映画『共犯』より Double Edge Entertainment © 2014 All rights reserved.
『光にふれる』で注目を集めたチャン・ロンジー監督の新作で、同じ高校の女子生徒の変死体を偶然見つけた3人の男子高校生たちが、彼女の死の真相を突き止めようとする姿を描く『共犯』が7月25日(土)より公開される。
学校のなかでも目立たず物静かでいじめられっ子のホアン、強気な性格の不良少年イエ、そして優等生で同級生からも慕われているリン。物語は、異なる性格の3人が思いがけず出会い、女子生徒の死の謎を探るなかで次第に親密になっていく過程を丹念に追っていく。タイトルの「共犯」とは、まさにその3人の精神的な繋がり=共犯関係を象徴している。「嘘もみんなが信じれば本当になる」という台詞に代表されるように、チャン・ロンジー監督はSNSを通して生徒の間に噂が拡散していく様など現代的なディティールを取り入れながら、犯人は誰なのか、という謎解きはもちろん、人と人の間に「共犯」の関係が生まれる構造、孤独を感じながらも繋がろうとする現代社会の人間関係の脆さを見事に描き出している。
今回は、チャン・ロンジー監督のインタビューを掲載する。
登場人物ひとりひとりが出口が見つけられるような展開
──“原作・脚本:シア・ペア(夏佩爾)、ウーヌーヌー(烏奴奴)”とクレジットされていますが、映画のもととなる小説はあったのでしょうか?
私が最初に見たのは、脚本としての物語ですね。その時はまだ、小説という形にはまとまっていませんでした。映画を全て撮り終わった後に、小説化して出版したんです。撮影をするにあたって、原作者と私とで議論を重ねていったので、物語は当初のものから色々と変わっていきました。ですから小説の方は、最初の脚本にこれらの変更点を反映させた内容になっています。
映画『共犯』チャン・ロンジー監督 ©TIFF 2014
やはり、原案と大きく違っていったのは物語の後半部分ですね。私が大きく手を加えたのは、人物のひとりひとりが出口が見つけられるような、突破口があるような展開にした、というところです。そこに何かしらの温かみを持たせたいということを願って書き換えました。それから、現代の若者たちのコミュニケーションと、その方法について描いたシーンを多く盛り込むことにしました。特に、インターネットを使ったコミュニケーションですね。それらを通して、タイトルにもなっている“共犯”という言葉の意味を、さらに拡大させていったわけです。最初は、この3人の学生が一緒に何かを企んで、悪いことをしたという意味合いでの“共犯”だったのが、やがては彼らをそういう方向に追い込んでいった周りの人たち、その人たちも“共犯”なんだ……といった意味にしました。
──学校のシーンでは、実際に校舎を使ってロケ撮影を?季節は夏ですか?
そうですね。やはり脚本段階から、ロケの場所については非常に頭を悩ませました。“学校があって、その学校には裏山があって、そしてきれいな湖が……”と。とても、悩みましたよ。結局ロケをした場所というのは、学校の校舎も、図書館も、裏山の湖も、それぞれ別の所で撮って、最終的に編集でまとめました。
学校のシーンを撮る時は、実際に校舎を借りてロケをやりました。台湾にも夏休み、冬休みとあるんですが、丁度夏休みの時期、生徒がいない時を狙って撮りました。そして、リアルな学校の雰囲気を出す為に、こちらで用意したエキストラの生徒達2~300人ほど投入して、撮影を進めたわけです。
映画『共犯』より、リン役のトン・ユィカイ Double Edge Entertainment © 2014 All rights reserved.
「様々な問題がそこに蔓延している」水のイメージ
──作品を拝見して、「色」というものにかなりのこだわりを持っているように感じました。
色にこだわった点としては、大きく2つあげられます。まず、1つは学校の中と外。校内のシーンは、色使いをごく控えめに抑えました。反対に、学校の外のシーンでは沢山の種類の色を。派手で鮮やかな色使いにして、学校の外では様々なことが起こっているんだ、という煩雑さを表す為に、そうしたんですね。
もう1つのこだわりは、緑の色の使い方です。緑は、ほとんどが湖にまつわるシーンに集中しています。それは、この湖に秘密が秘められているという暗示なんですよ。校舎の裏山の向こうにある湖、そこに緑の色をかなり濃く使うことによって、神秘的な意味合いを持たせています。そして、他のシーンでも、神秘的な、ちょっとしたサスペンス・タッチの雰囲気を出す為に、緑を使いました。裏山や湖が持つ神秘的な意味合いを、緑という色が象徴しているんです。
映画『共犯』より、リン役のトン・ユィカイ(左)、イエ役のチェン・カイユアン(右) Double Edge Entertainment © 2014 All rights reserved.
