骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-10-19 22:23


ハロウィンの渋谷で女性監督だけのホラー映画祭、イチオシ長編手がけるカミングス監督に聞く!

全て日本初上映、怖くてカワイイ「東京スクリーム・クイーン映画祭」渋谷アップリンクにて開催
ハロウィンの渋谷で女性監督だけのホラー映画祭、イチオシ長編手がけるカミングス監督に聞く!
「東京スクリーム・クイーン映画祭2015」上映作『ベビーシッター』のオードリー・カミングス監督

すべて日本初上映となる、女性監督によるホラー&ダーク・ファンタジー短編&長編を集めた「東京スクリーム・クイーン映画祭2015」が10月24日(土)より10月31日(土)まで、渋谷アップリンクにて開催される。

世界中の女性ジャンル映画監督の活躍の場を広げる事を目的として立ち上げられた「東京スクリーム・クイーン映画祭」。2013年のハロウィンに2日間限定のイベントとして渋谷アップリンクで第1回目が開催され、世界12ヵ国から集めた27本の短編作品を上映、国内外からも女性監督がゲストとして登壇した。翌年の2014年には開催期間を1週間に拡大し、海外からのゲストを始め、第一線で活躍する安里麻里監督を迎えたトークイベントなどを開催し、大盛況のうちに幕を閉じた。その後、名古屋・長野・大阪を中心としたツアーイベントを実施し、アジアの短編作品に特化した動画サイトと提携するなど徐々に広がりを見せている。

今年、3年目を迎える同映画祭のオープニング作品に選ばれたのは、カナダ・ケベック州出身の新鋭女性監督、オードリー・カミングスの長編デビュー作品『ベビーシッター』。アジア初上映となる本作品の見所や撮影中に起こったハプニング、そして女性監督がジャンル映画(ホラー作品)を撮る事について話を聞いた。

「自分の実経験も活かした」
『ベビーシッター』オードリー・カミングス監督インタビュー

──『ベビーシッター』はどこからインスピレーションを受けたのですか?そしてなぜホラー映画を撮ろうと思ったのですか?

私は小さな時からホラーとSF映画が大好きでした。過去に9本の短編作品を監督して、今回念願の長編作品としてこの『ベビーシッター』を監督しました。以前からベビーシッターが危険な目に遭遇してしまう様なホラー・サスペンス作品が大好きで、長編を制作する機会があればベビーシッターを主人公にした作品を撮りたいと考えていたんです。また、リアリティのある作品に仕上げたいと思い、主人公と同世代の若者が抱える社会的な問題も描く方向で制作を進めました。脚本家のクリス・ギャンブルとアイディアを出し合って、バイラル動画やネットいじめを取り込む事でリアルな恐怖が演出出来たと感じています。また、私自身もベビーシッターの経験があり、とても臆病だった為、小さな物音にもいつも怯えていました。そんな実体験も作品に活かされていると思います。

映画『ベビーシッター』より
映画『ベビーシッター』より

──『ベビーシッター』の原題は『Berkshire County(バークシャー郡)』ですが、なぜこのタ イトルになったのでしょうか?

本編を観ていただくと分かりますが、『赤ずきん』や『3匹の子豚』といった童話に関連するモチーフを作品中に沢山取り入れています。Berkshire Countyという地名はアメリカ・マサチューセッツ州にもありますが、本作はバークシャー種という品種の豚に因んでいます(日本でも有名な黒豚と同種)。高級なお店で提供されているバークシャー豚をタイトルにしたらクールだと考えました(笑)。

また、実際に撮影したのはトロント(カナダ)の郊外ですが、作品ではアメリカのメイン州を舞台に設定しています。なぜメイン州かというと、私やスタッフが大ファンのスティーブン・キングの出身地だからです。

──初の長編作品でしたが、作品を作る上で苦労された事は何ですか?

