日本初となるイスラームをテーマにした映画祭「イスラーム映画祭2015」が12月12日(土)より渋谷ユーロスペースにて開催される。
この映画祭は、アップリンクが行なう「配給サポート・ワークショップ」の参加者が2011年に立ち上げた北欧映画祭「トーキョーノーザンライツフェスティバル」のスタッフである藤本高之さんと笠原貞徳さんがスピンアウトして企画。信者数は16億人を越え、世界3大宗教のひとつでありながら、キリスト教や仏教と比べると日本人にはまだなじみの薄いイスラームについて、少しでも身近に感じてもらいたいという思いから実施される。
第1回目となる今回は、過激派の支配に非暴力で抵抗する人々の姿を描き、フランス・セザール賞で最優秀作品賞ほか7部門を受賞した『禁じられた歌声』(「フランス映画祭」上映時タイトル『ティンブクトゥ』)が、12月26日(土)からの一般公開に先駆けオープニング作品として上映。そのほか、2011年の「東京国際映画祭」で観客賞を受賞したコメディ『ガザを飛ぶブタ』や2013年の「難民映画祭」で上映された『トンブクトゥのウッドストック』など、イスラーム諸国制作作品やイスラームを題材にした作品がプログラムされた。
世界各地でイスラームをめぐる紛争が絶えない現在、劇場未公開作を含め、国内ではなかなか観ることができない映画を通してイスラームの文化と歴史に触れることのできる貴重な機会となっている。
webDICEでは、映画祭実行委員会の藤本さんと笠原さんによる、全9作品のレコメンド文を掲載する。
『禁じられた歌声』
© 2014 Les Films du Worso © Dune Vision
「イスラーム映画祭」オープニング作品は、世界遺産にも登録されているマリ共和国ティンブクトゥの美しい砂の街を舞台に、愛や憎しみを通じて人間の“赦し”とは何かを問う深淵な人間ドラマです。音楽を心から愛するひと組の家族を中心に、過激派の支配に苦しみ、抵抗する人々の姿を描いています。過激派一人一人の人物像を丁寧に描いているのも特徴で、世界を悲劇に貶めるのは人間の“悪意”であり、イスラームは決して暴力的な宗教ではないというアブデラマン・シサコ監督のメッセージが胸に響きます。本作は、シャルリー・エブド事件が起きた1ヵ月後のセザール賞で、最優秀作品賞をはじめ7部門を受賞しました。比類なき映像美にも打ちのめされる、混迷の時代の壮大な叙事詩です。
監督:アブデラマン・シサコ
2014年/フランス=モーリタニア/97分/カラー/DCP
配給:レスペ/配給協力:太秦
12月26日(土)よりユーロスペースにて公開
http://cineville.jp/iff/archives/product/36
『トンブクトゥのウッドストック』
サハラ砂漠に暮らす遊牧民トゥアレグが、自らの文化的アイデンティティを内外に示すべく、『禁じられた歌声』の舞台と同じマリのトンブクトゥで毎年開催してきた音楽祭「砂漠のフェスティバル」。本作は、その2011年の模様を詩情豊かに描いた音楽ドキュメンタリーです。平和を望み、伝統と女性を尊ぶトゥアレグ特有の音楽はハートに心地好く、傍らで交わされる若者たちの熱い議論にも、世界の希望を感じます。しかし、その後起きた内戦によって、現在、関係者の多くが難民や国内避難民となっているのが現実です。初日の上映後には、日本在住のトゥアレグの方をお招きしてトークイベントも行います!
