映画『しあわせへのまわり道』より ©2014 St. V Films 2013 LLC. All Rights Reserved.
『死ぬまでにしたい10のこと』のイサベル・コイシェ監督が、詩人キャサ・ポリットによるニューヨーカー誌掲載のエッセイをもとに、ある女性書評家がタクシー運転手との出会いをきっかけに変わっていく姿を描く映画『しあわせへのまわり道』が8月28日(金)より公開。愛人のできた夫に離婚を迫られた書評家ウェンディにパトリシア・クラークソン、そして偶然彼女を乗せたインド人の運転手で、彼女に運転免許のレッスンを行うダルワーンをベン・キングズレーが演じている。不運に苛まれながらも自分の生きる道を探し求めようとする主人公役、パトリシア・クラークソンのチャーミングなキャラクターと確かな演技、そしてふたりの関係の変化を丹念に追う脚本により、単なるカルチャー・ギャップにまつわるコメディに留まらない秀逸なドラマを作り上げている。また、不法入国している甥を移民局からかくまいながら暮らすダルワーンの姿からは、舞台となるニューヨーク・クイーンズ地区の日常が垣間見られ興味深い。公開にあたりwebDICEではイサベル・コイシェ監督のインタビューを掲載する。
コイシェ監督が離婚手続き中に出会った物語
──どのようなきっかけで今作を手がけることになったのですか?
私と『しあわせへのまわり道』との最初のかかわりは、パトリシア・クラークソンとベン・キングズレーとともに『エレジー』(08)を撮影していた時だから、8年前になります。パトリシアから脚本を見せられて、すっかり魅了されたと同時に深い感銘を受けました。なぜなら、この脚本はキャサ・ポリットの実体験を綴ったエッセイからヒントを得て書かれたもので、まさに私もちょうどその頃、娘の父親と離婚手続き中だったからです。しかも運転免許証を持っていなかったのです。この脚本は、私に前へ進む力を与え、運転を習う決心をさせてくれました。非常に個人的なレベルで私の心に訴えかけたこの作品を、長い年月を経て映画化することができて、ようやく夢が叶ったというわけです。
映画『しあわせへのまわり道』イサベル・コイシェ監督
──キャサ・ポリットの原作についてはどのような感想をお持ちですか?
私は、キャサ・ポリットの著作の大ファンですが、彼女が書いたエッセイ「Learning to Drive」が名作たり得たのは、愛と喪失、それでも生きてゆくことについて、賢くて知的で思いやりをもった視点で描かれているからです。映画『しあわせへのまわり道』は、いくつかまったく異なる点があるとしても、キャサのエッセイの本質を捉えているように思います。ちなみに彼女は撮影現場にもやってきて、作品の出来映えを喜んでくれました。
映画『しあわせへのまわり道』より ©2015,BPG Releasing,LLC.All Rights Reserved.
ニューヨークそして自己発見という永遠のテーマ
──主人公の書評家とタクシー運転手にパトリシア・クラークソンとベン・キングズレーを起用した理由は?
キャスティングは、すぐにパトリシアとベンが頭に浮かびました。ウェンディは、仕事熱心で洗練されていて、タフで機知に富んでいる上に、すばらしい成功を収めている女性です。でも夫に去られて彼女の世界は崩壊してしまう。そして、ウェンディは車の運転を習い、その過程で自分らしくあることや、外の世界に心を開くことを学んでゆくのです。一方、ダルワーンは実直で厳格な強い倫理観を持つ敬虔なシク教徒。ウェンディとの運転教習を通じて、新しい自分を発見したり、柔軟で寛大になる必要性を知るのです。パトリシアとベンのふたりは、それぞれウェンディとダルワーンを演じるために生まれてきたと思っています。私が彼らと作った映画は本作で2作目になりますが、とても働きやすくて楽しかった。もはや、私たちは家族のようなものです。
映画『しあわせへのまわり道』より、パトリシア・クラークソン(右)とベン・キングズレー(左) ©2015,BPG Releasing,LLC.All Rights Reserved.
