『XXX KISS KISS KISS』の矢崎仁司監督
矢崎仁司監督の『XXX KISS KISS KISS』が9月5日(土)より新宿K’s cinemaにてロードショー。公開にあたりwebDICEでは矢崎監督のインタビューを掲載する
本作は新人脚本家ユニット《チュープロ》から矢崎仁司監督へオリジナル脚本が持ち込まれたことで始まったプロジェクト。脚本は映画への情熱と確かな技術をあわせ持つ矢崎組スタッフに引き継がれ、映像化された。誕生した5人の脚本家と1人の監督による“KISS”で繋がれた5つの掌編だ。
図書館で働く女性と同棲相手とのエロティックな物語『儀式』(脚本:武田知愛)、オートバイ好きな幼馴染に思いを寄せる青年が主人公の『背後の虚無』(脚本:朝西真砂)、長年連れ添う夫婦の日常を淡々と描写した『さよならのはじめかた』(脚本:中森桃子)、路上で客を取る女性と彼女の前に現れた少女との関係を幻想的に描く『いつかの果て果て』(脚本:五十嵐愛)、金魚屋の経営に失敗した男が高校時代の同級生に翻弄される『初恋』(脚本:大倉加津子)、という5つのラブストーリーで構成されている。
来年には小池真理子原作の『無伴奏』の公開を控えている矢崎監督、今回のインタビューでは、久方ぶりのインディーズ作品となった今作への思いを語っている。
何度もライターの皆にコピペをやめろと言っている
──キスがテーマということですが、このテーマに興味を持たれたのはなぜですか。
脚本家の武田知愛さんから企画の話を聞いたとき、キスは映画でいろんな遊びができると思いました。いわゆるフォアプレイのキスならやらなくていいかなと思うんです。キスしても、その次がないとか、そういうのはいいなと。もっとそれだけで特別なもののような感じはします。逆に言ったら、キスしたからなんなの、っていうのはあると思います。だから、難しいんです。
──短編でもシナリオに1年かけたとか。直しは大変でしたか。
一番はじめの企画書とシナリオを見て、申し訳ないが、僕は撮れないなぁと。僕なんかよりもこういうのが得意な監督がいるはずですから。僕は画が浮かばなかったんです。だから一度は断った。でも皆さんがシナリオを直して持ってきてくれて、打ち合わせ2回目からぐらいでしょうか、もう一緒に作ってる感がありましたね。その後1年直しが続きましたが、ライターの皆さんを苦しめる割に自分は楽しめていたと思います。
脚本家の田村孟さんが『少年』だったか『青春の殺人者』を書かれたとき、筆が止まったら最初から書くという話を聞いたことがあり、僕もそれを実行しています。何度もライターの皆にコピペをやめろと言っているのは、どこかを直すと全体が違ってくるはずです。だからごく一部の直しでも、頭から書かないと成立しないだろう。そこだけ変えて成立するというのは元々大した脚本ではないということだと思います。
『初恋』より
5人の監督になってやろうと思った
──矢崎監督が目指した脚本とはなんでしょうか。
いい脚本っていうのは、映画に関わるいろんなポジションの人が、ここはどうしたら画にできるか、どうしたらこの台詞が画になるか、引っかかるものがあるものだと思います。俳優がやりたがるということも、ものすごく大事なことだけど。インディーズの映画は、ギャラもないけど拘束もない。だから僕は、集まったスタッフ全員に脚本を読んでもらって、この脚本を画にしたいか、と訊いていました。画にしたいと思っている力は、ものすごく強くて。どんなに辛い現場でも最後まで皆ついて来てくれるんですよ。
『背後の虚無』より
──5本の短編というのは、これまでの矢崎映画のなかでも初の試みです。そこに込めた思いはなんでしょうか。
5本の映画を撮るなら、5人の監督になってやろうかなと思ったんです。矢崎は矢崎でしかないんだけど。この映画の情報を知らない人が、本当に5人の監督で撮ったんじゃないかというくらい、遊ぼうかなと思いました。撮影の石井勲さんとも、それぞれの作品の色を変えようと話しました。
でも、この映画は“短編オムニバス”ではありません。5本でひとつの映画です。それは、映画館の暗闇で観ている人に映画史を体験させたいという思いがあるから。ポスターのデザインを見てもらうとわかるけど、僕の好きな監督名が羅列してある。これまで、この監督たちが表現のボールを僕に投げてくれた。今回は僕から5つのボールを投げ返そうと思いました。映画史というとちょっと大仰だけど、観てくれている人がそういう旅をしてくれたら嬉しいなと。
──今までの監督作とは違う画が撮れたということですが、手ごたえは感じられましたか?
