映画『戦場ぬ止み』より ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
『標的の村』の三上智恵監督の新作『戦場ぬ止み』(いくさばぬとぅどぅみ)が、5月23日からの先行上映の後、7月18日(土)よりポレポレ東中野にて本上映が開始される。沖縄・辺野古の米軍基地ゲートの前で行われている基地建設反対の座り込み抗議の現場を舞台に、反対運動のリーダー・山城ヒロジさんや辺野古出身で現在86歳の島袋文子さん・通称文子おばあ、そして家族一丸となって反対運動に加わる渡具知武清さん一家といった人々の活動と思いを記録。ナレーションを沖縄出身のシンガーソングライター、Coccoが担当している。
三上監督は、現在も続いている抗議行動の現在を捉えるだけでなく、基地と折り合って生きざるをえないこの地域の歴史、そして、2014年11月に辺野古移設阻止を主張していた翁長雄志前那覇市長が沖縄県知事に初当選した際の喜びまで、辺野古の人々の喜怒哀楽の表情を通して、第二次世界大戦後70年続く沖縄の闘いを描きだしている。その被写体との距離感は、沖縄の現実を描き続けてきた三上監督ならではの視点と言えるだろう。
今回は、先行上映初日の5月23日に行われた舞台挨拶から、三上智恵監督の言葉を紹介する。
先行上映を実施した理由
この映画は、7月に公開するスケジュールで進めていましたが、いま沖縄県知事の翁長さんが政府をいくら敵にまわしてもここは譲れない、という闘いに挑んでいること、沖縄の問題に関心を持っていらっしゃる方が多いこと、そして今作の主人公の(島袋)文子おばあからも「7月の公開は遅いよ、今すぐやってきなさいと」と背中を押され、無理を言って、前倒しをして上映することになりました。
映画『戦場ぬ止み』三上智恵監督
『標的の村』から完成まで
『標的の村』を作ってから、いろいろ考えがあり会社を辞めたときに、再び映画を作れるとは頭のどこにもありませんでした。ですが、『標的の村』を観てくださった方から「次の作品をこれで作って下さい」とお金がよせられ、最初に4、5万円集まったところから、去年の5月に製作が始まりました。しかし、ほんとうに完成までこぎつけられるのだろうか、と雲をつかむような話だと思っていました。そこから「作りたいんです、協力してください」とみなさんに頭を下げてまわったら、「次の作品を観たいから三上さんがんばって」と何千の方から協力がよせられ、その製作資金をもとに完成させることができました。
みなさんの勇気をもらうことで、私は辺野古の現場に行き続けることができました。沖縄はほんとうに熱くて、撮影を担当した大久保千津奈さんと、熱中症になったこともありました。そういう状況でも、みなさんの負託があることで、がんばることができました。
反対運動のリーダー、山城ヒロジさんについて
最初の数日間は、7月の暑いまだテントも建たないなか、山城ヒロジさんが「ワッショイワッショイ、建設反対」と言っているのを毎日撮影しました。大久保さんも撮影しながら、これをどうやって魅力的に撮れるだろうと悩みもあったと思います。でもヒロジさんは付き合うほどに魅力がわかる方。ヒロジさん本人も最終的に「大久保さん、大久保さん」と言ってくれるくらい好きになってくれました。
映画『戦場ぬ止み』より、反対運動のリーダー、山城ヒロジさん(中央) ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
ヒロジさんは何に対しても絶対手を抜かないし、いちばんキツイところを自分がやる人。私は、高江で6~7年間ひとりでヘリパッド建設の反対運動をがんばっているようなときからヒロジさんを知っていますが、あんなに優しい人は見たことないくらいで、だからあの現場を保っていられる。
ヒロジさんはいま、悪性リンパ腫であることが分かって、現場から離れて、病院で闘いを続けています。病名を聞いた時は、めまいがするほどショックでしたが、悪性リンパ腫は抗がん剤が効きやすい病気で、10年生存率も6割を超すと聞きました。この類まれなるエネルギーの持ち主が勝てない闘いがあるわけない、と思っています。機動隊や警察のことをおもちゃの兵隊くらいにしか思っていないヒロジさん、絶体絶命のときに、相手に対して形勢を逆転していく、胸のすくようなシーンをたくさん見てきました。ですから「がん細胞なんて闘って勝っている人もたくさんいるんだから、ぜったい勝ってきてください」と言うと「頑張って絶対に戻って来る」と誓ってくれました。
