映画『サンローラン』より © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
50年代後半に頭角を現し、ファッション界に大きな影響を与えた天才デザイナー、イヴ・サンローランを描く映画『サンローラン』が12月4日(金)より公開される。彼が世界的にブレイクを果たした、最も精力的でもっとも破壊的だったと言われる67年からの10年間を活写。アンディ・ウォーホルに「僕たちは20世紀後半の2大アーティストだ」と賞賛されるほどの名声を手にしながらも、プレッシャーと闘い葛藤し続けていたサンローランをギャスパー・ウリエルが演じている。webDICEではベルトラン・ボネロ監督のインタビューを掲載する。
インタビューでも語られているように、ボネロ監督は、公私に渡りパートナーだったピエール・ベルジェとの関係や、モデルや愛人との享楽にふける刹那など、聖人君子としてではない、ひとりの人間としてより身近に感じられるサンローランを150分という長尺のなかで描きだしている。ギャスパー・ウリエルのほか、ピエールを演じたルイ・ガレル、レア・セドゥ、ジェレミー・レニエ、ヘルムート・バーガーなど脇を固める俳優陣の存在感にも注目してほしい。
レスペール監督の『イヴ・サンローラン』が
より多くの自由を与えたくれた
──まず、本作を手掛けることになった経緯から教えてください。
プロデューサーのアルトメイヤー兄弟からこの企画を依頼されたとき、私はサンローランの世界観に共感を覚えました。とりわけ、彼の派手で退廃的な一面が映画の見どころになると直感したのです。デジタル撮影では出せない色彩や質感、官能的な感触を創り出したくて35mmで撮ることにこだわりました。
映画『サンローラン』ベルトラン・ボネロ監督
──ブランド公認の映画『イヴ・サンローラン』が先に公開されたことについては、どのように感じていますか?
ジャリル・レスペールがサンローランの映画を監督するという発表を聞いたときは、もちろん驚きました。私たちのほうが先に製作を進めていたけれど、もう一方の製作陣はこちらを追い越すことに重きを置いていたんです。私には、そのような無意味な戦いで自分の作品を台無しにするつもりは毛頭なかったのです。
レスペール監督の作品が伝記映画としてイヴ・サンローラン財団の正式な公認をとりました。同じことをする手間が省けました。つまり、レスペールの映画が私により多くの自由を与えたくれたのです。
最初から従来通りの伝記映画を作るつもりはありませんでした。観客にはサンローランという人物を見てもらうのではなく、できる限り彼という人間を身近に感じてほしいと思っていたのです。
映画『サンローラン』より、ギャスパー・ウリエル © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
ココ・シャネルやエディット・ピアフなど、伝記映画の題材となる著名人たちは、貧しい家庭に生まれ、幼い頃の夢を叶えて成功した人物が多い。またそのような物語は、観客から共感を得やすいものです。それとは逆に、サンローランは生まれた時から母親や姉妹の愛情に囲まれ、裕福な家庭で育ちました。21歳でクリスチャン・ディオールの後継デザイナーに就任、25歳で自身のブランドを立ち上げた。伝記映画として不利な条件に、逆に魅了されたのです。
サンローランを理解しやすく陳腐な存在にするためではなく、彼の内なる感情により近付くために本作を撮りました。
──華やかなファッションショーのシーンが印象的でしたが、撮影したときの話を聞かせて下さい。
ファッションショーのあり方が今とは違っているので、その時代のショーの見せ方をすることにこだわりました。ショーのシーンは一日で撮りましたので、撮影時間としてはとても短かったですが、難しかったのは準備段階で、衣装作成が何より大変でした。当時のサンローランの衣装だと信じられるようなものにしなければならない。そして、テレビでショーを見せるようなやり方をしてはいけないと思った。服装が大切なのではなく、映画としてのショーのみせかたをとても重視しました。そのような理由で、途中にフラッシュバックや分割画面を入れたりしました。それらがひとつの画となってそこに存在することを意識して作り上げていったのです。
映画『サンローラン』より © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
ラストの笑みの意味
──本作を監督する上でかなり調査をされたかと思いますが、もっとも驚いたことは何ですか?
いちばん驚いたのは、町工場の手仕事的な仕事だったものが、巨大な経営組織になる、ファッション業界における企業の成長の様子です。なんとなくは知ってはいましたが、あらためて調べてみて、経済的にどのように上昇していくか、一つの会社の規模がどんどん大きくなっていくそのスケールにとても驚きました。
──主演のギャスパー・ウリエルにはどのような指導をされましたか?
