骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-12-04 18:10


尺八奏者でスケーター!?『根っこは何処へゆく』両極端の文化はストリートで繋がる

有機農家兼監督、切腹ピストルズの野中克哉インタビュー
尺八奏者でスケーター!?『根っこは何処へゆく』両極端の文化はストリートで繋がる
映画『根っこは何処へゆく』の野中克哉監督(左)、映像作家の杉本篤(右)

尺八とスケートボードという一見全く関係がないと思えるふたつの文化から、現代が抱える様々な問題を見つめ直すドキュメンタリー映画『根っこは何処へゆく』が12月5日(土)から11日(金)まで渋谷アップリンクでレイトショー上映される。

監督を務めるのは、自ら尺八奏者・スケーターであり、バンドというくくりではもはや捉えきれない「切腹ピストルズ」のメンバーとしても活動する野中克哉。webDICEでは、公開にあたり野中監督と、今作の制作に協力したスケートボード・シーンで活動する映像作家・杉本篤のふたりにインタビューを行った。

グローバリゼーションの問題との関係(野中)

── 野中さんが今回初監督作品としてこの映画を完成させることができた、その原動力とはどこにあるのでしょう?尺八とスケートボートというふたつのテーマのうち、まず尺八を取り上げようと思ったきっかけについて説明していただけますか?

野中:尺八は明治時代に、近代化・西洋化されたものと、もともとあった江戸式の流れのふたつに別れました。「地」と呼ばれる漆(うるし)と粉を混ぜた塗料で内部を加工した「地あり」の尺八のほうが主流になり、僕がやっている、管の内側に節による突起を残したままの「地なし」の尺八はぜんぜんやる人がいない。

西洋式は効率化され合理的に楽器として成立しているけれど、竹の個性は当然なくなってしまう。一方、江戸の尺八は竹を作り変えるのではなく、竹のほうに自分が合わせる吹き方なんです。僕はパンクもやっていたので、型にはまるのがイヤなんです。グローバリゼーションの問題と関係してくると思うのですが、全て画一化されてしまうと、そこからあぶれる人が行き場がなくなってしまう。

そんなときに、311の地震があって、ほんとうに何かやらないとと思った。そこで、尺八が変化して、自然と対話して作る世界がなくなっていくのは、時代を反映している現象のひとつだと、ドキュメンタリーを撮って発表することで、西洋式の尺八が主流となった世界で、「地なし」の面白さを世の中に伝えていきたいと思ったんです。

映画『根っこは何処へゆく』より
映画『根っこは何処へゆく』より

── そこから、どうスケートボードが関わってくるんですか?

野中:最初は尺八だけをテーマにしようと思っていたんですが、スケボーもここ10年くらいでだんだんスポーツ化している。今年はオリンピックの正式種目にほぼ決定しましたし、その前の助走段階でスポーツ会社が参入してきて、スポーツになったほうが儲かるので、そういう方向にしたがる。

そうなると僕の好きなスケボーとちょっと違ってくる。競技としてのスケボーは、決まったコースで難しい技を決めると得点が高くなる。それは見ていて楽しいけれど、スケボーがそればかり目指すのはイヤだった。

自由と個性を活かす、尺八とスケボーというカルチャー(野中)

── 尺八とスケボーの共通点はどこだと思いますか?

野中:尺八とスケボーは個性を活かすところが似ていますね。ストリート・スケートは、文字通り街なかでやるので、スケボーのために作られていないものを使ってやる。普通の人は通りすぎる、階段についているへんなかたちの手すりを見てテンションが上がるのはスケーターだけだと思うし。尺八にあてはめると、ストリートは自然の竹、「地なし」なんです。

パークは、スケボーをやるために作られた場所で、路面もきれいだしやりやすいけれど、そこでずっとやっていると飽きる。それは「地あり」に近い感覚なんです。

それから、スケボーは反社会的というか、「言うこときかない奴ら」という感じのところがある。若いときはそれをカッコいいと思っていたし、そうした精神はあったほうがいい。