ヒロジさんに抗がん剤の治療に入る前に見届けて欲しくて「病院のベッドに夜這いをしてでも観てほしい」と頼みました。今日だったら検査だけだからという日を教えてもらって、なんと病院のリハビリ室を借りて、機材を持ち込んで、仲の良い15人くらいのメンバーと、終始一緒に泣いたり笑ったり、一緒に歌ったり手拍子をしながら観ることができました。ヒロジさんは「どうして治療に入る前にこれだけは観てほしいと三上さんが言ったのか、その理由が分かった」と言ってくれました。ご覧になった方のヒロジさんへのメッセージも、おいおい集めて病院に届けていきたいと思います。
基地反対運動を続ける文子おばあさんについて
さらに、昨日、主人公の(島袋)文子おばあが血圧の関係で倒れて、救急車で病院に運ばれてしまいました。映画のなかに出てくるようにバックミラーにしがみついて倒れたのが最初だったのですが、それからあと2回運ばれています。夕方に自宅に行くと、「明日の辺野古の基地建設阻止のための国会包囲に行ってマイクを握りたいと思ったけど、とてもいけない」と、とても弱気になっていました。「おばあから強気を取ったら何にも残らんよ」と話すと、「あとはあんたたちががんばりなさい」と言われ、心細い思いになりました。
映画『戦場ぬ止み』より、文子おばあさん ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
辺野古で闘っている人や地元の人が那覇まで観にくるのはほんとうに大変なことなので、2週間前に大浦湾周辺の瀬嵩(せだけ)で無料上映会を1回だけ行ったんです。私はおばあに字幕も観てほしいと思い、一番前の席を用意して座ってもらったんですが、3分の1も観ないで苦しくなってしまって会場を出てしまいました。
この映画を作ったのには、おばあが苦しい思いをして戦争のことを何度も人に話しているのを、もうこれ以上やらなくていいように、という気持ちがありました。私もせがんで話してもらったくちなので、この映画があれば、おばあはもう戦争の話をしなくてすむ、と考えたのです。その分、彼女が見てきたことをリアルに伝えたいと、写真や映像資料を探し使用しました。それが裏目に出て、あまりにもリアルで、いちばん話したくない収容所生活のことを思い出させてしまって、「息ができない」と外に出てしまったんです。会場の人々もショックを受け、私も自身の配慮のなさに嫌気がさしたこともありました。
映画『戦場ぬ止み』より ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
おばあは、15分くらいたって、少し元気になって、「映画のタイトル上等だね」と言ってくれました。「でも二度とこんな戦争の映像は私に観せないでね」と言われて、大事なおばあにこんな思いをさせることをなぜ分からなかったのかと、情けなかった。できれば後半の、知事選に勝ってみんなでカチャーシーを踊ったあの日の夜のこととか、おばあが怪我をしたあとにみんながこんだけがんばったよ、と言うシーンを観てほしいと昨日も言ってみたけれど、「もう観ない」と。いつか、もういちど後半だけでも観てもらえるチャンスがあればと思っています。
映画『戦場ぬ止み』より ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
編集について
この映画の上映時間は2時間9分ですが、最初まとめたときは8時間40分あったんです。ほんとうに面白いと思いましたし、ぜったい切りたくなくて、私は今でもこのバージョンも観てほしい気持ちもあります。沖縄から東京に来るときに「3時間くらいにする」という約束が、6時間20分ありました。その6時間バージョンをもって配給会社の方に「3部作にしてください、それでもぜったい観る人がいます」と言いましたが、当然取り合ってもらえませんでした(笑)。
その後、「90分を目指してください」と言われて、3時間から2時間半にするときには終わらない砂漠を歩いているような気持ちでした。そして2時間9分でやっと納得してもらえました。
