骰子の眼

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東京都 渋谷区

2015-09-18 14:33


『フランシス・ハ』G・ガーウィグ主演、US新世代DIY映画は予算200万『ハンナだけど、生きていく!』

ポスト・デジタル世代のリアリティと「退屈な日常」、監督が語る即興演技の可能性
『フランシス・ハ』G・ガーウィグ主演、US新世代DIY映画は予算200万『ハンナだけど、生きていく!』
映画『ハンナだけど、生きていく!』より

『フランシス・ハ』で一躍日本でも注目を集めた女優グレタ・ガーウィグが主演そして脚本にも関わり、アメリカ映画新世代を代表するジョー・スワンバーグが監督を務めた『ハンナだけど、生きていく!』が9月19日(土)より公開。webDICEではジョー・スワンバーグ監督のインタビューを掲載する。

今作は2007年、グレタ・ガーウィグとジョー・スワンバーグ監督が友人の映画作家たちと小さなアパートの一室で共同生活を続けながら制作。ほとんどを即興演技により、自分探しの旅を続ける女性・ハンナの恋と友情を描いている。

グレタ・ガーウィグによると、今作の制作費は200万円だという。デジタルカメラによるフラットな画や、単に友達同士がダベっているのを映しただけのような延々と続く会話など、DIY感溢れる映像により、デジタル撮影が当たり前になったポスト・デジタル世代のリアリティと「退屈な日常」が切り取られている。

ジョー・スワンバーグ監督をはじめ、『GIRLS/ガールズ』のレナ・ダナムや、今年公開の『ジュラシック・ワールド』の監督に抜擢されたコリン・トレボロウらは「マンブルコア派」と呼ばれる、アメリカ・インディペンデント映画新世代の潮流として期待が寄せられている。低予算と即興演技を特徴とする「マンブルコア派」については、今作の配給を行う活動組織Indie Tokyo公式サイトの山崎まどかさんと樋口泰人さんによる対談記事「『ハンナだけど、生きていく!』とは?“マンブルコア”とは何か?」に詳しく掲載されている。

グレタ・ガーウィグには、映画を支える何かがあると思った

──『ハンナだけど、生きていく!』のアイディアはどのようにして生まれたのでしょうか?

はじめ、学校を出たばかりの女の子が複数の男性との関係を渡り歩く映画のアイディアがあったんだ。それは次第に形を変えたけど、実際に撮影を始めてルーズなアイディアが形式化されたものとなるまでは明確な映画と呼べるものじゃなかった。映画は即興で作られたもので、こうした形式をその出発点に置いた。撮影を進めるうちに、それがどんなものになるかようやく見えてきたんだ。

映画『ハンナだけど、生きていく!』ジョー・スワンバーグ監督
映画『ハンナだけど、生きていく!』ジョー・スワンバーグ監督

──あなたの以前の作品は、複数のキャラクターによるアンサンブルに近かった。一人の主要人物に強く焦点を合わせたのはこれがはじめてのことですね。

それは、主演がグレタ・ガーウィグだったから。こんな風になるとは思ってなかったんだ。撮影を始めて早いうちに気がついたんだけど、彼女には映画を支える何かがあると思った。だから、その流れに任せてみたんだ。これはチャレンジだった。と言うのは、これが彼女のデビュー作だからだ。彼女は演技以上に、脚本家として大いにクレジットに値すると思う。たくさんのアイディアを映画にもたらせてくれたんだ。すごいことだよ。だって、彼女は去年の5月に大学を卒業したばかりで、7月にはシカゴに来てこの映画に出演していたんだから。

映画『ハンナだけど、生きていく!』より
映画『ハンナだけど、生きていく!』より、グレタ・ガーウィグ

──『ハンナ』はあなたにとって自ら出演しない初めての作品です。これが自分の感情の込められた作品だと考えますか?