尺八も、今は「伝統芸能」と言われますが、元々は室町時代の薦(こも:乞食)から発展して江戸時代に虚無僧と呼ばれるようになった、言ってみればホームレスと芸人が合わさったような人たちが始めたもので、いまはそういう自由な要素がなくなってきているのはスケボーの状況と似ていると思った。

映画『根っこは何処へゆく』より
映画『根っこは何処へゆく』より

── カルチャーとしての成り立ちと現在の社会での立ち位置が近いと感じたのですね。

野中:スケボーがオリンピックの正式種目になってよかったね、という人もいるけれど、スケボーも尺八みたいになってしまうかもしれない、と考えてもらいたいという意図もあったんです。

逆に、トッププロとしてコンテストで優勝する人も、ストリートで滑っていたりというのは、尺八にはない状況です。だから現時点ではバランスが取れてると言える。そこは尺八側がスケボーに学ぶところだと思います。

好きなものの好きな部分を守りたいというと偉そうですけれど、残ってほしいという願いです。「それがなくなって何が困るの?」という意見もありますが、それはつまり、「価値観の多様性がなくなる」ということだと思うんです。尺八だと、自然のままの個性があっていい、という価値観がなくなる。師匠が言った通りにクローンのように同じように吹かなきゃいけないわけではない。スケボーについても、世の中に対して「言うこときかない感じ」を持っていないと、どんどん悪い方向に進んでいってしまうんじゃないかという気がするんです。オリンピックの種目になると、パークがあるからパークで滑れ、とか、自主規制とかでストリートで滑れなくなる気がする。かつての暴走族のようにボードを持ってたまっているだけで逮捕されたりするかもしれない。

長いものにまかれたくないんですよ、僕は。だから発展していくのはいいんですけれど、必ずしも数は増えなくてもいいんじゃないか。数が増えるとストリートでどんどん滑りにくくなりますし。尺八も極端に「地なし」を吹く人ばかりが増えて、みんなが竹やぶで採りまくるというのではなく、ちょうどいいバランスがいい。でも今は、江戸の尺八をやっている人があまりにも少ないので、もうちょっとみんなが認識してくれるレベルで、増えてくれればいいと思っています。そこで、この映画を作るにあたり、無理やり杉本くんを引きずり込んだんです(笑)。

自然のなかにヒントがあった(野中)

── 杉本さんは野中さんからの誘いを聞いて、どう感じたのですか?

杉本:最初は(野中)克哉くんと仲間のカメラマンのふたりでやっていたプロジェクトでした。僕の作品を克哉くんは知ってくれていて、インタビューを撮影しにきたんです。だからはじめは出演者側だったんです。

その後、カメラマンと折り合いが付かなくなってしまったようでプロジェクトはストップ。克哉くんは引き続き作りたいという気持ちはあったけれど専門的な技術はない。そこで僕のところに「協力してくれないか」と相談に来たんです。何度も足を運んでもらっていろいろな話を聞いて、克哉くんも本気でやっているという事が分かりました。ただ僕も十数年スケートボードの映像を作ってきて、自分なりの考えもあるし、安易にこの作品に関われないと伝えました。克哉くんの言っていることも分かるけれど、賛同できない部分もある。でも、本気でやろうとしていることに協力はしたいなというのはあって。だからアドバイザー的な役割や過去の撮影素材の提供をしたり、一部撮影を手伝ったりとサポート的な役割をすることにしました。

映画『根っこは何処へゆく』より
映画『根っこは何処へゆく』より

野中:スケボーのビデオを撮るのはほんとうに難しい。いいカットが撮れたとしても2秒だったり、すごい時間と労力をかけて、よく協力してくれたと感謝しています。

作品のなかで尺八とスケボー、ふたつの要素を並行して語ろうというのは、最初から決まっていました。エンディングについては、素材がぜんぶ撮り終わるときに、どうやってまとめようかなと思って、いろいろ言いたいことはあったけれど、最初は「マイノリティの逆襲」的に少数派がぜったい正しいんだ、というノリだったんです。でも(杉本)篤くんと話したり制作を進めていくなかで、それもちょっと違うなと思い出して。かといって尺八とスケボー、多数派も少数派もどっちも素敵だという終わり方も意味ないなと思った。

