骰子の眼

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東京都 中央区

2015-07-27 20:45


これは伝記映画ではない、ブライアン・ウィルソンの〈壊れた心〉と優しさを描く『ラブ&マーシー』

本人公認!ポール・ダノとジョン・キューザックが2人1役で天才ソングライターを熱演
これは伝記映画ではない、ブライアン・ウィルソンの〈壊れた心〉と優しさを描く『ラブ&マーシー』
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

ザ・ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンの半生に迫る映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』が8月1日(土)より公開される。1961年にデビューしたザ・ビーチ・ボーイズがサーフ・ロック・バンドとして人気を博した後、自らの表現を追求するため父親や兄弟との確執を経てアルバム『ペット・サウンズ』(1966年)や名曲「グッド・ヴァイブレーション」(1966年)を生み出していく60年代、そして恋人メリンダの協力を得て酒やドラッグ中毒からの再起をかける80年代を交錯させて、音楽の求道者としてのブライアンの歩みを紐解いている。

若き日のブライアンを『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のポール・ダノが、中年期のブライアンを『ハイ・フィデリティ』ジョン・キューザックが熱演。その他にも、一流スタジオ・ミュージシャンを迎えたレコーディング・セッションのシーンは、「大人の肉体を持った少年」と形容される彼が、幻聴と闘いながら自らの頭の中に鳴っている音を具体化していこうとする過程を克明に描写。ブライアンの制作現場を覗き見しているような醍醐味を味わうことができる。ザ・ビーチ・ボーイズの名曲群のみならず、『ゴーン・ガール』などで知られるアッティカス・ロスが担当した音楽も素晴らしいので、ぜひ劇場で体感してほしい。

webDICEではビル・ポーラッド監督のインタビューを掲載する。

ブライアンのペルソナや精神状態より忠実に反映する

──なぜブライアン・ウィルソンの映画を?

僕は音楽の大ファンなんだ。それが1つの理由だね。ザ・ビーチ・ボーイズのファンではなかったけどね。どちらかといえばビートルズ派だった。ところがこの10年から15年、どういうわけか『ペット・サウンズ』にはまってね。ブライアンの音楽が好きになった。奇妙なシンクロニシティか何だか分からないが、それから間もなくしてこの映画の話が舞い込んだ。

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』ビル・ポーラッド監督
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』ビル・ポーラッド監督

当時は「He Wasn't a Villain」というタイトルだった脚本にめぐり合ったんだ。すでにブライアンと奥さんのメリンダからは映画化の許可が下りていてね。彼らは自分たちで映画化するか、別のグループが映画化するかという段階だった。彼は僕たちのところに脚本を持ち込んだんだけど、正直なところ、僕は脚本がまったく気に入らなかった。脚本には興味を持てなかったが「アイデアは気に入った」と告げたんだ。「もし他でもうまくいかなければ、一緒に映画化しよう」とね。それが現実になった。そこから始まったんだよ。

企画を立ち上げたものの、監督を誰にするかは未定だった。僕自身は他に何本か監督する予定の企画を抱えていたが、脚本家のオーレン・ムーヴァーマンと一緒に脚本の執筆に取り掛かった。結局、彼に勧められて、自分で監督することになった。これが撮影までの経緯だよ。

──脚本のオーレン・ムーヴァーマンとのコラボレーションはどのようなものでしたか?

僕が今回の企画についてアイデアを練り、どうアプローチするかを考え始めた時、僕が興味を引かれたのは2つの要素、ブライアンの人生の2つの時期だった。伝記映画を作る気はなかったし、伝記映画を作らされるのも嫌だった。だから2つの時期を選んだ。『ペット・サウンズ』の時期と、ブライアンがセラピストのユージン・ランディと関係を持つようになる後年の時期だ。この2つの時期を順番に並べるのではなく、織り交ぜるのが面白いと思った。2つを織り交ぜるほうが彼の人生を理解しやすいし、独創的だ。2人の俳優がそれぞれの時期のブライアンを演じるのも面白い。ブライアンのペルソナや精神状態、彼が経験したことをより忠実に反映したものができると思ったんだ。それで映画はさらにダイナミックなものになるとね。それがアイデアの原点だ。

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より、セラピスト、ユージン・ランディ役のユージン・ランディ(左)、ブライアン・ウィルソン役のジョン・キューザック(中央)、メリンダ役のエリザベス・バンクス(右) © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

あまたの苦難を経験し、ダメージを受けた男

──ジョン・キューザックとポール・ダノを起用することを決めたのはなぜですか?脚本を書いている時にはすでに考えていたのでしょうか?