──オープニングが映画の中盤につながるという構成の意図は?また、オープニングで水に沈んでいく教科書と折り鶴の意味は何でしょうか?
冒頭のシーンだけでは、まだこの映画がどんな内容か分からないですよね。だから、何かしらヒントになるようなものを提示したいな、と。そして、“水”というもののイメージですね。それを、まず描きました。“様々な問題がそこに蔓延している、溢れている”ということ。そういう意味が、“水”には込められています。なので、最初の出だし、そしてラストでもまた、“水”をどういう風に物語の中にデザインして配置していくかということに気を配りました。
映画『共犯』より、死んだ少女シャー役のヤオ・アイニン Double Edge Entertainment © 2014 All rights reserved.
──キャスティングの決め手は?
この3人の男子の中では、ホアン役のウー・チエンホー(巫建和)だけが役者として演技経験があるだけで、あとのふたりがまったくの素人。他の生徒役の出演者も、ほとんど全部素人です。
キャスティングについては、いろんな学校を何ヵ所も回って決めていきました。この映画の登場人物として、私が思い描いているイメージにより近い高校生をありのままで演じられるような人達を選びました。家庭環境とか、過去にどういう辛いことがあったかとか、友達づきあいや勉強についても、ものすごく具体的に聞いて、それぞれ求める人物像に近いキャストを決めていきました。
キャスティングというプロセスの中で、脚本を大きく膨らませて、内容を豊かにしていくことが出来ましたね。インタビューしていく中で、彼らのひとりひとりが持っている生活の問題、家庭的な環境―例えば、片親の家庭で育ったとか、そういうことにインスパイアされて、脚本に色付けを加えていったわけです。そのおかげで、撮影が始まってからは、とても楽だった面もありました。みんなの背景とか家庭環境をよく理解していて、過去にどういうことがあって、どんなふうに感じたのか聞いていましたからね。どう演じたらいいか分からなくなったときに、彼ら自身の経験をヒントにして演じてもらいました。
映画『共犯』より、イエ役のチェン・カイユアン(左)、ホアン役のウー・チエンホー(中央)、リン役のトン・ユィカイ Double Edge Entertainment © 2014 All rights reserved.
──登場人物たちの役割、人物像に込められた意図は?
3人の主人公達は、典型的な学生像ですよね。勉強が出来るタイプ、悪さばかりするタイプ、友達を必要としている孤独なタイプ。彼らの他に、わりとシンボリックな存在として、教師とスクールカウンセラーがいます。
なぜそうした存在として先生たちを描いたかというと、“共犯”という感覚をその人物像に重ねたかったからなんです。学生時代に私が関わった先生たちは、普通の“公務員”としてしか映らなかった。一生懸命に生徒を指導しよう、教育しようという情熱が感じられなかったんです。毎日、事務的に生徒に向き合って物事を済ませている、いわゆる“公務員”でしかないという印象が強かったので、あのように描きました。
スクールカウンセラーは、産婦人科に行ったときの医師の姿がモチーフです。毎日同じようなことを言わなきゃいけない、同じ言葉をひたすら繰り返しているという産婦人科医の印象が、カウンセラーの先生を描く上での参考になっています。
脚本の段階では、彼らと物語との因果関係を、それほど強く感じなかったのですが、やはり映画というのは非常に面白いですね。1本の映画を観終わったあと、皆さんがそれぞれ抱く思いが違うということが、よく分かりました。映画に対する解釈がひとりひとり違ってくるということが、映画の面白さですよね。おそらく脚本家も、監督の私自身でさえも思いもしなかった感想や発見が、観客の皆さんの心の中に生まれることもあると思います。
映画『共犯』より、シャー役のヤオ・アイニン(左)、シャーの同級生チュウ・チンイー役のウェン・チェンリン(右) Double Edge Entertainment © 2014 All rights reserved.
