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『キック・アス』『X-MEN: ファースト・ジェネレーション』マシュー・ヴォーン監督の最新作『キングスマン』。既に日本に先駆け、世界で公開され大ヒットを記録している本作が2015年9月11日(金)日本公開される。
原作となったグラフィックノベル『キングスマン:ザ・シークレット・サービス』は、企画立ち上げの段階で映画化を視野にいれ、共同原案にマシュー・ヴォーンをむかえ、原作を『キック・アス』のマーク・ミラーが務めている。(ちなみに、作画は『ウォッチメン』のデイブ・ギボンズ)
大ヒット作『キック・アス』コンビによる本作は、ロンドンの不良青年が秘密結社の紳士スパイにリクルートされ紳士になるべくプロデュースされる、そう…言うならば『マイ・フェア・レディ』のジェントルマン版。そして、そこは単なる紳士ではなく一流のスパイに仕立て上げるというストーリー。
オーダーメイドの防弾スーツを身にまとい、仕込み傘を片手に、黒ブチ眼鏡はもちろんコンピュータ搭載。そんな、考え付く限りの胸アツなスパイアイテムで完全武装した紳士は、色んな意味で最強であり、正義。
そんな、英国最強の紳士ハリーにキャスティングされたのは、コリン・ファース。アクションのイメージのない彼だが、教会を舞台としたクライマックスのアクション、凄惨なファイトにむけ、武闘家、タイのボクサー、金メダリストの体操選手、元特殊部隊を含むトレーニング・チームが起用されファースは毎日3時間のトレーニングを数週間続けたという。
道に迷った青年エグジー役は、新人俳優のタロン・エガートン。円卓の騎士の名をコードネームにもつ同僚には、マイケル・ケイン、マーク・ストロング。対する、悪役は米国よりサミュエル・L・ジャクソン。
webDICEでは、マシュー・ヴォーン監督のインタビューを掲載する。
マーク・ミラーも私も最近のスパイものがやたらシリアスになっていることに不満だった
マシュー・ヴォーン監督
──原作者のマーク・ミラーがグラフィック・ノベルとして作品にする前から、ストーリーの構成に関わっているそうですね。どのような経緯でこの作品が生まれたのでしょうか?
マーク・ミラーも私も最近のスパイものがやたらシリアスになっていることに不満だったんだ。我々は『007』シリーズや『電撃フリント・アタック作戦』、TVシリーズ『おしゃれ(秘)探偵』などを観て育ってきた。どれも軽やかながらしっかり楽しめるスパイもので、とにかく楽しくて想像力あふれる作品だったんだ。
そこで、「現代のスパイ劇を描くならどうするか」という話に発展し、古い世代と新しい世代がミックスるする展開も入れてはどうか、と。そうやって『キングスマン』が生まれたんだ。
──この作品には様々なスパイ映画へのオマージュがあります。監督自身、スパイ映画にどのような思い入れがありますか?また、この作品の、他の作品にはないスパイ映画としての魅力は何ですか?
おっしゃる通り、この映画は様々なスパイ映画の影響を多分に受けている。いわば、過去のあらゆるスパイ映画へのポストモダニズム的なラブレターだよ。だからといって模倣しただけではないんだ。スパイものの楽しい部分をさらに新しくし、現代の観客に楽しんでもらえるようなものを作っているよ。
取り上げているテーマはシリアスなのに、思いっきり楽しくしているところがこの映画の特徴だね。
──キングスマンの組織を、アーサー王の円卓の騎士になぞらえたのはなぜですか?
キングスマンが道義心や礼節の精神に根ざしたものだということを描くのに分かりやすい方法だったんだ。円卓の騎士の伝説なら皆知っているし、伝説を現代化させ、新鮮に感じさせるのにいいモチーフだったんだよ。
──ハリー・ハートのモデルはいますか?
俳優のデヴィッド・ニーヴンをモデルにしているよ。当時はモダン紳士ともてはやされていた俳優だ。粋だがタフで、チャーミングだがお高くとまっているわけではない。そういう要素が(この作品を作る上でも)大切だったんだ。
いかなる敵を目の当たりにしても冷静沈着なエージェントのハリー・ハート(コリン・ファース)
──ガゼルは魅力的なキャラクターですが、義足にした理由はありますか?
実はガゼルはもともと男性の設定だったんだ。義足はパラリンピックの陸上選手たちから着想を得たものだよ。陸上競技を見ていて彼らの速さと優雅さに感心したんだ。それで障害を能力に変え、武器にできたらカッコイイと思ったんだ。
ヴァレンタインの側近にして、最強の殺し屋ガゼル(ソフィア・ブテラ)
──ヴァレンタインはラッパーの容姿をしたIT富豪という設定ですが、実在のモデルはいるのでしょうか?