監督:デズィレ・フォン・トロタ
2013年/ドイツ/90分/カラー/ブルーレイ
http://cineville.jp/iff/archives/product/27
『神に誓って』
共にミュージシャンの兄弟。しかし、内向的な弟が過激派の思想に染まり、兄は弟を気遣いながらも音楽留学のためにアメリカへ。ロンドンに住む従妹メリーは英国人の恋人と結婚する予定でしたが、それを快く思わない父親に騙され原理主義の村へ嫁がされてしまいます。そして兄はニューヨークで9.11テロに遭遇し、差別を受けるのでした……。パキスタン国内における原理主義とリベラルなムスリムの軋轢や、強制結婚、アメリカの反イスラーム感情など、様々なテーマをダイナミックに描いた重量級の社会派ドラマです。本国では歴代興行記録を塗り替え、一大社会現象にまでなりました。エスニックな音楽の魅力も含め、エンターテインメントとしても極めてよくできている観応え抜群の大作です。
監督:ショエーブ・マンスール
2007年/パキスタン/168分/カラー/35mm
http://cineville.jp/iff/archives/product/30
『長い旅』
フランス生まれのモロッコ人2世レダは、敬虔なムスリムの父親に頼まれ、メッカまでの運転手をするハメに。学校の試験も受けられず、恋人とも離れ離れになってしまったレダはことあるごとに父親と喧嘩をしますが…。イスラーム教徒にとって最も大切な行事である“メッカ巡礼”の旅に出た父子を通じ、移民社会のジェネレーション・ギャップを描いています。少しずつお互いを理解してゆく感動的な父子の物語であるとともに、フランスからサウジアラビアまで7ヵ国をまたぐ旅が心をゆさぶるロード・ムービーの秀作です。
監督:イスマエル・フェルーキ
2004年/モロッコ=フランス/108分/カラー/35mm
http://cineville.jp/iff/archives/product/29
『カリファーの決断』
貧しい家計を助けるため中東の石油や宝石を商うセールスマンと結婚したものの、夫が厳格なムスリムであったためにニカブ(目の部分だけが空いたヴェール)をまとうことになった23歳の女性、カリファーの物語です。男のみが託される“導く者”という意味から、中東では決して女性にはつけられない“カリファー”という名前のヒロインの戸惑いと成長を通じ、真の抑圧や女性の自立とは何かを問いかけています。現在、インドネシアでは、ムスリム女性のファッションがどんどんカラフルになっているそうです。
監督:ヌルマン・ハキム
2011年/インドネシア/90分/カラー/ブルーレイ
http://cineville.jp/iff/archives/product/37
『ムアラフ 改心』
来年、遺作にして不朽の名作『タレンタイム』がついに劇場公開されるヤスミン・アフマド監督の第5作です。父親の虐待から逃れて暮らす敬虔なムスリムの姉妹が、華人で、カトリックの教師と出逢い、お互いの世界観を少しずつ広めてあってゆく姿を淡いユーモアをたたえながら描いています。傷ついた魂を持つ者たちが、互いの中に安らぎを見出してゆく姿を通じ、“人を赦す大きな力の源”を謳う信仰と改宗をめぐるドラマです。ヤスミン監督のように敬虔なムスリムの監督が作った映画を集めたら、イスラームの世界がより身近に、より深く感じられるのではないか?との想いからこの企画はスタートしました。
監督:ヤスミン・アフマド
2007年/マレーシア/87分/カラー/35mm
http://cineville.jp/iff/archives/product/32
『法の書』
40歳の独身男性ラフマンは、出張先のベイルートで通訳のフランス人女性ジュリエットに出逢います。2人は恋に落ちて結婚。ジュリエットは改宗し、テヘランにあるラフマンの母と姉妹が暮らしている彼の家に引っ越しますが……。宗教の違いからくる家庭内文化摩擦をユーモア満載に描いた国際結婚コメディです。とはいえ、妻と夫の家族がうまくいかないのはどこの国も同じでしょうか? 検閲によって一部をカットされましたが、イランでも無事に公開されヒットしました。日本ではなかなか観ることができないイラン製コメディをぜひこの機会に。
監督:マズィヤール・ミーリー
2009年/イラン/94分/カラー/35mm
http://cineville.jp/iff/archives/product/33
『二つのロザリオ』
モスクで礼拝の時刻を告げる仕事に就いた素朴な青年ムサは、アパートの隣に住むカトリックの女性クララに恋をしますが、なかなか告白することができません。そんなある日、ムサはイスタンブールに長く暮らしているという古書収集家の老人と出逢います……。イスタンブールのガラタ地区を舞台にした、滑稽でもどかしくも切ない恋物語が、宗教の壁とさりげなく重ねられ、胸をしめつけます。ムサの誦するアザーン(礼拝への呼びかけ)が見事で、アジアとヨーロッパを結ぶイスタンブールのたたずまいも息をのむ美しさです。
監督:マフムト・ファズル・ジョシュクン
2009年/トルコ/90分/カラー/35mm
http://cineville.jp/iff/archives/product/43
『ガザを飛ぶブタ』
不漁つづきで奥さんにも頭が上がらないパレスチナ人漁師ジャファールは、ある日なんと、豚を引き揚げてしまいます。当局に知られる前にこの不浄な動物を処分しなければと焦りますが、金に困っていた彼は、知人の入れ知恵でユダヤ人女性エレーナに商売を持ちかけ……。イスラームとユダヤの双方にとって禁忌とされる豚をめぐる騒動を通じ、いまだ和平への道のりが遠いパレスチナを風刺した痛快コメディです。『迷子の警察音楽隊』で知られるイスラエルの名優サッソン・ガーベイがジャファールを、そしてアラブ系のチュニジア人女優がエレーナを演じているところにも、中東和平への祈りが込められています。
監督:シルヴァン・エスティバル
2010年/フランス=ベルギー/99分/カラー/DCP
http://cineville.jp/iff/archives/product/41
[文:藤本高之、笠原貞徳(イスラーム映画祭実行委員会)]
『イスラーム映画祭2015』
12月12日(土)~18日(金)
会場:渋谷ユーロスペース
主催:イスラーム映画祭実行委員会
特別協力:TRANSIT編集部
運営:シネヴィル(シーハウス)
公式サイト:http://cineville.jp/iff/
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