映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
『グレン・グールドをめぐる32章』(1993年)、『レッド・バイオリン』(1998年)のフランソワ・ジラール監督が、2007年の『シルク』以来、8年ぶりに監督した『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』が9月11日(金)より公開される。
世界中で公演を行う名門少年合唱団を舞台に、トラブルを起こしてばかりだが、実はたぐいまれな美声の持ち主である12歳の少年ステットが、厳しい指導で知られるベテラン教師カーヴェルとの関係を通し、歌うことへ情熱を傾け、成長していく過程を描く物語だ。新人ギャレット・ウェアリングが演じるステットと、名優ダスティン・ホフマン扮するカーヴェルとの師弟関係の変化をつぶさに捉える人間ドラマとしての面白さはもちろん、ハイライトとなるワーグナー、ヘンデルの名曲群を歌う合唱団の歌唱シーンはドラマティックで高揚感に満ちている。また、ステットがいよいよ物語の晴れ舞台でリードシンガーに抜擢されるも、ライバルに譜面を盗まれたことにステージ上で気付き、困惑しながらも歌い切る場面など、“合唱版『セッション』”と形容したくなるシーンもあり、両作品を観比べてみるのも一興だろう。
webDICEではフランソワ・ジラール監督のインタビューを掲載する。
この教師が生徒に教えているのは明らかだが、
教師も生徒から教えられていく
──2007年の『シルク』以来、8年ぶりの監督作となります。次の作品を監督するまでにどうしてこれほど長くかかったのですか?
前作のあと、たくさんの舞台作品に捕まってしまったんだ。予想外だった。オペラを3本、舞台劇を3本、シルク・ドゥ・ソレイユのショーを2本手がけた。ある朝起きて、映画のキャリアを放置していることに気づき、どうしても戻りたくなったんだ。この脚本は、カメラの後ろに戻る絶好のチャンスだった。
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』フランソワ・ジラール監督 ©Myles Aronowitz 2014
──ダスティン・ホフマンとは旧友だそうですが、今回の仕事はいかがでしたか?
ダスティンとは脚本段階から参加してもらった。撮影前にお茶を飲みながら作業し、話し合って多くの時間を過ごした。彼は素晴らしく気の合う仲間だし、とても協力的で、献身的だった。彼はちょうど監督として自分で映画を撮り終えたところだったから(老人ホームで暮らす音楽家たちを主人公にした『カルテット! 人生のオペラハウス』)、このカーヴェルという役が経験する困難にかなり感情移入していたのかもしれないね(笑)。
ダスティンは、大きなハートをもつ最高の仲間だ。才能だけじゃなく、スクリーン上の魅力も並外れている。彼の才能を、我々全員が知っているし、ものすごいキャリアだよ。でも仲間でもあり、友人でもあり、非凡な人だ。この映画を終えて一番満足したことは、僕たちが以前にも増してより良き友人になれたことだ。正直怖かった。どの映画も異なる方向に進む可能性がある。でもこの映画は、今のところ僕が最高に満足している作品なんだ。
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より、ダスティン・ホフマン © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
ダスティンは最初、なぜ自分がこの役を演じるべきか、問いかけていたよ。カーヴェルはかなり辛らつなキャラクターとして登場し、ステットに激しく接する。観客の反感を買うタイプだ。でもダスティンが演じると、必ず強さの中にも愛すべき性質が出るだろうと僕は確信していた。人は常に、ダスティンの心根の温かさを感じる。それがこういったキャラクターに大きな違いを作り出すんだ。
主人公の少年ステットが教師に言う「じいさん、あんたの時間は残り少ないんだよ」という言葉は、ダスティンと僕の作業の最後のほうに生まれたセリフだ。ダスティンと僕は、ステットがカーヴェルに与える裏返しの影響にもっと興味をもち始めた。この教師が生徒に教えているのは明らかだが、教師も生徒から教えられていく。そこが面白い。物語の終わりにはカーヴェルの中で何かが変化しているんだ。
ギャレット・ウェアリングにとってこの映画は、
エキサイティングな旅の始まりになる
──ステット役の新人ギャレット・ウェアリングは、どのように「発見」したのですか?