──舞台となるニューヨークの風景がとても印象的でした。
ビジュアル面では、陽光眩いキラキラとした夏のニューヨークを描くとともに、クイーンズ区の南部リッチモンド・ヒル地区の持つ鮮やかな側面も表現したかった。それが自己発見という永遠のテーマと相まって、うまく機能するからです。“何かを始めるのに遅すぎることはない”という姿勢。私たちは、いとも簡単に人生の意味を見失うけれど、どうやったら再びその意味を取り戻すことができるでしょうか。ある男女に芽生えた心の絆を通して、それぞれの答えを見つけてほしいと思っています。
映画『しあわせへのまわり道』より ©2015,BPG Releasing,LLC.All Rights Reserved.
(オフィシャル・インタビューより)
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イサベル・コイシェ(Isabel Coixet) プロフィール
1960年、スペイン・バルセロナ生まれ。『Demasiado viejo para morir joven』(89/未)で長編映画デビュー作。『あなたに言えなかったこと』(95)で初めて日本に紹介された。サラ・ポーリー主演の『死ぬまでにしたい10のこと』(03)で絶賛を博し、ゴヤ賞の脚色賞を受賞。再びサラ・ポーリーと組んだ『あなたになら言える秘密のこと』(05)では、ゴヤ賞の作品賞、監督賞、脚本賞に輝いた。オムニバス映画『パリ、ジュテーム』(06)の一編『バスティーユ』を手がけたのち、初老の大学教授とその教え子の愛の行方を見つめた『エレジー』(08)を発表。同作品で主演のペネロペ・クルスに加え、ベン・キングズレー、パトリシア・クラークソンとのコラボレーションを経験した。親日家としても知られ、菊地凛子とセルジ・ロペスが主演した孤独な男女のラブ・ストーリー『ナイト・トーキョー・デイ』(09)では東京ロケを実施した。そのほかにもサラエボで撮影を行った『Viaje al corazon de la tortura』(03/未)、国境なき医師団をめぐるオムニバス映画『Invisibles』(07/未)、『Escuchando al juez Garzon』(11/未)といったドキュメンタリーを発表。さらに最近では、ソフィー・ターナー主演の恐怖劇『Another Me』(13/未)、ハビエル・カマラ主演の人間ドラマ『Yesterday Never Ends(英題)』(13/未)、ジュリエット・ビノシュと菊地凛子を主演に迎え、本年のベルリン国際映画祭のオープニングを飾った『Nobody Wants the Night(英題)』(15/未)を発表した。
映画『しあわせへのまわり道』
8月28日(金)よりTOHOシネマズ日本橋&TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国公開
映画『しあわせへのまわり道』より ©2015,BPG Releasing,LLC.All Rights Reserved.
ニューヨークの売れっ子書評家、ウェンディの順風満帆の人生は、突如崩壊した。長年連れ添った夫がすきま風の吹いた結婚生活を見切り、浮気相手のもとへ去ってしまったのだ。どん底の悲しみの中、車を運転できない現実に直面したウェンディは、インド人タクシー運転手ダルワーンのレッスンを受けることに。伝統を重んじる堅物だが、人種も宗教も文化も正反対のダルワンとの出会いは、ウェンディの心の針路を変え、未来に踏み出す勇気を与えてくれるのだった……。
監督:イサベル・コイシェ
出演:パトリシア・クラークソン、ベン・キングズレー
脚本:サラ・ケルノチャン
原作:キャサ・ポリット
製作:ダナ・フリードマン、ダニエル・ハモンド
製作総指揮:ガブリエル・ハモンド、ダン・ハルステッド、ジェニファー・トッド、ハリー・パトラマニス、エレニ・アスヴェスタ
撮影:マネル・ルイス
編集:セルマ・スクーンメイカー
原題:Learning to Drive
日本語字幕:髙内朝子
配給:ロングライド
2014年/アメリカ/英語/90分/アメリカン・ビスタ/カラー/音声5.1ch
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