そもそも5本の脚本が、自分では絶対書かないものでした。だからそれぞれどう画にするか、というのは悩んだところがあり、それがあの画になったのではないかと思います。
『儀式』より
表現というのはすべて自主制作のようなもの
──撮影時のエピソードなどがあれば、お願いします。
撮影中、いろいろなことがありました。『儀式』では最後のシーンが撮れなくなってしまって、現場で立ち往生したこともあります。そのときは主演の松本若菜さんと加藤良輔さんに助けていただきましたね。一つ、アイディアを出してくれたんです。それからはもう次々別のアイディアが浮かんで撮りきることができました。ラッシュで観て撮れた画に凄く驚いた。
『背後の虚無』は僕がやりたかったオートバイの映画。撮影はすごく大変なんですけどね。撮りたい画をいっぱい撮ったなぁ。この映画のキスシーンはなかなか面白いと思いますよ。唇と唇ではないキス。傷跡と傷跡。シナリオから撮りこぼしたシーンもあるんだけど、後悔はないです。僕はリテイクは嫌いなんです。
『さよならのはじめかた』、これはもう思いっきり小津っぽくやりたいなと。そんなこと言ったら天国にいる小津さんに怒られるだろうけど(笑)。中丸新将さんも塚田美津代さんも、淡々とした日常のなかで、すごく素敵な表情をしていただきました。涼香ちゃんの持つものすごくピュアな部分にも、この映画は支えられましたね。
『いつかの果て果て』は、一度台風で中断しました。それでスケジュールを切り直して、シナリオも大幅に変えて。なんとか完成できるようにと。はじめのシナリオでは渋滞シーンがあったんです。台風の中、いろんな方に車を出して協力していただいて。荻野友里さんも草野康太さんも雨の中がんばってもらったんですけどね。次の月に再度シナリオを変えてトライしたときも、撮影当日の朝、予定の河原が増水で、慌ててロケハンしたり大変でした。
『初恋』、これは一番はじめに撮った作品です。短編の撮り方をまだ僕がわかっていなくて、撮影の石井さんに「矢崎、短編撮ってるんだぞ」と言われました。結果撮影も予定より延びてしまって。でも川野直輝さんも吉田優華ちゃんも粘り強かったですね。また一緒に映画作りたいなぁ。贅沢な現場でしたよ、お金はなかったけど。一度、太陽待ちがありました。ワンチャンスの夕日を待っている皆は、いい顔してたなぁ。
『さよならのはじめかた』より
──久しぶりのインディーズ作品。これまでの商業作品の現場と違いは感じましたか?