映画『戦場ぬ止み』より ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
国民が政治を変えていくことができる
みなさん、辺野古にもぜひ来てください。ヒロジさんが映画のなかで子供連れのお母さんを見て「赤ちゃんだ!」と嬉しそうに言っていましたけれど、どんな方でも大歓迎です。現地は、精神力でどこまで持つのかという闘いもあれば、今みなさんがご覧になったように「こんなに楽しいこともやってるんだ」と希望と笑いがある場面もあります。
きたない水が水道の蛇口から出ていて、それを手のひらで止めているのが反対運動の現場です。少しでも時間をかせぐ阻止行動はおのずと限りがあります。それでもやらないわけにはいかない、誰かが水道の蛇口を締めてくれないかぎり、これは終わらないのです。辺野古では座り込みを18年行っています。では誰が水道の蛇口を締めてくれるのかといえば、政治なんですが、政治を動かしているのは誰か、というと、やはり全国の有権者なんです。
映画『戦場ぬ止み』より ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
私はこの映画について「何も知らない本土の人に観せたいんでしょう」とよく言われるんですけれど、それだけではなく、県内の人にこそ観てもらって財産になるようなものを作りたかった。私は政治家の方は今から変わるわけはないと思っています。私が信じているのは、こうやってきてくれるみなさんのことや、映画を応援してくれたみなさん、顔が見えて実際に辺野古に来てくれて、これから映画を観に来ようとしてくれている良心のある日本国民のみなさんです。政治家をこれから変えていく力を持っているみなさんが、蛇口を締めることを期待しています。
それを信じて、一生懸命映画にして、これを持って全国にプロモーションで回って、数ヵ月のうちに勝負をつけたいと思っています。
(5月23日に行われた先行上映より)
三上智恵 プロフィール
ジャーナリスト、映画監督。1987年、アナウンサーとして毎日放送に入社。95年、琉球朝日放送の開局時に沖縄に移住。同局のローカルワイドニュース番組「ステーションQ」のメインキャスターを務めながら、『海にすわる~辺野古 600日の闘い~』『1945~島は戦場だった オキナワ365日』『英霊か犬死か~沖縄から問う靖国裁判~』など、沖縄の文化、自然、社会をテーマに多くのドキュメンタリー番組を制作。2010年、日本女性放送者懇談会 放送ウーマン賞を受賞。12年に制作した『標的の村~国に訴えられた沖縄・高江の住民たち~』は、ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、座・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル大賞など多くの賞を受賞。劇場版『標的の村』でキネマ旬報ベストテン文化映画部門第1 位、山形国際ドキュメンタリー映画祭で日本映画監督協会賞・市民賞をダブル受賞。劇場公開後も全国500か所以上で上映会が続いている。現在は、フリーのジャーナリスト、映画監督として活動するほか、沖縄国際大学で非常勤講師として沖縄民俗学を講じる。15年6月10日に「戦場ぬ止み 辺野古・高江からの祈り」(大月書店)を上梓。
映画『戦場ぬ止み』
7月18日(土)より東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場にて本上映、ほか全国順次公開
映画『戦場ぬ止み』より ©2015『戦場ぬ止み』製作委員会
監督:三上智恵
撮影:大久保千津奈
音楽:小室 等
ナレーション:Cocco
編集:青木孝文
撮影協力:平田守/宜野座盛克/中村健勇
水中撮影:長田勇
制作協力:シネマ沖縄
協力:沖縄タイムス社/琉球新報社
製作協力:三上智恵監督・沖縄記録映画を応援する会
製作:DOCUMENTARY JAPAN/東風/三上智恵
配給・宣伝:東風
2015年/日本/DCP・BD/129分
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