映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』より ©2014 Day in Court, LLC
アメリカの同性婚を巡る歴史的な裁判を描いたドキュメンタリー映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』が、2016年1月30日(土)より公開。現在クラウドファンディング・サイトMotionGalleryにて劇場公開へ向けての支援プロジェクトを実施している。webDICEでは、映画配給会社ユナイテッド・ピープルのスタッフで、本プロジェクトの発起人であるアーヤ藍さんからのメッセージを掲載する。
今回のクラウドファンディング・プロジェクトは、2016年1月8日までの期間で、100万円を目標に資金を募る。集まった資金は、日本語字幕製作費、予告編製作費、試写会開催費、チラシ・ポスター製作費、公式サイト開設費、各種宣伝素材製作費、買い付け金の一部として使用される。
協力は1,000円から可能で、公開時に使用可能な特別鑑賞券はもちろん、公式サイトやエンドロールへの名前掲載のほか、4万円の協力で市民上映開催権1日分進呈という自主上映を考えている人に最適のプランも用意されている。詳しくはプロジェクトページまで。
映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』とは
2008年11月、アメリカのカリフォルニア州で結婚を男女間に限定する州憲法修正案「提案8号」が通過し、一度は合法とされた同性婚が再び禁止されることになった。数週間後、この「提案8号」が人権侵害であるとして州を提訴したのが、今作の主人公であるポール・カタミとジェフ・ザリーロ、クリス・ペリー、そしてサンディ・スティアという2組の同性カップル。州での同性婚禁止に対する初めての法的挑戦に対し、LGBT運動の指導者の間でも時期尚早と疑問視されていたものの、ブッシュ対ゴアの大統領選では敵同士だった弁護士テッド・オルソンとデヴィッド・ボイスを味方につけ、裁判に挑むことになった。
映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』より、左から、ポール・カタミ、ジェフ・ザリーロ、クリス・ペリー、サンディ・スティア ©2014 Day in Court, LLC
数年に及ぶ訴えや司法制度上の審理を経て、この訴訟は2013年3月、最高裁判所まで持ち込まれる。2013年6月26日、連邦最高裁が同性婚禁止派の上告は無効と却下、28日に連邦高裁が「提案8号」を無効と宣言し、カリフォルニア州で同性婚が再び認められた。監督とプロデューサーを務めるベン・コトナーとライアン・ホワイトは、5年間の彼らとその家族の闘いを追い、その歴史的瞬間までの600時間以上におよぶ記録映像をまとめ、ドキュメンタリーとして完成させた。
映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』より ©2014 Day in Court, LLC
本作は2015年、第87回アカデミー賞・長編ドキュメンタリー部門のショートリストに選出。そのほか、2014年のサンダンス映画祭USドキュメンタリー部門の監督賞や、サウス・バイ・サウスウエスト2014の観客賞を受賞した。日本では、『アゲインスト8』のタイトルで2014年の「第23回東京国際レズビアン & ゲイ映画祭」で上映され、今回待望の劇場公開となる。
映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』より ©2014 Day in Court, LLC
アーヤ藍さんからのメッセージ
「自分のセクシュアリティと向き合い、考えるきっかけに」IDAHO(同性愛嫌悪とトランス嫌悪に反対する国際デー)会場のアーヤ藍さん
あなたの周りに「佐藤」「田中」「鈴木」「高橋」といった苗字の人はいるでしょうか。セクシュアルマイノリティ(性的少数者)と呼ばれる人たちは、これらの苗字の人の総数と同じくらい、日本にいると言われています(*1)。でも、そのことを自らオープンにできていない人も多いため、気づかれていない、知られていないのが実情です。
