骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2015-08-07 15:30


アップリンクの戦後70年特別企画 国際平和活動の名の下の戦争を描いた『アルマジロ』無料配信

「このドキュメンタリーが映し撮ったのは、アフガニスタンで起こっていたことの9割は戦闘であるという現実でした」
アップリンクの戦後70年特別企画 国際平和活動の名の下の戦争を描いた『アルマジロ』無料配信

アップリンクでは、2013年1月に公開した映画『アルマジロ』を終戦記念日を挟んだ8月14日から17日まで72時間無料配信する。本作は、国際平和活動(Peace Support Operations)という名の下にアフガニスタンの最前線アルマジロ基地に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7ヶ月密着撮影を敢行した、ヤヌス・メッツ監督のドキュメンタリー映画だ。

今回webDICEでは、『アルマジロ』劇場公開時、公式Facebookに掲載された、伊勢崎賢治さん(東京外国語大学大学院教授)を招いたトークショーの内容を再掲する。

また、ヤヌス・メッツ監督のインタビュー、そして2013年劇場公開時に掲載した記事からジャーナリストの野中章弘さん、翻訳家の池田香代子さん、想田和弘監督、佐野伸寿監督、森達也監督の言葉もあらためて紹介する。

「今の日本には、戦争が始まる要素がそろっている」
伊勢崎賢治・東京外国語大学大学院教授
『アルマジロ』トークイベント・レポート

伊勢崎賢治さん

イベントの中で最も反応が大きかったのは、「今の日本には、戦争が始まる要素がそろっている」という指摘だ。これまでの歴史を振り返ると、大きな戦争が起こる時には以下の条件が出そろっていることが多いという。それは「リーダーシップの不在」、「若者の失業率が高い」ことに加え、「人々の恐怖心を掻き立てる要因が存在する」ということだ。

この条件がそろった時、戦争を引き起こそうとする「アクター」と呼ばれる役割の人間が出てくることがあるという。例えば政治家は民衆の不安を煽ることができるし、あるいは原発事故以降の日本については「軍需産業の人間が軍備化を進める格好のチャンスである」とも指摘した。会場からも、「まさに今の日本には戦争が始まる要素が揃っているのでは」という声が上がった。

伊勢崎氏によれば、戦争に至る要因は国家権力の側だけにあるのではなく、むしろ人々の側の「恐怖心」によるところも大きい。先に民衆の恐怖心があり、更に国家権力がそれを煽る、というプロセスの果てに恐怖心が熱狂に転化して戦争は起こるのだという。この恐怖心が加速して戦争へと至るプロセスを示す概念として、「セキュリタイゼーション」という安全保障上の用語も紹介された。

さらに伊勢崎氏は、こういった恐怖心は絶対に生じるものであり、決して「良し悪し」の問題ではないとも付け加えた。その上で、重要な事は「恐怖心の連鎖から紛争に至る仕組みを、しっかりと人々が認識することである」とした。

また伊勢崎氏は現在の世界情勢の中で日本が果たすべき役割についても言及し、アメリカの戦争に黙って付き合うのではなく、冷静に日本の国益を考えてアメリカと付き合っていくことが必要だと述べた。憲法9条の効力について問われると、「(9条は)モラル的な歯止めにはなっているが、特措法の成立でなし崩しになる可能性もある」と示唆した。

http://on.fb.me/1IuFw6k

(2013年1月22日渋谷アップリンク『アルマジロ』上映イベントより)

ドキュメンタリー映画『アルマジロ』無料配信

配信期間:2015年8月14日(金)午前10時~8月17日(月)午前10時
配信場所:特設サイトにてYOUTUBE配信
http://www.uplink.co.jp/armadillo/2015/




ヤヌス・メッツ監督 スカイプ・インタビュー
(BS-TBS『週刊報道LIFE』2015年6月7日放送より)

多くのデンマーク人にとって戦闘ではなく平和維持活動をしていると思っていた間は、アフガニスタン戦争は良い戦争でした。しかし、このドキュメンタリーが映し撮ったのは、アフガニスタンで起こっていたことの9割は戦闘であるという現実でした。平和維持ではなかったのです。この映画が政治的な面で、どれだけの影響を与えたのかを説明するのは難しいのですが、デンマーク政府や政治家が軍の方針について改めて議論するきっかけとなったことは確かだと思います。

