映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』より © 2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
『ゴーストバスターズ』『ブロークン・フラワーズ』などのコメディ俳優ビル・マーレイが主演を務め、偏屈な独り者の老人と12歳の少年との友情を描く『ヴィンセントが教えてくれたこと』が9月4日(金)より公開される。公開にあたりwebDICEでは、自身の実体験をもとに今作の脚本を書き、製作・監督を兼任し完成させたセオドア・メルフィ監督のインタビューを掲載する。
メルフィ監督の初長編作となる今作は、ゴールデン・グローブ賞のコメディ/ミュージカル部門の作品賞にノミネート、そして主演のビル・マーレイも男優賞にノミネートを果たした。酒と競馬に明け暮れ、貯金も使い果たし、喧嘩っ早くひねくれ者だけれど、どこか憎めない老人ヴィンセント。ビル・マーレイは、メルフィ監督の「彼はいつでもビル・マーレイとして、そこにいる」という言葉の通り、彼そのままの脱力した存在感でヴィセントを演じている。また、ひょんなことから彼と出会うことで、クラスメートからのいじめなど、生活のなかの小さな事件を解決していく少年オリバー役のジェイデン・リーベラーをはじめ、ナオミ・ワッツやメリッサ・マッカーシーなど、確かな演技力を持つキャストとのアンサンブルも見逃せないポイントだ。物語の途中で、ヴィンセントには認知症の妻がいて、介護施設に足繁く通い看病しているという意外な一面が明らかになる。彼の隠れた魅力に光を当てることで、無気力だった彼に自身を取り戻させようと画策するオリバー少年とヴィンセント、二人の友情を育んでいく過程を丁寧に描くことで、ハートウォーミングな「バディ・ムービー」に仕上がっている。
姪の学校の宿題を出発点に、ビル・マーレイに直接電話
──本作のストーリーは、メルフィ監督のお兄さんがなくなったことをきっかけに養子に迎えた姪のエピソードから構想をふくらませていったそうですね。
そう、彼女は学校で「感銘を受けたカトリックの聖人と、知人の中でその聖人に最も近い人物を一人ずつ挙げなさい」という宿題を出され、その聖人に僕を挙げてくれた。そこからすべてが始まったんだ。今作では、少年が気難しい飲んだくれヴィンセントの隣に引っ越してきて、二人は最高の友達になる。そして少年は、宿題を出された時にその隣人のことを書くんだ。そして二人は、互いに互いの人生を変えていく。この映画の出発点は学校の宿題なんだ。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』セオドア・メルフィ監督
ヴィンセントは、友人になった少年を通して自身の価値に気づかされる。そしてヴィンセントは理解するんだ。今の自分にも、これまでの人生にも意味があったんだと。悪いこともしたけど、いいこともした。みんなの面倒を見た。妻を愛した。国を守った。戦争に従軍して人々を守った──そんな風に考える。年月を重ねる内に彼の心は厚い殻に覆われてしまった。でも心の奥底では、いい人間なんだよ。それがこの映画で言いたいことだ。「自分は何も成していない、自分の人生は無駄だった」と考えているような、普通の人々を描いた映画なんだ。この映画はそれに異議を唱える。どんな人間にも価値があるんだとね。
──そのヴィンセント役にビル・マーレイを起用した理由は?
どうしてもビル・マーレイに演じて欲しかった。彼がヴィンセント役にぴったりだと思ったんだ。俳優としての彼をとても好きだったしね。ビルにはマネージャーがいない。あるのは電話番号だけだった。本当に彼の番号であるようにと願いながら、何度もメッセージを残すしかなかった。でも6ヵ月メッセージを残し続けた結果、彼と会う約束を取り付けることができたんだ。
彼がイエスと言った時、キャスティングは終わったも同然だった。脚本家や監督がビル・マーレイを望むのと同じくらい、俳優たちもビルと共演したいはずだからね。ビルはそういう人さ。ビルがうなずいたと聞くと、メリッサも脚本を気に入って共演したがった。ナオミ・ワッツやクリス・オダウドも同じだったよ。そうやって、みんなうまく収まったんだ。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』よりヴィンセント役のビル・マーレイ(左)、オリバー役のジェイデン・リーベラー(右) © 2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
──ビル・マーレイとの仕事はいかがでしたか?