先日、全国規模で行われた同性婚やLGBTへの意識調査の結果が発表されました。その調査結果では、友人や同僚が同性愛者だった場合、「抵抗がある」と答えた人が約半数にのぼったそうです(*2)。この「抵抗」感はどこから来ているのでしょうか。よく知らなかったり、分からなかったり、あるいはマスメディア等で流れてくる偏った情報の印象から湧いてきているものではないでしょうか。
本作『ジェンダー・マリージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』は、米国・カリフォルニア州で、同性婚の法的容認を求めて裁判を起こした2組の同性カップルを追ったドキュメンタリーです。実在する人物の、生の声と表情、悲しみも怒りも喜びも、すべてそのままに映し出されています。それらに一度触れてみたうえで、何に違和感や抵抗感を覚えるのか、「普通の愛」と何がそれほど違うと感じるのかを、今一度考えてみていただきたいのです。
「知らない」「関係ない」「自分の周りにはいない」。そうして拒絶され、存在を否定され、自分自身のありのままの姿を受け止めてもらえないことで、自ら命を絶っていくセクシュアルマイノリティの人は少なくありません。無自覚のうちに誰かを傷つけ、追いやってしまっているとしたら…。…まずは本作を機に、少しでも知っていただければ幸いです。
一方、映画に出てくる2組の同性カップルが、セクシュアルマイノリティの「すべて」なわけではありません。同じ異性愛者のなかでも、婚姻を特別望んでいないカップルもいます。異性カップルのなかに多様性があるように、同性カップルも多様です。
それだけではありません。よく「LGBT」と総称される、レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(生まれながらの性と心の性が異なる人)だけでなく、ノンセクシュアル、アセクシュアル、Xジェンダー……などなど、無限と思えるくらいに幅広いセクシュアリティが存在しています。同じ人のなかで揺れ動くこともあります。明確な枠で区切れるようなものではなく、もっと境界が曖昧な「グラデーション」になっているのだと思います。
私自身は、身近な大事な先輩が「当事者」だったことを機に、その方が生きやすい社会になってほしいと願い、まずは勉強しよう!と関連イベント等に参加するようになりました。でも、知れば知るほど、助けられたのは私のほうでした。
私自身はその頃、ヘテロ(異性愛)な恋愛をしていましたが、そのなかでも、「カップルだったら~~で当然でしょ」「付き合っているなら~~が普通じゃない」といった言葉を投げかけられた時に、たとえ自分が違和感を覚えていても、「きっと自分の感覚が変なんだ」と、その感情を抑えて息苦しく感じました。それが、セクシュアルマイノリティの世界に出会ったことで、「当たり前」や「普通」などなく、自分のそのままの気持ちや姿を大事にしていいのだと教えてもらったのです。そう思えたことで、自分自身がとても楽になって生きやすくなりました。
自分のセクシュアリティと向き合うことは、自分のアイデンティティーや生き方を見つめ直すことであり、そして、大切に想う誰かを、どうしたら大切にできるかを深く考えることでもあるのではないかと思っています。
この映画が、そんな自分自身を見つめ直すようなキッカケにもなれば、幸いです。
(*1)『職場のLGBT読本』(柳沢正和、村木真紀、後藤純一)実務教育出版、2015年。
(*2) 同性婚「賛成」過半数も抵抗感 初の意識調査 NHKニュース
http://b.hatena.ne.jp/entry/www3.nhk.or.jp/news/html/20151128/k10010322671000.html
https://www.youtube.com/watch?v=hg4HBiwYWI0
映画『ジェンダー・マリアージュ』
2016年1月30日(土)、シネマート新宿・シネマート心斎橋ほか全国順次ロードショー
映画『ジェンダー・マリアージュ ~全米を揺るがした同性婚裁判~』より ©2014 Day in Court, LLC
監督:ベン・コトナー、ライアン・ホワイト
原題:The Case Against 8
2013年/アメリカ/112分
映画『ジェンダー・マリアージュ』MotionGalleryプロジェクト・ページ:
https://motion-gallery.net/projects/gendermarriage
映画『ジェンダー・マリアージュ』公式サイト:
http://unitedpeople.jp/against8/