映画『神様なんかくそくらえ』より ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
ニューヨークの路上で生活するドラッグ中毒の少女を描き、2014年の第27回東京国際映画祭でグランプリと最優秀監督賞を受賞した映画『神様なんかくそくらえ』が12月26日(土)より公開。webDICEでは、弟のベニー・サフディとともに今作を手がけたジョシュア・サフディ監督のインタビューを掲載する。
本作は、自身の実体験を綴ったアリエル・ホームズの小説『マッド・ラブ・イン・ニューヨーク・シティ』が基となっている。アリエルに自身の物語を書くよう依頼したジョシュア&ベニー・サフディ兄弟は、演技の経験のなかったアリエルを主演に起用し、彼女を巡る破滅的な恋愛の行方を捉えている。あえて手持ちカメラではなく望遠レンズを多用し、登場人物の手の指のささくれさえ覗けそうなカメラワークで収められたうらぶれた路上生活の現実。そこに冨田勲やタンジェリン・ドリーム、出演もしているアリエル・ピンクといったミュージシャンのシンセサイザーによる夢幻的な音楽を重ね、無軌道な生活を続ける主人公ハーリーが抱える空虚さ、そして生命力を映像化している。またハーリーの恋人イリヤを『アンチヴァイラル』のケイレブ・ランドリー・ジョーンズが独特の存在感で演じているほか、ハーリーとイリヤのホームレス仲間には、マイク役のバディ・デュレスなど、実際のストリートキッズが起用されている。
フィクションの中からリアリティを見つけてもらう
──本作は原作を手がけたアリエル・ホームズの実体験に基づく物語ですから、現実と地続きの映画ですね。現実と物語の境目が曖昧だと思いました。これは狙いですか?一方で、アリエルの名前をハーリーと変えることで、現実とはまた別の物語にしたかったのでしょうか?
私はいつも、フィクションという枠組みの中で映画を撮ることに興味がありました。役者の演技は、リアリティから遠ざかれば遠ざかるほど良くなっていくからです。フィクションの中からリアリティを見つけてもらう方が、よりニュアンスが見えてくると思います。なので、プロの役者と演技初体験の人を混ぜたり、ドキュメンタリー的な部分としっかり脚本で書き込んだ部分を混ぜたりすることで、誰もがステレオタイプな世界の中で、ある種の脚本の中で人生を生きているということを見せたいと思いました。そして、一体人生はどこで終わるのか、フィクションはどこで終わるのか、その境目はどこまでなのかを見せたかったのです。
映画『神様なんかくそくらえ』ジョシュア・サフディ監督
──ハーリーと彼女が慕う男イリヤが和解するシーンで一カ所だけ、携帯が花火になるファンタジックなシーンがありますね。あのシーンはとてもロマンチックですが、どんな意図があったのでしょうか?
アリエルの手記を通して、そして彼女の友人として、僕はアリエルの生活を見ていたわけですが、イリヤという男は、彼女の人生に自由に入ってきたり出ていったりして、その存在自体で他の人の精神を破壊してしまうようなパワーを持っています。
僕も、今までの恋人でそういう人がいたので共感できるのですが、イリヤにもそういうパワーがある。彼女の手記には、もうひとり仲の良い男マイクから漂うようにしてイリヤに移っていく場面があるのですが、イリヤが登場するとマイクが空気の中に消されてしまう、という書き方をしています。そこに描かれているイリヤのポエティックな存在感は、なかなか映像では表現できませんでした。
映画『神様なんかくそくらえ』より、ハーリー役のアリエル・ホームズ(左)とイリヤ役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(右) ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
イリヤの力は他人を爆発させるようなすさまじい力なのですが、それをどう表現するかと考えていたときに、脚本の共同執筆者のロナルド・ブロンスタインがこのアイディアを出してきたのです。マイクが携帯の中に住んでいて、イリヤが魔術的な力で携帯を爆発させて花火にしてしまう、というものです。リアリティを表すために、映像でしか描けないリアリティを追求して、このシーンが生まれたのです。
映画『神様なんかくそくらえ』より、イリヤ役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
音楽を多用することで「ダークなロマンス」を見せる
──本作は音楽がとても印象的ですね。あなたの作品に音楽が果たす役割を教えてください。
人生にとって音楽とは何か、ということと同じだと思います。何よりもグローバルな、世界のどの国でも通じるアートであり、言語だと思います。これまで僕たちが作ってきた映画の中で、音楽というのはリアリティではない。『哀しみの街かど』(※アル・パチーノ主演、ニューヨークを舞台に、麻薬に溺れる若者を描いた作品)と似たようなロケーションで本作は撮られています。これは1968年に撮られた映画ですが、音楽が使われていません。当時としてはとても新しいことだったでしょうし、ああいったライフスタイルの醜さを表現する上でとても効果的だったと思います。ただ、僕たちの映画ではロマンスを見せたかった。それも、ダークなロマンスという新しいものを。ということで、もちろん演出面でもそれを表現したかったのですが、同時に、音楽がその世界に自分たちを連れてってくれるようにしたかったのです。特に富田勲の音楽は、伝統的で、とてもロマンチックと思われているドビュッシーの曲を全く新しい解釈として、まるで火星の宇宙船の中にいるような、ロマンチックでいながら宇宙的な雰囲気を表現しています。なので、簡潔に言うと、音楽とは私たちをロマンチックな世界に導いてくれるもの。完全な答えは、まだ僕自身も分かっていないのです。
映画『神様なんかくそくらえ』より ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
──冨田勲さんの「月の光」をあのシーンに使った理由は何ですか?