──最後に、現在の台湾の映画産業というものを、どのような状況にあるとお考えですか?
台湾の映画産業の転換点になったのが2007年。ここから大きく変わってきたと思います。その最大の理由は『海角七号/君想う、国境の南』の出現でした。『海角七号』の成功によって、それまで映画産業にタッチしていなかったような様々な人たちが、映画を作るようになってきた。それが、非常に大きな変化であったと言えます。
深く印象に残っているのは、ちょうどその年に私の短編も映画祭で上映されて、その時にいろんな会社が―もちろん日本の映画会社も含めて―台湾にやってきた時のことですね。台湾の映画市場について、皆さんがそれぞれの興味を持って、いろいろと議論していたことを覚えています。
こうした転機があって、最近ではジャンルもスタイルも異なる、様々な映画が作られるようになりました。しかし、“台湾映画産業”として、きちんと確立されたところまでは、まだ至っていないと思います。台湾は、やはり小さな島国ですから、その中で映画が産業としてきちんと進んでいくのは、なかなか難しいことです。しかし、映画界の大先輩たち、そして私と同じ映画監督たちも、一生懸命に映画産業の健全化に向けて様々な努力、試みをしようとしています。台湾の映画産業、映画のマーケットを大きくしていくにはどうしたらいいか、という試みです。だから私は、比較的に楽観的にとらえているんです。きっと、これから発展していくのではないか、と思います。
(オフィシャル・インタビューより)
チャン・ロンジー(張榮吉) プロフィール
台北生まれ。国立台湾芸術大学大学院応用媒体芸術研究所卒業。 大学時代から映像制作に関わり、2001年に国立成功大学70周年記念ドキュメンタリー『青春歲月』を初監督。2006年にヤン・リージョウ(楊力州)と共同監督した初長編記録映画『ぼくのフットボールの夏』(映画祭上映)で台湾金馬奨最優秀記録映画賞を受賞。2008年、視覚障害を持つ天才ピアニストを描いた公共電視製作の短編映画『天黒』を発表。この作品は高い評価を受けて、台湾映画祭と台湾金馬奨で最優秀短編映画賞を受賞。2011年には人気バンド五月天のライブ映画『MAYDAY 3DNA 五月天追夢』(日本はDVD発売のみ)のコンサート場面の撮影監督を担当する。 2012年『天黒』を長編化した映画『光にふれる』で初の長編劇映画を監督。主演は『天黒』と同じ ホアン・ユィシアン(黃裕翔)とサンドリーナ・ピンナ(張榕容)が務めた。再び高い評価を受け、同年の台湾金馬奨で最優秀新人監督賞と台北映画祭で主演女優賞(サンドリーナ・ピンナ)を受賞する。また、米アカデミー賞外国語映画賞台湾代表に選出された。 2014年に前作と趣を変えた本作を監督して好評を得た後、現在は犯罪ミステリー『私家偵探』を製作中。
映画『共犯』
7月25日(土)より、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
男子高校生ホアン、リン、イエは、通学途中、偶然同じ時刻に通りがかった路地で、同じ学校の女生徒シャーが変死しているのを発見する。それまで口をきいたこともなかった3人だが、この奇妙な出会いを期に、仲良くなっていった。シャーは自殺なのか、それとも──死の真相を調べ始めた3人の前に、彼女が同級生からいじめられていたのではないかという疑惑が持ち上がり……。
監督:チャン・ロンジー(張榮吉)
原作・脚本:シア・ペア(夏佩爾)、ウーヌーヌー(烏奴奴)
主題歌:flumpool 「孤獨」(A-Sketch)
出演:ウー・チエンホー(巫建和)、チェン・カイユアン(鄭開元)、トン・ユィカイ(鄧育凱)、ヤオ・アイニン(姚愛甯)他
日本語字幕:島根磯美
提供:マクザム
配給:ザジフィルムズ/マクザム
後援:台北駐日経済文化代表処
2014年/台湾/89分/中国語/シネマスコープ
原題:共犯(英題:Partners in crime)
配給:ザジフィルムズ/マクザム
公式サイト:http://www.u-picc.com/kyouhan/
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