ギャスパー・ウリエルに選んでから撮影まで1年あり、その間に様々な話を彼としました。ギャスパーは、その期間他作品には出演せず、1年間で既にイヴと「生きて」いて、撮影開始時はすでにサンローランになりきっていたので、指導の必要はありませんでした。指導というよりも、彼に付き添った、という言ったほうがいいでしょう。
──ギャスパーが演じるサンローランと、ジェレミー・レニエが演じるパートナーのピエール・ベルジェがヌードで戯れるシーンが衝撃でしたが、その時のギャスパーの様子は?
ギャスパーとジェレミーは実人生でも仲のいい友人で、おたがいふざけあうことにもとても慣れていました。ですので、あのふたりのシーンはユーモラスな雰囲気になっていますし、そういった関係性の良さ、というのもあのシーンに入れたいポイントだったので、とても良かった。撮影は実にシンプルで、2テイクしか撮りませんでした。
映画『サンローラン』より、ピエール・ベルジュ役のジェレミー・レニエ(左)とイヴ・サンローラン役のギャスパー・ウリエル(右) © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
──ギャスパーをはじめレア・セドゥやルイ・ガレルなど、豪華キャストぞろいですが、私たちの知らないような裏話などがあったら教えてもらえますか?
全体を通してとてもシリアスな撮影現場でしたので、特にこぼれ話のようなことはなかったと思います。とはいえ、キャスト全員が既にそれぞれ顔見知りだったので、ハラハラするような危なっかしいシーンも、とてもアットホームであたたかい現場でした。
映画『サンローラン』より、サンローランのミューズ、ルル・ドゥ・ラ・ファレーズ役のレア・セドゥ(右)、モデルのベティ・カトル役のエイメリン・バラデ(左) © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
映画『サンローラン』より、ジャック・ド・バシャール役のルイ・ガレル © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
──映画を観た著名な方はいらっしゃいますか?反応も教えてください。
実際にイヴを知っていた人の反応が気になっていました。カトリーヌ・ドヌーヴやレア・セドゥなど、イヴ自身と様々な交流があった人たちですが、彼女たちが観てくれて、とても感動してくれました。それが私のパーソナルな映画になっているのと同時に、事実に対して正しい映画になっているとはっきり言ってくれ、誉めてくれたのです。
映画『サンローラン』より、1989年のイヴを演じたヘルムート・バーガー © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
──ラストシーンで、自らの死亡説が流れたと聞かされた後、イヴは微笑みますが、その意味するところは?
「神秘的」「謎の微笑み」、観た人がそれぞれで解釈していいと思っています。私自身は、あの微笑みについては、おそらくイヴが「私は疲れているけれど、まだ生きている」といっているような気がしています。
(オフィシャル・インタビューより)
ベルトラン・ボネロ(Bertrand Bonello) プロフィール
1968年9月11日、フランス・ニース生まれ。ピエル・パオロ・パゾリーニの自伝を元にした『Qui je suis』で映画監督デビュー。2年後の98年には初の長編『Quelque chose d'organique』を製作。『ポルノグラフ』(2001年)が第54回カンヌ国際映画祭の国際映画批評家週間部門に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞。また音楽、脚本、監督を務めた『メゾン ある娼館の記憶』(2011年)でカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された。本作は第87回アカデミー賞外国語映画賞フランス代表に選ばれ、第40回セザール賞最多10部門ノミネート、最優秀衣装デザイン賞を受賞した。
映画『サンローラン』
12月4日(金)TOHO シネマズシャンテほか 全国順次ロードショー
映画『サンローラン』より © 2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL
1967年、パリ。カトリーヌ・ドヌーヴの衣装の次は、マルグリット・デュラス作の舞台衣装、秋冬コレクションのデザインを終えれば、12月のプレタポルテ、そしてオートクチュールの春夏ものデザイン──イヴ・サンローランの過密スケジュールは、果てしなく続いていた。
監督:ベルトラン・ボネロ
出演:ギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、ルイ・ガレル、レア・セドゥ、ヘルムート・バーガー
脚本:トマ・ビデガン、ベルトラン・ボネロ
撮影:ジョゼ・デエー
編集:ファビリス・ルオー
美術:カーチャ・ヴィシュコフ
衣装:アナイス・ロマン
原題:Saint Laurent
2014年/フランス/151分/カラー/ビスタ/5.1chデジタル
字幕翻訳:松浦美奈
後援:在日フランス大使館、アンスティチュフランセ日本
公式サイト:http://saintlaurent.gaga.ne.jp/
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