締めつけられ、ジャコビアン様式風で、幽霊のように白っぽい色合いになっていく。
── イーディスのいちばん記憶に残るドレスを挙げてくれますか?
じつは、ドレスはみんな、あだ名をつけたの。「バッファローの本の虫」とは、彼女の作家としての衣裳で、その時代の近代的な女性を参考にしている。タバコ色のゴールドで、男性的な仕立て、婦人参政権論者のユニフォームのスーツからインスピレーションを受けた。彼女は野心あふれる小説家で、この時代は婦人参政権運動や機械の時代の始まりの時期だし、進歩の世界だった。イーディスは男の世界で自分の道を切りひらこうと努力しているけど、もともとロマンティックな性質もそなえている。バッファローでは、「失恋」とわたしが呼ぶドレスもまとう。プリーツをあしらった、柔らかい、ゴールドのシルクドレスで、4層か5層の色の違うペチコートつき。袖口と肩口はプリーツのフリルがついていて、まるで羽化する蝶のよう。イーディスは恋に落ちる夜にそのドレスを着る、トーマスのためにね。英国で着るのは「ナンシー・ドリュー」ドレス。とてもどぎつい黄色よ。わたしたちはおとぎ話の世界にいるんだからね。その黄金色はシャープ一族が必死に探している財宝を象徴している。このあだ名はちょっとしたジョーク、この段階で彼女はアメリカのナンシー・ドリュー(児童小説の探偵)のようにあちこちの廊下を嗅ぎまわって、何とかして屋敷の秘密を暴こうとしているから。
映画『クリムゾン・ピーク』より © Universal Pictures.
── アラーデールでまとう、フワッとしたラファエロ前派風のナイトガウンは、どこからインスピレーションを受けたんですか?
有名なラファエロ前派の絵画、ジョン・エヴァレット・ミレーの『花嫁の付き添い』。資料を当っているときに、見つけた――あの黄金色、あの流れる髪、「これはイーディスだ」って思ったわ。その悪だくみを漏らすことなく、邸宅がイーディスを捕えてしまい、彼女はか弱くなり、ナイトガウンもサナギのように半透明になっていく。衣裳はすべて手作業で刺繍し、何回も手染めし、プリーツを付け、オーガニックパールのボタンも……ほんとに手間がかかった。そしたらギレルモがそれを見て、「12着ほど欲しいな」って(笑)。それだけあれば、泥や雨や雪の中をミアが走りまわったり、どれほどギレルモが服に試練を課したりしたって、それをこなすだけの着替えがあるってわけ!
──どのように死や幽霊を衣裳で表現したんでしょうか?
この映画はゴシック・ストーリーだから、死や幽霊の感触はつねにある。ビクトリア朝世界では、死や、亡くなった故人の記憶がつねに周囲に存在していた。死を悼む画像や哀悼の宝石をたくさん集めたわ。誰かが亡くなると、故人の髪の毛をひとふさ取って、それを何かに編み込む習慣があった。イーディスの母親は彼女が幼いときに亡くなり、あの世からの声となって娘に警告する、「クリムゾン・ピークに気をつけなさい」。そこで、彼女が身に着ける「手のベルト」というアイデアを思いついた。それはまるで母親の手が彼女のウェストを抱いているような感じ。ベルト自体が髪の毛で編まれていて、両手が抱擁しているイメージは、その当時の墓石に刻まれた手形や、大理石像からインスピレーションをもらった。死のロマンティックなイメージね。イーディスの母親はベルトの手となって、ゴシック・ロマンスにふさわしい方法で娘を守ってるの。
── そんなにディテールにこだわると、作業が厳しくなったのでは?
衣装チームはベルトに髪の毛を編み込むために何時間もかけたわ。大変だったのは、わたしたちのチームが少人数だったこと。何本もの指が流血沙汰(笑)!だいたい10人から15人の主要メンバーが作業場にいて、主な衣装を作ったけれど、プリーツや花や葉の刺繍するのに、応援の人たちに助けに来てもらった。いくつかの要素は外注。それにさまざまな部門のあいだで大いに協力しあったわ。全員が一体になって作業した。
映画『クリムゾン・ピーク』より、ミア・ワシコウスカ © Universal Pictures.