面白い質問だね。実は僕自身もこの映画を撮影中に同じ疑問を感じていたんだ。これはパーソナルな作品なんだろうか?僕はこの映画を作っているのだろうか?それともその外側にいてみんなを観察しているだけなんだろうか?ってね。

でも、気がついたんだけど、僕自身がハンナで、彼女が抱える癒やされない幻滅や満たされない不満は、僕自身のものでもあるんだ。ただ、それが男の子や人間関係に対するものではなく、自分の映画作りに対して向けられたものなんだけど。今やハッキリ分かるのは、彼女が男の子たちと繰り返してきた関係は、僕が自分の映画と築いてきた関係と全く同じだってこと。映画を作るとき、僕はそれに夢中になって、プロジェクトをスタートさせ、しばらくそれに没頭する。でも、しばらくすると次のプロジェクトへと関心が移動する。その時、何か映画を作った満足感のようなものを探してみるんだけど、結局のところそれは見つからない。

映画『ハンナだけど、生きていく!』より
映画『ハンナだけど、生きていく!』より

僕の演出は上手く行くか行かないかだけで全てを決めてしまう

──ハンナの職場仲間、マットとポールを演じたケント・オズボーンやアンドリュー・バジャルスキーをはじめ、映画に登場する多くの俳優たちが、同時に自ら監督でもあることに怖じ気づくようなことはなかったですか?彼らは口やかましく意見を述べてこなかったですか?

いや、彼らは本当に素晴らしかった。でも、僕が思うに、それは彼らがそうした振る舞いをしないよう細心の注意を払っていたからだと思う。彼らは誰も、うっかり自分が監督になってしまうことを望んでいなかったんだ。もし彼らがアドバイスしたとしても僕には全く問題なかったし、それはむしろ歓迎だった。でも、撮影を進める中で、僕の役割の幾らかを彼らが奪い取って場面の演出をはじめてしまいかねない場面が何度かあったんだけど、その度に彼らは演出家としての本能を自ら諫めていたようだね。

映画『ハンナだけど、生きていく!』より
映画『ハンナだけど、生きていく!』より、ケント・オズボーン(左)とグレタ・ガーウィグ(右)

──この映画を作ったあなたたちが美学的・知的に共有するものはなんですか?そして違っている部分は?

トッド・ロハルは『The Guatemalan Handshake(グアテマラ人の握手)』という映画を監督した。彼のセンスは全然違うよ。最高にいい奴なんだ。面白くて、素晴らしい俳優になれると思ったからこの映画に出てもらった。アンドリュー(・バジャルスキー)とマーク(・デュプラス)に関しては、僕らは多くの物事に似たようなアプローチをしていると思う。僕らはある種のリアリズムか自然主義のようなものを求めていて、その目的のために取る方法は異なるんだけど、でも最終的に望んでいるのは同じだと思う。つまり、会話の形式をつかまえて、人々が互いに反応し合う姿をリアルにとらえようと試みているんだ。事前にどの程度場面を脚本に書くかに関しては全く違ってるよね。たぶん僕は三人の中で一番即興を重視している。そして、アンドリューが一番脚本を書くタイプだと思う。でも、これらは全て同じものを追求する中で生まれてきたものであって、僕らはお互いそのことに気づいているんだ。

映画『ハンナだけど、生きていく!』より
映画『ハンナだけど、生きていく!』より

──あなたの作品では即興性がとても重視されていますが、映画の中で何かを試みて、それが上手く行かずにやめたことはありますか?

僕の演出はすごくヘンなんだ。上手く行くか行かないかだけで全てを決めてしまう。もし上手く行かない場合、それを修正しようとは試みないんだ。ただ違うものをやってみる。僕の映画に出るのは多くの場合俳優じゃないか、あるいははじめて映画に出る人たちだ。僕は彼らの演技を形作ろうとは試みない。彼らから良いパフォーマンスを引き出してやろうなんて思わないんだ。むしろ、彼らを何らかの状況に置いて、それが自然と上手く行くか、あるいは彼らが自分自身でいられることを望んでいる。もし何かが生まれてこないなら、全てガラッと変えてしまうよ。なんとか上手く行くよう修正したりはしない。

映画『ハンナだけど、生きていく!』より
映画『ハンナだけど、生きていく!』より

──観客にあなたの映画を紹介していただけますか?この映画の価値はどこにあるでしょう?