実在のモデルは特にいないが、あえて挙げるならスティーブ・ジョブズかな。つまり億万長者で、そのブランドと技術が全世界に影響を与えるほどの力を持つ男だ。その男が仮に悪巧みをしようとしたら恐ろしい強敵になるだろう?そういった意味で、スティーブ・ジョブズが一番近い。
IT富豪、リッチモンド・ヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)
スパイ映画好きな昔の自分なら、楽しめただろうと確信している
──スパイ映画に夢中だった昔の自分は、本作を気に入ると思いますか?
昔の自分なら特に後半の部分は楽しめたと思うよ。そもそも「自分が観て楽しいだろうか?」ということを念頭において映画作りに取り組んでいるんだ。「お金を払う価値があるか?」「自分の中の映画好きの8歳児なら見に行くだろうか?」「現実から完全に逃避できるような、新しい体験ができるだろうか?」そういうことを考えながら作っているんだ。スパイ映画好きな昔の自分なら、楽しめただろうと確信しているよ。
──これまでアクション映画の経験が無いコリン・ファースを起用した理由は何ですか?
いつもと違う彼を見ることができたら楽しいに違いないと思ったからだ。彼は何ヶ月にも及ぶトレーニングに取り組んでくれたよ。「この役をやるなら必ずトレーニングしなければならない」、そして「撮影に入る前にテストをする」とも言ったんだが、そのテストに見事に合格してくれたね。
ブリティッシュ・スーツをスタイリッシュに着こなすハリー(コリン・ファース)
──今回も「キック・アス」のような、観客が夢中になるアクションシーンが満載ですね。
アクションシーンはだいぶ反響がいいようだね。それには理由が二つあると思うんだ。まず、僕はアクションは見せるためだけではなく、そこに必然性がなければならないと思っている。仮に、この映画のアクションシーンをそっくりそのまま他の映画に応用したとしても、キャラクターに共感することもできないし、鬼気迫るものにはならないだろうから、飽きてくるよね。 それと、もうひとつの理由は、格闘シーンのコリオグラフィーとセカンド・ユニットの監督を務めるブラッドリー・ジェームス・アランが優秀なんだ。ジャッキー・チェンという天才のもとでトレーニングをした人だよ。カンフーなどの要素を入れつつ、西洋化させた振り付けになっているよ。
ハリウッドは知名度のある役者をキャスティングしたいがために、ミスキャストする傾向にある。
当然、上手くいかないよね?
──タロン・エガートンは映画初出演ながら大抜擢です。ソフィー・クックソンも大胆な起用ですね。彼ら新鋭を重要な役に起用した理由について教えてください。
タロンをキャスティングしたのは適役だったからというシンプルな理由だ。ソフィーもそうだね。僕は監督の仕事の8割はキャスティングだと思っている。照明、脚本、アクション、衣装、音楽など、その他のすべての要素が完璧だったとしても、ミスキャストだったり、キャスティングした俳優が芝居のできない人物だったりしたら、映画は台無しだ。キャスティングは映画作りの一番大事な要素だよ。タロンとソフィーはまさに探し求めていた二人だった。
ハリウッドは知名度のある役者をキャスティングしたいがために、ミスキャストする傾向にある。当然、上手くいかないよね?製作陣は「有名なキャストを起用したのになんで上手くいかなかったのか?」と疑問に思うようだが、それは役者の知名度を優先しているからだ。僕はそれぞれの役にちゃんと合った俳優をキャスティングすることを鉄則にしている。それをリスクだという人もいるが、私はそうしないことのほうがリスクだと思うな。
無職のままロンドンで母と暮らすエグジー(タロン・エガートン)はある日、スパイにスカウトされる
──「キングスマン」は若者の成長物語としても秀逸です。ご自身の経験も活かされていますか?
エグジーにしても他のキャラクターにしても、自分を投影させている部分は少なからずある。特に、成長物語を描く場合はそうだね。自分もかつて子供だったから。成長物語はどんな人にも響くものだと思う。若い子にとっては、自身が実際に直面しているあれこれが描かれているわけだし、すでに大人になっている人でも、次世代を育てようとしている彼らにとって十分に響くものになる。僕が成長物語に魅かれるのは、『スター・ウォーズ』の影響もあるかもしれないね。
──監督ならでは、なブリティッシュ・ポップな選曲が多いですが、映画で音楽を使うにあたって気をつけていることはありますか?
ブリティッシュ・ポップが多いのは自分もイギリス人で、それを聞きながら育ったし、何より好きだからかな。音楽はある特定の感情を引き出すのにキーとなる要素だ。自分も特定の曲を聴くとある種の感情が湧いてくるし、観客も同じように反応してくれると信じたいね。子供の頃の自分が観ていたら楽しかったに違いない、と思える映画を作りたいと思っているから、音楽も自分が好きなものを入れるんだ。
──映画の最後に「母親に捧げる」とありますが、お母様が教えてくれたことで思い出深い教訓があれば教えてください。
難しい質問だね。この質問をされるのは初めてだよ。母はキングスマン精神のすべてを教えてくれた。礼儀についても厳しかったし、この映画を見ていたら「あなたにももう少しハリー・ハートのようなところがあればいいのに。それがお母さんの望みだったのよ」と言われていただろうね。僕が映画監督じゃなくてキングスマンの一員になっていたら喜んだだろうね。
高級テーラー「キングスマン」、その裏の顔は世界最強のスパイ機関
人々はみな、2時間ばかりの現実逃避を望んでいるんじゃないかな
──世界中で大ヒットした要因は何だと思いますか?