── ミアと一緒に仕事をして、どう思われましたか?
彼女は素晴らしい。とても頭がよくて素敵な人――気取りがないし。ミアには衣装デザインに早い段階で参加してもらっていたから、かなりスムーズの物事がすすんだと思う。イーディス役として完璧――いつも本に顔をうずめたまま衣装合わせにやってきてね。それにラッキーだったのは、すでに彼女は『ジェーン・エア』(2011年)でコルセットを着けるトレーニングを受けてたってこと!
── ギレルモは衣装について、具体的なガイドラインを与えてくれましたか?
ギレルモはカラーコードを敷いて、特定の色を排除していた――映画全体の視覚的なルールになってたわね。だれも映画の中で赤い色を使うのは許されなかった(いくつかの大事なシーンを除いて)。でもあるとき彼に言われたの、「バッファローでは一滴の血が必要だね」だから、舞踏会シーンでルシールが着る赤いドレスを作った。それは危険だという最初の目じるしね。もっと一般的なガイドラインもあった――雰囲気についてとか、あるいはより具体的なときもあったわ。ルシールは、ギレルモの母親が持っていたカメオを身に着けてるのよ。
映画『クリムゾン・ピーク』より © Universal Pictures.
── ジェシカがルシール役で着るほかの衣裳は、どのようなものですか?
ルシールとトーマスは、数十年も前の両親の服を着ているの。ルシールがバッファローで着ていた黒いドレスは、じつは彼女がアラーデールで着ていた青いドレスなんだけど、色とちょっとした細かい点は変わってる。アラーデールではドレスは古びているし、損なわれてる。ドレスは裾がみんな長い。衣装はすべてその家を映し出しており、ルシールはほぼ擬態して、壁の一部のようになっているの。衣服は窮乏と不毛をあらわしている。
脚本に邸宅を描写したこんな一節がある、「つる草さえ枯れ果て、ここでは何も育たない」ルシールのドレスの枯葉やカギ爪のようなドングリは、まさにこの一文から取られた。それらはルシールが家と結んだ契約、アーチ天井の歯を反映している。ルシールの背が伸び、彼女のドレスの裾が長くなるのは、家と彼女を結びつけるへその緒を暗示している。ギレルモはつねにルシールの背が高いことを望んでいたけど、ジェシカはそうじゃない――とくにトーマスの隣に立っているときは!でもジェシカは諦めなかった――だから、あのドレスとペチコートの下に、7インチもの高さのハイヒールを履いて歩きまわってたわ。それがどれだけ大変かは想像に難くない。あの格好で走りだしたときは、みなビックリ仰天したわ。
── ルシールの見かけは何からインスピレーションを受けたんでしょう?
ジェシカを変身させるために何でもした、彼女の髪の色を漆黒にするのも含め(メーキャップとヘア部門と手を組んで)、すべて彼女自身とまったく違った見かけにするためよ。ルシールを弟のトーマスと瓜二つにしたかったから。わたしが製作したムードボードの一枚に、ある肖像画が描かれている。黒髪に縁どられた、ぼんやりと白く光る顔に女性が自分の指先で触れている画像。ジェシカはそれを見て、「これこそルシールね……暗い陰から浮き出している顔」と言ったの。
映画『クリムゾン・ピーク』より、ルシール役のジェシカ・チャステイン © Universal Pictures.
── 二人の女優がそれぞれのキャラクターを演じるさいに、衣装やコルセットはどのような影響がありましたか?
