骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2015-10-29 15:00


ファッション以外の自己表現を―アニエスベーが語る、監督作『わたしの名前は...』

ジョナス・メカス、ソニック・ユース、アントニオ・ネグリなどが参加
ファッション以外の自己表現を―アニエスベーが語る、監督作『わたしの名前は...』
映画『わたしの名前は...』を監督したアニエス・トゥルブレ(アニエスベー)©kazou ohichi

ファッション・デザイナーのアニエスベーがアニエス・トゥルブレの本名でてがけた長編初監督作品『わたしの名前は...』が10月31日(土)より渋谷アップリンク、角川シネマ有楽町、横浜ジャック&ベティ、名古屋センチュリーシネマほかで全国公開される。webDICEではアニエスのインタビューを掲載する。

本作は、父親から虐待を受けている思春期の少女が家出し、言葉の通じぬスコットランド人のトラック運転手と旅をするロードムービー。インタビューのなかでアニエスは、このストーリーが「私個人の物語ではない」としたうえで、映画を通じて普遍的な友情と冒険を描こうと決めるまでの経緯や、登場人物のキャラクターとキャスティング、撮影における色彩設計、そして彼女がこよなく愛する音楽についてまで語っている。

この映画を撮った理由

私がこの映画を撮ったのは、ただ撮りたかったからだけではなく、洋服以外の方法で自己表現をする必要性を感じて、それが頭から離れなかったからです。それに、私は何年もの間、ビデオ日記のようなものをつけていました。
2000年代の初め頃から、2~3分のとても短い映画を撮っていました。自分が作った洋服を用いてちょっとしたフィクションの設定で撮ったもので、例えば『いつも同じではない』といったようなタイトルのものです。いつも急いで日中に撮影して、夜に編集するといった感じで、コレクションのショーの直前に4~5日間で完成させていました。
『わたしの名前は...』の脚本の大筋は、2日間で一気に書き上げました。その10年以上前に、検察官のオフィスで、ペーパーナイフで自殺した男についてのル・モンド紙の記事を読み思いました。自殺に至るまで、彼に何があったのかしら? これが最初のきっかけでした。それで、自分が思春期前に受けた苦しみについて考え直してみました。ところが、突然、直視できなくなってしまい、自分で架空のお話を作って付け加えたところ、別のお話が出来上がりました。

映画『わたしの名前は...』より、セリーヌ役のルー=レリア・デュメールリアック ©Love streams agnès b. Productions
映画『わたしの名前は...』より、主人公の少女セリーヌ役のルー=レリア・デュメールリアック(右) ©Love streams agnès b. Productions

私は、先入観に反対する映画を撮りたかったのです。人は誤って、罪を犯すことがあると言いたかったのです。人は何が起こったかを知らないのに、適当に、自分自身でお話を作り出してしまうことがあります。それが時に深刻な結果を引き起こすことを想像もしないで。このようなことに直面した周囲の人々や家族が、他者をどのように感じているかを描きたかったのです。幼い少女に向けられた暴力に端を発した衝撃が、波紋のように周囲に広がっていきます。そして、各々が自分にできるやり方で関わっていきます。私はそのことを描きたかったのです。

これは私個人の物語ではありません。でも、自分が何について語っているのかは分かっています。トラック運転手との出会いに充分な意味を持たせるために、冒頭の部分の状況を設定するのは重要なことでした。それからロードムービーになり、世界を発見する旅になっていきます。そして、少女とドライバーの間にはある種の愛情が生まれていく、たとえ、少女のドライバーに対する愛情と、彼の少女への愛情が違う種類のものであってもです。私が描いたのはそういうことです。

映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions
映画『わたしの名前は...』より、トランク運転手役のダグラス・ゴードン(左)、セリーヌ役のルー=レリア・デュメールリアック(右) ©Love streams agnès b. Productions

シンプルであることを心がけて、基本色として赤と青のみを使用しています。映画の冒頭の一家が住む家の場面でもわずかに見ることが出来ますが、セリーヌという登場人物が長距離トラック運転手のピーターに出会って、旅を続けていくにつれて、2つの色は際立ち、かつ鮮明になっていきます。そして、黄色、白、炎という色がこの作品に溢れてくる。それにつれて、ヒロインは徐々に物事の美しさ、友情、冒険を見出していくのです。
私は、普遍的な物語にしたかったのです。ですから、衣装やセット、人物設定や状況も、ある特定の場所や時代を思わせないよう気を配りました。細かいディテールが私には大事でした。手先、足先、影、素材といったすべてに気を配りました。布きれ一枚にしても、偶然にそこにあったわけではありません。

映画『わたしの名前は...』より
映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions

登場人物について

私が描きたかったのは、どこの国でも同じような平凡な日常、中流階級の家族の日常なのです。ですから、「シンプル」な容姿の俳優たちを選びました。シルヴィー・テステューとジャック・ボナフェは、最初から両親役にと考えていました。2人とも素晴らしい俳優です。彼らは共演したことがなかったのですが、私にとっては二人が共演することは当然のことでした。同様に、家の中は心地よく、でも、とてもシンプルにしました。私自身がこのセットをデザインして、ジョワンヴィルの撮影スタジオの中に家ごと建てたのです。