普遍的なストーリーを描いているからじゃないかな。貧しい育ちの子供がスパイになる話は希望に満ちた成長物語だし、地球温暖化や人口過密など、誰にとっても他人事ではないテーマを扱っているから。一方、そんな深刻な世界情勢の中、何より楽しい映画だからヒットしていると言えるかもしれないよ。人々はみな、2時間ばかりの現実逃避を望んでいるんじゃないかな。
──映画作りにおいてあなたが特に大切にしていることは何ですか?
いいストーリーを語ることだ。これはジャンル問わず、当てはまることだね。楽しいものであれ、怖いものであれ、おかしいものであれ、ミュージカルであれ、没頭できるようなものを提供することだよ。
──続編について、どんな内容なのか話せる範囲で教えて下さい。
残念ながらまだ話せないよ。いま脚本を執筆しているところだけど、皮算用はしたくないから何も言わないでおくよ。
──日本の武士道のように、英国の紳士道が描かれた作品にも思えました。
面白い質問だね。というのも、何年も前に「Shogun」を読んで、武士道の道義や高潔さにとても魅了されたからだ。確かに、礼儀や道義、高潔さなどは英国の紳士道に似ているね。この映画はイギリスが舞台なので、円卓の騎士をモチーフにしているけど、『キングスマン』の日本版があったらきっと侍の伝説などをモチーフにしただろうな。
──衣装、美術に対するこだわりはどんなものがありますか?
衣装も美術も難しかったけど、意識したのは英国紳士的な風情とファッション性のバランスをどう取るかということ。流行を取るか、気品を取るかというのは永遠の命題だが、本作の場合は気品を優先したんだ。エレガントでクラシックで、流行り廃りのないスタイルでなければならないと思ったからね。もちろんそれに凝り固まってしまうと、お堅いおじいちゃんたちの集団になってしまうので、多少のスタイリッシュさも加味しなければならなかった。でも、カッコいいファッションブランド風にするつもりはそもそもなかったし、伝統的な英国紳士の仕立てと気品は死守したかったんだ。モットーは「引き算の効用」かな。それがキングスマンらしさだよ。
(オフィシャル・インタビューより)
高級テーラー「キングスマン」での撮影の様子
マシュー・ヴォーン(Matthew Vaughn) プロフィール
ガイ・リッチー監督『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(98)やブラッド・ピット主演の『スナッチ』(00)のプロデューサーとして、キャリアをスタートした。自身の制作会社マーヴ・フィルムズを通し、ダニエル・クレイグ主演の『レイヤー・ケーキ』(04)で監督としてのデビューを飾った。次に、ロバート・デ・ニーロ、ミシェル・ファイファーが主演した『スターダスト』(07)を監督、脚本執筆パートナーのジェーン・ゴールドマンと共同で脚本も執筆した。2009年には、マイケル・ケインが主演した『狼たちの処刑台』(09未)を製作。2010年には、ヘレン・ミレンとサム・ワーシントンが主演した『ペイド・バック』(10未)の製作と脚本、『キック・アス』(10)では監督、製作、脚本を手がけた。さらに、2011年には『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11)の脚本と監督を、2012年には『キック・アス2』(12)の脚本と製作を手がけた。
映画『キングスマン』
2015年9月11日(金)全国ロードショー
ロンドンの高級テーラー「キングスマン」。
しかしその実体は、どこの国にも属さない世界最強のスパイ機関だった!
高級テーラー「キングスマン」。その裏の顔は世界最強のスパイ機関である。ブリティッシュ・スーツをスタイリッシュに着こなすハリー(コリン・ファース)は、そのエリートスパイ。組織の指揮者アーサー(マイケル・ケイン)の指令で、何者かに惨殺されたエージェントの代わりに新人をスカウトすることに。ハリーは街の若者エグジー(タロン・エガートン)に可能性を見出し、「キングスマン」の候補生に抜擢。実はハリーは、死んだエグジーの父と旧知の仲で、ある約束を果たそうとしていたのだった。一方で、頻発する科学者失踪事件の首謀者でIT富豪のヴァレンタイン(サミュエル・L・ジャクソン)が、前代未聞の人類抹殺計画を進めていた。調査を開始した「キングスマン」にも、ヴァレンタインの魔の手が迫る。果たして、エグジーはキングスマンの一員となれるのか。そして、「キングスマン」はテロを阻止できるのか。世界最強のスパイ機関、ついに出動!
監督:マシュー・ヴォーン
原作:マーク・ミラー
製作:Marv Films
出演:コリン・ファース、マイケル・ケイン、サミュエル・L・ジャクソン、タロン・エガートン、マーク・ストロング
配給:KADOKAWA
(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
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