ジェシカのドレスはぎちぎちにきついし、長い裾をひきずって移動しなくちゃならない。この時代の女性がこれらのドレスで立ち上がったり、坐ったりするときの特別な言い回しがあったくらい。立ち姿や姿勢も変わるし、歩き方もね。ジェシカにとってはすごく心地よくないし、重いけど、その居心地の悪さのおかげでルシールに入り込む役に立ったみたい。イーディスのドレスはもっと短くて、もっと自由に動き回れる。その当時の女性が着付けにもっと近代的な意識を持っていたことを反映している。
── トム・ヒドルストン演じるトーマスのイメージはどんな感じですか?
彼の衣装は時代を代表するような、当時のロックスターにもとづいてる。ロマンティックでダークな英雄、世界を股にかけて女を誘惑するバイロン卿(英国の詩人)。それにヒースクリフ(エミリー・ブロンテの『嵐が丘』の男性主人公)よ。わたしのムードボードにカスパー・ダヴィト・フリードリッヒの絵(『雲の上の旅人』)があって、こちらに背を向けた男がシルエットになって描かれてる。トムは、「映画のぼくのイメージは、かならずこの絵のように見えるらしい」って笑ってた。トムはその時代のフロックコートとベストを身に着けている。でもそのシルエットは変えたわ。もっと長く、細身にして、カラーも自由に変更し、ギレルモが求めているようなシルエットにした。ルシールのように、ひとたびアラーデールの廊下に入れば、バッファローの世界では神秘的で颯爽と思えたものが古びたみすぼらしさに変わるの。
映画『クリムゾン・ピーク』より、トーマス役のトム・ヒドルストン © Universal Pictures.
── どのような布地を使ったのですか?
その時代に忠実な布地を選んだ、ことにチョッキのビロードと錦織はね。それがトーマスの着方だと思ったし、裁断は少し変えて、もっと颯爽と見えるようにしたわ。それにズボンにはとても手間をかけた。ヒップをきっちりと持ち上げられるように!(笑)じつは、あの時代のズボンはもっとゆったりしていたんだけど、ギレルモが求めるようなシルエットにするために裁断を変えたの。トーマスとルシールが着るものはすべて手縫いよ。
── 撮影そのものが素晴らしい経験だったようですね?
ギレルモと、われわれのプロデューサー、カラム・グリーンと一緒に仕事をするというのは、家族になるということなの。彼と一緒に働くために戻ってきたキャストとスタッフたちのアンサンブル。すてきな感覚よ。一心同体、それが映像にもにじみ出てるわ。
── アラン・マクマイケル役として、チャーリー・ハナムはどんな衣装を着たんですか?
映画の冒頭、バッファローの場面で彼とトーマスの対照的な姿が見られるわ。トーマスは一昔前の衣服を着ているけど、チャーリーはバッファローの色合いである黄金色をまとっている。よりゆったりとした四角い裁断で、はるかに近代的なフィーリングがある。ドクター・マクマイケルは帽子と大きなコートを着て、布地がふんだんに使われている。彼のシルエットはトーマスとまったく違うわ。チャーリーは若いスティーヴ・マックイーンのように見えるし、圧倒的な存在感がある。同時に、その物腰はいかにも紳士然としてる。
映画『クリムゾン・ピーク』より © Universal Pictures.
── デザイナーとして一番のインスピレーションのみなもとは何だったでしょうか? それにあなたの夢とは?
ずっとオペラが大好き、わたしが最初に知った世界だから。ストーリーが音楽を通じて語られるという形式が好きなのね。それに14歳のときに、ウェリントンのスイミング・プールの周りにセットを建てた、『ロミオとジュリエット』の素敵な上演があった。とてもリアルで感動的だったけど、描写はとても派手だった、シェークスピアがあんなふうになるなんて思いも寄らなかったわ。それにバズ・ラーマン監督の映画版の『ロミオ&ジュリエット』(1996年)も大好き。「なんて刺激的なの」って言ったのを憶えてる。いつか『マラフィ公爵夫人』(ジョン・ウェブスター)映画版の衣装ができたらうれしいわ。あの劇が映画になったものを見てみたい。それにアレハンドロ・ホロドフスキー監督版の『DUNE』で仕事をするなんてどうかしらね?そうは言っても、ギレルモともう一度仕事をしたい。彼とは芸術的な相性がいいの。
── それでは最後にまた『クリムゾン・ピーク』に戻って、ほかとは違うその魅力は?
