本とカレーの街、神保町の映画館、『光のノスタルジア』『真珠のボタン』が公開中の岩波ホールに行って見た!
1968年に「映画講座」「音楽サークル」「古典芸能シリーズ」「学術講座」の四つを柱とした催しからはじまった岩波ホールは、1974年よりエキプ・ド・シネマ(フランス語で映画の仲間の意)をスタートさせ映画の上映を中心に行うようになる。今回は、支配人の岩波律子さん、スタッフの原田健秀さんにもお話を伺った。
はじめての映画がインド映画、はじめての日本映画が女性監督だったことは岩波ホールを特色づけている
支配人の岩波律子さん
──岩波ホールのはじまりを教えてください。
私の祖父・岩波茂雄(岩波書店の創業者)が女優の山本安英さん、歌舞伎役者の初代・中村吉右衛門さんと仲が良く、劇場を造る約束をしていたそうです。緞帳のデザインまでできていたのですが、戦争でその話がなくなってしまい、戦後、父・雄二郎が岩波神保町ビルを建てる際に、その意思を引き継いで10Fに多目的ホールをつくりました。当時は、各週で講師付きの「映画講座」「音楽サークル」「古典芸能シリーズ」「学術講座」などを行っていました。
──その後、映画の上映を主に行われるようになる経緯は?
創立にかかわった総支配人の髙野悦子は、映画監督を目指してフランスで勉強していた映画人でした。1974年にインドのサタジット・レイ監督『大地のうた』3部作の第3部にあたる『大樹のうた』の上映を、川喜多かしこさんに依頼されたのをきっかけに、日本でなかなか上映されない国の映画、日本の自主独立映画を紹介するエキプ・ド・シネマ(フランス語で映画の仲間の意)を川喜多さんと共にはじめました。はじめての映画がインド映画だった、はじめての日本映画が女性監督だったというのは岩波ホールを特色づけていると思います。
──髙野悦子さんは「東京国際女性映画祭」のジェネラルプロデューサーを務められていましたね(1985年から2012年まで)。
当時、女性の支配人は珍しかったのですが、「東京国際映画祭」からの依頼で協賛企画「東京国際女性映画祭」をはじめるに至りました。「女性」とあえて言うことで否定的な意見もあるかと思いましたが、女性監督たちの大半には非常に感謝されました。
──岩波ホールのお客様は女性が多い印象があります。
女性は、いくつになっても新しいものが好きなので、新作映画を積極的に観に来ていただいているんだと思います。髙野は、第二次世界大戦中、海軍に入りたがるような軍国少女だったんですが、女は海軍に入れないと知り怒っていたそうで、そのころから古い女性像に対して違和感があったんですね。映画が単なる娯楽だった時代に、映画は文化であるということを意識して仕事をはじめたところが彼女のすごいところだと思います。
岩波書店の本は買取で書店に並べてもらっています。それと同じで、自分たちがお預かりした映画については期間を決め、動員によって打ち切りや延長を行わず、責任をもって上映しています。
「人間性の豊かさ」を映画を通して示したい
スタッフの原田健秀さん
──岩波ホールとの出会いを教えてください。
70年安保、ヒッピー・ムーブメントの時代に、十代の私は自分の道を探して、転々としてました。JAZZ喫茶なんかにも入り浸ってたんですけど、そこには私のようなアウトサイダーがたくさんいて、その中で絵を描いたり、本を読んだりしていました。
長野県の諏訪でコンセプチュアル・アーティストの松澤宥さんに師事したり、広河隆一さんのところにも居候していました。縁あって信州の山奥で養蚕をやって働いてた時に、インドの映画を岩波ホールでやると聞いて、山から下りてきたんです。地下足袋をはいて腰から鉈を下げて、牛乳パックと山崎のドーナツを1ダースもってやってきたら、40年前の岩波ホールだから物凄く綺麗で自分には似合わない場所だなと思いました。その時の作品がエキプ・ド・シネマの1作目サタジット・レイの監督『大樹のうた』です。
その後、知人からの紹介で事務所の仕事を手伝うようになり、正式に岩波ホールに入社することになったのですが、いきなり映写をやることになって。この前まで山の中に居たのに機械を扱うようになって、最初は嫌でしょうがなかったですけど気が付いたら40年たちました。やはり、いい映画に出会ってしまうと辞められなくなります。それに、神保町という街が好きなんです。神保町でなかったら続いていなかったかもしれない。(※岩波ホールのスタッフがおススメする神保町のお店はページ下)
──どのように上映作品を選ばれていますか?