映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions
映画『わたしの名前は...』より、セリーヌの母親役シルヴィー・テステュー ©Love streams agnès b. Productions

音楽について

言うまでもなく、音楽はとても重要な役割を果たしています。私にとって音楽は、その場面や場面の気分から生まれてきます。トラックの中でかかっているロックは、ユーグ・レップが手伝ってくれました。80年代初めのブリティッシュ・ロックです。これはピーターの遠い日の思い出、言わば原点とも言うべき時の曲です。海岸の場面のソニック・ユースの曲は、7~8年前に聴いた時、「この曲は海辺のシーンにぴったりだわ。絶対そうよ」と心の中で言っていたのを覚えています。

映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions
映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions

この作品の中には、ほかとは違った2か所のシークエンスがありますが、それは私にとっては欠くことが出来ないシーンです。ひとつ目は、2人の日本人ダンサーが舞踏を踊っているシーンです。
このダンスは、日本で生まれたものです。映画の中では、破滅の後の苦しみと生きる力を非常に個人的な形で表現しています。このダンスを初めてみたのは、ほんの数年前ですが、本当にびっくりしました。それにこのシーンは、私には幼いころヴェルサイユ公園で見た白い彫像とも関連があるのです。それは緑の自然の中にありました。ですから、舞踏を、自然の中で彫像が動いているイメージで撮ったのです。
それに続く火にまつわるシーンがあります。ピーターとセリーヌがアントニオ・ネグリが演じる放浪の哲学者に出会うところです。そのシーンの歌は即興です。このシークエンスの一部は、私の友人の映画監督ジョナス・メカスと撮影しました。彼は本当に良い友達で、望んで撮影に来てくれ、いくつかのイメージを私に与えてくれました。
本当の旅というのはこういうものだと思うのです。思いがけないことが不意に現れる。物の見方をずらしてみる。私は、旅で経験する出会いや日常から切り離された純粋な自由を描きたかったのです。そして、私のヒーローとも言うべき二人がその瞬間をどんな風に共にしてくれたのか、言葉にならない、喜びに満ちた愛をどんな風に慈しんだのかを伝えたかったのです。

映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions
映画『わたしの名前は...』より、アントニオ・ネグリ ©Love streams agnès b. Productions

私のパスポートの、職業の欄にはスタイリストと記載されています。私に合っていますね。人はいろいろなものをデザイン出来るし、私は特別な感覚を呼び起こすような組み合わせが好きなのです。

(劇場版パンフレットより)



アニエス・トゥルブレ(Agnès Troublé) プロフィール

1950年代にヴェルサイユで伝統的な教育を受けて育ち、10代のころから情熱を傾けていたアートに関わっていくために、キュレーターになることを夢見る。その後ELLEのエディター、そしてフリーのデザイナーを経て自身のブランドagnes b.を立ち上げ、パリのジュール通りに最初のブティックをオープンした。流行にとらわれることなく、着心地の良さやカッティングにこだわったエスプリ溢れる洋服は、世界中の人に長く愛されている。1984年に、ギャラリー デュ ジュールを併設。次第にアートやアーティストに関わるようになり、自分自身の製作会社ラブ・ストリームス・アニエスベー・プロダクションズを設立し、自身がずっとファンであった映画にも関わるようになる。
また、各号ごと、ひとりのアーティストを取り上げる無料のアート機関誌「ポワンディロニー」を出版している。常にファッション以外での芸術的な表現の手段を探し求め、数日で書き上げた脚本、『わたしの名前は...』をついに2012~2013年に撮影。この作品は、第70回ヴェネチア国際映画祭のオリゾンティ部門で上映されたほか、ニューヨークやアブダビなどの有名な映画祭で上映された。また、映画祭の設立時からの援助と現地での映画産業の発展への貢献が認められ、「サラエボの心の名誉賞」を授与された。
最近では、映画の支援、振興、保護に対してアンリ・ラングロワ賞が授与された。




映画『わたしの名前は...』
2015年10月31日(土)より、渋谷アップリンク、角川シネマ有楽町ほか全国順次公開

映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions
映画『わたしの名前は...』より ©Love streams agnès b. Productions

主人公の12歳の少女は父親から虐待を受けていた。ある日、学校の遠足で出かけた海辺で偶然停まっていたトラックに乗り込んだ彼女は、スコットランド人のトラック運転手と共に逃避行に出る。フランス語と英語、言葉が通じないふたりは、次第に心を通わせていくが……。

監督・脚本・撮影・美術:アニエス・トゥルブレ(アニエスベー)
ゲストカメラマン:ジョナス・メカス
音楽:デビッド・ダニエル、ソニック・ユース
オリジナル音楽:ジャン=ブノワ・ダンケル(Air)
出演:ルー=レリア・デュメールリアック、シルビー・テステュー、ジャック・ボナフェ、ダグラス・ゴードン、アントニオ・ネグリ
原題:Je m'appelle Hmmm...
提供:アニエスベー
配給・宣伝:アップリンク
2013年/フランス/126分/カラー、一部モノクロ/16:9/DCP

公式サイト:http://uplink.co.jp/mynameis/
公式Twitter:https://twitter.com/mynameis_movie
公式Facebook:http://on.fb.me/1IGrkei

▼映画『わたしの名前は...』予告編

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