見た人を、暗くて美しい、心かき乱す世界へといざなってくれるところ――一夜の逃避行ね。だってそれこそが映画の魔法だもの。
(オフィシャル・インタビューより)
ギレルモ・デル・トロ(Guillermo Del Toro) プロフィール
メキシコ、グアダラハラ出身。1993年のメキシコ・アメリカ共同製作のスーパーナチュラル・ホラー映画『クロノス』で初めて全世界の注目を集めた。特殊効果メーキャップ・アーティストとして仕事を始めたのち、自身の脚本で監督した作品だ。その後スーパーナチュラル・スリラー映画『デビルズ・バックボーン』を共同脚本・監督した。2004年、『ヘルボーイ』を共同脚本・監督。4年後、続編『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』を脚本・監督している。2006年のファンタジー・ドラマ『パンズ・ラビリンス』で監督、脚本、プロデューサーとして国際的な称賛を得た。このオリジナル脚本でアカデミー賞®にノミネートされた他、5部門のアカデミー賞®にノミネートされ、美術賞、撮影賞、メーキャップ賞を獲得した。2013年、SFアクション大作『パシフィック・リム』の脚本・監督をした。
ケイト・ホーリー(Kate Hawley) プロフィール
初めてギレルモ・デル・トロと仕事をしたのは、ワーナーブラザーズとニューライン・シネマの『ホビット』3部作のほか、ワーナーブラザーズとレジェンダリーのアクション/SF作品『パシフィック・リム』。ピーター・ジャクソンとは2009年の『ラブリーボーン』でも一緒に仕事をしている。受賞歴は、チャンネル4/BBC作品『T-Dance』の衣裳により、ブレチスラフ映画祭のゴールデン・キー賞。エリザベス2世芸術協議会賞のオペラ・スタディーズ部門賞。プラハ4周年99年賞の新人アーティスト賞、テレビジョン・ニュージーランドの新人賞。
映画『クリムゾン・ピーク』
2016年1月8日(金)TOHOシネマズ シャンテ他 全国公開
イーディスは幽霊を見ることができる。初めて見たのは10歳、死んだ母親だった…。父親のカーターと一緒に暮らしていた彼女は、ある日、突如墓場の彼方から現れた母親から不思議な警告を受けとる―「クリムゾン・ピークに気をつけろ。」大人になったイーディスは、父親が不可解な死をとげた後、トーマスいう男性と結婚し、彼の豪奢な屋敷でトーマスの姉・ルシールとともに三人で暮らすこととなる。しかし住居となるゴシック建築の広大な屋敷がそびえ立つ山頂は、冬になると地表に露出した赤粘土が雪を赤く染めることから、【クリムゾン・ピーク】と名付けられていたのだった…。新たな生活に慣れるにつれ、クリムゾン・ピークはそれ自身の命を生きはじめ、悪夢のような幻影や深紅の亡霊たちが姿を現し始める。果たして、亡霊たちが現れる本当の意味とは?そして、この屋敷に隠された秘密とは?
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ、マシュー・ロビンス
出演:ミア・ワシコウスカ、トム・ヒドルストン、ジェシカ・チャステイン、チャーリー・ハナム
監督:ギレルモ・デル・トロ
脚本:ギレルモ・デル・トロ、マシュー・ロビンス
製作:トーマス・タル、ジョン・ジャシュニ、ギレルモ・デル・トロ、カラム・グリーン
製作総指揮:ジリアン・シェア
撮影:ダン・ローストセン
プロダクション・デザイン:トム・サンダース
編集:ベルナ・ビラプラーナ
衣装:ケイト・ホーリー
音楽:フェルナンド・ベラスケス
配給:東宝東和
2015年/アメリカ/119分/R15+
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