骰子の眼

cinema

東京都 新宿区

2015-11-18 19:15


原発事故後の日本で南アからの難民とアンドロイドが一軒家に暮らすSF『さようなら』

『ほとりの朔子』深田晃司監督が平田オリザの戯曲を原発・難民問題を加え映画化した理由
原発事故後の日本で南アからの難民とアンドロイドが一軒家に暮らすSF『さようなら』
映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会

『ほとりの朔子』の深田晃司監督が、人間とアンドロイドの共演で話題を呼んだ平田オリザの舞台劇を映画化した『さようなら』が11月21日(土)より公開される。放射能に侵された近未来の日本を舞台に、国外への避難がままならない南アフリカからの難民の女性ターニャと、彼女の世話をするアンドロイド・レオナとの関係を描いている。webDICEでは深田監督が映画ならではの表現について語ったインタビューを掲載する。

主役を務めるのは、演劇版でも同じ役を演じた、青年団のブライアリー・ロングと女性型アンドロイドのジェミノイドF。そのほか基本的なストーリーと設定は原作を踏まえているものの、深田監督はそこに原発や難民問題を加えの独自の物語を構築している。在日韓国人である恋人の敏志や、離れて暮らす息子との関係に悩む友人の佐野以外は人が訪れない一軒家で、刻々と変化していく周囲に戸惑いながらも生活を続けていく女性ターニャ。彼女と、危機的な状況においても冷静に彼女に付きそうアンドロイドのレオナが過ごす静謐な時間が映像化されている。

なお、今作と竹馬靖具監督の新作『蜃気楼の舟』の2016年1月公開にあたり、11月23日(月・祝)渋谷アップリンク・ファクトリーにて深田晃司監督と竹馬監督による上映+トークイベントが実施される。当日は、今回のインタビューにも話題に上っている深田監督の『ざくろ屋敷』、そして竹馬監督のデビュー作『今、僕は』という、両監督が新しい作品を作るなかで原点となった2作の上映とともに、新作について、そして資金調達や助成金・寄付など映画製作にあたっての問題点と展望が語られる。

死の匂いが充満していた舞台版

──青年団による『さようなら』のオリジナルのストーリーよりも、物語が大きく膨らんだ理由は?

現在、青年団が公演している『さようなら』は二部構成となっていて、30分ほどの尺があるのですが、僕が見た段階ではまだ第一部のみ、15分程度の物語でした。そのため、映画化を希望したときから、長編として膨らませることを前提に考えていました。僕が戯曲の『さようなら』に引き付けられたのは、そこに死の匂いが充満していたからです。もともと僕は “メメント・モリ(死を想え)”(ラテン語の宗教用語の思想)に強い共感を持っていて、“メメント・モリ”をモチーフにした芸術作品に10代の頃から引き付けられてきました。青年団の『さようなら』を見たとき、この表現の分野の最先端にあると感じました。

映画『さようなら』 深田晃司監督
映画『さようなら』の 深田晃司監督

──オリジナルは病で死にゆく少女とそれを見守るアンドロイドの小さな関係を描いた物語でしたが、そこに原子力発電の問題を入れ込んだ理由は?

死の匂いを映像化したいと考えたとき、ヒロインとアンドロイドを取り巻く世界そのものが死に向かっているという設定を導入したいと考えました。世界そのものが死や破滅に向かっている、それはどういうシチュエーションだろうかと考えたときに、原子力発電所がテロか何か爆発でもしたんだろうと辿り着きました。この映画は特に反原発の内容ではありませんが、原発への反対、賛成関係なく、今の社会においてもっとも身近で現実的な破滅を描こうとすると自然と原子力発電所の存在に行き着いてしまう、そのこと自体が重要な社会批評になりうると思っています。

映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会
映画『さようなら』より、ターニャ役のブライアリー・ロング(右)、アンドロイド・レオナを演じるジェミノイドF(左) © 2015 「さようなら」製作委員会

──そのアイディアを提案されたとき、平田オリザさんはの反応は?