ミニシアターの仕事は上映する映画と出会った時からはじまる、映画製作に続く第二の創造だと思っています。この仕事をして40年たちますが、映画を成功させるためのノウハウは未だに分からないし、作品と出会い仕事をはじめるごとに全く真っ白になるべきだと思っています。
上映作のセレクトについては、女性、老い、人権など大まかなトピックはあったとしても、やはり、人間に対する愛情や信頼、そのうえで「人間性の豊かさ」を映画を通して示したいと思っています。それを損なうような作品はやりたくないです。
半蔵門線、三田線、新宿線が乗り入れる神保町駅から徒歩0分の岩波神保町ビル
1Fカウンターにてチケットを購入しエレベーターで10Fへ
エレベーターを降りるとすぐエントランス
ロビーには過去の上映作品フライヤーが年代別に掲示
現在は『光のノスタルジア』『真珠のボタン』が上映中
上映作品にあわせた物販も充実
劇場への入場は整理券順
客席数は220席(うち2席は可動式、車椅子対応)
新作の公開初日には支配人の岩波律子さんによる挨拶が行われる
上映がはじまるとカーテンは閉められる
映写室には35mmの映写機とDCPサーバー
映写室からみたスクリーン
別室のサロンでは不定期で講座などが行われることも
岩波ホールのスタッフがおすすめする神保町のお店
●とんかついもや 二丁目店(とんかつ)
東京都千代田区神田神保町2−48
とにかくヴォリューム満点。メニューは「とんかつ定食」と「ひれかつ定食」の2種類のみ。注文後その場で揚げてくれる。豚肉の脂の溶け具合が絶妙。
●げんぱち(洋食)
東京都千代田区神田神保町2丁目21−6
神保町の老舗洋食屋さん。中でもオススメは「サーモンコロッケ定食」や「ハンバーグ定食」、そして名物「のり弁」。のり弁は2段式で洋食メニューのフライなどのおかずとも相性抜群。ご褒美ランチとしてもオススメ。
●おたま家(和食)
東京都千代田区神田神保町1-19 T&AビルB1
https://www.facebook.com/jinbocho.otamaya/
ランチにだけ「ダシ巻き玉子」のサービスあり。この「ダシ巻き玉子」が、ふわふわでとにかくおいしい。それだけでも行く価値あり。ごはんもつやつやなのがまたいいんです。
●近江や(焼き魚定食)
東京都千代田区神田神保町2-24 木下ビル 1F
釜で炊いたたきたてのご飯と、焼き立ての焼き魚が食べられるお店。お値段も良心的。時間が合えば、炊き立てのご飯が食べられることも。
●満留賀 静邨(蕎麦)
東京都千代田区神田神保町1-27
何を食べてもはずれなし。スタッフのほとんどが食べたことのある冷たいお蕎麦「あげ茄子の清香蕎麦」は特にオススメ。温かいお蕎麦なら「とろろ蕎麦」もオススメ。おつゆもあまくておいしいんです。
●咸亨酒店(中華)
東京都千代田区 神田神保町2丁目2
http://sinsekai.com/kankyo/
ランチメニューでは単品メニューの中から自由に組み合わせる「ハーフ&ハーフ」ができるので、行く度にいろんな組み合わせのランチが楽しめるのがうれしい。夜は紹興酒もオススメ。
●共栄堂(カレー)
東京都千代田区神田神保町1-6サンビルB1
http://www.kyoueidoo.com/
独特の真っ黒いルーは他の店では味わえない。具によってルーが違うのでリピート必至。なかでもオススメは「チキンカレー」。
岩波ホール
東京都千代田区神田神保町2-1 岩波神保町ビル10F
http://www.iwanami-hall.com/
上映中の作品
映画『光のノスタルジア』『真珠のボタン』
10月10日(土)~11月20日(金)
http://www.uplink.co.jp/nostalgiabutton/
次回上映の作品
映画『放浪の画家ピロスマニ』
11月21日(土)~12月18日(金)
映画『ヴィオレット──ある作家の肖像』
12月19日(土)~2016年2月上旬
http://www.moviola.jp/violette/