僕はこの映画の全ての役者たちをきわめて誇りに思ってます。物語か演技かで言うならば、僕はこの映画の即興演技が観客にとってとても魅力的なんじゃないかと思う。役者の素晴らしい演技を見たいという人たちには、是非この作品をチェックして欲しい。グレタ・ガーウィグは、ハンナのキャラクターを本当に熱心に掘り下げてくれました。たぶん、それはとってもリアルで興味深い今どきの女の子で、僕たちはこんなキャラクターをまだそんなにスクリーンで見たことがなかったんじゃないかと思うんです。

(2007年3月~8月 質問者:Baltimore Metromix, New York Magazine, Filmmaker Magazine, Rotten Tomatoes ©Visit Films 翻訳:大寺眞輔)
映画『ハンナだけど、生きていく!』より
映画『ハンナだけど、生きていく!』より



ジョー・スワンバーグ(Joe Swanberg) プロフィール

1981年8月31日、ミシガン州デトロイト生まれ。南イリノイ大学で映画を学ぶ。当時革新の最中にあったビデオテクノロジーとインターネットに強い興味を抱いた。2003年に卒業後、シカゴ国際映画祭に務める傍ら、数多くのウェブサイトと数本の短編映画を製作した。2005年に処女長編『Kissing on the Mouth』、さらに翌年には第二作『LOL』を監督した。これらは共にSXSWでプレミア上映され、後者ではグレタ・ガーウィグとはじめて出会うことになった。このコンビは、さらに続く作品『ハンナだけど、生きていく!』と『Nights and Weekends』へと受け継がれていく。前者では、アンドリュー・バジャルスキー、ライ・ルッソ=ヤング、マーク・デュプラスといったマンブルコア派の中心メンバーが顔を揃え、後者ではガーウィグが共同監督としてクレジットされている。5作目『Alexander the Last』ではノア・バームバックがプロデューサーとして参加。2010年には1年間で7本もの長編映画を監督、その多作ぶりが話題となる。2012年に撮った『ドリンキング・バディーズ』は日本でも東京国際映画祭で上映され、さらに2014年にはレナ・ダナムとアナ・ケンドリック主演で『ハッピー・クリスマス』を監督した。これまで全てデジタルで映画作りをしてきたスワンバーグだが、この作品でははじめて16ミリフィルムを使用。スワンバーグは、エレイン・メイ、ポール・マザースキー、ラース・フォン・トリアー、マルコ・フェレーリ、そしてエリック・ロメールからの影響を表明している。監督の他、俳優としても数多くの作品に出演している。




映画『ハンナだけど、生きていく!』
2015年9月19日(土)よりシアター・イメージフォーラム、
秋・京都シネマにて2週間限定ロードショウ

映画『ハンナだけど、生きていく!』チラシ

大学を卒業したばかりの夏、ハンナは幾つかの恋をフラフラと渡り歩く。心の傷と慢性的なフラストレーションを抱えながら、彼女は無職になったボーイフレンドに別れを告げ、二人の職場仲間、マットとポールと恋に落ちる。

監督:ジョー・スワンバーグ
脚本:ジョー・スワンバーグ、グレタ・ガーウィグ、ケント・オズボーン、アンドリュー・バジャルスキー、ライ・ルッソ=ヤング、マーク・デュプラス、トッド・ロハル、ケヴィン・ベーベルスドルフ、ティッパー・ニュートン、クリス・スワンバーグ
製作:アニシュ・サヴィアーニ、ラジェン・サヴィアーニ、ジョー・スワンバーグ
音楽:ケヴィン・ベーベルスドルフ
撮影:ジョー・スワンバーグ
編集:ジョー・スワンバーグ
出演:グレタ・ガーウィグ、ケント・オズボーン、アンドリュー・バジャルスキー、ライ・ルッソ=ヤング、マーク・デュプラス、トッド・ロハル、ティッパー・ニュートン、クリス・スワンバーグ、ケヴィン・ベーベルスドルフ、ネイサン・アドロフ
日本語字幕:大寺眞輔
配給:IndieTokyo
原題:Hannah Takes the Stairs
2007年/アメリカ/83分/HD/カラー

公式サイト:http://indietokyo.com/?page_id=1600


▼映画『ハンナだけど、生きていく!』予告編

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