そこで、木になぞらえてみたら、すごく僕のなかでストンと腑に落ちた。アンダーグラウンド・シーンって言葉をよく使うけれど、アンダーグラウンドは地下という意味でしょう。根っこは地下にあるし、自分の本質のことをルーツっていう。これならどっちがいい悪いではなく、言いたいことを言える。答えが自然のなかにあった、というのも、僕のなかで気持ちいいことでした。自然を見ないとたどり着かなかった。

百姓という考え方によって救われる人がいるんじゃないか(野中)

── 野中さんは今年から有機農業を始めたんですよね。

野中:新潟に引っ越して、米作りの勉強をしていて、無農薬で手植えでやっています。それが今年の5月、映画がほぼ完成するという頃で。前からずっとやりたいと思っていて、食の安全とか叫ばれていますけれど、自分で食べるものを自分で買うしか手段がないのがいやで、提供されたものを食べるだけ、という立場ではなく、「食うために仕事をする」ってよく言いますが、食うためには自分で作るのがいちばん手っ取り早くない?と考えて。そこからもういちど世の中を見てみたかった。

世の中、僕と同じように考える人は増えていく気がしますよ。TPPや遺伝子組み換え作物の問題もあるし、種もいまはF1種という一代限りの種が主流となって永遠に種子企業が儲かるシステムになっていることが問題視されているけれど、自分で何代にも渡って受け継がれてきた固定種で作ればすべて解決する。

僕はいま自分の職業を百姓と呼んでいますが、それは単純に農民という意味ではなくて、100個仕事を持っている人のこと。5万円稼げる仕事が4つあれば20万円なので、自分も百姓になろうと。企業の雇用形態がどんどん破綻していくなかで、DIYと同じ意味で、百姓という考え方によって救われる人は出るんじゃないかと思います。

最後までやり通した姿勢に共感(杉本)

── 作品の仕上がりについては、満足していますか?

杉本:初めてこれまで撮影してきた素材を見せてもらったとき、克哉くんは映像制作の事はほとんど分からない状態で。ドキュメンタリーとして作品にするには必要な要素がかなり不足していました。内容どうこうよりも想いに共感して参加を決めた部分が大きかったので、僕がお金をもらって技術スタッフとして加わるよりも、サポートするから自分の力でやったほうがいい、と伝えたんです。自分が本気で作りたいものなら自分で作ったほうが良いと。姿勢は必ず作品に出ますから。そこから克哉くんが自分でソフトを買って、いちから編集を学んで、「どうですか?」と持ってきたときに、初めてアドバイスを伝えました。何度もブラッシュアップしてこの作品が仕上がったという感じです。僕はその過程を知っているので、やりたいという思いだけで何も分からなかった人がアップリンクで1週間上映するところまで持ってきたという情熱がすごい(笑)。最後までやり通した克哉くんの姿勢に共感していますし満足しています。

映画『根っこは何処へゆく』より
映画『根っこは何処へゆく』より

── 杉本さんはかつて、自分の作品『ME AND MY FRIENDS』について、トリック主流のスケートビデオに対する異議申し立てという気持ちがあったと言っていましたけれど、野中監督の作品で共感できる部分はどんなところですか?

杉本:一緒に尺八奏者のインタビューを撮影したことが何度かあったのですが、変化していくということも重要だということに気付かされました。いいものはいい、とそのまま残すのはもちろん重要なんですけれど、そこに留まるんじゃなく、進化していくこと、いままでにないものをプレゼンテーションして成立するようにしていくことが、本当の意味でのスケートボード精神というか、パンク精神だと思うんです。

杉本:これでいいいんだ、というのがプロジェクトに参加して見えてきた。僕もどちらかといえばその反骨精神ゆえにスケボーが好きなんだけど、スケボーが得意で、それで金を稼ぎたいという人も当然いるだろうし、そういう人たちからすると、やっぱりオリンピックの正式種目になるとか、お金に結びつけていくということが僕たちよりも切実な問題だと思うんです。だから、一概に「スケートボードはスポーツじゃない」とも言えない。