キャスティング・ディレクターのジョン・パプシデラとそのチームが多くの少年たちを集め、200~250回オーディションを繰り返した。でも見つからない。居並ぶ少年たちのオーディションテープを見たが、最後にギャレットが現れたんだ。僕は興奮したよ。プロデューサーや周りの全員が興奮した。もちろん幸運だったが、かなりの忍耐力が必要だったよ。
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より、ギャレット・ウェアリング © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
12歳の子役を配役するのはいつだって恐い。以前仕事をしたことがある子はほとんどいない。オーディション以外に確たるものがないんだ。しかもオーディションは惑わされることが多いから、僕は好きじゃない。でもギャレットにはステット役に必要な素晴らしい演技力があることがすぐにわかった。彼の年頃ではめずらしく、集中力がある。彼の強烈さと鍛錬に感心した。俳優としての彼にとってこの映画は、エキサイティングな旅の始まりになると思う。
──核となるダスティン・ホフマンとギャレット・ウェアリング以外にも、脇を固める役者陣が素晴らしかったです。
ベン・リプリー(『ミッション:8ミニッツ』)の脚本にある全てのキャラクターに感動した。ダスティン・ホフマン、キャシー・ベイツ、エディ・イザード、デブラ・ウィンガー、ケヴィン・マクヘイル、ジョシュ・ルーカスといった俳優たちが、才能と努力を通してキャラクターに息を吹き込み、新しい方向へと発展していく姿を目撃するチャンスに浴した。僕はこのキャストに本当に感謝しているんだ。
これほどのアンサンブル・キャストを集められたことを今でも驚いている。小規模な映画だ。俳優を魅了するような金もない。僕はダスティンが大きな要因だと思う。彼らは親切にも出演したいと言ってくれたが、それは完璧にダスティンのおかげだ。彼が全員を引き寄せ、彼のそばにいて、彼の類まれな旅路にかかわりたいと誰も願ったからだ。
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より、キャシー・ベイツ(右)、ギャレット・ウェアリング(左) © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より、エディ・イザード(左)、ケヴィン・マクヘイル(中央)、ダスティン・ホフマン(右) © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
生の人間の声は常にどこか並外れている
──本作は、音楽を学ぶという試練を通して、人はどう生きるべきかというメッセージを投げかけているように思います。
舞台となるこの音楽学校には問題がひとつある。それが新人発掘だ。現代の子供たちは一夜にしてスターになりたいと願う。子供たちはTV番組に出たいし、コンテストに勝ちたいし、翌朝にはスターになって、億万長者になっていたい。人生はそうはいかないし、我々の誰もがそれを知っている。どんな成功も、成功を収めるどのアーティストも、長くてひたむきなプロセスをたどる。この映画は、音楽を学ぶことの価値だけでなく、人生を学び、信念をもって立ち向かうとはどういうことなのかを学ぶことの価値も語っているんだ。
──監督がこれまで手がけた4本の作品のうち、3作が音楽をテーマにしていますね。
僕は隠れミュージシャンなんだ。音楽を演奏するのは大きな楽しみだ。ピアノを所有し、よく演奏する。プライベートでだが、それはそのままにしておくつもりだよ。でも音楽は、僕の人生の大きな部分を占め、ミュージシャンたちの周りにいられることは大きな喜びだ。だからこの映画は特別な恩恵だった。音楽監督のフェルナンド・マルヴァー、オリジナル音楽を担当したブライアン・バーン、この映画に携わったすべての人たち。たくさんのミュージシャンに囲まれていた。ミュージシャンと交流するのが好きなんだ。たぶん、自分のキャリアを考え直すべきだろうが、遅すぎる気もする。でも同時に、分類されやすい分野でもある。『グレン・グールドをめぐる32章』(1993年)の後、誰もが僕に伝記映画か音楽映画をやらせたがった。でも僕は「ノー」と言った。違う道を行くべきだったからだ。でもその後、『レッド・バイオリン』(1998年)のアイデアがあり、抗しきれずに結局手がけた。だから計算はほとんどない。あるとしたら、音楽映画はやらないようにしていることだが、なぜか戻ってくる。だから、もう1本できたわけだ。
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
──では、今回の音楽のセレクトは苦労しましたか?