オリザさんは「まあ、いいんじゃない」の一言でした(笑)。ただ、その2週間後、突然、『さようなら』の第2部の台本がメールで送られてきて、それが放射能を絡めた物語だったので、不思議なシンクロニシティだと思いました。少女もいなくなったその家に壊れたアンドロイドだけ取り残されていて、何年後か、何十年後か、業者が回収をしに来るという話でした。アンドロイドは福島の放射能地帯で死んでしまった人たちを追悼する詩を読むために現地に送られるという物語で、結局映画の原作としてはこの続編は使うことはありませんでしたが、美しい戯曲だと感じました。

映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会
映画『さようなら』より、ターニャ役のブライアリー・ロング(左)、ターニャの恋人敏志役の新井浩文(右) © 2015 「さようなら」製作委員会

ワンカットの中で時間の流れを描く

──ブライアリー・ロングさんが演じるターニャが難民という設定ですが、これはどういう発想からきたのでしょうか?

青年団の戯曲では、外国で所在なく暮らす人が多く出てきますが、今回の映画に関しては、原作の戯曲では特にターニャの設定は決まっていないので、直接的な引用ではありません。ターニャを難民の設定にしたのは、まずは戯曲の初演から演じ続けているブライアリー・ロングさんの個性を生かすことを考えたためですが、なによりも3月11日の地震と津波と、それに連なる福島原発の放射能事故のあと日本がどうなったか、その記憶がまだ僕の中には濃厚に残っていたからです。

映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会
映画『さようなら』より、ターニャが出会う青年・山下を演じた村上虹郎 © 2015 「さようなら」製作委員会

あのとき、マスコミが喧伝した日本中の結束を強いる“絆”という言葉や思想に僕は強い違和感を感じました。東北で津波の被害を受けた人や、福島で放射能の被害を受けた人たちは日本人だけじゃない。多くの海外から来た人がいて、国籍など無関係にすべての人間が被害を受けたのに、「頑張ろう日本」の一言にまとめてしまう感覚への反発が「難民」という設定に込められたとも言えます。実際には日本は難民の受け入れの少ない排他的な国のひとつなので、南アフリカからの白人の難民であるターニャが日本にいるという設定の方が、原発の爆発よりもよっぽどSF的であるとも言えるかも知れません。

映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会
映画『さようなら』より、村上虹郎演じる山下の結婚相手・木田役の木引優子(右)、ターニャの友人・佐野役の村田牧子(左) © 2015 「さようなら」製作委員会
 

──印象的な映像美や“時間の流れ”を表現するにあたり気を付けた点は?

映画的に時間の流れを表現するにはざっくりと言ってふたつの方法があって、ひとつは脚本での構成の工夫、もうひとつは光の変化です。撮影監督の芦澤さんと事前に相談したのは、日本の陰影の少ない全体照明の光ではなく、陰影のはっきりした光、それも動きのある光にしたいということでした。率直に絵画的な映像にしたいともお伝えし、参考に私の以前の作品である『ざくろ屋敷』も見てもらいました。冒頭、ターニャが窓際のソファで寝ているところでは、光が少しづつ移ろう感じになっているのですが、そこは照明の永田さんが非常に繊細な計算で光を作ってくれました。ワンカットの中で、日が差したり、陰ったり、雲に入ったりと、光の微妙な移ろいが表現されていて、これは今回の映画で絶対やりたいことのひとつでした。ターニャも、日本も、確実に死に向かって進んでいる、その進行をワンカットの中で光が動くことで表現する。スタッフの尽力で素晴らしい結果になったと思います。

映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会
映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会

アンドロイドのリアリティ

──この映画に出てくるアンドロイドについて、監督はどうお考えですか?