最もロマンチックな曲だからです。フランク・シナトラは、「沈める寺」(La cathedrale engloutie)がドビュッシーで一番ロマンチックな曲だと言っていて、女性を誘うときにかけていたそうです。僕は映画を作り終わるまでその話を知りませんでした。一番ロマンチックな音楽をラブシーンに使いたかったのですが、「月の光」は都会的なラプソディーみたいなところもあるのです。あのシーンは、あそこがニューヨークなのかどうか曖昧で分かりにくい、典型的でないニューヨークのシーンです。ただ、「月の光」が流れることで、ハーリーにはイリヤとヘロインというふたつのロマンスがあるんじゃないか、そして、ここではもしかしたらヘロインが勝っているんじゃないかということを表現するために、本能的に「月の光」がいいと感じたのです。ハーリーがスプーンを落とす音が「月の光」の最初の音に似ているというのも理由のひとつです。
映画『神様なんかくそくらえ』より、マイク役のバディ・デュレス(右)とハーリー役のアリエル・ホームズ(左) ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
イリヤ役にはエズラ・ミラーも考えていた
──アリエルと再び仕事をしたいと思われますか?
もちろん再び仕事をしたいと思っていますが、どの程度まで関わるかはまだわからないです。次回作でも彼女を起用していますが、とても小さな役です。また、彼女がどれくらい演技をしたいと望んでいるかにもよります。自分がインスピレーションを受けたことしか彼女はやらないので、自分をしっかり表現できる作品であれば、彼女はまた演技をするでしょう。
映画『神様なんかくそくらえ』より、主役のハーリーを演じたアリエル・ホームズ ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
──ケイレブとの仕事はいかがでしたか?どうして彼をキャスティングしたのですか?
イリヤの役には経験豊富な若いプロの役者、ファンベースがしっかりとした有名な役者をキャスティングしたいと思っていました。イリヤはスター的な要素を持った人なので、そういう資質を持った人をキャスティングしたかったのです。ケイレブの前には、エズラ・ミラーを考えていました。私はケイレブのことを知らなかったのですが、ケイレブを推薦してくれたキャスティングディレクターのジェニファー・ヴェンディッティがエズラよりケイレブの方がいいと言ってくれました。それに、真剣に深いところまで役に取り組んでいくというケイレブの評判は聞いていました。アリエルはケイレブの写真を見たときにすごくやる気になったのです。ケイレブはそのとき赤毛だったのですが、彼女がケイレブだったら良いと言ったのも大きかったです。
映画『神様なんかくそくらえ』より、イリヤ役のケイレブ・ランドリー・ジョーンズ ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
イリヤの役は、アリエルの相手役という意味でもとてもエネルギーがいるし、文字通り路上で生活しなければいけなかった。それでも、ケイレブは身も心も捧げてこの役に没入してくれました。彼は今まで『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』など何百人もスタッフがいる現場を経験したことがあるので、彼にとっても小規模の映画に出演することは新鮮で面白い経験だったはずです。僕たちがケイレブのようなバックグラウンドがある人と仕事をするのが面白いと思うのと同じくらい、彼も僕たちと仕事をするのを面白がってくれたと思います。
ケイレブはこの映画を非常に深く理解してくれました。彼は「早く脚本がほしい」と言っていたのですが、「君がニューヨーク行きの飛行機に乗るまで渡さない」と言っていたんですね。その代わり、アリエルの小説から、イリヤについて書かれている章を渡しました。40ページ分に及ぶイリヤについての描写のうち、一部は映画に使いました。でも、ほとんどは彼のエネルギーやフィーリングについて描写したものだったんです。ケイレブはそれを読み込みました。また、イリヤのビデオをケイレブにたくさん見せました。そうすることで彼はどんどんイリヤというキャラクターに入り込んでいってくれた。これほど監督冥利につきることはありません。
映画『神様なんかくそくらえ』より ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
ストリートキッズは「大企業的」
──ストリートキッズたちと実際に交流をして、特に印象的だったことを教えてください。
ストリートキッズと付き合って一番驚いたことは、彼らのライフスタイルがとても「大企業的」だということです。彼らは、路上で物乞いをしたり、どこかの廃墟を占拠しているとき以外は、スターバックスやバンズ・アンド・ノーブル、バーガーキングのような24時間開いているお店で、蛍光灯が煌々と照る中にいることが多いのです。トイレで自由にしていられるから、時には映画館にいることもありますね。そういうところで聞こえる音楽は、ラジオから流れるヒット曲なのですが、彼らは反体制でありつつ、その体制のなかで生活しているのです。アメリカの現代ポルノを作った出版事業家のアル・ゴールドスタインという人がいます。彼は億万長者からホームレスになった人で、自伝の中でこんなことを言っています。「ホームレス時代の1番のシェルターは、実はアメリカの大企業が作ってくれた」、と。その本を読んだときには意味がよく分からなかったのですが、実際にストリートキッズや路上生活者と関わって、こういうことか!と理解しました。
映画『神様なんかくそくらえ』より ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
──登場人物の自然で生き生きとした会話が印象に残ります。すべて台詞は脚本に書かれているのでしょうか、即興も多いのでしょうか。
60パーセントくらいは即興ですが、いつもガイドラインみたいなものはありました。ガイドラインがしっかりある方が、演技はよくなったのです。ベストな演技はきちんとした脚本があった方が引き出せると思います。即興だと、違うノリや、違う雰囲気になってしまうことがありました。
映画『神様なんかくそくらえ』より ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
──最後に、日本の観客にどのようにこの作品を観てほしいですか?
