骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-10-17 19:00


J.ビノシュとK.スチュワートの競争心をドキュメンタリーのように撮る、『アクトレス』アサイヤス監督語る

かつての自分をスターダムに押し上げた作品のリメイクに出演することになった大女優の葛藤
J.ビノシュとK.スチュワートの競争心をドキュメンタリーのように撮る、『アクトレス』アサイヤス監督語る
映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より、ジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワート © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

オリヴィエ・アサイヤスがジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツを迎え、華やかな芸能界で活躍してきた大女優の孤独と葛藤を描く『アクトレス ~女たちの舞台~』が10月24日(土)より公開。webDICEではアサイヤス監督のインタビューを掲載する。

スイスの避暑地シルス・マリアを訪れたベテラン女優マリアの元に、かつてデビュー当時の自分を発掘してくれた劇作家の死の報と、彼が手がけた出世作となる舞台『マローヤのヘビ』のリメイクへの出演依頼が届く。自分が以前演じた20歳の主人公ではなく、彼女に翻弄され自殺してしまう40歳の社長役へのオファーに対し、マリアは思い悩む。彼女の相手役であるエリスが奔放な言動でマスコミを騒がせるハリウッドの新進女優であるという設定など、アクション大作やスーパーヒーローものが幅を利かせる現在のエンターテインメントの世界への皮肉を盛り込みながら、アサイヤス監督は3人の女優が演じる3人の女性の駆け引きをスリリングに描いている。

ジュリエット・ビノシュからの依頼で実現

──この作品を書いたきっかけについて教えてください。監督とジュリエット・ビノシュとは『夏時間の庭』以来の共同作業となりましたね。

そう、この作品は、ジュリエット・ビノシュからインスピレーションを受けました。『夏時間の庭』は世界的成功を収めましたが、ジュリエットは、あの物語の中では大きなパズルの中の一つのピースに過ぎず、欲求不満があったのではないでしょうか。私たちの長いつき合いをふまえて、『夏時間の庭』での協力関係をさらに突き詰めて、また一緒に仕事をする価値がある事ではないかと考えたのだと思います。彼女の方から私に電話がかかってきたのです。

私たちはアンドレ・テシネ監督の1985年の作品『ランデヴー』で、俳優と共同脚本家として出会いました。そのとき彼女は20歳で同作の主演を演じることになりました。それからとても長い時間が経過したという事に気づき、めまいがするような気がしました。私は、その“時間の経過がもたらすめまい”について映画が作れるのではないかと考えました。

映画『アクトレス ~女たちの舞台~』オリヴィエ・アサイヤス監督
映画『アクトレス ~女たちの舞台~』オリヴィエ・アサイヤス監督

──そのジュリエットが演じる主人公のマリアは、かつてデビュー当時自分をスターダムに押し上げた舞台『マローヤのヘビ』のリメイク出演のオファーを受け思い悩います。このマリアというキャラクターは、どのように形作っていったのでしょうか?

マリアという役は、映画を観る人が「ジュリエット・ビノシュはきっとこういう人だろう」と想像するジュリエットのイメージに似ているのではないでしょうか。マリアとジュリエットを切り離して考えることはできないのですが、マリアはジュリエットを巡るキャラクターとして私が空想して作り上げた人物です。ジュリエット自身は、完全にマリアと同じではなく似ている所もあれば違うところもあるので、そうなったかもしれない人物として楽しく演じ、自分を作品に投影してくれたと思います。

映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より、ジュリエット・ビノシュ © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

クリステン・スチュワートがインプロビゼーションできる作品に

──マリアのマネージャー、ヴァレンティン役のクリステン・スチュワートについてはいかがですか?彼女はこの役でアメリカ人として初のセザール賞助演女優賞を受賞しました。

クリステンは確かに『トワイライト』シリーズの成功によって有名になりましたが、以前からユニークな存在感のある女優だと思っていました。ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』の時から、端役でしたが存在感を示していたのを覚えています。彼女はとてもカメラ映りが良い、アメリカ映画の女優としては稀有な存在です。ハリウッドの大作に出ている彼女にとって、ヨーロッパのインディペンデント映画はリスクかもしれません。その代わり、私は彼女にはこれまでの映画では与えられなかったものを与えてあげられるのではないかと考えたのです。