基本、表現というのはすべて自主制作みたいなところがある。僕は一度も“他”主制作をしたことがない(笑)。映画は「進行中の死を映し撮る唯一の芸術だ」というゴダールの言葉が、作っている間、常に頭の中にあります。映画に関わった人たちの1週間だろうが10日だろうが、進行中の死に付き合っているので、1秒も無駄にできない気がします。皆が命を削って作っているので、出会ったスタッフとしかできないことをやりたいんです。シナリオ1冊持って旅に出て、途中で出会った人たちと一緒に映画を作るって感じですね。出会ったというのはこの脚本を画にしたいと思った人たちで、だから俳優さんなら、この人じゃなきゃできないことでオッケーを出しているんです。この人のいまを撮りたい、何歳の役であろうが、この俳優さんのいまを撮りたいと思っています。だから僕の映画は、関わった人たち全員のドキュメンタリーみたいなものですね。そこにインディーズも商業もないように思います。
『いつかの果て果て』より
──『XXX』の続編を予定しているとか。来年には『無伴奏』の公開も控えていますし、ものすごくアグレッシブに活動されていますね。
『XXX』のような映画は続けていきたいと思いました。僕は今、続けて作品を撮っていくことにとても魅力を感じています。毎年、山梨で地元の人たちと撮っている『富士川日記』という映画がありますが、もう今年で3本目になります。ワークショップなので誰でも参加できるんですが、同じ町でそこに住んでいる人たちの一日を撮った作品です。続けていくと見えてくるものがあって、『XXX』も『富士川日記』のように進化していけたら面白いんじゃないかな。 僕はビクトル・エリセみたいな凄い人と比べられることがあるんだけど、それは撮れない期間が長かったってことだけなのに(笑) 今はね、撮って何ぼだと思っていますよ。何年もかけて一本撮るのもいいですけどね。表現者はきっと多作な時期と寡作な時期があって、あ、今がその時期なのかな、という感じはあります。なんでも撮りたいですね。『XXX』の宣伝にも使われているけど、ジョナス・メカスの言葉(「ジャンキーでさえヤク代を手に入れるのだから……」)がずっと刺さっていたんです。今はね、映画の仕事なら断りませんよ。
(オフィシャル・インタビューより)
矢崎仁司 プロフィール
山梨県出身。日本大学芸術学部映画学科に入学。在学中に16mm作品『風たちの午後』(1980年)で監督デビュー。続く『三月のライオン』(1992年)でベルギー王室主催ルイス・ブニュエルの『黄金時代』賞を受けるなど、国際的に高い評価を得る。そして1995年渡英し、ロンドンを舞台にデレク・ジャーマンに捧げた4時間の長編『花を摘む少女 虫を殺す少女』を監督。『ストロベリーショートケイクス』(2006年)からは『スイートリトルライズ』(2010年)『不倫純愛』(2011年)『1+1=1 1』(2012年)『太陽の坐る場所』(2014年)と次々に作品が公開され、2016年には、原作・小池真理子『無伴奏』の公開も控えている。
映画『XXX KISS KISS KISS』
9月5日(土)より、新宿K’s cinemaにてロードショー
5人の脚本家×監督 矢崎仁司
5つのKISSが織りなす物語『××× KISS KISS KISS』
キスは、出会い?それともお別れ?キスは甘いの?それとも苦いの?キスは、与えるものなの?奪うものなの?
最後にセックスしたのは覚えてないけど。最後にキスしたのは忘れない…。
監督:矢崎仁司
脚本:武田知愛、朝西真砂、中森桃子、五十嵐愛、大倉加津子
出演:松本若菜、加藤良輔、林田麻里
柿本光太郎、安居剣一郎、樋井明日香
中丸新将、塚田美津代、涼香
荻野友里、草野康太、海音
川野直輝、吉田優華
撮影:石井勲
照明:大坂章夫
編集:目見田健
音楽:田中拓人
助監督:古畑耕平
2015年/日本/168分
公式サイト:http://filmbandits.net/xxx/
公式Facebook:https://www.facebook.com/xyazakixcinemax
公式Twitter:https://twitter.com/xyazakixcinemax
※期間中、特集として≪more yazaki movie≫
『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』『不倫純愛』『太陽の坐る場所』『花を摘む少女 虫を殺す少女』を上映。詳細は下記より
http://www.ks-cinema.com/movie/more-yazaki-movie/