ヴィンセントは、気難しい老人だ。ものすごく嫌われているのに、同時に周りからは理解され愛されている役だ。こんな役をこなせる俳優は少ない。ビルよりうまくできる人はほとんどいないはずだよ。
ビルと一緒に仕事をしていて、彼こそが〈聖人〉なんだと気がついたよ。今まで出会った中で、最も心の広い人物だと思う。いつでも、誰とでも立ち止まって話をするんだ。街の人々や退役軍人、消防士などと何時間も話をして、一緒に写真を撮っていた。この上なく気前のいいスターだよ。惜しみなく自分を捧げられる。「そんな時間はないよ」なんて言わない。写真や握手も断わらない。人と出会う機会も同じだ。面白いかどうかは関係なく、出会いそのものにビルは喜びを感じているんだと思う。それが彼の人間的な魅力だと思うよ。
彼はいつでもビル・マーレイとして、そこにいるんだよ。それを見ているだけでも胸が躍る。人間として気づかされることがあったね。ビルと一緒に仕事をすることで、監督業について、脚本の書き方について、そして人生について、数え切れないほどのことを学んだよ。彼は何度もこう言った『ストレスに負けるな。ストレスは芸術にとってもコメディにとっても死神だ』。また、こうも言った『場面をねじ負けて映すな。自分が面白いと思うものにとらわれるな。素材と脚本を信じろ』。彼は必要なときは手を出すが、そうでないなら傍観するんだ。大切な教えだよ。私に傍観することを教えてくれた。どんな時に事がうまく運ぶのかを知り、それを目で見て、成行きに任せるんだ。コメディのことや芸術のことを学ぶのに、ビル・マーレイよりいい先生は思い付かないよ。世界で一番クールな男だ。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』よりオリバー役のジェイデン・リーベラー(右)、ヴィンセント役のビル・マーレイ(左) © 2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
──ヴィンセントの隣に引っ越してきた少年オリバー役のジェイデン・リーベラーもビル・マーレイに引けをとらない存在感でした。彼を起用した理由は?
子役について言えばまず子供であって、次に俳優である子がいい。演技は引き出してやればいいんだ。俳優を子供に戻すことはできない。
オリバーというキャラクターは接着剤みたいなものなんだ。自分に手がつけられなくなった大人たちをうまくまとめる役で、どんな役にとっても難しい仕事だ。
ジェイデンは飛び抜けた子だ。人間性の面では、小さなビル・マーレイといったところ。スタッフや共演者のことを理解し、どう反応すべきかが分かっている。飾らない演技の仕方を知っている。無理をしないんだ。いつでも落ち着き払って静かにそこにいる。その冷静さは大人もまねできないよ。90歳の老人のように見えるが、笑うとやっぱり子供なんだ。
生まれ育ったニューヨークには文化や人種、宗教を含め全てのものがある
──離婚の痛手と戦いながらオリバーを育てる母親を演じたメリッサ・マッカーシーについては?
彼女について改めて何か言う必要があるかな?彼女はどんな役柄でもこなせるんだ。確かに彼女はコメディが得意だし、世界的にもそれで知られている。だがドラマティックな演技も驚くほど奥深いんだ。だから本作が見せているのも、メリッサ・マッカーシーという氷山の一角でしかないよ。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』より、左よりメリッサ・マッカーシー、ジェイデン・リーベラー、ナオミ・ワッツ © 2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
──ヴィンセントが付き合っている身重のダンサー、ダカ役にナオミ・ワッツを起用した経緯を教えてください。
ナオミが演じるダカというキャラクターは、基本的にこの作品のコメディの部分を担当している。ロシア出身の売春婦で、口が悪く態度が大きいが、ばかげたことを許さない性格ですごく生真面目なんだ。ナオミ・ワッツには、観客も映画会社も知らない面がたくさんある。コメディを演じるにあたって、斬新でユニークで独創的で伸び伸びしていた。
製作総指揮のハーヴェイ・ワインスタインが何度もナオミ・ワッツを薦めてきた。私は最初、ナオミ・ワッツはすばらしいと思うが、この役は彼女向きじゃないだろうと思った。簡単な役じゃない。あの役は、コメディ面でこの映画の中心なんだ、と。すると彼は、自分を信じてくれと何度も繰り返した。そして強引に決めたんだよ。いや、それは冗談だけどね。とにかく信じてくれと何度も言うから、会いに行ったよ。もともと好きな女優だしね。彼女に会って、1時間ほどお茶をした。そのときメリッサに感じたのと同じものを感じたんだ。ナオミ・ワッツには、観客や映画業界の知らない面がたくさんあるんだとね。それに彼女はとても愉快な女性だったんだ。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』より、ダカ役のナオミ・ワッツ © 2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
──ヴィンセントの通う学校で彼に聖人について宿題を出す教師役として、『GIRLS/ガールズ』のクリス・オダウドも出演しています。
クリス・オダウドは、その場にいるだけでとにかくすばらしい俳優だよ。テレビシリーズに出演していたおかげで、この撮影には4日しか割けなかった。赤い目をして撮影現場に来てもらって、12時間とか14時間、ぶっ続けで撮影したよ。あれほど効率良く、見事に役を演じきれるのは、彼以外にいなかっただろう。時間もない上、徹夜だった。みんな思っていたよ。「ああ、クリス・オダウドでよかった、他の俳優だったらどうなっていただろう」とね。言葉では言い尽くせない俳優だよ。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』より、クリス・オダウド(左)とジェイデン・リーベラー(右) © 2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
──今作はニューヨークを舞台としています。監督にとって思い入れのある場所ですか?