全てのプロセスにおいて様々な問題があり、苦労とチャレンジの連続でした。脚本制作・撮影は勿論ハードでしたし、ポスト・プロダクションも信じられないような膨大な作業となりました。撮影終了から1年以上掛かって、ようやくロサンゼルスの映画祭で上映されましたが、これも素晴らしいスタッフの協力があって実現出来ました。限られた予算の中、大変な作業の連続でしたが、この作品が世界中の皆様に観て頂けるのですから、とても価値のある事だと感じます。

映画『ベビーシッター』より
映画『ベビーシッター』より

ハプニングの連続だった撮影現場

──撮影中に印象に残った出来事があれば教えて下さい。

舞台の豪邸をロケハンした際、中にある家具類は全て使用出来るとオーナーが仰っていたのですが、撮影初日に行ってみると、冷蔵庫もストーブも電球も何もかもが取り払われていたのです!仕方なく空っぽになった建物に必要最低限の家具等を運び入れ、急遽脚本も書き直して「この家の家族は引っ越す直前」という設定に変えました(笑)。

更に撮影が中盤に差し掛かった頃、保安官が現場にやってきて建物の鍵を取り替えると、私達に立ち退く様指示して来ました。実はこの豪邸が抵当物件として差し押さえにあってしまい、何日か撮影する事は許可されましたが、一から撮影スケジュールを組み直し、予定より早く切り上げる事を余儀なくされました。

撮影中、スタッフの一部はこの広い豪邸で寝泊まりしたのですが、あまりにお湯を溜めるタンクが小さかった為に貴重なお湯を無駄にしない様、シャワーを浴びる順番もきっちりスケジュールを組んで使用していた事や豪邸の外に野良猫が40匹くらい居たので、撮影中頻繁に映り込んでしまい、幾度となく撮影を中断した事も印象深い出来事です。

それから、殺人鬼役の俳優は見た目通りにとても大きく力強い人だったので、よくセットや小道具を壊してしまいました。例えば彼が主人公のカイリーを外から襲うシーンではドアも壊してしまうというとんでもないハプニングが発生し、ここでも撮影は中断となりました。また、小道具の狩猟用ナイフまでも壊してしまい、新しいものが届くまで撮影が中断してしまいました。信じられない話ですが全て実話です(笑)。

映画『ベビーシッター』より
映画『ベビーシッター』より

──ハプニングの連続だったんですね。でも何だか楽しそうです。子役との撮影はどうでしたか?

子役の子供達はプロ意識が高く、いつも準備が整っていた為、スムーズに進行する事が出来ました。ただ、夜の撮影だったのでいつも彼らのベッドタイムを過ぎてしまい、次の日の学校に影響が出てしまうのではないかと心配になりました。その為、出来る限り子供達のシーンは撮影が早く終わる様に調整しました。

──他のキャストについて教えて下さい。主人公のカイリー役を演じたアリサ・キングはどのように選ばれたのでしょうか?

今回キャストには本当に恵まれと感謝しています。カイリー役を決めるのに約200人にオーディションを受けてもらいましたが、役を射止めたアリサ・キングは初めて見たときからとても印象に残っていました。カイリー役にはか弱さを感じさせる演技と同時にそれを捨て去って強くなれる女性を演じる演技力が求められましたが、アリサは的確に役を演じていました。キャスト全員が全力で素晴らしい演技を披露して作品作りに貢献してくれました。

映画『ベビーシッター』より
映画『ベビーシッター』より、アリサ・キング

テーマは「困難に立ち向かう事」

──影響を受けた監督や作品はありますか?

映画制作に興味を持ったきっかけはスティーブン・スピルバーグでした。初めて観た映画が『E.T.』で一瞬にして心を奪われました。スタンリー・キューブリック監督も大好きです。

──ここ数年、女性のジャンル映画監督の活躍が目まぐるしいですが、女性監督がホラーを中心としたジャンル映画を作る事で業界にどんなインパクトを与えると思いますか?

おっしゃる通り、女性監督による素晴らしいジャンル映画が沢山作られるようになってきました。私は監督として、自分の意思を持って闘える女性が主人公の物語を描いて行きたいと思っています。女性監督ならではの視点で、今までのホラー映画で描かれていなかった新しい作品がどんどん誕生するかも知れません。

──女性監督が作るハイブリッドなジャンル映画が今後も沢山誕生するかもしれないですね!考えるだけでエキサイティングです。次の作品の予定はありますか?