いや、この映画ではブライアンを忠実に描くことが重要だったので、俳優に合わせて脚本を書くことはなかった。大まかに脚本がまとまってから、キャスティングを考え始めたんだ。“過去のブライアン”、ポールの役をこう呼んでいるんだが、この1960年代の過去のブライアンは偶像的なルックスの人物だ。僕にとって、彼は60年代を象徴する人物だ。ザ・ビーチ・ボーイズやビートルズの時代の象徴だ。ポール・ダノは僕にとって第一の選択肢だった。彼が役にぴったりなのは明白だったし、彼も気に入ってくれた。ラッキーだったよ。

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より、ポール・ダノ © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

後年のブライアン、80年代のブライアンを演じる俳優選びは少々、困難だった。ブライアンの見た目は10年の間にも様々に変わったからね。毎月、ルックスを変える感じだ。太っている時もあれば、ひげを生やしていたり、もじゃもじゃだったり、長髪だったり、短髪だったりする時もあった。ランディと一緒に体を鍛えていた時もある。だから配役には悩んだ。

音楽プロデューサーのドン・ウォズが撮ったドキュメンタリーで『Brian Wilson: I Just Wasn't Made for These Times』というのがあって、何度か観た。キャスティングに悩んでいる時に再度観て、なぜかブライアンのイメージが浮かんだんだ。そしてジョン・キューザックのことを考えた。一度、頭に浮かぶと彼がぴったりだと思えた。ジョンのような名優が演じるのにふさわしい役だ。彼があまたの苦難を経験し、ダメージを受けた男を演じるのは本当に刺激的なことだよ。

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より、ジョン・キューザック(左)と、メリンダ役のエリザベス・バンクス(右) © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

ブライアンはいまだに子供みたいなんだ

──ザ・ビーチ・ボーイズのファンではないとおっしゃいましたが、何か好きな曲はありますか?

まあね。子供時代はビートルズ派だったとは言ったが、ザ・ビーチ・ボーイズの音楽も僕の人生にあった。子供時代も大人になってからもね。今のお気に入りはいろいろあるよ。1つあげるとするなら「サーフズ・アップ」かな。ブライアンが歌っているだけのシンプルなバージョンだね。でも他の曲もすばらしいよ。

──この映画のためにザ・ビーチ・ボーイズを勉強されたんですか?ブライアンの個人的な人生についてはご存知でしたか?本人に会って、より内面的なことを?

そうだね。映画化に乗り出すかどうか検討していた頃、メリンダに会い、さらにブライアンに会った。彼がどんな人物かをこの目で確かめ、彼らの人生と個人的な関係を構築し、彼らのストーリーを聞いた。ブライアンについて書かれた本は多いし、メリンダについて書かれたものもある。いろんな時代のいろんな資料がある。それらすべてを参照したが、本人に会うことができたのは格別だった。ブライアンとメリンダに協力を仰ぐことができたのは大きかったね。

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

──この映画を作った後、ザ・ビーチ・ボーイズやブライアンに対する見方は変わりましたか?