まず、ありがとうと言いたいです。映画を撮り終わったときから、とても観てもらいたい国のなかに日本がありました。なので、東京国際映画祭でグランプリをいただいてその気持が一層強まりました。
この映画には黙示録的な雰囲気がありますが、日本の人にとって黙示的なものはフェティッシュに使われていて、禅と逆の立場にあると思うのです。なので、日本の方には本作で新しいロマンスを見ていただきたいと思います。というのは、僕が初めて冨田勲の音楽を聴いたとき、「こんなロマンチックな音楽は初めて聴いた」と、新しいロマンスのかたちを感じたからです。この映画にもそういったものを観てもらえたら嬉しいです。
(オフィシャル・インタビューより)
ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ(Joshua and Benny Safdie) プロフィール
ジョシュアは1984年、ベニーは1986年、ニューヨーク市クイーンズ区に生まれ育つ。共にボストン大学で学び、在学中に映像制作団体Red Bucket Filmを設立。ニューヨークを舞台に、盗癖のある女性の孤独な人生を描いた『The Pleasure of Being Robbed』(08)で長編監督デビュー。自身の幼少時代をテーマにした『Daddy Longlegs』(09)でインディペンデント・スピリット賞のジョン・カサヴェテス賞に輝き、2013年には初のドキュメンタリー『Lenny Cooke』を監督する。米国の高校バスケットボール界で活躍し、将来を期待されながらもプロ入りを果たせなかった選手の半生を追い、第70回ヴェネツィア国際映画祭で上映された。次回作は、『トワイライト』シリーズで知られるロバート・パティンソンを主演に迎える『Good Time』の予定。シンガポールのリゾートホテル、マリーナベイ・サンズのデザインを手がけたことでも知られる建築家のモシェ・サフディは遠戚に当たる。
映画『神様なんかくそくらえ』
12月26日(土)新宿シネマカリテほか全国順次公開
映画『神様なんかくそくらえ』より ©2014, Hardstyle, LLC. All Rights Reserved.
19歳の少女ハーリーはニューヨークの路上で刹那的な毎日を過ごしていた。ホームレス仲間でもあるエキセントリックな恋人のイリヤは、彼女が生きる理由そのものだ。だから、イリヤが手首を切って自分への愛を証明するように求めたとき、すぐにその願いを受け入れてしまう。それはハーリーが自分の命を削ってでも求めようとする、もう一つの大事なモノ─ヘロインの影響でもある。 自殺は未遂に終わるものの、イリヤは何の知らせもなくハーリーの前から姿を消してしまう。精神病棟から退院した時、友人のスカリーは言った。「あんな男のどこがいいんだよ?」確かにイリヤは最悪な男だ。ハーリーにドラッグを教え、歪んだ愛で彼女を束縛した。その事実を指摘されるとハーリーは苛立って、スカリーを拒絶する。
監督・脚本・編集:ジョシュア・サフディ、ベニー・サフディ
出演:アリエル・ホームズ、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、バディ・デュレス、ロン・ブラウンスタインa.k.a. Necro
音楽:冨田勲、アリエル・ピンク、タンジェリン・ドリーム、ヘッドハンターズ
撮影:ショーン・プライス・ウィリアムズ
2014年/アメリカ、フランス/英語/97分/カラー/日本語字幕:石田泰子/R15
原題:Heaven Knows What
配給・宣伝:トランスフォーマー
公式サイト:http://heaven-knows-what.com/
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