私は撮影にあたり、人工的に作り出された役柄ではなく、彼女自身のインプロビゼーションができる十分な時間を与えるようにしました。今回の私の演出によって、ヴァレンティンは人工的に作り出されたキャラクターとは違うものとなり、クリステンは自分が想像しているよりももっと長く女優としてのキャリアを伸ばしていけるのではないかと思いました。

映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より、クリステン・スチュワート © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

──クリステンは今作によって演技が高く評価されていますが、リハーサルはどれくらい行ったのでしょうか?

私はもともと全くリハーサルを行いません。セリフを言うときの自発性がリハーサルによって失われることを恐れています。俳優たちが初めてセリフを言う時には、もう現場のカメラは回っています。もちろん女優たちは、それぞれが自分で稽古をしてくるでしょうが、インプロビゼーションを大事にしています。クリステンはセリフ覚えが良く、その日の朝にセリフを覚えてきていました。

──では、マリアと共演することになる、破天荒な生活でマスコミから注目を集める新人女優ジョアン・エリス役にクロエ・グレース・モレッツを起用した理由は?

クロエについては、当初成熟した大人な若い女性を探していたのですが、何よりも彼女には狡猾なジョアン・エリスという役柄と同じ雰囲気を感じました。役より実年齢がかなり若かったのですが、クロエに会って「彼女でいこう」と決めました。結果的には、マリアをとりまく女性たちそれぞれの役で、最初に選択した二人が出演してくれたことで、キャスティングはうまくいきました。

映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より、クロエ・グレース・モレッツ © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

──マリアはマネージャーのヴァレンティンに『マローヤのヘビ』の脚本読みを手伝ってもらうなど、全幅の信頼を寄せています。現場でのジュリエット・ビノシュとクリステン・スチュワートのコミュニケーションはどのような感じでしたか?

ジュリエットとクリステンの関係がうまくいくことがこの作品にとって重要なポイントでしたから、準備の段階では、私は危険を冒しているのではないか?と心配していました。もしも、ジュリエットとクリステンの気が合わずに二人の間に緊張が漂ったら良い映画にはならなくなります。

ジュリエットとクリステンはそれまで全く会ったこともなかったのですが、撮影の初日と2日目で冒頭の列車のシーンを撮りました。撮影を重ねるにつれて、彼女たちの間に徐々に信頼や友情や敬愛の気持ちが芽生えていったのを感じることができました。もともとクリステンはジュリエットの生き方や仕事ぶりを見ていてリスペクトしていたそうです。

結果的に脚本を書いた段階の想像以上の仕上がりになったのは、彼女たち自身の演技とダイナミズムのおかげです。クリステンにとってジュリエットは、自由と精神のバランスを保ち続けてきた女優であり、そのメカニズムとビノシュのキャリアの道程を学びたいと思っていたようです。かたやジュリエットがクリステンの中に見たものは、若いけど映画に対する情熱があることです。お互いに刺激しあい、いい意味での競争心がありました。私はそんな二人を観察し、二人の関係が進展するのをドキュメンタリーのように撮影しただけです。

映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より、クロエ・グレース・モレッツ(右)とジョニー・フリン(左) © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

監督と脚本家は同一のもの

──今作や『夏時間の庭』など、多くの作品で監督と脚本を兼任されていますが、その理由は?

私は監督と脚本家を同一のものだと考えています。自分が書いた脚本で、女優の人間性を探求する事ができますので、彼女たちが私の脚本から何を感じて、どう演じるのだろうかと、とても興味深く見ています。私が心掛けているのは映画は集団芸術であるということです。一方的に指揮するのではなく、共同作業であるので、現場にいる者全員が貢献できるような環境をつくること。俳優がしっかりと呼吸できる現場の環境をつくることも、監督にとって大事なことだと思います。

映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
映画『アクトレス ~女たちの舞台~』より © 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR

──メインとなる3人の女優はいずれもハリウッドで活躍していますが、華やかな芸能界を舞台にした本作のセリフについて、どのような反応を示していましたか?