ブライアンに対する尊敬の気持ちが何倍にも大きくなったよ。以前から彼には尊敬の気持ちを持っていたが、ブライアンというイメージの背後に人間的な深みを見ることができた。本物の人間とは違うセレブとしてのイメージの背後にね。そうすることで名声のことは忘れ、彼がどんな人物か知ることができた。彼は実のところ我々全員に近い存在なんだ。誰でも変わった性質を持っている。どんな人でも持っている性格だ。我々はそれを隠す力を身に着けたり、自分を鍛え上げたりする。この世界では本当の自分でいることが難しいからだ。でもブライアンは違う。彼はいまだに子供みたいなんだ。話してみれば分かるが、本当に子供っぽい部分を持っている。それを近くで観察することができたんだ。しかもそれを映画にすることができるなんて、最高の経験だったよ。

──普段から音楽をよく聴きますか?ザ・ビーチ・ボーイズ以外では、どんな音楽を聴きますか?好きなミュージシャンは?

異なる世界へ連れて行ってくれるような音楽が好きだね。異なる時代の異なる人間には興味を持つだろう。まずはビートルズ。最近ならレディオヘッドとか。彼らも随分、ベテランかな。ブライアンは最新アルバムでラナ・デル・レイとコラボレーションしてる。彼と一緒に音楽をやっている人たちも興味深いね。

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

──最後に、日本の観客に映画をどう観てほしいですか?

ブライアンという人間を理解してほしいね。最初は有名人であること、彼の音楽の才能に引きつけられるが、最後は人間としての彼に感情移入してほしい。日常生活で出会う人とどのように接するべきか、どのように相手を扱うべきか、いかに優しくなるかを学ぶことができるよ。ブライアン・ウィルソンのような人を受け入れることができれば、ちょっと変わった人にも素敵な人生のストーリーがあるんだと考えられる。すばらしいと思うね。

──メリンダのストーリーは美しいラブストーリーでしたね。

そうだね。すばらしいよ。彼らが一緒に苦難を乗り越えてきたこともね。

(オフィシャル・インタビューより)



ビル・ポーラッド(Bill Pohlad) プロフィール

1987年に映画製作会社リバー・ロード・エンタテインメントを設立し、多くの話題作を手掛ける。『ブロークバック・マウンテン』(05)で、アカデミー賞にノミネートされ、ゴールデングローブ賞、ヴェネツィア国際映画祭グランプリなどを受賞。『イントゥ・ザ・ワイルド』(07)で、ゴッサム賞受賞。『ツリー・オブ・ライフ』(11)でアカデミー賞にノミネートされ、ゴッサム・インディペンデント映画賞を受賞。『それでも夜は明ける』(13)でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞(ドラマ部門)、インディペンデント・スピリット賞、サテライト賞、英国アカデミー賞ほか多数受賞。そのほか『今宵、フィッツジェラルド劇場で』(05)、『毛皮のエロス/ダイアン・アーバス 幻想のポートレイト』(06)、『ランナウェイズ』(10)や『フェア・ゲーム』(10)などを製作。




映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』
8月1日(土)角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.
映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』より © 2015 Malibu Road, LLC. All rights reserved.

1960年代、カリフォルニア。ザ・ビーチ・ボーイズは人気の頂点にいた。だが、新たな音を求めてスタジオで曲作りに専念するブライアンは、新作へのプレッシャーから心が完全に折れてしまう。それから20余年、ブライアンに再び希望の光をもたらしたのは、美しく聡明な女性メリンダとの出会いだった──。

出演:ジョン・キューザック、ポール・ダノ、エリザベス・バンクス、ポール・ジアマッティ
監督・製作:ビル・ポーラッド
脚本:オーレン・ムーヴァーマン、マイケル・アラン・ラーナー
製作:クレア・ラドニック・ポルスタイン、ジョン・ウェルズ
製作総指揮:アン・ルアーク、ジム・レフコウィッツ、オーレン・ムーヴァーマン
音楽:アッティカス・ロス
2015年/アメリカ/英語/カラー/ビスタ/デジタル5.1ch/122分/原題『LOVE & MERCY』/PG12
監修:萩原健太
翻訳:栗原とみ子
配給:KADOKAWA

公式サイト:http://loveandmercy-movie.jp
公式Facebook:https://www.facebook.com/loveandmercy.movie
公式Twitter:https://twitter.com/LandM_movie


▼映画『ラブ&マーシー 終わらないメロディー』予告編

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