生の人間の声は常にどこか並外れている。人々はヨーヨー・マやジョシュア・ベルのような器楽家を愛してやまない。それは彼らの演奏に人間の声が聞こえるからだ。僕がオペラを演出して、最も楽しいリハーサルは、コーラスが出てきて、ハーモニーを奏で始めた時だ。涙がでるほど感動する。そこはものすごい感情のパワーがあるんだ。
音楽を選んでいる間、多くのリサーチと楽曲を聴いた。そして、純粋なものが人の心に特別な感動を呼び覚ますことに気づいた。聴く時間を短くしないと、感情と郷愁が溢れてきて、自分を抑えられなくなったほどだ。偉大なる作曲家たちの感動の楽曲と純粋無垢な子供たちの声が交わる瞬間。ほかにそれほどの感動があるだろうか。それがこの映画の原動力だった。純粋な声が人の心を大きく解き放ってくれるんだ。
(オフィシャル・インタビューより)
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
フランソワ・ジラール(François Girard) プロフィール
1993年に監督した『グレン・グールドをめぐる32章』がカナダのジニー賞4部門を受賞。続く98年『レッド・バイオリン』が米アカデミー賞最優秀作曲賞を受賞し、名実ともに国際的に名前が知れ渡る事になる。2007年にはアレッサンドロ・バリッコのベストセラーを映画化した『シルク』が世界中で公開された。 97年、ストラヴィンスキーとコクトーの共作「OEDIPUS REX / SYMPHONY OF PSALMS」で初めてオペラの演出家としてデビューし数多くの賞を受賞。ほかのオペラ作品に、ブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックのための「LOST OBJECTS」、ワーグナー作「ジークフリート」などがある。 また、演出した舞台劇には、アレッサンドロ・バリッコ作「1900年/NOVECENTO」、カフカ作「審判」、井上靖作「猟銃」など。近年では、シルク・ドゥ・ソレイユが08年~10年まで東京で初めての常設公演としておこなった「ZED」、そしてラジオシティ・ミュージックホールで幕開けし、クレムリン・シアターで上演され、ラスベガスで常設公演となった「ZARKANA」の脚本と演出を担当している。
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』
9月11日(金)、TOHOシネマズシャンテ他全国ロードショー
映画『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』より © 2014 BOYCHOIR MOVIE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. ©Myles Aronowitz 2014
複雑な家庭環境に育ち、トラブルばかり起こしていた少年ステットだが、実はたぐいまれな美声の持ち主だった。そんな彼に飛び込む名門少年合唱団への入学。そこで少年たちの育成を任されているのは、厳しい指導で知られているカーヴェル。彼は若いころに才能を否定され、指導者の道に入った過去があり、才能がありながらも無駄にしているステットに対して、厳しく接する。楽譜も読めず同級生たちからのいじめに遭いながら、カーヴェルの導きにより、次第に“歌う”事に魅了されていくステット。そんな時、由緒正しいコンサートでソロを歌うチャンスが与えられる――。
監督:フランソワ・ジラール
出演:ダスティン・ホフマン、ギャレット・ウエアリング、キャシー・ベイツ、デブラ・ウィンガー、ジョシュ・ルーカス、エディ・イザード、ケビン・マクヘイル 他
脚本:ベン・リプリー
原題:BOYCHOIR
提供:アスミック・エース/ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント
配給:アスミック・エース
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