カルチャーとして大きくなっていくという要素も必要なんですけれど、それに加えて、もともと根底にあるものを残すような動きはしていけたらと思うんです。僕もやってきて思うのは、知ってもらうという努力はしなきゃいけない。生きていくために。生活していくために、仕事にしていくために。だけど、それをするために本質が変わってしまったら、本末転倒だと思う。だから、自分の本質は変えずに、どう知ってもらうかということをやっていくのが、今しっくりくるんです。

野中:そうですね、この映画で観た人がそう感じてもらえたら嬉しい。まず知ってもらうということが、この映画でできたら。この映画にも、カナダ人で僕の一番最初の尺八の師匠が出ていますけれど、海外でも主流は「地あり」なんですけれど、江戸の尺八、「地なし」のほうに魅力を感じている人は日本より多い。だから、日本人が気づかないなら「逆輸入」でもいいと思っています。

映画『根っこは何処へゆく』より、奥田敦也
映画『根っこは何処へゆく』より、尺八奏者の奥田敦也

杉本:この映画でなにかメッセージを、というよりは、考えたり、興味を持ったり、なにかのきっかけになればいいですよね。そういう役割が今回の映画でできればいいんじゃないかな。

野中:試写会で作品を観た何人かの人から、「野中監督の意見が入っていない」と言われたのが意外だった。僕としてはすごく入れてるつもりだったから。ひとつの主張しか言っていない映画って観ていて疲れるし、そういうふうに観てもらえたのはよかったな。篤くんにも言われたことだし。

杉本:克哉くんはどちらかというと昔のものを残したいというのが前提だったので、そればかり主張するよりは、現状を伝えるほうが、表現手段としていいんじゃないかと話しました。

野中:そこはほんとうに感謝です。俺ひとりで作っていたら、俺が言いたいことだけ言って終わっていたから。

(構成:駒井憲嗣)



野中克哉 プロフィール

福岡出身。百姓。そもそも百姓とは単純に=農民ではなく百の仕事を持つ者という意味。ゆえに古典尺八奏者、翻訳家、米農家、漫画家、イラストレーターなど肩書き多数。スケボーはとにかく好きでやっている。翻訳家としてはトランスワールド・スケートボーディング・ジャパン誌で翻訳記事を担当、今作の字幕も自身で行った。今作「根っこは何処へゆく」が初監督作。切腹ピストルズの一員としても精力的に活動中。

杉本篤 プロフィール

群馬県出身東京都在住。東京を拠点として活動。2006年にリリースされた『BLUE』の制作にあたり、2003年からbluefilmproducts名義での活動を開始。2011年4月、『ME AND MY FRIENDS』を発表した。同年11月に新プロジェクトHULAHOOPERSを結成。2013年には『CAPTURED IMAGES』、2014年には『KIDS HEART HOREVER』を発表。
http://hulahoopers.me




『根っこは何処へゆく』
2015年12月5日(土)~12月11日(金)
渋谷アップリンクにてレイトショー上映

映画『根っこは何処へゆく』より
映画『根っこは何処へゆく』より

企画・編集・監督:野中克哉
出演:〈スケーター面〉サイラス・バクスターニール/南勝己/ジャーム/中村久史/チョッパー・ライアン・シャクラー/宮城豪/ポンタス・アルヴ/宮里友晴/吉田良晴/平田佑介
〈尺八面〉奥田敦也/小菅大徹/松本宏平/柿堺香/三橋貴風/志村哲(禅保)/キク・デイアルクヴィン・ラモス/前川耕月/ピーター・スミス ほか
撮影:中村岳史/杉本篤/高橋大介/下地壮一郎
美術:飯田裕之
協力:せっぷくぴすとるず
制作:克プロダクション
2015年/50分

公式サイト:
http://futureisprimitive.com/
公式Facebook:
https://www.facebook.com/根っこは何処へゆく-Future-Is-Primitive-909173762456384/
公式Twitter:
https://twitter.com/nekkohadokohe


渋谷アップリンク上映情報:
http://www.uplink.co.jp/movie/2015/41187

▼映画『根っこは何処へゆく』予告編

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