『ベビーシッター』の成功でホラー映画のコミュニティから熱烈な歓迎を受けました。ジャンル映画ファンが家族のように温かく応援してくれるので、とても感謝しています。これからもホラーやスリラーを中心に作品を制作したいと思っています。こんなに素晴らしい経験をもたらしてくれたジャンル映画が私は大好きなんです!つい最近、新しく2本の長編映画監督の契約を結びました。そのうちの1本は今年の冬から撮影を開始する予定です。

──それは楽しみです!最後に日本の観客の皆様と女性フィルムメーカーに向けてメッセージをお願いします。

『ベビーシッター』が『東京スクリーム・クイーン映画祭』でアジア初上映され、日本の観客の皆さまに観て頂ける事をとても嬉しく思います!この作品の重要なポイントは「困難に立ち向かう事」です。それは主人公の女性にとってはもちろん、監督としても避けては通れない事で、作品を完成させる為に強い意志を持ち続けなくてはなりませんでした。私からのメッセージは、自分の事、そして自分の作品を信じる事。努力は絶対に報われます。

(インタビュー・文:中西 舞[東京スクリーム・クイーン映画祭])



映画『ベビーシッター』海外版ポスター

映画『ベビーシッター』

ハロウィンの夜、人里離れた郊外の屋敷にベビーシッターとしてやって来た高校生のカイリー。子供を寝かしつけた彼女の元に、突然の訪問者が現れ、 悪夢のような一夜が始まる……。

監督:オードリー・カミングス
原題:Berkshire County
(2014年/カナダ/83分)




オードリー・カミングス(Audrey Cummings) プロフィール

カナダ・ケベック州出身。幼い頃に映画作りに目覚め、初めて撮ったのは人間嫌いの手品師が主人公のSF作品で当時の彼女のベビーシッターと制作した。学生時代から本格的に映画制作に携わり、監督した短編作品『Burgeon and Fade』はCFC World Wide Short Film Festivalにて最優秀新人賞を受賞。その他、短編作品 『A Stolen Moment』と『Battle for Arthur』は海外映画祭での上映の他、カナダ、アメリカ及びスウェーデンのテレビで放送された。『ベビーシッター』は彼女の長編デビュー作品。現在は、二本目の長編SF企画『Dysconnect』を企画開発中。




『東京スクリーム・クイーン映画祭2015』ポスター

『東京スクリーム・クイーン映画祭2015』
2015年10月24日(土)~10月31日(土)
会場:渋谷アップリンク

主催:東京スクリーム・クイーン映画祭実行委員会
料金:一般1,800円/UPLINK会員1,600円/3回券(長編+プログラムA,B)4,000円/クロージング・ナイトのみ2,000円(3回券をお持ちの方は1,800円、その他割引適応外)

●長編プログラム『ベビーシッター』
10月24日(土)18:45開場/19:00上映
ゲスト:黒沢あすか(女優)
10月30日(金)20:30開場/20:40上映

●プログラムA(計6作品/96分)
10月25日(日)15:30開場/15:45上映
10月26日(月)20:30開場/20:40上映
10月28日(水)20:30開場/20:40上映

●プログラムB(計7作品/96分)
10月25日(日)18:00開場/18:15上映
ゲスト:チョーヒー・チャン監督(『トイレノオバケ』)
10月27日(火)20:30開場/20:40上映
10月29日(木)20:30開場/20:40上映

公式サイト:
http://www.screamqueentokyo.jp/
公式Facebook:
https://www.facebook.com/ScreamQueenFilmfestTokyo
公式Twitter:
https://twitter.com/womenmakehorror


渋谷アップリンク・イベントページ:
http://www.uplink.co.jp/movie/2015/39854


▼『東京スクリーム・クイーン映画祭2015』予告編


▼映画『ベビーシッター』予告編

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