プロダクション・デザイナーのインバル・ワインバーグとは、奥さんがいなくなる前のヴィンセントの生活についていろいろ話し合った。そういったもの全部を家の敷地の中に詰め込みたいと思ってね。
私はブルックリンで育った。こんな街は世界のどこにもないと思うよ。ウィリアムズバーグの辺りには精肉業界の倉庫とギャング、それにケント街を行ったり来たりする売春婦がいた。ブルックリンには、いつ、どんな時でも、あらゆるものがある。文化や人種、宗教を含めてね。シープスヘッド・ベイを始め、自分が育った場所の近くで撮影できたことは、この映画の中で一番楽しかったことかもしれない。
(オフィシャル・インタビューより)
セオドア・メルフィ(Theodore Melfi) プロフィール
広告ディレクターとしてキャリアをスタート。100以上のCMの指揮を執り、雑誌『SHOOT』が選ぶ有望な新人監督15人のうちの一人として、クリオ賞にて表彰された。またロサンゼルス映画祭のCM「プレイグラウンド」はロンドン国際広告デザイン賞にて銀賞を受賞し、カンヌライオンズにて最優秀若年監督賞にもノミネートされた。ゴールデンライト・フィルムズという自身のレーベルを立ち上げ、テレビ映画『Winding Roads』の脚本、監督、プロデュースを手がけた。またメルフィの短編映画は世界中の映画祭で高い評価を得ている。脚本家としては、マーティン・ブレストの名作『お達者コメディ/シルバー・ギャング』のリメイク版を執筆した。最近ではニューヨーク・タイムズのベストセラー回顧録『The Tender Bar』(J.R.モリンジャー著)の映画化を手がけており、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント/コロンビア映画から公開される予定。
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』
9月4日(金)TOHOシネマズ シャンテ、TOHOシネマズ新宿他全国公開
映画『ヴィンセントが教えてくれたこと』より © 2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
アルコールとギャンブルに溺れるちょい悪オヤジのヴィンセントは、ひょんなことからお隣に引っ越して来た、いじめられっ子オリバーの面倒を見ることになる。小学生相手に容赦なく毒舌を連発し、行きつけのバーや競馬場にも連れ歩き、ヴィンセントはオリバーに注文の仕方、オッズの計算方法、いじめっ子の鼻のへし折り方など、一見ろくでもないことを教え込んでいく。最初は最悪だと思っていたオリバーだが、ある日ヴィンセントが介護施設に立ち寄り、認知症の妻に愛おしげに接する様子を目の当たりにする。気難しい老人と気弱な少年の間にはいつしか奇妙な友情が芽生え、二人のささやかな冒険の日々が始まった──。
監督、脚本、製作:セオドア・メルフィ
出演:ビル・マーレイ メリッサ・マッカーシー ナオミ・ワッツ、クリス・オダウド、テレンス・ハワード、ジェイデン・リーベラー
撮影:ジョン・リンドレイ
プロダクション・デザイナー:インバル・ワインバーグ
音楽監修:ランドール・ポスター
音楽:セオドア・シャピロ
編集:サラ・フラック、ピーター・テスクナー
原題:ST.VINCENT
配給:キノフィルムズ
宣伝協力:アニープラネット
2014年/アメリカ/英語/102分/ビスタ/5.1ch
公式サイト:http://www.vincent.jp/
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