【webDICE関連記事】

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ほんとうに残酷なのは兵士自身ではない。残酷なのは戦争を生みだし、そこで兵士や市民が犠牲となっても、他人事としてほとんど気にもかけない軍隊や国家、我々の社会そのものなのだと思う。国家の作りだした「アフガニスタンで正義を実行する」という「大きな物語」に誘われて戦場へ赴き、「戦争中毒」になってしまった若者たちも、犠牲者なのだ。

ジャーナリスト野中章弘氏によるレビュー(2013-01-24)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3765/


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このドキュメンタリーは、アフガニスタンに派遣されているISAF(国連支援部隊)への深甚な懐疑をよびさまさずにはいない。懐疑はそれにとどまらない。時間をさかのぼればコソボで、ISAFを国連軍やアメリカ中心の有志連合軍と敷衍すればイラクで、なにがあったのか、今なにが起きているのか、もういいかげん気づいたらどうなのだ、とどやしつけられる思いだ。

翻訳家・池田香代子さんによるレビュー(2013-01-17)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3745/


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この映画はエンベッド方式という、軍事ミッションの広報作戦のメディア対応要領にのっとって撮影されている。エンベッド方式とは、米軍がソマリアで海兵隊が上陸する際、既にメディアが待ちかまえていてその後の作戦に支障をきたしたり、湾岸戦争の取材合戦のような状況にならないため、報道機関等のメディアと軍が協定を結び、一定の規律や軍の作戦を妨害しないならば、第一線の部隊と行動を共にし、食住の提供、安全確保を軍が行うというもので、文字通り、部隊の兵士と同じ様に兵士のベッドで起居し取材活動を行うというものだ。

佐野伸寿監督によるレビュー(2013-01-06)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3746/


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最近の日本では、竹島や尖閣諸島の問題を煽り立て、対外強硬論や改憲を求める声が強まっているが、気がかりなのは、彼らに「戦争」に対するリアリティが欠如し、概念だけで戦争を論じているように見えることだ。まあ、先の大戦から67年が経過し、僕も含めて戦争を体験していない世代が社会の大半を占めるようになったのだから、ある意味で仕方のないことかもしれない。しかし、彼らは本作を観て戦場を疑似体験した後でも、同じように軽々しく「戦争できる日本」を目指すことができるだろうか?

想田和弘監督によるレビュー(2013-01-13)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3757/


Afghanistan - Helmand Province. Forward Operating Base (FOB) Armadillo. Danish Team 7.

日本のメディアは、政府の判断に従う。政府の許可が必要なのであれば、そこでかけあって交渉してさらに深く取材するという意識が薄い。言われるままです。規制されているのは表現者がちゃんとやっていないから。なんで撮らせないんだ、とちゃんと声を上げれば、撮らせてくれるはずなんです。(森達也監督)

デンマーク政府が意思決定をして軍を送ってこういう状況になっているなかで、兵隊さんたちが思っている「現場で起こっていることも知らないで、遠くではなれている人たちに好き勝手なことを言わせるのはいやだ」という部分をきちんと描いている。人間性の表裏一体の野蛮さ、というよりは、ああいう状況のなかで、自分の身を守るためにこうせざるをえなかったということを見せているんじゃないかと思います。(佐野伸寿監督)

森達也監督と佐野伸寿監督によるトークショー・レポート(2013-01-29)
http://www.webdice.jp/dice/detail/3773/




映画『アルマジロ』

アフガニスタンの最前線アルマジロ基地。国際平和活動(PSO)という名の下に派兵されたデンマークの若い兵士たちに7ヶ月密着撮影を敢行した。アルマジロ基地はNATOが統率する国際治安支援部隊(ISAF)の一つで、イギリス軍とデンマーク軍が駐留している。平和な都市生活から前線基地での軍務。タリバンを敵とする偵察活動という戦争の日常のなか、数回の交戦で極度の興奮状態を体験した若い兵士たちは戦争中毒に陥っていく。映画『ハート・ロッカー』の冒頭で「戦争は麻薬である」という言葉が流れるが、このドキュメンタリーではまさにそれが現実のものとして映しだされている。

監督・脚本:ヤヌス・メッツ
撮影:ラース・スクリー
編集:ペア・キルケゴール
プロデューサー:ロニー・フリチョフ、サラ・ストックマン
製作:フリチョフ・フィルム
配給・宣伝:アップリンク
デンマーク/2010年//101分




DVD『アルマジロ アフガン戦争最前線基地』ジャケット

DVD『アルマジロ アフガン戦争最前線基地』発売中

5,076円(税込)
DABA-4437
販売元:角川書店
販売元:アップリンク

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▼映画『アルマジロ』予告編

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