映画『恋人たち』より アツシ役の篠原篤(左)とリリー・フランキー(右) ©松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ
『恋人たち』は、俳優のワークショップを行い、そこから3人を選び、脚本を当て書きして物語を作っていったという。既に一般公開されており、その圧倒的なリアリズムの演出による本作は、観た人から絶賛の評価を得ている。
映画を観るとはどういうことなのかを考えさせられた。劇映画には"世界”をみたいという思いが強くある。しかも頭の中だけで考えたような単純なものでなく、複雑な現実を映し取った"世界"をみたい。その演出を褒めるという映画監督の力や俳優の演技力を褒める見方がある一方で、映画の中に入り込み登場人物と同化して共感する見方がある。『恋人たち』は最初監督の力に魅入り、時間が経つと作品の中に入っている自分に気づかされる作品だ。そして観客である自分がどこにいるのかを自問する。3人それぞれの苦悩、孤独を同じ目線で観るのか、上から目線で観るのか、スクリーンの中のドラマとして観るのか。
橋口亮輔監督は、この7年の間に自分自身もあまりにも理不尽で辛い経験をしたので、妻を通り魔に殺されたアツシに自分の経験を投影させたという。そこが頭の中だけで作られた物語だけではない作品の強度と複雑さの秘密なのだろうか。
(文:浅井隆)
■TBSラジオ「Session袋とじ」2015年11月16日(月)放送
ゲスト:橋口亮輔監督 ポッドキャスティング
webDICEでは、今作が7年ぶりの長編となる橋口監督のインタビューを掲載する。なお、公開中のテアトル新宿ではトークイベントが実施される。11月23日(月・祝日)は主演の篠原篤、成嶋瞳子、池田良の登壇が決定しており、11月28日(土)には橋口監督とクリープハイプの尾崎世界観がトークを行う。