もともと自分自身は、死と孤独という題材に引かれての映画化だったので、人間とアンドロイドの共演という点についはそこまで強く意識していませんでした。映画史においては、1927年の段階ですでに、フリッツ・ラングの『メトロポリス』で人間とロボットの関係が描かれている。『ジョーズ』では機械仕掛けのサメが出てきますが、あれも人間とロボットの共演と言えます。映画はいかにうまく嘘をつくかの芸術なので、正直当初はアンドロイドが本物か偽物かはさして重要ではないと思っていましたが、実際に撮影してみると、アンドロイドの予想以上の存在感に驚きました。現実の科学の英知と限界を共存させたアンドロイドが実際に人間と話をしていると、不思議なリアリティが広がっていく。個人的には、アンドロイドという存在は、今後どんどん普及していって、今回の映画のような使われ方をしていくんだろうなと思います。それは、子供がどんどん減っていって、高齢化社会になっていって、ターニャでなくても難民じゃなくても、当たり前のように孤独死がありふれていく日本において年老いた人々の孤独を癒す存在としてのアンドロイド。

ターニャにとって、佐野さんも、恋人の聡史も、アンドロイドも人間関係の一コマでは変わらない。そして、たまたま最後まで彼女の傍に居続けてくれたのはアンドロイドだったということなのです

(オフィシャル・インタビューより)



深田晃司 プロフィール

1980年生まれ、東京都出身。映画美学校監督コース修了後、2005年、平田オリザ主宰の劇団青年団に演出部として入団。2006年発表の中編『ざくろ屋敷』にてパリ第3回KINOTYO映画祭ソレイユドール新人賞を受賞。2008年『東京人間喜劇』がローマ国際映画祭、パリシネマ国際映画祭選出。大阪シネドライブ大賞受賞。2010年『歓待』にて東京国際映画祭日本映画「ある視点」部門作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞(NETPAC賞)を受賞。2013年には『ほとりの朔子』がナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。タリンブラックナイト国際映画祭監督賞受賞。2012年よりNPO法人独立映画鍋に参加。

【寄稿】
多様な映画のために。映画行政に関するいくつかの問い掛け(独立映画鍋)
http://eiganabe.net/diversity




映画『さようなら』
11月21日(土)新宿武蔵野館他、全国ロードショー

映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会
映画『さようなら』より © 2015 「さようなら」製作委員会

放射能に侵された近未来の日本。各国と提携して敷かれた計画的避難体制のもと国民は、国外へと次々と避難していく。その光景をよそに、避難優先順位下位の為に取り残された外国人の難民、ターニャ。そして幼いころから病弱な彼女をサポートするアンドロイドのレオナ。やがて、ほとんどの人々が消えていく中、遂にターニャはレオナに見守られながら最期の時を迎えることになる……。

監督/脚本/プロデューサー:深田晃司
キャスト:ブライアリー・ロング、新井浩文、ジェミノイド F、村田牧子、村上虹郎、木引優子、ジェローム・キルシャー、イレーヌ・ジャコブ
原作:平田オリザ
アンドロイドアドバイザー:石黒 浩
プロデューサー:小西啓介
プロデューサー/録音/音楽:小野川浩幸
撮影:芦澤明子
配給・宣伝:ファントム・フィルム

公式サイト:http://sayonara-movie.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/sayonara.movie
公式Twitter:https://twitter.com/sayonara_movie


竹馬靖具『蜃気楼の舟』× 深田晃司『さようなら』
公開記念上映&トークショー

上映作品:
『ざくろ屋敷』(深田晃司監督)
『今、僕は』(深田晃司)

日時:2015年11月23日(月)18:15開場/18:30上映開始
『ざくろ屋敷』18:30~19:18/『今、僕は』19:25~20:57/トーク~22:00
会場:渋谷アップリンク・ファクトリー(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階)
料金:1,500円/『蜃気楼の舟』クラウドファンディング参加者は1,000円
ご予約は下記より
http://www.uplink.co.jp/event/2015/41343

【関連記事】
田中泯出演、映画『蜃気楼の舟』リターン総数1,000以上の〈体験型〉クラウドファンド
(2015-09-07)
http://www.webdice.jp/dice/detail/4844/





▼映画『さようなら』予告編

レビュー(0)


コメント(0)