3人ともこの映画がとてもユーモアのある作品だと理解していました。また、全員ハリウッドでの映画の経験があるので、ハリウッドが昔よりさらに産業的な側面を強めて、拘束も多く、自由にクリエイションする余裕がないことを知っています。皆が苦しんだとまでは言わないまでも、その重圧は感じていると思うので、そういったことに対して皮肉な距離をとっていることを楽しんだのではないでしょうか。なかでもクリステンは様々なゴシップに悩まされている立場でもあるので、映画を巡るメディア産業を斜めに構えて見ているこの物語を楽しんでいたようです。

──それでは、マリアのように年を重ねて孤独を感じる女性に対してはどう思いますか?

人生には様々なチャプターがあって、今作におけるマリアはまさに大きな変貌の時にあります。彼女が直面したように、女優として、自分にはもう演じられない役があるのだということを受け容れることは苦しいことだと思います。女優という仕事は、実生活では感じなくてよい苦しみに直面しなければいけない辛い仕事であると同時に、実生活ではそれを逃れられもするので、マリアにとってはその点が希望にもなるのではないでしょうか。

(オフィシャル・インタビューより)



オリヴィエ・アサイヤス(Olivier Assayas) プロフィール

1955年1月25日、パリ生まれ。1970年代にカイエ・デュ・シネマ誌で映画批評を書き、後に映画作家となる。『ランデヴー』(85)、『夜を殺した女』(86)などのアンドレ・テシネ監督作品で脚本の腕を磨き、『無秩序』(86)で長編デビュー。香港スターだったマギー・チャンの起用で話題を呼んだ『イルマ・ヴェップ』(96)、東京での撮影を敢行した『DEMONLOVER デーモンラヴァー』(02)を経て『クリーン』(04)ではカンヌ映画祭で女優賞を獲得。その後もコンスタントに作品を発表し『夏時間の庭』(08)では、日本でも興行的な大成功を収めている。




映画『アクトレス ~女たちの舞台~』
10月24日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

特急列車の廊下でマネージャーのヴァレンティンが携帯電話で女優、マリア・エンダースのスケジュールを調整している。マリアは今、新人女優だった彼女を発掘してくれた劇作家、ヴィルヘルム・メルヒオールに代わり、彼の功績を称える賞を受け取るためチューリッヒに向かっている途中だ。ここ数年公の場に姿を見せていないメルヒオールは、前もって賞を受け取ることを拒否した上で、マリアに彼女を世に送り出した舞台「マローヤのヘビ」の題名の由来でもある景勝地、シルス・マリアまで来るよう指示してきたのだ。その時、メルヒオールが71歳で亡くなったという衝撃的な知らせが入る。授賞式当夜、マリアが会場入りすると、壇上ではメルヒオール作品の常連俳優だったヘンリク・ヴァルトが故人との思い出を語っている。そして、レセプションでマリアに面会を求めて来た人物がいた。新進演出家のクラウスだ。彼は「マローヤのヘビ」のリメイクにマリアの出演を熱望しているという。しかしマリアに求められた役柄はかつて演じた20歳の主人公、シグリッドではなく、シグリッドに翻弄され、自殺する40歳の会社経営者、ヘレナ役。シグリッド役には、ハリウッド映画で活躍する19歳の女優、ジョアン・エリスが決定していた……。

監督・脚本:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ、 ラース・アイディンガー、ジョニー・フリン
製作:シャルル・ジリベール
撮影:ヨリック・ル・ソー
美術:フランソワ=ルノー・ラバルテ
原題:Sils Maria
配給:トランスフォーマー 2014年/フランス・スイス・ドイツ/124分/PG12

公式サイト:http://www.actress-movie.com/
公式Facebook:https://www.facebook.com/actress.movie
公式Twitter:https://twitter.com/ActressMovieJP


▼映画『アクトレス ~女たちの舞台~』予告編

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